性戯使徒アユミ

●兵藤歩美(ひょうどうあゆみ):ひたすら元気な頑張りや。中3陸上部
●兵藤風子(ひょうどうふうこ):お姉ちゃんっこの甘えん坊。中1帰宅部
●桂川圭(かつらがわけい):才媛。眼鏡。冷静沈着。中3生徒会役員
○居車喬(いぐるまきょう):水泳大好き。ボクっ子。後先知らず。中3水泳部
○琴・ショルーノフ(きん・しょるーのふ):ロシア人ハーフ。金髪。物静か。中3手芸部
○吟・ショルーノフ(ぎん・しょるーのふ):ロシア人ハーフ。銀髪。毒舌。中3帰宅部
○飛天龍華(ひてんりゅうか):ひたすら厳格。釣り目。ポニーテール。高2剣道部
○馬原鶴花(まはらかくか):おっとり糸目。包容力。巻き毛。高2弓道部

桂川圭編 飛天龍華編 居車喬編 馬原鶴花編 ショルーノフ姉妹編

『性戯使徒アユミ〜桂川圭』

「圭ちゃん、おはよっ!」
「っ!!」
肩をつかまれると同時に後ろから聞こえてきた声に、座りながら鞄の中から教科書を取り出していた桂川圭は慌てて後ろを振り向いた。
「歩美さん…!」
そこには、昨日嫌な別れ方をしたのでずっと心に引っかかっていた兵藤歩美がいつもと変わらない姿で立っていた。
「ゴメンね。昨日はあんなひどい態度取っちゃって…」
目の前で手を合わせながら頭を下げる歩美を見て、圭はほっと胸を撫で下ろしていた。
昨日の明らかに切羽詰った態度は、今はどこからも感じられない。いつもの、普段どおりの歩美がそこにいた。
「どうやら体も良くなられたようですね。安心しました」
「うん。一昨日くらいからどうも熱っぽかったんだ。ほら、私普段あまり熱出さないから調子狂っちゃって…
でも、もう大丈夫だからさ。心配しないで」
「うふふ、分かりましたわ歩美さん」
力こぶを作るような仕草をしてにこやかに笑う歩美の微笑ましさに、圭も少し顔が綻んでしまった。
これならもう心配しなくても大丈夫だろう。昨日の嫌な予感はただの思い過ごしだったのだ。
心の中の嫌なもやもやが晴れていき、圭は鞄の中の物を取り出す作業を再開するため圭は前へと向き直った。
そんな圭を後ろから見ている歩美の口から、薄笑いと共に赤いものがちろりと顔を出していた。



「ねえ、圭ちゃん…」
その日の放課後、いつものように歩美と圭が並んで家路に進んでいると、歩美が不意に圭に話し掛けてきた。
「今日、ちょっと相談したい事があるんだけれど…、いいかな?」
「相談…ですか?」
それなら学校にいる時にでも出来たのでは…。と圭は訝しんだが、圭を見る歩美の顔はさっきまでとは別人のように真剣だ。
「歩美さん、一体何の……」
「…玉王の、ことなんだ」
歩美の口から出た『玉王』という単語に、圭はビクッと反応した。
「玉王…?!玉王がどうかしたというのですか?!」
圭にとって玉王は思い出したくもない存在だ。翔儀天使となった圭をものともせずに打ち破り、圭の中にある翔儀天使の力を奪ったのみな
らず、圭の魂すら侵食して玉王へ敬慕の心と忠誠心を無理やり植え付けられてしまった苦い過去があるからだ。
あの時歩美が玉王を打ち破ってくれなければ、恐らく圭は今でも玉王の前に侍りながらその体を捧げているに違いなかった。
心を無理やり歪められていたとはいえ、玉王に胸を高鳴らせながら媚を売っていた自分を圭ははっきりと覚えている。歩美に向って玉王に
その体を捧げるように語ったことも決して忘れてはいない。
そんな嫌な思い出しかない玉王の名前が歩美の口から出てきたことに圭は衝撃を受けていた。


「歩美さん話してください!一体玉王がどうしたというんですか!」
「だから…、そのことで相談したいって言っていっているの。学校でこんなこと、話すわけにはいかないでしょ」
確かに、玉王のことを学校で話すのには少し無理がある。自分たちが世界を守る翔儀天使であることは絶対秘密にしておかなければならな
いことだし、超常的な力を持つ玉王のことを世間に知られるのもまずい。
「だから…、家で誰にも聞かれないようにしなきゃさ…」
「あ、ああ…。確かに、そうですわね……」
言われてみれば歩美の言うとおりだ。翔儀天使の中で一番頭が良く回ると周りに言われていた圭だが、玉王の名前に少々冷静さを失っていたらしい。
「でも…、でしたら他の皆さんも呼んで……」
「今、すぐにでも聞いて欲しい話なんだよ。圭ちゃんだったらきっといい答えを見つけてくれると思ってるんだ」
歩美は急かすように圭の手を掴んでいる。こんな強引な歩美を、圭は長い付き合いの中で見たことが無かった。
(何か…おかしいですわ!)
この時、圭の心に昨日感じた不安が再び鎌首を持ち上げてきた。いや、昨日のより遥かに違和感は高い。
「だから、さ。早く行こう。こんなところにジッとしていないでさ…」
「で、でも……」
言いようのない不安さからなおも渋る圭を、歩美は瞬きもしないでジッと睨みつけていた。
「ねっ、早く……」

キィィィィ…

「っ?!」
その時、一瞬のことだが歩美の虹彩がギラリと赤く輝き、その光をまともに瞳に浴びた圭の体が一瞬ビクッと跳ねた。
「あっ……」
圭の瞳はたちまち焦点がぼやけ、光を失っていく。
「ほら…行こう圭ちゃん。私の家にね……」
(…歩美さんの家に行く…?そう、ね。私は、歩美さんの家に行くんでしたわ……)
「え、ええ……。そう、ですね……」
圭の手を引っ張る歩美に、圭はぎこちなく頷きながら歩美について歩き始めた。
(そう、ですわ…。歩美さんは私を頼って相談をもち掛けてきたんですもの……。まず私が聞いてあげないと、いけませんわ……)
ふらふらと歩美の後を付いて行く圭に、さっきまでの違和感や疑問は綺麗に消え失せていた。
「…それでいいんだよぉ、圭ちゃん…。ク、クククク……」
前を歩く歩美の顔には、圭が知っている歩美にはけっして形作れないような酷薄な笑みが浮かび上がっていた。



(私……なんで……)
歩美の部屋でちょこんと座りながら、圭は自分が置かれた状況に頭を捻っていた。
確かにここに来るまでは、歩美に頼られた以上まずは話だけでも聞かないとという思いに駆られたのは事実だ。
しかし、冷静になって考えると明らかに先走りすぎているような感じがしないでもない。
そもそも、歩美が玉王のどういうことで相談をもちかけてきたのか。それすらまだ聞いてはいないのだ。
「………」


さっきまで消え失せていた不安がまたむくむくと膨らんできている。階下に歩美が降りていて自分以外誰も部屋にいないということもある
のだろうが、さっきから薄ら寒いくらいの静寂が圭の全身を包んできている。
気のせいかもしれないが、圭の周りからは生き物の気配がまるで感じられてこない。あまりの違和感に、圭は次第に気分が悪くなってきた。
(今なら……、帰ることが出来るかもしれません……)
歩美には少し悪い気がするが、このままでは下手をすると倒れかねない。圭は鞄を手に取ると立ち上がりノブに手を伸ばそうとした。
その時、ガチャリと目の前の扉が開き
「おまたせー圭ちゃん……。あれ?どうしたの?」
手にお茶を乗せたお盆を抱えた歩美とばったりと鉢合わせてしまった。
「あ、あの…歩美さん。私、少し気分が優れなくて……。その、話はまた明日ということで……」
圭はぱちくりとしている歩美に、しどろもどろと言い繕って部屋から出て行こうとした。
が、歩美は道を開けるどころかお盆を床に置くとガバッと圭に抱きついてきた。
「キャッ?!ち、ちょっと歩美さ……」
「黙って!じっとして…」
突然のことに慌てる圭をよそに、そのまま歩美はおでこを圭のおでこに重ねてじっと熱を測っていた。
「……あああの、歩美さん……?!」
「うん、熱は…ないみたい。ね、圭ちゃん。具合が悪いんだったら少し落ち着くまで待っていようよ。もしかしたら、持ち直すかもしれないし」
心配するかのように歩美が圭の顔をじっと眺めてくる。その時、また歩美の瞳が光った、ような気がした。
「あっ……」
軽い叫びと同時に、また圭の瞳は焦点を失いどんよりと濁ってくる。
「ね、ほらちゃんと座って……。せっかくお茶も入れたんだしさ」
「そ、そうですわ、ね……」
確かにここまで来た以上何も聞かずに無理に帰ることも無い。どんなことを話すのか興味が無いわけではないし。
何故自分はあんなに帰りたがっていたんだろう。聞かない限り疑問は消えないではないか。
心の中に突然湧いてきた自分の声に、それまで抱いていた危機感は霞に隠れるかのように塗りつぶされ、圭はゆっくりと部屋の中へと戻っていった。

そして、これで圭が歩美の家から逃げ出す機会は永遠に失われてしまった。

「さ、まずは一杯。気分も落ち着くと思うよ」
歩美は持ってきたカップにとぽとぽとお茶を注ぎ、圭の前にカチャリと差し出した。
「え、ええ…。じゃあ、いただきますわ…」
まだ頭の中がはっきりとしない圭は、歩美に言われるままカップを手に取り、中の赤褐色の液体を喉に注ぎ込んだ。
「………?」
圭の鼻腔に今まで嗅いだことのない不思議な香気が立ち込めてくる。ミントのような涼味が鼻を抜けていき、なかなかに心地よい。
「まぁ……、これはいいお茶ですわね…。私、初めて飲みましたわ」
「でしょ?それって特別なお茶なんだよ?」
歩美はニコニコしながら圭のカップを指差し、自分もカップを持つとそのままグーッと一杯あけてしまった。
「うふふ。やっぱおいしいなこのお茶……」
うっとりとしながら口の中に残った味を堪能している歩美を見て、圭は少し顔を赤らめながらも空になったカップをテーブルに置いて話し掛けてきた。
「それで歩美さん、玉王についてなにか……」
が、圭の言葉を遮るかのように歩美はお茶がなみなみと入ったポットを前に突き出してきた。


「まま、その話は後でいいとして…。もう一杯、どう?」
ポットの口から湯気と共に漂ってくる香りが、圭の脳を刺激してくる。
「あ…。じゃあ、もう一杯……」
話の腰を折られたこともあるが、圭は歩美の声に応じ再び注がれたお茶をゆっくりと堪能してしまった。
「あぁ…。本当に美味しいですのね。このお茶は…」
「でしょ?だからもう一杯」
圭の返事を待つことも無く、またまたお茶が注がれていく。
「あ、歩美さん。ありがとうございます…」
だが圭も断る気持ちはないようで、そのままカップに口をつけてお茶をごくごくと飲み込んでいった。
「ふぅ……。歩美さん……、もう一杯いただけませんでしょうか……」
今度は圭のほうから歩美におかわりを迫ってきた。
「いいよー。どうぞどうぞ」
「あ……、ああっ!」
圭は、歩美が注いだカップを奪うように掴むと息をするのも惜しいといった勢いで喉に流し込んでいった。
「ハアッ、ハアッ、ハアァッ……。おいしい、本当に、おいしいですわ……。歩美さん……も、もう一杯……」
歩美の前にカップを突き出す圭の瞳は尋常でない光を放っている。まるで、禁断症状に苦しむ麻薬患者のようだ。
「ち、ちょっと……、お茶もいいけど玉王のことについて話すことが……」
「そんなことはどうでもいいですわ!!とにかく早く!早く!!早く早く早くお茶をください!くださいぃ!!」
今の圭に玉王の話など何の価値も意味も無い。今、圭が考えられるのは自分の心を捉えて離さない魅惑的なお茶の事だけだった。
「そ、その…そのティーポットをよこしなさい!!」
目を異常にぎらつかせた圭は歩美が持っていたティーポットを強引に奪い取ると注ぎ口に直接口をつけ、そのままグビグビと飲み始めた。
(おいしい……なんて、なんておいしいのでしょう!!)
あまりにもはしたない姿を歩美の前で晒しているとか、熱いお茶を直接飲んで口を火傷しないのかとか考える余裕は無かった。そして、自
分がどう考えても異常な行動に走っていることを省みる心も無かった。
「んっ…んんっ……んぐっ………ぷはぁっ………」
首が折れそうなくらいに反り返り、喉の周りをお茶でだらだらに濡らしながらとうとう圭はポットいっぱいのお茶を飲み干してしまった。
「あ……ない……。もう、ない………いいぃぃっ!!」
ポットの注ぎ口を限界まで下げ、落ちる滴すら出なくなると、圭はティーポットをパッと手放した。歩美の部屋の絨毯に落ちたポットはパ
チッと澄んだ音を立てて取っ手が割れ、ごろごろと転がっていった。
「歩美さぁん……もっと、もっとあのお茶をください!もっと、もっともっともっともっとぉ!!!」
圭は狂気をはらんだ目を歩美に向け、ガバッと飛び掛ると襟首を掴んでお茶をせがんだ。
「もう…圭ちゃんったら飲みすぎ……。まさかこんなに効くとは思わなかったよ……」
圭に力いっぱい掴まれながらも、歩美はどこか余裕のある口ぶりで話し掛けた。
「でもね…、もうあのお茶は無いの。今ので全部使っちゃったから、また新しく作らないといけないの」
「新しく……作る……?!なら早く!早く作ってください!」
目を血走らせてせがむ圭に、歩美は申し訳ないと言った風に頬をぽりぽりと掻いた。
「でも……面倒なのよ。あのお茶を作るの……だって……」
「だってもなにも!早く!!」
「だって…、あのお茶は……」
そこまで言ってから、歩美の顔に突然邪悪な笑みが浮かんだ。



「だってあのお茶、人間の心臓を磨り潰さないと作れないんだもん」

「えっ……」
歩美の言葉を耳にし、圭は狂乱状態の心にどっと冷や水が注がれたような衝撃を受けた。暴走して熱持っていた心は一気に冷静に帰り、お
茶への堪えがたい飢餓感もさぁっと醒めていった。
「人間の……なんと仰いました……?」
もしかしたら聞き間違いだったのかもしれない。圭はそう思い改めて歩美に聞き尋ねた。しかし、
「し・ん・ぞ・う。今日のは肉人形にしたママのを抜いて言われたとおりに作ってみたんだけれどいい出来だったでしょ。あまりのおいし
さに一時も手放せなるくらいに……
ああ、圭ちゃんは身を持って知っているよね。何しろ、私からポット奪ってまで飲んだんだもの!クフフフフッ!!」
歩美の口から嘲笑と共に返ってきたのは圭が先ほど聞いたとおりのものだった。
「どうだった?ママの心臓の味!おいしかったでしょ!!おいしかったでしょ!!キャーッハッハハハハァーッ!!」
圭に向けてゲラゲラと笑い狂う歩美の全身から、目に見えるほどの邪悪な気配が噴出してきている。それに伴い、歩美の髪が次第に赤く染
まっていった。
「あ、歩美さん……あなたは………」
「ウフフフ……、圭ちゃん…。見て、この体……素晴らしいでしょ……。生まれ成った、私の体……」
燃えるような赤い髪。歪んだ欲望にぎらつく瞳。体の節々から噴き出る邪悪な瘴気。そして、はだけた胸の谷間に光る『玉』の字。
「私はアユミ。玉王様に選ばれ、偉大なる使命を仰せつかった性戯使徒・アユミ!!」
「歩美さんっ?!」
歩美の口から放たれた言葉に圭は言葉を失った。あの玉王に敬称を付けたのみならず、自らのことを『性戯使徒』と呼んだことに。
「何言ってるんですか歩美さん!あなたは翔儀天使!聖なるキングジェネラルの力を受け継ぎ、この世の闇を浄化する翔儀天使なんです!」
圭は歩美に対し必死に称儀天使のことを呼びかけた。が、称儀天使という言葉を聞いた途端、歩美の顔がみるみる曇っていった。
「圭ちゃん、その名前口にしないでくれる?私、自分がそんなくだらない存在だったことにすっごく憤っているんだから」
「く、くだらな……?!」
「そう。安っぽい正義なんか守るために自分の時間を無駄にして、しかも誰からも感謝されることもない。傷ついても、倒れても、周りは
なんにもしてくれない。今思うと、なんでそんなことのために必死になっていたかと思うの。でも……」
そこまで言って、歩美はうっとりと目を細めながらぺろり、と口周りを舐め回した。その舌は、明らかに人間のもつ長さではなかった。
「でも、玉王様が私に本当の私を与えてくれたの…。ご自分の力を私の中に残して、私を玉王様のものに成らせてくれたのよ…
もう、正義だなんだって考える必要もない。玉王様のことだけを考え、玉王様のために動く本当の私に……あはっ」
心の中が昂ぶっているのか、歩美は圭が見ているにも拘らずとろとろと蜜が溢れ出てきた股間に手を這わせてくちゅくちゅと音を立てなが
ら弄り始めた。そのあまりに卑猥な姿に圭はボッと顔に火が回った。
「い、いけません歩美さん!歩美さんは玉王に操られているんです!お願いです、心を強く持って、元の歩美さんに……」
「圭ちゃぁん……。圭ちゃんも性戯使徒になればわかるよ……。この体が、玉王様がどんなに素晴らしいか、ってねぇ……」
圭を見る歩美の顔にはかつての面影は全く感じられない。完全に身も心も玉王に捧げ尽くした淫女の姿がそこにはあった。
「歩美さん……。こうなったら、多少痛い思いをさせることになっても、玉王の呪いから解いて差し上げます!」
完全に玉王に魅入られた歩美に説得をしても無駄だと圭は悟り、翔儀天使の力を直接ぶつけることで歩みの体内に巣食う玉王の力を消し飛
ばすことを決意した。玉王の眷属になっている歩美に翔儀天使の力をぶつけたら歩美もただですまないことは分かってはいるが、このまま
にしておくわけには当然いかない。
「はぁぁぁ………」


圭は精神を集中し、体内に宿る力を解放して翔儀天使に変身しようと試みた。体から聖なる気が溢れ出し、圭を包み込んでいく。が
「あうっ!!」
突然圭の全身から力が抜けて漂っていた聖なる気はあっという間に拡散してしまい、そのまま圭は膝をつき床に倒れこんでしまった。
体の奥が燃えるように熱くなり、鼓動はバックンバックンと爆発しそうなほど高鳴っている。
「な?こ、これは一体どうしたことですか……」
「ククククク!なぁに圭ちゃん、変身しようとしたのぉ?!無駄無駄!!さっきから何杯あのお茶を飲んだのよ!」
「お茶……?!」
凍りつく圭に歩美が勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「そう、あのお茶は人間の心臓と、玉王様の御力がたっぷり込められた私の体液が含まれているの!圭ちゃんは知らないうちに玉王様の御
力を体の中に取り込んでいたのよ。
だから玉王様の御力が邪魔をして翔儀天使にはなれないってことなの!ざーんねんでした!!」
「なん、ですって………」
翔儀天使になれない。その現実を突きつけられ圭は眩暈がしてきた。その事実はつまり、ここから圭が逃げられないことも意味するからだ。
「さぁ圭ちゃん、圭ちゃんにも玉王様の素晴らしさを教えてあげるわ。この舌触手で、体の隅々までたっぷりとねぇ……」
ニィッとつりあがった歩美の口元から、肉の管といってもいい長さと太さのピンク色の触手がぬるりと顔を出してきた。その先端は今すぐ
にも圭にかぶりつきたいといったようにパクパクと蠢き、突端から粘液の糸を引いている。
「キ…キャアーーッ!!」
突然目の前に現れた異形の物体に、圭は目の前が一瞬真っ暗になった…



「うふふ、圭ちゃんのなま体ご開帳〜〜〜」
玉王の妖気をたっぷりと体内に込められ身動きが出来ない圭の服を、歩美は一枚一枚嬲るように剥ぎ取っていった。普段物静かで目立たな
い圭からは予想がつかないほどの豊満な体が露わになっていく。
「……相変わらず大きいおっぱいね。ちょっと妬けちゃうよ」
「いやぁぁ…、見ないでくださいぃ……」
パチンとブラのホックを外すと同時にぽよんと競り出てきたのは、同年代の中では明らかに規格外と言える75を越える大きさの乳房だった。
圭はこの大きすぎる胸にコンプレックスを持っているのか、普段はブラをきつきつに縛り上げて出来るだけ目立たないようにしており、ま
たあまり体が強くないから体育も休みがちだったので学内でそれほど噂になることはなかった。
「私のおっぱいなんてこんなに小さいんだから…。ねぇ、どうやったらそんなに大きくなるの?」
歩美は少し不満げな顔をしながら圭の胸をふにふに、ふにふにと軽く揉んだ。
「ひゃあっ!や、やめてくださぁ…!」
歩美にしては少し刺激を与えた程度の感覚だったのだが、圭はビクビクと体を揺らめかせ切ない悲鳴を吐いてしまった。
「えっ…?」
圭の大袈裟な反応に一瞬歩美はきょとんとしたが、すぐに残忍な笑みを浮かべると両手により強い力をこめた。
「あはっ。やっぱこんだけ大きいとすぐ気持ちよくなるんだね。でもさ、私が聞いてるのはどうやったら大きくなるかっていうことなの。
ねえ?どうなの?どうなの?!ねえったらぁ!!」
歩美は圭に質問を浴びせかけながら両乳房を揉み、こねくり、搾りまくる。勿論圭は質問に答えるどころではない。
「あっ!あっ!あっああうっ!!お、おっぱぃ!おっぱいがぁぁっっ!!」
眼鏡越しに見える圭の瞳は胸から発せられる妖しい快感に霞み、口からはうわ言のような言葉しか漏れてこない。もはや歩美を弾き飛ばす
力もなく、ただ歩美によってもたらされる快感に酔い狂っていた。


「ふ〜〜ん、どうしても教えてくれないんだ。じゃあ、こうしてあげる!」
眼下で悶える圭を見るのに飽きたのか、歩美は鋭く伸びた人差し指をギンギンにいきり立った圭の両乳首にブスリと突き刺した。
「ッ?!〜〜〜〜〜〜〜ッ!!」
それまで蕩けるような悦楽に浸っていた中での突然の激痛に、圭は思いっきり目を見開くと声にならない悲鳴をあげ、そのまま白目をむく
とかくん、と気を失ってしまった。
「あ、気絶しちゃった。ホント、人間って脆いよね。うまく手加減が出来ないよ……」
少しやりすぎてしまったかと顔を曇らせた歩美だったが、すぐに頭を切り替えてまた圭の上に覆い被さった。
「まあ、圭ちゃんが気絶しててもこっちは愉しめるからいいけどね……」
ニィッと微笑む歩美の口から、舌触手がぬるぬると這い出てきた。


グチッ……グチッ……

耳元で何か粘ついた音がする。一体何の音なのでしょう…
それになにやらとってもいい香りがします。これは何の香りなのでしょう……
いや、そもそも自分は何をしているのでしょうか……。たしか、私は歩美さんの…歩美さんの……
「ハッ!!」
『歩美』というで今の状況を思い出し、急に我に帰った圭の眼前に現れたのは、ピンクの肉色をした触手の先端だった。
それは規則的に前後へと動き、それに同調するかのように自分の胸にむず痒く滑るような感触が感じられてくる。
「あっ…、圭ちゃん目が醒めたんだ〜〜〜。おはよ〜〜〜」
圭の胸元で歩美の声がする。圭は頭を必死に傾けて声の先を覗くと…
圭の上に跨る歩美が長い舌触手を圭の胸の谷間に挟んで、ズリッ、ズリッと前後に蠢かしていた。
「うふふ、圭ちゃんの胸とぉっても気持ちいい〜〜〜。さっきから出しっぱなしで止まらないよぉ〜〜」
歩美の顔は発情で真っ赤になり、口からは涎をだらだら流しながらパイズリ行為に酔いしれている。
「あ、ああっ!出る!また出ちゃうぅ!!」
その時、歩美が感極まったように瞳を潤ませ、背筋をピーンと張りながら嬌声を上げた。その直後

ドビュッ!

圭の顔に向けられた触手の先端から大量の粘液が圭目掛けて解き放たれた。
「キャアッ!」
バシッと頬や眼鏡に飛び散った汚液に圭は不快な表情を浮かべたが、次の瞬間その瞳に浮かんだのは歓喜の光だった。
(えっ……?!この香りは確か……)
それは先ほどまで圭が求めて止まなかった、あのお茶の香りだった。
「あぁ……」
たちまち圭の顔は恍惚に蕩け、無意識に顔にこびついた粘液を舌を使って舐めとっていっている。
(だめよ!さっきの歩美さんの言葉どおりだとしたら、この粘液には玉王の力が込められていますわ!これを飲んでしまったら、私の体は
もっともっと玉王に毒されてしまいます……)
圭の頭のどこかで誰かがそんな警告を放っている。でも、今の圭にはそんな言葉を聞き取る気はさらさらなかった。
「あむぅ……んっ…、おいしい、おいひいですわぁ……」


見ると、圭が気絶していた時にさんざんぶちまけたのか、胸にも歩美の粘液がいっぱいにこびりついている。圭は瞳を快楽で霞めながら、
胸を手で寄せてぺろり、ぺろりと粘液を舐めしゃぶっていった。
「ク、クククク!そうでしょ圭ちゃん、とってもおいしいでしょぉ?!もっと、もっともっと飲みたいと思わない?
玉王様の御力がたっぷりと含まれた、性戯使徒のエキスを!」
自分の乳首をちゅぱちゅぱとしゃぶる圭の眼前に、歩美の舌触手がしゅるりと伸びてきた。その先端からは圭が切望する玉王のエキスがど
ろりと滴り落ちている。
「これをしゃぶれば、圭ちゃんはもっともっと気持ちよくなれるんだよ!そして、気持ちよさに包まれながらとっても素晴らしい存在に生
まれ変わることが出来るんだよ!さあ、どうする?しゃぶりたい?それともやめたい?」
「うぁ……、あ……」
圭は目の前にかざされた舌触手を涎を流しながらポーッと眺めている。アレを含み体内に特濃のエキスを注いでもらったらどれほど気持ち
よいだろうか。そう思っただけで股間が濡れてくる。
だが、それをするということは自分が翔儀天使としての力を失うのみならず忌まわしい玉王の下僕に堕するということも意味する。ほとん
ど快楽で爛れきった圭の心に残った僅かな理性が、それを頑なに拒み圭の首を縦に降らせなかった。
「あぁ…、わた、わらしは翔ぎ……」
「あ〜じれったいななぁ〜〜。どうしたいのかって聞いているの?」
痺れを切らしたのか、歩美が舌触手で圭の唇をつんつんと突付いた。その拍子で触手の粘液が口に入り、圭の舌をピリッと刺激する。

それが限界だった。

「あ、ああああぅっ!!」
残っていた理性もその瞬間吹き飛び、圭は欲望に瞳をぎらつかせながら目の前の触手に思いっきりしゃぶりついた。そのまま歩美の顔をギ
ュッと抱き寄せ、濃厚なディープキスを這わしながら触手の先をチュウチュウと吸い始めた。
「んふふふ…。ようやっと堕ちてくれたね圭ちゃん。じゃあ、約束どおりたっぷりと玉王様のエキスを注いであげる!!」
その瞬間、舌触手から粘液がドッと放たれ、圭の喉の奥へと流れ込んでいった。
「んんん〜〜〜〜っ!!」
その粘液を、圭は悦びで顔を歪めながら受け入れ嚥下していった。
「んふっ!は、はゆみはん!もっほ、もっほくらさい!もっほぉ〜〜〜っ!!」
飲めば飲むほど体の中で玉王の力が暴れ、これまでの自分が作りかえられていく。それを自覚しながらももう圭はそれを拒むことはしなかった。
性戯使徒に成るというのはこれほど気持ちよいものなのか。この気持ちよさをこれからもずっと味わえるというのか。
ならばそれを否定する道理は何も無いではないか。このまま身も心も堕ちきって生まれ成りたい!
「ほらほら、もっともっともっと飲んでいいんだよぉ〜〜〜」
「んんおっ!んんんぅ〜〜〜〜っ!!」
飲みきれず口元から粘液が溢れ出してきても、圭は息も切らさずゴクゴクと粘液を飲み続けた。
そしてそれに伴い、圭の髪の色が次第に赤く染まり始めていた…



「ただいま〜お姉ちゃん……。あれ?」
歩美の妹、風子が歩美の部屋のドアを開けたとき、そこには予想外の人物がいた。
「あっ、ああっ!!気持ちいい!気持ちいいですわ!!」


そこには真っ赤な髪を振りかざしながら、パンパンに膨れ上がった乳房を舐めしゃぶる桂川圭が悶え狂っていた。
その100cmを優に超えるバストに隠れてよく見えないが、胸の谷間には『圭』を崩したような性戯使徒の紋章が赤黒く光っていた。
「え…?も、もしかして……圭さん?」
「そ、当たりよ」
思わずあっけに取られる風子に、圭の後ろに居る歩美が声をかけた。その舌触手は圭の股間へと伸びており、前後に蠢くたびに圭の体もビ
クビクと跳ねている。
「お、お姉ちゃん……」
目の前の痴態に風子は一瞬言いよどんだが、次の瞬間封子は髪を真っ赤にして性戯使徒の本性を表しながら歩美に向って駆け寄った。
「お姉ちゃんひどい!圭さんを使徒にするときは私も一緒にするって約束したのに一人で勝手に堕としちゃって!」
「あはは。ゴメンゴメン。なにしろ圭ちゃんが思いのほか快感に弱くてすぐに溺れちゃってさ、あなたが帰ってくるまで待てなかったのよ」
歩美はむくれる風子に気まずそうに謝るが、風子は完全に怒っているようでじと目で歩美を睨んでいる。
「む〜〜!お姉ちゃんだけ圭さんの生気吸ってずるいずるい!!使徒になっちゃったらおいしい人間の味がしないじゃない!」
怒りのあまりキレたのか、風子は舌触手をビュルッと伸ばすと、そのまま圭の口へと割って入っていった。
「むぐっ!」
いきなりの侵入に圭は多少戸惑ったようだが、すぐにうっとりとした視線に戻ると風子の舌触手をちゅぱちゅぱと舐めしゃぶり始めた。
風子の方も顔を赤らめながら触手を動かし、喉の奥へぐいぐいと進めていく。
「んんん……ぷはぁっ!
ほらお姉ちゃん!使徒の生気でもこんなにおいしいていうのに、これ以上においしい圭さんの生気を独り占めしたのね!ひどすぎるよ!」
舌触手を振りながら激高する風子の怒りはかなりのものだ。よっぽど圭を餌食に出来なかったことが悔しいのだろう。
「わ、わかったわよ……。次の天使を使徒にするときは必ずあなたにも分けてあげるからさ……。本当よ」
これには、さすがに歩美もたじたじとなりながらそういう風に言い逃れるしかなかった。
「本当?じゃあ許してあげる!」
姉の一言で途端に上機嫌になった風子は、相変わらず肉欲に溺れている圭の巨大な胸にぽよんと顔を埋めた。そしてそのまま両手を重ね、
ふにふにと胸の感触を味わっている。
「あはは〜〜。圭さんのおっぱい気持ちいい〜〜。やわらかくてふかふか〜〜〜」
「うぁ…、風子さん、それ気持ちいいです……。もっと、もっといじってくださぁい……」
風子に胸を弄られたのが気持ちいいのか、圭は爛れた笑みを風子に向けもっともっととせがんできた。その様が風子には凄く新鮮だ。
「あははっ。あの真面目だった圭さんが私にいやらしいおねだりをするなんて。それでこそ玉王様の下僕に相応しい性戯使徒よね〜
じゃあ、そんな圭さんにプレゼントがあるのよ。ほら、入ってきなさい」
風子が指をパチリと鳴らすと、それが合図だったのかドアの影から学生服を着た一人の少女がふらりと入ってきた。
風子の同級生らしいその子の瞳からは光が失われ、口元からは性戯使徒が出す粘液がこぼれている。
どうやら彼女は帰りがけに風子に襲われて、生気を吸われながら粘液を飲まされ肉人形にされているようだ。
「本当なら目の前で圭さんが性戯使徒になったときにお祝いに出そうとしていたんだけれど、ちょっと順番が狂っちゃった。
さあ、これが圭さんの最初の獲物よ。たっぷりと人間の味を堪能してね」
「あ、あああ……、人間、ニンゲン………」
目の前に佇む少女を見た途端、眼鏡の奥の圭の瞳に淫欲と違った別の欲望の光が灯った。
「あぁ…ニンゲン…。おいしそうですわぁ……。たまらない……」
股間に歩美の舌触手を刺したまま、圭はズリッズリッと這うように少女の元へと歩んでいく。その最中、ただでさえ大きい乳房がさらにむ
くむくと膨れ上がり、親指ほどもあった乳首も肥大化し長く伸びてゆく。
いや、それだけではない。乳房の間からも新たな乳房が膨れ上がりその数をどんどんと増していく。あっというまにその数は6つを数え、
6本の乳房触手が先端を粘液で滑らせながら少女の周囲をゆらゆらと漂っていた。


「ク、クククククッ!じゃあ遠慮なく……いただきますわ!!」
圭が淫欲と食欲を満面に貼り付けた淫蕩な笑みを浮かべると同時に周囲の触手が少女に襲い掛かり、口や耳などあらゆる穴に潜り込んでいった。
少女はショックで一瞬体をビクッと跳ね上げたが、肉人形になっているからかそれ以上の抵抗はしなかった。
「これが…、これが人間の味……ぃ!」
触手の先がぐびり、ぐびりと蠢き少女の生気を吸い上げるたびに圭は顔を喜色に染め、人間の生気の味に酔いしれていた。
「あ、ああぁっ!!おいしい!人間の生気、なんておいしいのでしょう!!」
さもおいしそうに少女の生気を啜る圭を見て、歩美と風子はニヤニヤとほくそ笑んでいた。
「あはは…見てお姉ちゃん。あの圭さんがおいしそうに人間食べてる〜〜」
「ね、圭ちゃん。人間てとってもおいしいでしょ?性戯使徒に成ってよかったでしょ?」
「うぁっ!あはぁっ!!
え、ええっ!!歩美さん、風子さん!この体、最高です!玉王様にこの身を捧げることがこんなに素晴らしいことだなんて、あうっ!夢に
も、思いませんでしたわっ!
こんなに気持ちいい思いを出来るなんて、し、翔儀天使の時は思いもしませんでしたわぁっ!!
し、使徒最高!こ、こんな気持ち、きも、ああぁぅ〜〜〜〜っ!!」
人間を味わうことと股間を弄られることで達してしまったのか、圭は一声吼えると少女に挿している乳首触手全てから粘液を派手に放出し、
ビクビクッとそのアクメに浸ってしまった。
そして、腰が抜けて崩れそうになる圭を歩美と風子が脇からしっかりと抱きとめていた。
「うふふ…、圭ちゃん。こんな気持ちいい思い、私たちだけで味わうなんてもったいないよね……」
「他の皆も性戯使徒にして…、みんなでグチャグチャになって愉しもうよ。ねえ、圭さぁん…」
両方から頬を舌触手で舐められて、イッた余韻で焦点が合っていなかった圭の瞳に次第に光が戻り…、圭はニタリと不気味に微笑んだ。
「ええ…そうですねぇ…。こんないい思い私たちだけで共有しては皆さんがかわいそうです……
他の方々にも玉王様にお仕えする素晴らしさを諭し、淫らで気持ちいい性戯使徒へと成らせてあげましょう。クククク……」
そこには理知的で思慮深い翔儀天使・桂川圭の人間としての面影は全く残っていなかった。
玉王に全てを捧げ、玉王の言うがままに生きる忠実な下僕、性戯使徒・ケイの誕生した瞬間だった…





『性戯使徒アユミ〜飛天龍華』
高校の運動部の朝は早い。太陽が地面を照らすようになるころには、すでに始まっている部活動も1つや2つではない。
その中で剣道部は決して早いほうの部活ではなかった。が、それはやたらと早い連中に対しての比較であり、他の多くの運動部と比べたら
やっぱり早いものではあった。ただし一年生限定で。
下っ端の一年生は上級生が来る前に専用の道場を掃き清めておかなければならない。もし上級生が一人でもくる前に掃除が完了していなか
ったり、上級生より遅く来る一年生があったりすればそれは即シゴキの対象であった。これは男子剣道部も女性剣道部もそうかわりはしない。
だからこそ一年生は日が昇るや否や学校へと駆け出していき、いじわるをしていつもより早く出てくるような先輩に負けないように神速の
疾さで道場に入り込んで掃除を完了させるのだ。まあ、これも運動部特有の下級生へ受け継がれる伝統のようなものだろう。
その日も女子剣道部の一年生は埃取り、ゾーキン掛けと所定の掃除をちゃっちゃと行い、間もなく来るある上級生を心待ちにしていた。
彼女は必ずどの上級生よりも先に道場へと上がりこみ、しかもその時間は毎回ほぼ変わることが無い。それにあわせる為一年生達は常に早
起きと掃除の時間の短縮に迫られ、そのため掃除の腕はめきめきと上達していった。剣の腕より掃除の腕が上がってもあまり意味は無いの
かもしれないが、あがってしまったものは仕方が無い。
時計の針が6時40分を示した。と、同時に道場の扉がガラガラと開かれた。今日もいつも通りだ。

「「「「「おはようございます!飛天部長!」」」」」

「ああ、おはよう」
一年生たちが一斉に腹の底からの大声を出して挨拶すると、切れ長の瞳から周囲に強烈な威圧感を放っている女子剣道部部長、飛天龍華は
下級生達に軽く会釈をした。
これが、天童学園高等部女子剣道部のいつもの一日の始まりの様子だった。


『性戯使徒アユミ〜飛天龍華』


「それでは部長、お先に上がらせていただきます!」
「ああ、ではまた明日な」
一人黙々と道場の隅で竹刀を振り続ける龍華の横を、また一人下級生が挨拶をして通り抜けていった。普通に考えれば上級生を残して先に
帰るなど運動部では許されざる行為だ。たちまち鉄拳制裁が飛んできても言い逃れなど出来はしない。
だが、外は既に日も暮れようとしていた。『普通』ならとっくに全員が下校しなければいけない時間なのだ。
実は龍華はいつも一人最後まで残って竹刀の素振りをする傾向があった。他の誰かが諭しても聞き届けはせず、毎回夜8時くらいまでは黙々と振り続ける。
龍華も他の部員の後掃除などの邪魔をしてはいけないと思い、時間が来るとさりげなく隅に移動して他の人間の邪魔にならないようにしている。
そのため、下級生達は龍華のいないところを掃除して家路へとつくのである。
そんなこんなで、あっという間に広い道場の中は龍華ただ一人になってしまった。夕焼けが道場内を真っ赤に染める中、『ふん、ふん!』
という龍華の気迫の篭った声だけが妙に大きく鳴り響いていた。
龍華の家は地元に古くから伝わる旧家である。先祖はこの一帯を納めた武家の一族であるとも伝えられ、いきおい家長は武術、剣術を嗜む
きらいがあった。
龍華は長女ではあるが嫡子ではない。上に兄が三人もいる。が、そんな兄や父、祖父を見ているうち自然と本人も自然と剣を手にするようになっていた。
(まだまだ、自分は、未熟だ!)
誰もいない道場の中、龍華の目には自分をはるかに上回る技量を持つ兄や父の姿が浮かんでくる。兄や父に追いつきたい。その一心が龍華
に放課後もただ一人居残らせ、竹刀を振らせるという行為に走らせているのだ。

断っておくが龍華の剣技が低いわけではない。彼女自身県大会で優勝するほどの凄腕なのだ。その上が異常すぎるだけである。
その頑ななまでの龍華のストイックさは他人からすれば異常に見えるかもしれないが、龍華はそういった奇異の目には全く関心を払わなかった。
また、切れそうに鋭利な美貌から異性のみならず同性からも憧れの対象になっていたが、そういったものにも応えることは無かった。
現在の龍華には自分が強くなること。これ一つしか関心がなかった。もったいない話である。


そんな龍華が素振りを繰り返している中、誰も入ってこないはずの道場の扉がガラガラと開かれた音がした。誰かが忘れ物でもしたのだろ
うか、と龍華は素振りをしながら思った。
「もう! 放課後だぞ! 持っていくものを! とっとと! 持って! 帰るんだ!」
ところが、入ってきた人物は更衣室のほうへ行くでなく龍華のほうへと寄って来た。
「せーんぱい、お疲れ様です〜〜〜」
龍華の耳に聞き覚えのある声が響く。
道場に上がりこんできたのは、中等部にいる龍華の後輩であり自分と同じ翔儀天使としての力を持つ兵頭歩美だった。小さい体だが頑張り
屋で何事にもくじけない歩美を、龍華は可愛い妹分のような存在と思い特に可愛がっていた。
「ん……?!ああ、歩美か。どうしたんだこんな時間に…。もう日も暮れてきているぞ」
「いえ、道場から先輩の声が聞こえてきたんで、ああ先輩ったら今日も頑張っているんだな〜〜と思って、つい入ってきちゃいました」
「…まったく……」
明るくコロコロと笑う歩美に龍華は苦笑した。本来なら素振りの邪魔をされたことに憤っているところなのだが、歩美の悪意の無い無邪気
な笑顔につい頬が緩んでしまう。
だが、やるべきことを止めておくわけにもいかない。
「ほら、もう帰れ。私は日々の修練を終えてから帰らなければならないからな。歩美の親御殿も心配するであろう」
そう言って龍華は歩美から目を切り、再び竹刀を上段に構えた。と、その時
「先輩!」
「うわっ?!」
いきなり歩美が後ろから飛び掛ってきた。首に腕を巻かれ、不意を突かれた龍華は危うく倒れそうになる。
「こ、こら歩美!ふざけるのはよせ!!降りろ!」
さすがに龍華の声には怒気が混じっている。何を思ってのことかは知らないが、修練の邪魔をされてはたまったものではない。
が、歩美は手を緩めることなくがっしりと張り付いたままだ。
「ねぇ……せんぱぁい……」
耳元に聞こえる歩美の声は、龍華が聞いたことが無いほど艶っぽく響いてくる。そういうことにあまり関心の無い龍華でもクラッときてし
まいそうな、そんな魔力をこめたような声だ。
「あ、歩美……、おまえ、冗談は……」
歩美を力任せに振り落とすことも頭に浮かばず、龍華は全身を変に強張らせおたおたと対応に苦慮していた。
「うふふ……」
その時、歩美の緩く開いた口元からひょろひょろと肉色の触手が這い出てきた。それは先を細めながらぬるぬると蠢き、先端から妖しげな
粘液を滴らせつつ、龍華の耳目掛けてゆっくりと伸びていった。
そしてそれが、今まさに侵入しようとした瞬間、
「っ?!」
背後からただならぬ気配を感じ取り、龍華は自分を掴んでいる歩美の腕をガツッと掴むと背負い投げの要領で前へとぶん投げた。
「きゃあっ!」


そのまま歩美は派手に吹き飛ばされ、道場の畳に肩から思い切りドンッ!と落下した。
「お前……誰だ?!」
龍華の顔からは緊張のあまり冷や汗が噴き出ている。今感じた危険な気配と悪寒。それはまぎれもなく背後の歩美が発していたものだ。
あれは人間に出せる気配じゃない。もしかしたら、玉王の残党が歩みに化け、不意を狙ったのかもしれない。
龍華は蹲ったまま動かない歩美へ竹刀を向け、油断しないように構えていた。
「いったぁ〜〜い!いきなり何するんですか先輩〜〜〜!」
「あ、あれ……」
が、むくりと起き上がってきた歩美からはさっきのおぞましい気配は全く感じられなかった。歩美のほうはいきなり投げられたことへの不
満がありありと顔に出ている。
「投げ飛ばすなんてひどいじゃないですか!ちょっと抱きついてみただけだってのに……」
ぷりぷりと怒る歩美は、龍華が知っている歩美そのものだ。
(ま、まさか勘違いだったのか……?!)
「す、すまなかった歩美!私の勘違いだった。許せ!」
龍華は完全に泡喰ってしまい、深々と頭を下げてしまった。自分の未熟さから後輩をえらい目にあわせてしまった事で、恥ずかしさから顔
から火が出そうになっていた。
そんな龍華を、歩美はまだ怒った顔で見ている。
「許すもなにも……、あいたた……」
まだ何か不満を言おうとしてたのだろうが、畳に落ちた拍子にどこかを痛めたのか突然歩美は顔を苦痛に歪めて蹲ってしまった。
「ど、どこか打ったのか?!痛いところはどこだ?!」
龍華は慌てて蹲る歩美へと近づいていった。そして、保健室へと連れて行こうとその体を抱きかかえようとした時

「龍華先輩だめです!離れてください!!」

「え……っ?!グッ!!」
入り口のほうから悲痛な叫び声が上がった。それに一瞬気を奪われそうになった時、歩美のほうから再びあのおぞましい気配が噴出してきた。

ビュン!

「うわっ!」
龍華目掛けて何かが突っ込んでくる。慌てて身を捻りそれをかわし、龍華は改めて歩美のほうへと向き直った。
「ちぇっ……。なぁんでそこで圭ちゃんが出てくるのかな。もう少しで龍華先輩を殺すことが出来たのにさ……」
龍華の目の前にゆらりと立った歩美はそれまで被っていた猫の皮を引ん剥き、全身からどす黒い気を惜しげもなく放出しながら対峙している。
その口元からはありえない長さの舌。いや触手が伸び、髪の毛が見る見るうちに燃えるような赤色へと変わっていった。
「歩美っ……。お前は!!」
目の前で起こった後輩の異形の変身に絶句する龍華へ、道場に入ってきた後輩…、龍華たちと同じ翔儀天使で歩美のクラスメートである桂川圭
が声をかけてきた。
「歩美さんは……、玉王に体を乗っ取られてしまったのです……!
翔儀天使としての力を全て奪われ…、玉王の意のままに動く性戯使徒へと成らされてしまったんです……」
「なんだと……」
見れば、圭の制服はボロボロに破れ、ところどころから血が流れ出している。軽い見立てでも立っているのがやっとといった趣だ。


「私もさっき…、使徒になった歩美さんにいきなり襲われて…、ううっ!!」
苦しげに喋る圭がいきなり胸を抑えて蹲ってしまった。相当の深手を負っているのだろう。
「あ〜あ、圭ちゃん生きてたんだ。てっきり止めさしたと思っていたのに…。しぶといね」
「歩美……」
残念そうに眉をひそめる歩美を見て、龍華の心に怒りの炎が燃え上がった。
「歩美、貴様!!圭はお前の同級生…しかも同じ翔儀天使だろうが!それを……殺そうとしたのか?!」
「当然ですよ先輩。圭ちゃんも先輩も私にとっては玉王様の邪魔をする敵ですもの。殺して当然だと思いませんか?」
龍華の怒りの声に、歩美はさも当然だといった顔で答えた。
「無駄です先輩……。今の歩美さんは身も心も玉王に支配されているんです…。その支配を解かない限り、歩美さんは元に戻りません…」
そう言いながら圭は、歩美の胸元を指差した。そこには『玉』を象った紋章が赤々と輝いている。
「あそこに翔儀天使の力をぶつけ、玉王の力を追い払うんです…。そうすれば歩美さんは、元の歩美さんに戻るはずです……」
「あそこか。わかった!後は任せろ圭!!」
(過去に自分をおぞましい目にあわせ、今また可愛い後輩二人を苦しめている玉王!最早絶対に許すまじ!)
玉王への激しい怒りに震える龍華の体が神々しい光に包まれる。羽織っている胴着が変化し、翔儀天使が身につけるコスチュームへと姿を
変え、手に持つ竹刀が硬質な金属感を持った実剣へと変わっていった。
最後に背中に光で形作られた翼が姿を表し、龍華の翔儀天使としての姿を構成しきった。
「玉王!今度こそ貴様の存在をこの三千世界から永遠に消滅させてくれる!!」
剣を上段に構えた龍華は豪快に啖呵を切り、歩美へ向けて突進していった。
「うおおぉっ!!」
剣道で鍛えた踏み込みから振り下ろされる剣は唸りを上げて歩美に襲い掛かる。が、歩美も使徒になって強化された身体能力を活用してそ
う簡単には当たらせない。
「逃げるな歩美!大人しくこの剣を喰らって浄化されろ!!」
「無茶言わないでください先輩〜〜。そんなことしたら私も玉王様も死んじゃうじゃないですか!」
「お前は致命傷一歩手前で済む!心配するな!!」
「やっぱ無茶言ってますよ先輩〜〜!」
般若の形相で剣戟を繰り出す龍華に比べ、歩美のほうはまだどことなく余裕を持って相対している。だが、その額は冷や汗でべっとりと濡
れており、じわじわと追い込まれていっているのがわかる。
(くそっ!この私がこうまでてこずるとは!!)
思ったよりも長引く戦いに龍華にも次第に焦りが見えてきた。あまり騒ぎを大きくすると、まだ校内にいる他の学生達が何事かと中に入っ
てきかねない。そうなると余計に厄介な状態になる。
「ほらほら先輩、こっちですよ〜〜〜」
(歩美の潜在能力の高さは知ってはいたが、敵に回すとこうも厄介だったとはな…!)
次第に龍華には歩美しか目に入らなくなっていった。というより他に気を回す余裕などなくなっていた。
その時、後ろで蹲っていた圭がのそのそと体を起こしてきた。
「わ、私も……手伝います わ……」
「バカ!ケガ人はジッとしていろ!!闘いの邪魔だ!!」
このギリギリの戦いに圭が加勢してくれたとしても、足を引っ張るだけでむしろ邪魔になる。そう確信し龍華は後ろを振り向きもせず圭に
怒鳴り散らした。まあ元々後ろを見る余裕などありはしないのだが。

そして、これこそ待ち受けた状況だった。



「いいえ……、遠慮なさらず に!」
妙に艶かしい圭の声とブリュッ!とかいう不可思議な音がしたのは同時だった。剣を振りかぶった龍華の手が、踏み込んだ足が、息を吸い
込んだ胸周りが、突然後方から襲いかかってきた触手にぐるぐると絡め取られてしまった。
「な、なにがっ?!」
「うふふ、ご苦労様先輩。ずっと先輩の踊りを眺めていましたけれどやっぱり滑稽でしたね」
状況がよくわからず混乱する龍華を、目の前にすとりと降りた歩美がニヤニヤと眺めていた。
「お、踊りだと……。私の剣戟を、踊りというのか……歩美……」
「まっさかぁ!キャハハハハハ!!」
自分の剣を否定されたと思い呆然と呟く龍華を、歩美はケタケタと笑い飛ばした。
「先輩のここまでにいたる経緯ですよ!!最初っから最後まで踊らされていたのも分からない間抜けな先輩がおかしくてね!!ねえ圭ちゃん」
「ええ、その通りですわ」
龍華の後ろからありえない声が聞こえた。触手に絡め取られた体が宙に浮き、吊るされる体勢になって初めて見えた圭は、歩美と同じく髪
の毛と瞳が真っ赤に染まり、胸から沢山の乳房を露出させ乳首が触手となって龍華の体を拘束していた。
「なっ……?!圭……」
なんということか、圭も既に玉王の手中に堕ちていたのだ。
「まんまと引っかかってくれましたわね先輩。先輩の背後を取るのはそう簡単なことではないので一芝居打たせていただきました。
なにしろあの時にようやっと背後に隙ができたのですもの。先に歩美さんが倒されてしまわないか心配でしたわ」
つまり、最初に圭がボロボロの姿であらわれたのも歩美がこっちに反撃のそぶりを見せなかったのも全ては龍華を嵌めるための罠だったのだ。
(なんという不覚!!)
龍華は自分の迂闊さに臍をかんだ。歩美も圭も仲間であり後輩だったから完全に油断していた。外見に捕らわれず物事の本質を掴もうと感
じていれば、あるいは二人の正体に感づいたかもしれないと言うに。
「くそっ!殺せ、殺せ!!この戦、お前達の勝ちだろう!いつまでこんな醜態を晒させるつもりだ!!」
事ここに至り自身の敗北を悟った龍華は覚悟を決めた。玉王の敵である自分が玉王の下僕である二人に捕らわれた以上、もはや助かること
は無いだろう、と。
だが歩美と圭は、そんな龍華に言い放った。
「何を仰るんですか先輩。私たちが先輩を殺すはずが無いではないですか…。玉王様に捧げられる先輩を、ね……」
「そうですよ。これから先輩も、圭ちゃんと一緒で玉王様の下僕に成っていただくんですから……」
「?!なん、だと……」
龍華は圭と歩美の言葉に血の気が一気に消え失せた。この二人は自分を玉王への供物にしようとしているのだ。
「先輩も玉王様のエキスを体に入れれば分かりますわ。性戯使徒と玉王様の素晴らしさが……
そんな不様な翔儀天使の姿なんかすぐに捨てたくなりますわよ……」
圭の顔が淫欲に歪み、龍華を拘束する触手の先端からおぞましい粘液がとろとろとこぼれ始めてきている。その濃密な匂いに龍華は少しづ
つだが意識が支配され始めていた。
触手の先端を口に含み、あの粘液を味わってみたい。そんな気持ちが自分の意思とは無関係に湧き上がってきている。
(ダメだ!そんなことしたら玉王の術中に自ら嵌ってしまう!!)
そんな心の中を必死に押さえ込み、龍華は二人を睨みつけた。
「バ、バカなことを言うな……。私は翔儀天使…だ…。そんな辱めを受けるくらいなら、いっそ潔く………」
龍華の口がかっと開かれ、舌を伸ばす。いいように操られる前に舌を噛み切って自害しようと考えたようだ。
だが、それすらも圭の考えたうちに入っていたのだ。
「野暮なことはお止めになってくださいさい、先輩」


ただ一本、龍華を拘束していなかった乳首触手が舌を噛み千切ろうと振り下ろされた唇に割って入ってきた。龍華の歯に妙に弾力のある肉
の感触が伝わってくる。
「んぐっ!」
「キャハッ!先輩の歯が私の、私の乳首をぉ!あぁ〜〜〜ん!!」
その歯の感触だけで達してしまったのか、悩ましい声を上げた圭はそのまま龍華の口内へ玉王の力がたっぷりと込められたエキスを噴出してしまった。
「んぐぉっ!!」
突如として喉に流し込まれた粘液に龍華は目を見開き盛大にむせたが、エキスはどぼどぼと龍華に大量に注がれていっている。
(は、吐き出せ!吐くんだ!!)
これを飲んだら大変なことになると龍華は必死に吐き出そうとしたが、そもそも口を完全に塞がれているので逃げ道は無く、そもそも粘液
が大量すぎて例え吐けても追いつかない状況だっただろう。
喉を粘液が通るたびに胸の奥がカァッと熱くなり、また粘液から醸し出される香りが龍華の思考力をガリガリと削り取っていっている。
(ま、まずい……頭が……ボーッとしてきた………)
次第に何かを考えることが億劫になっていき、それが広がるに反比例して体の熱さと疼きが大きくなっていく。もう今の龍華には自殺する
とかいう意思も殆ど残ってはいなかった。
それまでおぞましさしかなかった拘束する乳首触手の感触も、なんか柔らかくて心地よいとかいったふうに体が感じるもの自体が作り変え
られていっているようだった。
(ふわあっ、はぁっ……。あ、熱い……。どうしたことだ、これは……)
何も誰も弄っていないはずなのに龍華の股下からはぽたぽたと熱い液体が滴り落ちている。全身の力がぐったりと抜け、触覚だけが異常に
鋭敏になってきてた。
「んーっ!んんぅーーっ!!」
(あ、あああっ!!熱い!疼く!!弄りたい!思いっきりアソコをまさぐりたい!!)
龍華は無意識のうちに太腿を擦り合わせながら体をくねらせ、全身から湧き上がる官能に翻弄されていた。それは普段の龍華を知る人間か
らは、想像も出来ない光景だ。
「凄いよ圭ちゃん……。あのいつもキリッとした龍華先輩があんなによがり狂ってるよ……」
「ええ……。あんなのを見せられては、こっちも体が熱くなってしまいますわ……」
歩美も圭も、そんな龍華の痴態を見上げながら互いのスカートの中に手を伸ばし、クチュクチュと音を立てながら慰めあっていた。
「んふぅーっ!んふおぉーっ!!」
快感に溺れる龍華の翔儀天使としてのコスチュームが、次第にぼやけて形を失っていっている。龍華の意思が弱まり、翔儀天使としての力
を維持するのが困難になってきたのだ。
やがて龍華は元の胴着姿に戻ってしまい、それにより使徒の力の侵入を拒むこともまた出来なくなってしまった。
「ん……。うんんぅ……」
さっきにも増して襲い掛かる圭の粘液の力に、もう龍華は抵抗するすべは無かった。粘液の力に完全に屈した龍華は自ら乳首触手をしゃぶ
り、鼻を鳴らしてその味を堪能していた。
「うふふ……、どうやら完全に堕ちてくれたみたいですわね……」
「うん。もう頃合だと思うよ……」
龍華の仕上がりに満足いった圭は空に浮かんだ圭をすとんと下ろし、そのまま体に纏わりつかせた触手をするすると解いていった。
最後に口に含ませた触手をちゅぽんと抜くと、龍華は肉欲に爛れた顔を圭と歩美へと向けた。
「な、なんでやめるんだ……。もっと、もっと続けてくれ……。私、もうあのエキスがないと、もう もう………」
龍華はだらしなく開いた口からだらだらと涎をたらしながら、袴の中へ手を突っ込みぐちゅぐちゅと自らをかき回していた。群青の袴は龍
華から湧き出した愛液でべったりと黒く染まり、濃い淫臭を周囲にはなっていた。


「は、早くぅ…はやくくれ……。このままじゃ私、狂ってしまう………」
ひぃひぃとよがりながら懇願する龍華に、歩美と圭はさも困ったような笑みを浮かべていた。
「早く……と申されましても、ねえ歩美さん……」
「うんうん。先輩は凛々しい翔儀天使様だもん。これ以上注いじゃうと天使辞めちゃうことになっちゃんだもんね〜〜〜」
ああ残念だ残念だと、二人は龍華を申し訳なさそうに見ている。もっとも、その目は笑っておりちっとも申し訳ないようには見えないが。
「そ、そんなぁ……ああぁ……」
陰部を手で弄りながら、龍華は絶望的な叫び声を上げた。この心に燃え上がった肉欲の飢餓感は龍華の肉体を焼き焦がさんばかりに膨らんでいる。
それを静めるには、歩美と圭の持つ触手を埋めてもらうしかないと龍華の雌の本能が訴えかけていた。
自分のすぐ横には、毎日握っていた竹刀が転がり落ちている。が、竹刀は何もしてくれない。
毎日のように鍛えあげた肉体は、官能の火を消すどころか燎原の炎のようにますます火勢を強めている。
(自分は何を……毎日何をしていたんだ…)
龍華は今まで剣の道に生きていた自分は何だったのかと思っていた。剣を嗜むことで、自分は龍華という人間を構成することが出来た。それは否定しない。
が、いつの間にか自分は剣を介在しなければ自己を映せなくなっていたのではないか。一体自分から剣を取れば何が残るのであろうか。
龍華は自己を武の道に追い込むことで、周りにも自分にも『厳しく凛々しい飛天龍華』という人間を見せていた。それが自分の本質である
と自分に言い聞かせていたのだ。
だからこそ、剣がなんら意味をなさない今の状況はある意味受け入れがたいものだった。『剣』という仮面を被った皆に慕われる龍華では
なく、素の弱い飛天龍華という存在を嫌と言うほど実感させられる。それに耐えられるほど、龍華の精神は強くはなかった。
「ああぁっ…気持ちいい……。気持ちいいけど、けどぉ……イケない。イケないのぉ……」
自分がイクにはどうすればいいか。もう龍華は答えを知っている。
だから自慰に耽りながらも、圭の乳首触手と歩美の舌触手を濡れた瞳でじぃっと眺めている。
「お願い、挿れて。挿れてよぉ……。どうなっても、いいからぁ……」
おねだりの言葉づかいまで変わってきた龍華を、歩美と圭はニヤニヤと眺めていた。
「そんなにこれが欲しいのですかぁ…?これを先輩に挿れてしまいますと……、先輩は天使でなくなってしまいますわよぉ……」
「玉王様に全てを捧げ、玉王様のために働く性戯使徒に成ってしまうんですよ。それでもいいんですかぁ先輩?」
歩美と圭の声が殆ど思考力を失った龍華の頭にがんがんと響いてくる。そんな僅かな思考力の中でも、二人の言いたいことは龍華には理解できた。
(あれを挿れたら……、私はあの二人と同じ使徒に成ってしまう……)
それはわかる。
(でも挿れたら……、あの気持ちよい粘液をたっぷりと味わうことが出来る……)
それも理解できる。
(使徒に成ると……成ると……なんだっけ……?)
使徒に成るとなにか不都合な事があったのか。それがいまいち思い出せない。自分にとって致命的な事があるのか、それに思い至らない。
「でも、使徒の体ってとぉっても気持ちいいですよね、歩美さぁん」
「うん。自分たちであんなことやこぉんなこともできるんだもんね」
霞む視界で二人が触手を絡ませながら何かしているのが見える。二人ともとても気持ちよさそうな顔をしているのが分かる。
(あぁ……。使徒に成ると、あんなに気持ちよい思いが味わえるんだ……羨ましいな……えっ?!)
羨ましい。羨ましいと自分は思ったのか?あの体になっている二人に嫉妬を覚えているのか?
だったら、答えはもう決まっているのではないか。いま自分は、あの体を手に入れる機会を手に握っているのではないか。
「……かまわなぃ……」
それは最初、蚊が飛ぶような小さな声だった。
「いい……、いい!使徒に成っても構わない!いや、むしろ使徒に成りたい!!


使徒に成って、その気持ちよい思いを思い切り味わいたい!!歩美!圭!私も使徒にしてくれぇ!!
そのぶっとい触手を私の体に突き刺して、気が済むまで蹂躙してくれぇ!!」
龍華の慟哭は最後は道場中に響くような大声になっていた。
「うふふ。それでいいんですよ龍華先輩……」
圭の乳首触手がざわざわとそれぞれが意思をもつように蠢いている。
「天使のことも…人間のことも思い出せないくらい、ガンガンに犯し抜いてあげますよぉ……」
歩美が舌なめずりをするように舌触手で唇を舐め回した。
「あ……。あはは……」
無数の触手が自分に纏わりつこうとしている様を、龍華は悦びに満ちた目で見つめていた。


「あぁんっ…。早く、はやくぅ……」
龍華が両手で押し広げている女陰はすでに出血しそうなくらい赤く充血し、触手を早く咥えたいと言っているようにピクピクと震えていた。
「ふふっ、あの先輩がこんなはしたない姿で私におねだりを……。もう見ただけでイってしまいそうですわ……」
圭の乳首触手は今にも龍華の胎内に押し入らんと体勢を整えている。少しだけ触手を前進させれば龍華の体を味わうことが出来るだろう。
だが圭も性戯使徒。そのまま挿すのでは趣に欠ける。
今、圭の6本の乳首触手は龍華の膣口、菊門、両乳首、臍に狙いを定めていた。あえて口は外しているのは、その壮絶な鳴き声を聞きたいが溜めだ。
「では先輩……、いい声で哭いてくださいませ!!」
圭の執行声明が出されると同時に、狙っていた箇所に同時に触手がずぐり!と打ち込まれた。

「はぐぅーーーーーーーーっ!!!!!!!」

待ちに待っていた挿入に、しかも一箇所ではなく五箇所同時に行われたことで、龍華の体に気絶せんばかりの壮絶な快感が一気に走った。
狭い乳腺を抉られる快感。臍をぐりぐりと穿られる快感。処女膜を千切り奥へと挿れられる快感。普段は出て行くばかりのところを逆に入
られてくる快感。そのどれもが、剣に生きてきた龍華が想像したこともない全身がドロドロに蕩けそうになる新鮮な快感だった。
「う、うぁ あーっ!!気持ちいい!気持ちいいよぉ!!これ最高ぉっ!!」
こんな気持ちいいことを知らずに、自分は17年間無為に生きてきたのか。汗臭い道場で竹刀を振り、自己鍛錬をするのが気持ちいいと思
っていたのか。だとしたら自分はなんという勘違いをしていたのだ。そんなものに快感なんかありはしない。それに気づいてしまった。
こうして肉の快楽を得て初めて理解できる。こんな脳が痺れるほど弾ける快感は、剣なんかでは絶対得られはしない!
「ひいぃーっ!!圭っ!もっと、もっと深く突っ込んでくれーっ!もっとグチュグチュと抜き挿ししてくれーっ!!
私を、肉の快感で包み込んでくれ!!これまで偽りの快感に溺れていた私を、作り変えてくれーっ!!」
汗まみれで全身を艶かしくくねらせ、胸に挿されている乳首触手を握り締めながら龍華は貪欲に快楽を貪り続けた。まるで、今まで得てこ
なかった肉の快感を時間を遡ってまで味わうかのように。
「あんっ!先輩激しすぎぃ……。とても、我慢し切れませんわぁ……!」
圭のほうも龍華のリクエストに応えるかのようにぬっちゅぬっちゅと触手を蠢かせ、触手の先端から玉王の力溢れるエキスをドクドクと注
ぎ込んでいった。そのエキスが溢れ出し、龍華の体は粘液で滑光っている。
圭と龍華が激しい人外のセックスに勤しんでいる中、歩美がゆらりと近寄ってきた。
「さて、それじゃあそろそろ先輩の力を取っておかないとね……」
翔儀天使を性戯使徒に成らせる事が出来るのは、体内に玉王の力の残滓を持っている歩美だけだ。7人の天使の力を玉王の力に込めること
で、初めて玉王はこの世界に戻ってくることが出来る。


グチャグチャになって悶える龍華を一通り見て周り、歩美は龍華の異様に自己主張している陰核に目を付けた。
普通の女子に比べても二まわりほども大きいそれは、包皮からぷっくりと顔を出しギンギンに勃起している。
「あははっ!さっすが先輩。いっつも男らしいと思っていたけどこんなところも男らしいなんて!!」
クスッと笑った歩美はニュルリと舌触手を伸ばし、パクパクと蠢く口吻を龍華のクリトリスに近づけ……、パクッと噛み包んだ。
「?!〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!」
その瞬間龍華は、声にならない悲鳴を喉の奥から張り上げ全身をビクビクビクッ!と派手に跳ねさせた。
「気持ちよかったですか先輩?じゃあ、その気持ちよさのまま成っちゃってくださいね」
歩美の舌触手からクリトリスを通じて、龍華の体内の天使の力がジュルジュルと吸い取られていく。吸い取られた力は玉王の残滓に取り込
まれ、歩美の体内の玉王の残滓はさらに力を増していく。
その代わりといっては何なのだが、歩美のほうから玉王の力…天使を使徒に成らす力がドクン…ドクンと注がれていく。それは頭では分か
っていても絶対に抗えない魔性の力だった。
「うあっ!あひぃぃーーっ!!私、変えられる!成らされちゃうーーっ!!」
陰核から全身にブワッと広がっていく玉王の力、使徒の力を龍華は感じつつも積極的に受け入れていっていた。
なにしろ使徒の力が染みこんだ所が、それまでの何倍もの感度と何十倍もの悦楽を生み出しているのだ。快感を積極的に貪るようになった
龍華が受け入れない道理が無い。
「成るの、成るの気持ちいいーっ!もっと、もっと使徒の力を、玉王様の力をぉ!!あぐぐぅーーっ!!」
もはや気持ちいいのか苦痛なのか区別がつかない龍華の髪の毛が、艶やかな黒から滑るような赤へと染め上がっていった。
それは、龍華が人間ではなくなっていくことの証でもあった。
「あひぃい……。気持ちいいぃ……。もっと、もっとぉ……」
髪の毛が完全に緋色に染まってなお、龍華はうわ言のように快楽を求め続けていた……



ピチャ…ピチャピチャ……

すっかり日も暮れ、月の光が差し込んでくる道場内に何かを舐めしゃぶる音が響いている。
「ん……んんぅ…」
「あむぅ……。くちゅ……」
闇に映える真っ赤な髪をした龍華の腰に、歩美と圭が顔を埋めて龍華の陰核を音を立てて舐めていた。
もっとも、それは陰核といった生易しいものではない。太さは女性の腕ほどもあり長さは1mに達しようかとしている。言うなれば陰核触
手と言ってもいい代物だった。
「ふふふ……。お前ら、少しこそばゆいぞ……」
歩美と圭の頭を撫でながら二人の奉仕に身を委ねる龍華の顔には、剣に打ち込んできたときには決して見せないと思うであろう淫欲に爛れ
た笑みが張り付いていた。
そして胸の谷間には『飛』の文字を崩したような、性戯使徒の紋章が浮かび上がっていた。
「んふっ…、先輩ったらこんなに立派なものが生えてしまいなさるなんて……」
「やっぱり先輩は剣の人ですねぇ…。こんなものを挿れられたら、私でも壊れちゃいそう……」
道場の天井目指して起立する龍華の陰核触手はパンパンに血を吸って膨れ上がり、先端からは粘液がぷくぷくと絶えず湧き出している。
確かにこんな長く太いものを挿れられては、性戯使徒の体といえどもただではすまないかもしれない。
「そう…だな。確かにこれこそ私に相応しい、猛々しく鋭い使徒の証よ……クククク……」
自分の陰核触手を見る龍華の瞳は淫らさと残忍さを併せたような光を放っている。人間性の欠片も感じられないその瞳は、まさしく使徒のものだった。


「あぁ…。早くこいつを使って人間どもを狂わせたいな…。きっと腰が抜けるほど気持ちいだろうよ……」
「先輩、人間を食べるのもいいですけれど……まずは、ほかの天使たちを……」
「天使……」
『天使』と言う言葉を聞き、龍華の顔が見る見る険悪なものになっていく。
「天使、か……。確かに、鶴花たちの力も早く歩美の中の玉王様に捧げて、一刻も早く玉王様を復活させないとな……
そのときはこいつをぶち込んで、ヒィヒィよがり狂わせないと気がすまないよ……」
龍華の認識では残った他の翔儀天使は『敵』である。敵に対する情けは無い。
「まあお任せください。天使たちなど私の策を持ってすれば、すぐに陥れることが出来ますわ……」
そういう意味でも歩美が真っ先に圭を堕としたのは懸命だった。天使の中でも一番の頭脳を持つ圭が使徒に成ったことで、その頭脳をフル
に他の天使を嵌めることに使うことが出来るのだ。
「待っていろよ天使どもめ…。お前達全部、私の触手の虜にしてやる……」
「うふふっ先輩、とっても頼もしい……あっ!!」
その時、何かを思い出したのか歩美は口を抑えて大声を上げた。
「ど、どうかなさいましたか歩美さん!」
「今回も……ふーこをつれて来るの忘れちゃった……」
なるほど、確かに歩美は前に風子に『今度天使を堕とす時は風子にも生気を啜らせてあげる』と約束していた。
それを破ったとなると……
「風子さん、ものすご〜〜く怒りますわよ……」
「お前、そんな約束をしていたのか……。うまくすれば風子の触手も味わうことが出来たってわけかぁ……」
「う〜〜〜〜。どうしよぉ〜〜〜。なんと言って謝れば許してくれるだろ……」
二人の使徒にじとっと見つめられ、歩美は使徒らしからぬ情けない声をあげた。



今日も日が昇り、剣道部員達の早い朝が始まった。既に道場は掃き清められ、いつもの龍華の登校を待つばかりである。
時計の針が6時40分を示した。と、同時に道場の扉がガラガラと開かれた。相変わらず今日もいつも通りだ。

「「「「「おはようございます!飛天部長!」」」」」

「ああ…、おはよう…」
一年生たちが一斉に腹の底からの大声を出して挨拶すると、飛天龍華はいつものように下級生達に軽く会釈をした。
が、今日は少し様子が違う。
いつもはまるで仮面のようにきりっとした表情を崩さないのだが、今日は少し顔を赤く染め全身に気だるそうな雰囲気が漂っている。
また、龍華から漂ってくるのだろうか。龍華が入ってくると同時に部員達の鼻に南国の花の香りを煮詰めて濃縮したような香りが漂ってきた。
龍華が香水をつけたなんてことは聞いた事もなく、また見たこともない。
「あ、あのっ部長!」
一人の部員が意を決して声をかけた。
「き、今日の部長、なにかとってもいい香りをしてらっしゃいますが……、これは一体……」
「ん?ああ…、気にするな。ちょっとした景気づけだ。これからの、な……」
聞かれた龍華は答えを言ったのかはぐらかしたのかよくわからない物言いをした。これも、いつもの龍華らしくない。


「ぶ、部長……いったぃ……あぁんっ!」
様子のおかしい龍華に他の部員達もざわめいたが、その時道場にいた5人の部員が一斉に嬌声を上げた。胸の奥が燃えるように熱くなり、
下腹部がじゅん!と濡れてくる。ただ一人の例外もなく。
「あ、あぁっ……これなに?!」
「体が熱いっ!あついよぉ……っ!」
たちまち部員達はその場にしゃがみこみ、各人思い思いの方法で体を慰め始めた。その顔は淫欲に爛れきっており、既に理性は無い。
「ククク……クーックックックック!!」
部員達の様を見て残忍な笑みを浮かべた龍華は、袴の紐をしゅるしゅると解き、下半身を露わにした。
そこからは部員達を発情させたむっとした甘い淫臭を放つ陰核触手が顔を出し、見る見るうちに高く勃起していった。
「どうだこの匂いは……。お前達人間にはたまらないいい匂いだろ……
これからお前達には、剣道なんかよりもっともっといいことを教えてやる。さあ、着ている服を全て脱ぐんだ……」
龍華の声に部員達はピクッと反応し、虚ろな表情をしながら一枚一枚服を投げ捨てていった。
たちまちのうちに全裸になった5人の部員を見て、龍華は溢れ出す涎をずるりと拭った。
「ふふふ…これからお前達人間に、この私の剣をずっぷりと埋めてやる。そしてお前達は私にその肉体と生気を捧げるんだ。
そうすれば、人間では決して得られることのできない気持ちいい思いが出来る。その命と引き換えにな……
さあ、まずは左の人間から出て来い。お前が栄えある私の最初の餌食だ」
龍華に指差され、一番左にいた部員がフラフラと前に出てきた。その下半身は既に濡れきっておりポタポタと畳に染みを作っている。
「お前の肉鞘は、どんな埋め具合がするのかな…ククク!」
陰核触手を片手でニチュニチュと扱きながら、性戯使徒・リュウカはどうやってこの人間を搾り尽くすかの思いに身を馳せていた…



 

はっきり言って天童学園はマンモス私立校だ。敷地は無駄に広いし各施設もやたらと充実している。
前述した剣道部などは男女別々に道場が建てられてたり、校庭とは別にフィールドトラック、理系部
活には研究棟、茶道部には専用の茶室、などなど過剰ともいえるほど設備投
資をしていたりする。
学園理事長の考えもあるのだろうが、ここまでくるとパラノイヤと疑われてもおかしくはないだろう。
そして、そうでなければわざわざ屋根付き温水プールなど作りはしない。
この、一学校としてはあまりに壮大且つ無駄とも思える設備は普段は夏場しかできない水泳をほぼ一年中行うことを可能にしていた。
もっとも、体育の授業で水泳が行われることは他の学校と変わらず夏しかないので、それ以外の季節
にこの施設を利用するものは水を使う部活動に携わる人間、もしくはよほどの水泳好きに限られていた。勿体無い話である。

そういうわけで、この天童学園には他の学校ではあまり聞かない水泳系部活動が存在しており、その
うち高等部では水泳系部活は大別して2種あった。
一つは水中ダンスを中心に行っている水泳部。もう一つは体育会系のノリで動く競泳部である。
水泳部のほうは年に1回、市民プールなどで発表会を行ったりして地域の知名度もそれなりにあり結
構な部員数がいるのだが、競泳部のほうは練習量の割りに弱く大会でも殆ど名を残すことはないので
マイナーの域を離れることが出来ず、部員も引退した三年合わせて10人いるかどうかのものだった。
そんな中、もういい加減に受験勉強を始めなければいけない時期にさしかかっているというのにいま
だに放課後になるとプールに通い続ける引退したはずの三年生がいた。
今日も今日とて学校支給のスク水に身を包み、プールサイドでこきこきと準備体操をしている…居車喬である。


『性戯使徒アユミ〜居車喬』


居車喬は泳ぐのが好きだ。とにかく泳ぐのが好きだ。三度のご飯より泳ぐのが好きだといってもいい。
「ボク、実はお魚の生まれ変わりなんだ」
小学4年の時つい周りにこぼしたこんな与太を、クラスメート全員が信じて疑わなかった。それほど
喬は泳ぐことが大好きだった。
夏休みになれば市民プールに毎日通い、夏休みが明けても市民プールに行った。
おかげで肌の色は年がら年中真っ黒け。親からは女の子なんだからもう少し自重しなさいと何度も言
われたがそんなことは関係ない。むしろ喬にとって日に焼けた肌は勲章だった。
進学先を天童学園に決めたのも、ここが一番施設が整ったプールがあったからである。はっきり言っ
て小学六年中盤での喬の学年レベルでは、天童学園を合格することは限りなく無理なものだったが、
そこは四当五落どころか三当四落ぐらいの猛勉強で、見事天童学園に合格することができたのだ。
そして、泳ぐというより水の中でダンスをするというような水泳部など眼中無しに、喬は弱小を以っ
て知られる競泳部に入ったのだ。
真っ黒な肌と引き締まった四肢。見るからに泳ぎが速そうな喬に競泳部の担任は気色ばんだ。とうと
ううちに救世主が現れた。と。

ところがどっこい。そうはならなかった。
喬は泳ぐのは大好きだったが、『速く泳ぐ』ことはそう得意ではなかったのだ。確かに一般平均より
は速いのではあるが、飛びぬけて速いというわけではないのだ。はっきり言って競泳部員の中に喬よ
り速い人間は何人もいた。それを知った担任の落胆は相当なものだった。
でも、やがて喬は競泳部にはなくてはならない存在になった。確かに泳ぎは速くはないのだが、誰よ
りも楽しく水泳に勤しむ姿は他の人間も見ていて気持ちのよいものだったし、喬本人の裏が全くない
底抜けに明るい性格は敵を誰も作らなかった。

結果、競泳部のムードメーカーとして喬はその位置を確保し、一応平均以上の速さは持っているため
に大会にも顔を出すようになった。
そして、二年の二学期以降は競泳部の主将となり、引退した今でも放課後になるとプール通いを続けているのである。

そして、喬は競泳部元主将という顔のほかにもうひとつの顔を持っていた。
彼女は正義の意思キングジェネラルに選ばれた翔儀天使の一人であり、この世界の平和を乱す異世界
の侵略者の魔の手から仲間と共に戦ってきたのだ。
もっとも、それも先日悪の権化の玉王が滅ぼされ一時的な休業状態になっていた。
このことは喬にとって世界に一時的な平和が来た喜びより、水泳にかける時間がたくさん増えたこと
への喜びのほうが大きかった。なにしろ、玉王がいた時には泳いでいる真っ最中に呼び出しがかかる
こともあったからである。
「喬ちゃん。今日もプールに寄って行くの?」
隣のクラスで同じ翔儀天使である歩美が、着替えを持ってプールに急ごうとする喬に呆れたように話し掛けた。
「私たち、一応受験生なんだから…。いくらここが中高一貫校だといっても、高等部へ行くにはちゃ
んと受験があるんだよ?」
「大丈夫大丈夫!ボクは一夜漬けは得意なんだから、やばい時になったらちゃんと勉強するよ」
さすがに付け焼刃で猛勉強して実際に中学受験を突破しただけはある。喬は訳の分からない自信で胸を張った。
「勉強は夜でも出来るけど、プールに入れる時間は今しかないんだ。ボクは一日でもプールに入れな
いと、もう気分がたまらなくなっちゃうんだからさ」
うずうずと体を震わせる喬は、今すぐにでも話を切り上げてプールに直行したがっているように見える。
ここまでくると、もう立派な中毒だ。
「ねえ、歩美も一緒に行かない?泳ぐのはとっても気持ちいいよ?なんなら、水着も貸してあげるからさ」
果たして彼女は学校に何着も水着を持ってきているのだろうか?
この申し出に、歩美はすこし躊躇いを見せた。
「え……、いいの……?今、プールは競泳部とかが使っているんでしょ?」
この時期のプールはもう一般開放されておらず、部員以外の生徒が使用することは原則として禁止されている。
だから、歩美が入ることは規則上出来ない事になっている。歩美の懸念はもっともなことだ。
だが、喬はあくまでも能天気に笑いながら答えてきた。
「大丈夫大丈夫!それを言うならボクだって本当はもう部員じゃないし、それでも毎日泳ぎに行っているんだから。
いざとなったら元部長権限で通しちゃうから問題なし!」
まあ、確かに喬は部を引退しているから部員ではないといえるが、それにしても酷い屁理屈ではある。
「ねえ、行こうよ。受験勉強ばっかりしていたら気分もどんどん萎えてきちゃうよ?
ちょうどいい気分転換になると思うし。ね?」
ぐいぐいと袖を引っ張る喬に、さすがに歩美は困った顔をしていたが、
「まあ…、ちょっとぐらいならいいかな……」
と、ついつい同意をしてしまった。
「よしっ!じゃあ早速行こう!今行こう!すぐ行こう!!」
意気揚揚と歩美を引っ張りながらプールへと駆けて行く喬の後姿を見ながら、歩美は心の中でほくそ笑んだ。
(まあ、ちょうどいいかもね。今頃、プールでは風子が……)
歩美が浮かべた薄ら黒い笑みは、喬には死角になっていて見えることはなかった。


更衣室で慣れない他人の水着に歩美が難儀し、『先に行ってていい』と言われた喬は一人で先に屋内
プールへと出てきていた。
そこでは多数の競泳部員や水泳部員が、あるものは大会のため、あるものは自己鍛錬のために泳ぎ回っていた。
もう初冬に入り始めているというのに、こうして寒さを気にせず泳ぐことが出来る学園の温水プールを喬はいたく気に入っていた。

ここに来れば寒さも何も気にせずいつまでも泳ぐことが出来るのだ。喬自身は別に寒かろうがどこだ
ろうが泳ぐのだが、流石に雨や雪が降っていたりしては泳いだ後に風邪を引いてしまう。
「あっ、先輩が来たわよ〜〜。みんな寄って〜〜〜!」
後輩の誰かが気がついたのか、喬の顔を見た途端プールの中にいる競泳部員達に声をかけた。
ただ、全部で6コースあるプール内で競泳部に割り当てられているのは半分以下の2コースである。
競泳部の弱小ぶりが見て分かるであろう。ちなみにいる部員はたったの5名だ。
その2コースで練習している部員達が、一斉に片側1コースによりもう片方のコースを丸々空けてしまった。
これは勿論、喬が泳ぐのを邪魔しないためである。
本当ならもう部外者である喬にここまでやる必要はないのだが、大きな大会はもうないのでそれほど
身を粉にして練習に励む必要がないのと、それだけ喬が部員達に慕われていることの証明でもあった。
「みんな、ゴメンね〜〜〜」
入念にストレッチを終えた喬は部員全員に向って頭を下げると、飛び込み台からザブン!と水に飛び込んだ。
綺麗なフォームでクロールを掻き、ぐんぐんと進む喬はさすがに泳ぎ慣れしているだけあって部員達
の目を釘付けにするほどの艶やかさがあった。これでもう少し速ければどっかの有名大学のスカウトが
将来の勧誘に来てもおかしくはないのだが、残念ながら喬にそこまでの速さはなかった。
でも、それも喬にとってはよかったのかもしれない。喬は速くなるために競泳部に入っているのでは
なく、ただ泳ぐのが好きだから競泳部に入っていたのだ。他人より速く泳ぐことを目的にしなければ
ならない大学の競泳は、喬から泳ぐ楽しみを奪っていくに決まっていたろう。
気持ちよく泳いでいる最中、喬はまわりから発せられる憧憬の視線をズバズバと感じていた。
正直、それほど速くもない自分がこうまで注目されると気分がくすぐったくなってくるのだが、ボク
言葉で面倒見がよく、陽気な性格で敵を作らない喬は競泳部のみならず中等部の後輩に絶大な人気を誇っていた。
部活のロッカーや靴棚に同性からのファンレターのみならず、本気のラブレターが入っていたことも一度や二度の出来事ではない。
もっとも、喬自身は同性に恋愛感情を抱くことはなかった(というか、異性にも)ので、そう言った
ものには全部丁寧にお断りを入れていった。
今の喬にとっては、水こそが友人であり恋人だったと言ってよかった。そこに割り込める輩など、いはしなかったのだ。

喬はたちまちのうちに往復50mを泳ぎきり、プールサイドに腰を下ろした。
「あ〜〜っ。やっぱり泳ぐのって気持ちいいな〜〜!」
何度水の中に身体を漬けようが決して飽きることがない。泳いでいると世の中の何もかも忘れ、ただ
ただ水と一体化している自分を感じることが出来る。
「………でも」
ただ、だからと言ってこのままずっと泳ぐのに没頭していくわけにもいかない。
さきほど歩美にも指摘されたが、喬は来年高等部へ進まんとしてる受験生なのだ。もしこのまま天童
学園に残りたいならばしっかりと受験勉強をこなし高等部へ進学しなければならない。
もちろん私学である天童学園にはスポーツ推薦という進学方法もある。だが、主将を務めていたとは
いえたいした成績を持っていない喬にスポーツ推薦での進学は不可能だった。
となると、貴重な時間を割いて勉強に回さなければならない。喬の両親も一応現時点では黙認してい
るが、再来週の模擬テストの成績次第ではプール通いを禁止される可能性もあるのだ。
「…このままじゃ、しばらくおおっぴらに泳げなくなっちゃうかなぁ……」
喬にとって、一日でも泳げないことは筆舌に尽くしがたい苦痛ではあった。が、泳ぎたいがために勉
強をおろそかにして来年からここで泳げなくなるというのは想像すらしたくない。
「泳ぎたいけど、泳いでいると泳げなくなり、泳げなくなるといやだら勉強して、
でもそうするとその間泳げなくて、泳げないと泳ぎたく………」
足を水につけたままプールサイドでじっと固まる喬の頭からプスプスと煙が立ち昇り始めている。元々
物事をあまり深く考えない性分なので、思考の袋小路に入ると頭の回線がショートしやすい性質なのだ。


ボン!

そして、遂に喬の頭が大噴火を起こした。
「あーーっ!!もう、後のことは後で考える!今は泳いで何もかも忘れるんだ!」
もはやにっちもさっちもいかなくなり、遂に逆切れした喬はそのままプールから上がって飛び込み台の方に
進むと、何も考えずに頭からドブン!と飛び込みメチャクチャに進みだした。
(今は何も考えたくない!泳いで泳いで泳ぎまくって、泳ぐだけしか感じなくするんだ!)
多分に現実逃避的な考えだが、追い詰められて視野狭窄になった喬にはこれしか取り合えずの気を休める方法が思いつかなかった。
そして、周りを全然気にできなかったからこそ喬は気づかなかった。
さっき、競泳部と水泳部あわせて20人以上いたプールに入っている人間が、ただの一人も水面から顔を上げていなかったことに。

何か心にむしゃくしゃした気持ちを残したまま、喬はただがむしゃらに前へ前へと泳ぎ続けた。
(なんだろ…全然楽しくない……)
泳げばこの鬱屈した気分も晴れると思ったのだが、むしろ泳げば泳ぐほど心の中に『泳げなくなる』
という気持ちがめらめらと燃えあがってきて喬の心にますます暗い影を落としていく。
(こんな気分で、ボクは泳ぎたくないのに……?!)

ガッ!

何か無性に腹が立ちながら、それでもザバザバと泳ぐ喬の脚が何者かに掴まれたのはその瞬間だった。
「うわガボッ!!」
突然脚を掴まれたため、喬はビィン!と脚の筋を伸ばしてしまいその場につんのめってしまった。
そして、脚を掴んだ何かはそのまま喬の体を水面下へと引きずり込んできた。
(うわ〜〜〜っ!だ、誰だこんないたずらをするの〜〜〜〜っ!!)
息を吸い込む暇もなく水の中に引っ張り込まれたので、喬は憤慨しながら犯人を見ようとした。
が、その暇もなく今度は喬は勢いよく今まで泳いできたほうとは逆方向に引っ張られ始めた。
(ム、ムググ〜〜〜〜っ!!)
その速さたるや、喬が水面で泳ぐスピードより明らかに速く、水の抵抗などお構い無しに喬の体はぐ
いぐいとなすがままに引っ張られ続けている。
(こ、こんなに水中を速く泳げる子っていたっけ?!)
いや、ただ泳いでいるわけではない。『喬の脚を掴みながら、喬より速いスピードで泳いでる』のである。
そんなことは普通に考えても中学生で出来ることではない。
だが今の喬にそんなことを考える余裕はない。なにしろ自分の命の危機なのだから。
喬を引っ張るもののスピードは全く緩むことなく。もはやコースを無視してプールいっぱいに喬の体
を引っ掻き回し続けている。しかも全く水面に上がることなく。
このままでは冗談抜きで溺死してしまいかねない。
(ダ、ダメだ!なんとかしなきゃ、なんとかしなきゃボク死んじゃう!)
息苦しさと水圧で歪む喬の視界に、水面に浮かぶコースロープが僅かながら入ってきた。
(!アレを掴めば!)
正直、物凄い勢いで引っ張られているので腕を動かすのも、ましてや物を掴むなんてことは相当な困難が伴うことだ。
だが、それをしなければ死んでしまう。できなかったら喬は死ぬのだ。
(やるしか、ない!)
喬は懸命に手を動かし、迫ってきたコースロープに手を伸ばし…思いっきり手を弾かれた。
喬の振り回される速度が速すぎて掴みきれなかったのだ。

(うわっ!ま、まだだ!あきらめるものかぁ!!)
幸い喬は今プールを横断するような方向で進んでいる。すぐに次のロープが控えているのだ。
だが、これを過ぎたら暫くロープはない。競泳部が借りているコースは2コースだけであり、ロープは2本しか使ってないからだ。
(今度は…、しくじるものか!!)
喬が今度こそはと渾身の力をこめて伸ばした右手は…、水面に浮かぶコースロープをしっかりと握り締めていた。
(やった…うわっ!)
ロープを掴めたことで歓声を心の中であげた喬だったが、その次の瞬間物凄い力が掴まれている脚にかかった。
考えてみれば、むこうは喬が止まることなど想定していないのだ。喬の止まろうとする力と掴んでい
るものの引っ張ろうとする力が喬の脚にかかり、まるで千切れそうな激痛が喬の脚を襲っていた。
(うわぁぁぁっ!!い、いたぁい!!)
骨が抜けてしまいそうな痛みに、喬は思わずロープを掴んだ手を離そうとしてしまった。そうすれば、
少なくとも脚の痛みは消え去る。
が、それをしてしまってはおしまいだ。痛みはなくなるが自分が痛みも苦しみもない世界に行ってしまっては意味がない。
(うぎぎぎ〜〜〜っ!負けるものかぁ〜〜〜!)
喬は右腕に必死に力をこめ、なんとか顔を水面から上げようとした。まずはなによりも新鮮な空気を
吸わないとこれ以上もちそうにない。
そして、ぐいぐいと引っ張る力に全力で抗い…、とうとう喬は水の中から顔を出すことが出来た。
「プハーッ!ハアッハアッハアァッ…!!」
喬は待ちに待った空気を思い切り吸い込むと、残った左手も何とかロープを掴みまた引きずり込まれ
ないようにとぐるぐる巻きつけた。
喬の体がびくとも動かなくなったからか、やがて引っ張るほうも力を緩めてしまった。
「ハアーッ、ハアーッ、ハアーッ…!!
だ、だれだこんなことする奴は!絶対に許さないぞ!!」
まだ呼吸が落ち着かないまま、喬は水中にいる犯人に激しい怒りをぶつけた。もう後輩だろうとなん
だろうと関係ない。徹底的にボコらなければ気がすまなかった。
「ホラ、もう観念して水から出てこ………?!」
いまだに自分を掴んでいる手に向って喬は怒鳴ろうとして…絶句した。

喬を掴んでいるのは手ではなかった。
喬の足首には、桃色と紫色をあわせてマーブル模様にしたような奇怪な肉触手が絡み付いており、プ
ールの中をうねうねと長く伸びていたのだ。
「な、なに。これ……」
つい今まで燃えあがっていた怒りの気持ちなど一瞬で吹き飛び、喬は触手の根元がどこにあるのか目で追ってみた。
それはプールの中をつらつらと、水泳部側のプールサイドまで延びており、そこには触手と同じ色を
した肉色の固まりが、プールの中に沈んでいた。
「だ、誰だ?!お前は何者なんだ!!」
多少の怯えを含んだ今日の叫びに反応したのか、肉隗がざばりと水面に浮かんできた。
「えっ……?!」
水から上がってきたその姿を見て喬は驚愕した。
その顔は間違いなく、競泳部の後輩の一人であり自分の後に部長となった林葉直美だったからだ。
ただ、その姿形は確かに直美のものではあるのだが、細部に相当な違いが見られる。
直美の全身は喬を掴む触手と同じ紫とピンクのマーブルに彩られ、腕はぶよぶよの触手状に変化して
十数メートルの長さに伸び、喬の脚を拘束している。
「うふふ……せんぱぁい……」


直美が淫欲に囚われただらしない笑みを浮かべ、喬を悩ましい視線で見つめている。べろんと伸びた
舌は毒々しい紫色に染まり、別の生き物のように蠢いている。
その姿は、どう見ても人間のものではなかった。
「あ、ああ…。ど、どうしたんだ林葉ぁ……。その、すがた……」
喬はロープに捕まりながら震える声で語りかけた。考えてみれば、喬も翔儀天使として異形の化物と
は何度も戦った経験があるし、これ以上の見た目化物な相手とも組み合ったことがある。
だが、今目の前にいる林葉直美はそんなものとはまったく別の違和感と恐怖心を喬に与えていた。
なにしろ、全く見たことのない化物と対峙しているのではなく、自分が良く知っている人間が化物に
なって自分を捕まえているのだ。恐ろしくないわけがない。
「せんぱぁい…。何をそんなに恐がっているんですかぁ……?ああ、私のこの姿ですかぁ……?
どうです?素晴らしいと思いませんか?玉王様の肉人形である、この私の姿……」
「玉王ぅ?!」
聞きなれた、そして決して聞きたくない単語に喬は目を見開いた。
確か玉王は歩美の目の前で爆散して果てたはずだ。それが、なぜ。
「玉王だって?!林葉、キミは玉王に……?」
「はい〜。玉王様じきじきではありませんが、玉王様の偉大な力をこの身に受けて素晴らしい体に
生まれ変わらせていただいたんですよぉ……」
直美は自分の体を愛しそうにくねらせ、喬に見せ付けるように動かした。それは自分が玉王の肉人形
になったことを心底悦んでいるように見える。
「く、くそっ!玉王め、生きていたのか!だったら今度こそ容赦しないぞ!」
玉王本人がどこにいるか分からないが、とにかくまずは目の前の直美をどうにかしなければならない。
あそこまで変化しきった肉人形を元に戻せるかは分からないが、翔儀天使の聖なる力を注ぎ込めば
これ以上事態が悪化することは避けられるだろう。
「はあぁぁっ!!」
気合の雄叫びを込めた喬の体が聖なる光に覆われ始めている。その身に込められた力を開放し、翔儀
天使に変身しようとしているのだ。だが、

ビュルン!

喬の後ろから突然別の触手が現れ、喬の首に巻きついてきたのだ。
「?!ぐはっ!!」
突然息が詰まってしまい、集中心が失われた喬の体からフウッと光が拡散していく。変身しかけた体
は再びただのスク水少女へと戻ってしまった。
「ううぅ…はなせ林葉!ボ、ボクはキミを助けようと……」
「なぁ〜に言ってるんですか先輩?私は何もしていませんよ〜〜〜」
「なに……?」
ケラケラと笑う直美の横からまた何かが競りあがってきた。
それは直美と同じ格好をした別の肉人形で、その延びた腕触手は喬の首に巻きついているものだった。
そしてその肉人形の顔は、さっき喬が来たからプールをあけるように言った競泳部の後輩だった。
しかも、肉人形はそれだけではなかった。
「くすくす……」
「うふふふ……」
「きゃはははは……」
喬を中心にして、プールのいたることろからざばり、ざばりと肉人形が顔を出してくる。
それは10体ではきかずさらに数を増し、喬を中心として30体はあろうかという数にまでなり、
いずれもがマーブル模様の体をして水面から腕触手をバチャバチャと跳ね上げていた。

「な、なんだって……」
その数の多さに喬は身を凍らせ、次にその数について恐ろしい推測が浮かんだ。
競泳部の部員数は三年生が抜けた時点で5人。隣の水泳部は20人超といったところだ。
つまり、さっきこのプールにいた競泳部員、水泳部員の全てが玉王の肉人形に変化していたと考えられるのだ。
「ど、どいうことなんだよこれ…。なんでみんな、肉人形に……」
喬には目の前に起こった事が信じられなかった。ついさっきまで、皆で仲良く泳いでいたのに。
泳ぐことが大好きで集まった仲間といたと思っていたのに、その全てが人ならざるものに変わっていたなんて。
「あはぁぁ…、先輩の体おいしそぉ……」
「先輩も、私たちと一緒になりましょうよぉ…」
喬を物欲しげに見ていた一体の肉人形の腕触手が水飛沫を上げて跳ね飛び、喬の右腕に絡まってきた。
それを拍子に、喬の周りに腕触手がわらわらと飛び交い喬の体を拘束していった。
「うわぁぁーーーっ!!やめろぉーーーーっ!!」
喬は何とか触手から逃れようと体を捩ったが、すでに右足と右腕を捕られているので効果はなく、
たちまちのうちにその全身を触手に絡め捕られてしまった。
「くそぉーっ!離せ……ひゃぁっ!!」
ほぼ身動きできなくなった体で何とか抵抗しようともがいていた喬から突然搾るような悲鳴が上がった。
絡まってきた触手の一本が、喬の股の間に入り込み下腹部をすりすりと擦ってきたのだ。
「バ、バカやめろーっ!変なところ触るな…あひぃっ!」
喬が止めさせようと怒鳴っても、それを聞く前にまたすりすりと動く。
しかもそれだけに終わることなく、ある触手は腋の下をぐりぐりと、またある触手は臍の辺りをぐにぐにと
ある触手は足の下をこちょこちょと、まるで喬の体を嬲るようにいじくりまわした。
そして動くたびに粘液がぐちょぐちょと喬のスク水を濡らし、喬の皮膚や粘膜に染みこんでいく。
その粘液は、喬にぴりぴりとした痛痒感と共に玉王の力までも送り込んできた。
「ひゃふっ!あうぅ!!や、やだやめぇぇ〜〜〜〜っ!!」
もどかしさとむず痒さとくすぐったさが同時に襲ってきて、喬は笑っているのか苦しがっているのか
自分でもよくわからなくなってきていた。
喬だって年頃の女の子だから、性に関することにそれなりに関心はあるし自慰だって人目を忍んでしたこともある。
だが、喬には水泳というそれ以上に興味があることがあったので同年代の子よりそちらに対しては淡白であった。
だから、この全身をくまなく襲う快感は過去に全く経験しことがなかったものだった。それだけに、
それから逃れる術を喬は持っていなかった。
全身に纏わりつく触手が与えてくる快楽を、喬の体はそのまま全身で感じ全てを神経を通して脳へ送り届けていた。
そして、快楽と共に送り込まれる玉王の力は確実に喬の思考を狂わせていっていた。
「ひぃやあぁっ!ボ、ボクおかしくなっちゃう!こんなことされたら、変になっちゃうよぉ〜〜っ!」
もう変身しようとか逃げ出そうとかいうことを考えることすら出来なかった。
喬の頭は次々に流れ込んでくる快感で飽和状態になり、それ以外の思考をすべて奪ってしまっていた。
(乳首をくりくりされるのが気持ちいい。お股をごしごしされるのが気持ちいい…)
(腋をちゅるちゅるされるのが気持ちいい!お口でちゅぽちゅぽするのが気持ちいい!!)
肉触手から与えられる快感に喬の顔はとろんと蕩け、最初の頃はさんざんに嫌がっていた触手に
次第に自分から求めるようになってきていた。
目の前でゆらゆらしている触手に手を伸ばし、水と粘液で濡れた手でにゅるにゅると扱き、口に含ん
でちゅうちゅうと吸い、くちゅくちゅと舐と触手から分泌されているのか甘ったるい味が口一杯に広がっていく。
それだけで気持ちが異様に昂ぶり、もっともっと触手を味わいたいと心の奥が求めてくる。
(もっと欲しい!もっと欲しい!!もっともっともっともっとぉ!!)
これ以上体で触手を感じたいならば、帰結するところは決まっている。
普通なら、そこを一番最初にこんな触手のために使うのには躊躇いが出るだろう。喬だって、自分が
そこを初めて使うのは、自分に本当に好きな人間ができた時だと心に決めていた。

だが、触手のもたらす快楽に完全に心が支配されてしまった喬にそれを思い出すことは出来なかった。
(あそこを使えば……もっと気持ちよくなれる!)
喬は躊躇うことなくナイロン製のスク水の股下をめくり、自分のサーモンピンクの穴を露出させた。
冷たい水に火照った陰唇が直接あたって最高に気持ちいいが、喬が求めている快楽はそんなものではない。
「い、入れて!ボクの中にそのぶっとい触手を入れてぇ!誰でもいいから触手挿してぇ!
ズボズボって挿してガンガン突いてぇ!!ボクをもっともっと気持ちよくさせてよぉぉ!!」
触手が絡まった腕で秘部を左右に広げ緩んだ顔でおねだりをする姿は、普段の快活な喬からは想像も
できないほど卑猥でいやらしいものだった。
そんな喬の願いを聞き届けたのか、プールの中を喬の腰目掛けしゅるしゅると延びてきた触手があった。
「あっ!あっ!!来て。来て来て!ボクの中にぶっすりして!
腰が抜けるほどガンガン突いて、ボクの頭バカになるくらい気持ちよくしてぇ!」
自分の股下にゆるゆると迫って来る触手を、喬は獣欲に興奮しきった瞳でじぃっと見つめていた。こ
れが自分に刺さったら、どれだけ気持ちいい思いが出来るのだろう。
処女を失うとか、化物に犯されるとか、そんなことは喬には考慮の外だった。
とにかく全身で触手を受け入れ、触手で全身を外も内も嬲られたい。そんな破滅的な欲望に支配されていた。
喬に寄ってきた触手が、喬の下の口にチュッと触れた。
「ひゃあぁっ!!」
それだけで、喬の腰には刺すような鋭い快感が走り、あまりの心地よさに一瞬気が遠くなってしまった。
(ち、ちょっと触っただけでこんなに気持ちいいなんて!これで挿れられたりしたら、ボク狂っちゃうかも!)
でも、それに対する恐怖はない。むしろ狂いたい。おかしくなりたい。よけいな思考なんかすべて無
くしてしまって、ただ獣のように快感だけを感じてセックスしたい。
喬としては、ここで一気に触手が自分を貫いて肉の感触を味わえると期待していた。
が、触手は喬の秘部をぐりぐりと擦るだけでなかなか入ろうとしてこない。
「な、なんでぇ?!なんで犯してくれないのぉ〜〜っ?!」
ここまで来ての焦らしに、喬の心の昂ぶりはどんどんと高まっていく。
「はやくぅーっ!はやく挿れてぇーっ!いじわるしないで、一思いにボクを犯してぇーっ!」
喬は泣き叫びながらなかなか入ろうとしない触手を鷲掴みにし、自分から手を取って膣内に押し込もうとした。
ズニュウゥとした圧迫感が膣口に走り、喬の中を押し広げていく。
「うあーっ!凄い!気持ちいい〜〜〜っ!触手きもちよすぎる〜〜〜っ!」
自分からズルズルと触手を入れていく快感に、喬の理性はどろどろに崩れていっていた。
が、ある程度挿した時点で触手は先へと進まなくなった。それ以上は先が非常に狭くなっており触手の侵入を阻んでいる。
「う〜〜っ!うぅ〜〜っ!もっと、もっとぉ〜〜〜っ!!」
喬は触手の侵入を邪魔する処女膜を破らんと、触手を持つ手にさらに力を込めた。これを破らない限り
子宮の奥の奥まで触手で埋めることが叶わないからだ。
ぎりぎりと力を入れ触手を押し込むことで、膣の奥からみちみちという肉が裂ける音が感じられる。プ
ールの水の中に下腹部から出てきた血がうっすらと混じり始め、赤色の糸を伸ばしている。
「も、もう少し。もうすこしいぃぃっ!!」
痛みとも歓喜ともつかない表情で、喬はその瞬間を心待ちにしていた。あと少し力を入れれば、自分の
邪魔な処女膜は破れ、この体を触手に委ねることが出来る。
その一突きを、今正にしようとした時、

「そこまでよ」

プールサイドから聞こえたその声に反応したのか、喬の手の中の触手はちゅるりと音を立てて喬の中から出ていってしまった。
「ああっ?!
誰だ!ボクの気持ちいい思いの邪魔をした奴は!絶対に許さない……」

その様に絶望に似た悲鳴を上げた喬は、自分の快楽を邪魔したプールサイドの声の主を憎悪の目で睨みつけた。
が、その顔を見た瞬間その声は急速に力を失っていった。
「何言ってるのよ喬ちゃん…。ていうか喬ちゃん、それどうしたの…?」
プールサイドに立っていたのは、着替えがすまないので遅れてきた歩美だった。歩美は触手に絡め捕
られても抵抗せず、全身を赤く火照らせ歓喜の笑みを浮かべていた喬を呆然と見ている。
「あ…歩美ぃ……?!」
歩美の姿を見て、喬の淫欲に支配され光を失っていた瞳にみるみる光が戻り、触手からもたらされた
快感に蕩けていた理性が戻ってくる。翔儀天使という立場にありながら、玉王の肉人形にいいように
嬲られた挙句、それから与えられる快楽に溺れ処女すら捧げようとしていたはしたない自分が非常に情けなく思えてくる。
「あ…歩美!きちゃダメだ!早く逃げろ!!」
正気を取り戻した喬は、肉人形の巣窟になった室内プールから歩美に逃げるよう指示した。
たった二人でで20体以上いる肉人形を相手にするのはさすがに少し骨が折れる。しかも、自分は捕ま
った状態であり全く戦力にはならない。
「早く逃げて、先輩やみんなを呼んで!!このプールは今、玉王の肉人形でいっぱいなんだ!!」
ここは自分が囮になって、その間に他の翔儀天使を全員集めるほうがいい。鶴花先輩や琴ちゃんは肉人
形になった人間を元に戻すのが得意な能力を持っている。自分以外の全員で当れば、肉人形になった
皆を元に戻すことはすぐに出来るだろう。
ただ、その間自分は間違いなく肉人形達に犯される。前の穴も後ろの穴も犯され、皆がつく頃には壊
れてしまっているかもしれない。
でも、ここまで来たらそれ以外に選択肢はない。いくら歩美でもたった一人で自分を助け出すことは
絶対に不可能だからだ。むしろ、ミイラ取りがミイラになりかねない。
だから喬は歩美に逃げろといった。が、歩美はその場に留まっていた。
「そんな…。私、喬ちゃんをおいて出て行くことなんて、出来ないよ……」
「出来なくてもなにも!このままじゃ歩美まで肉人形の餌食にされちゃう!ボクのことはどうでもい
いから、はやくここから出て皆を呼んできて!!はやくぅ!!」
喬は金切り声を上げて歩美に出て行くよう促した。が、歩美はやはり動こうとしない。
「出来ないよ。出来るわけないじゃない!だって、だってそんなことをしたら……」

喬ちゃんを餌食に出来ないじゃないの

「え……?」
後半の声を、喬はよく聞き取れなかった。いや、聞いてはいるがそれを理解したくはなかった。
理解したくはなかったが、理解せざるをえなかった。
(そう言えば…、触手に『そこまで』って言った声、歩美の声にそっくりだった…)
「せっかく喬ちゃんが自ら罠に飛び込んできたんですもの。私だけここから離れるなんて勿体無さ過ぎるよ…」
喬の見ている前で歩美は性戯使徒の本性を表した。燃えるような赤い髪と瞳が着ているスク水に妙に
マッチしている。
口元からは自慢の舌触手がにゅるにゅると伸びて、別の意思を持っているかのように歩美の口元でぐにぐにと蠢いている。
「あ、歩美ぃ…。なん なの、そのすがた…」
「うふふ、ごめんね喬ちゃん。私、ずっと前から玉王様の下僕になっていたんだよ。人間の生気を吸い
取って自分の力にし、肉人形にして操る力を持つ素晴らしい性戯使徒にね……」
舌触手を揺らめかせながら喬に向ける歩美の微笑みは、喬が知っている元気一杯の歩美からは想像も
出来ないほど淫靡で禍々しいものだった。
「性戯、使徒……?!玉王の下僕…?!な、何言ってるんだよ歩美…、ボクたち天使だろ?
この世界を悪から守るために選ばれた、翔儀天使じゃないか……。そうだろぉ?」
喬は引きつり笑いを浮かべながら歩美に話し掛けたが、歩美は首を横にふるふると振った。

「違うよ。私は性戯使徒。下らない天使という蛹を破り、生まれ成った私の本当の姿。
使徒になって私はやっとわかったの。天使の、人間の愚かさと玉王様の素晴らしさが…
喬ちゃんだってわかったでしょ、玉王様の素晴らしさが。だって今までずっと、玉王様の御力を持った
肉人形に嬲られて、ヒィヒィよがっていたんだから…」
「あっ…」
図星をつかれ、喬はカァッと顔が赤くなった。
「本当は、もっと早く出てきたかったんだけれど、喬ちゃんがあんまりにもいやらしいものだから、
物陰からこっそりと覗いていたんだ…。ホント、喬ちゃんったら翔儀天使とは思えないくらい好き者
なんだから…。見ているだけで濡れてきちゃったよぉ……」
太腿をもじもじさせている歩美のスク水は、よく見ると股間のところがべったりと黒く濡れており、
粘液が糸を引いて垂れてきている。もともと性欲に餓えている性戯使徒の歩美にとって、さっきの喬
の乱れ具合は最高のオカズだったのだろう。
「肉人形達の触手で全身を粘液塗れにして、いやらしく音を立てて口に含みながら、手はおまんこを
ぐちゅぐちゅと弄って…。本当、すごかったよねぇ…
喬ちゃんも素質あるよ。いやらしくて淫らで残忍で、人を食べて悦ぶ性戯使徒の素質がね!」
「ち、ちがう!ボクは天使だ!翔儀天使だぁ!!玉王の使徒なんかじゃない!!」
喬は金切り声を上げて歩美の言い分に反論した。必要以上にムキになったのは、心のどこかで歩美の
言っていることを認めてしまうようなおぞましい自分の存在を察知したからだ。
だが、歩美はそんな虚勢を張る喬を鼻で笑った。
「なぁ〜に言ってるのよ!触手に巻かれて悦んで、自分のまんこに自分で触手突っ込もうとする天使が
どこにいるのよ!もう喬ちゃんの体には隅から隅まで玉王様の御力が染み込んでいっているのよ!
もう喬ちゃんの体は玉王様のものになっちゃってるんだ。玉王様には逆らえない体になってるんだよ!」
「ひぃっ?!」
歩美から絶望的な現実を突きつけられ、喬は絶望で顔を強張らせた。
歩美は喬の心の中にある、玉王を崇め奉る喬の存在を察知していたのだ。
「そ、そんなことない!ボクは、ボクはぁ……」
「もう、いい加減認めちゃいなさいよ。玉王様の御力を注ぎ込まれて抵抗できた人間はいないんだから。
ほら、みんなだって喬ちゃんが仲間になるのを待っているんだからさ!」
ニィィと笑った歩美が手を振った瞬間、喬のすぐ前の水面からなにかがぬぬぬっと競りあがってきた。
「やっほー。喬さぁん」
水の中から浮かび上がってきたのは、歩美と同じく緋色の髪と瞳をした歩美の妹、風子だった。
「ふ、風子ちゃん?!」
不気味にクスクスと笑う風子を見て反射的に飛びのこうとした喬だったが、不意に後ろからがっちりと肩を羽交い絞めにされてしまった。
「ふふふ…風子だけじゃない。私もだ」
喬の耳元から聞こえた声は、間違いなく先輩の龍華のものだった。もっとも、その声は毅然としていた
龍華からはそう想像できないほど気だるく、首筋から流れ落ちている龍華の髪はやはり真っ赤な色をしている。
「り、龍華先輩…。あの龍華先輩まで、使徒に……」
「さっき言ったじゃない。『私だけ』ここから離れるなんて勿体無いって。
本当は圭ちゃんもいるんだけど、圭ちゃんには今ここに人間が入らないようにして外に出てもらっているんだ」
「圭ちゃん、まで……?!」
歩美がさりげなく言った言葉は、喬に非常な驚きをもたらしていた。
歩美、圭、龍華の翔儀天使3人。そして風子をあわせて4人がいつの間にか玉王の下僕に変えられていた。
正に、青天の霹靂といえる事態であろう。
「喬さん…。喬さんの体、なんておいしそうなのぉ……」
風子が喬の下半身を舌なめずりしながら見ている。触手に巻かれ、水面から強引に浮かび上がらされた
喬の下腹部は、さっきまでの愛撫によりどろどろに濡れている。

「フフッ、喬ちゃん。風子はね、圭ちゃんと龍華先輩を使徒にする時生気を吸えなかったから、喬ちゃん
を使徒にする時は絶対に吸わせてくれって私に懇願してきたのよ。
だから、さっき喬ちゃんが自分で自分を犯そうとしたとき、待ったをかけたってわけ」
「そうしないと、喬さんの処女の生気を吸う事が出来ませんからね。お姉ちゃんも圭さんも吸えたのに
私が吸えないなんて不公平ですもの」
風子の舌触手がもの欲しそうにパクパクと口動かしている。
「私だって、喬の生気が欲しくて欲しくてずっとここにいたんだからな。まあ、辛抱できなくて風子と
一緒にここにいた人間全ての生気を吸って肉人形にしてしまったわけだが……
面白かったぞ。私がちょっと淫気を発したら、全ての人間がたちまち肉に溺れ、列をなして私に犯されるのを待ったのだからな」
龍華はまるで自慢するかのように喬に水泳部、競泳部の部員全てを餌食にしたことを語った。そこに
は人間的な気持ちの部分は全く感じ取れない。
「さあ、喬さんも素晴らしい世界を見てみましょう。玉王様を讃え、人間を弄んで愉しむ使徒の世界を」
風子の舌触手が喬にぬるぬると寄ってくる。ある程度正気を取り戻しているとはいえ、淫気に爛れた
喬の目には、それがたまらなく魅力的なものに見えてくる。
「あ、あぁ……」
外に聞こえるのかと思うくらいの音で、喬はゴクリと喉を鳴らした。さっき自分が入れようとした触手より
アレを入れたほうがよっぽど気持ちいいのが見て取れる。
(ああ…、入れて欲しい。入れてもらいた…。ダ、ダメだ!ボクは、ボクは人間だ!人間なんだ!!)
だが、それをすんなり受け入れるほど喬の理性は崩壊してはいなかった。アレを入れてしまったら間
違いなく自分は人間を止めてしまうだろう。それほどの快楽が体を侵しぬいてしまうだろう。
入れて欲しいとも欲しくないとも答えられずえぐえぐと泣く喬を見て、スク水をまくり今にも突っ込
もうとしていた風子は舌触手の動きを止め、喬を上目遣いに見た。
「どうしました喬さん。これを入れて欲しいんじゃないですか?
入れてください。犯してくださいって言ってくれたら、気が済むまでこれをぶっ挿してあげますよぉ?」
本当は風子もすぐに挿したいのだが、泣きじゃくる喬を見て嗜虐心が湧いたのか舌触手を喬の膣口に
触れるか触れないかのところで止め、軽くつんつんと小突いてくる。
「ひゃああぁっ!!や、やだぁ〜〜っ!気持ちいいけど嫌だぁ〜〜っ!!
ボクは、ボクは天使だ。人間なんだぁ〜〜っ!!気持ちよくなりた、なりたくなんかないぃ〜〜〜っ!!」
もう体はおろか心も屈服しかけているにも拘らず、喬は頑なに触手を拒み続けた。ここまで抵抗をして
これたのはただ一つ『自分は人間だ』という思いからだった。
だからこそ、そこを突いていけば崩壊は早いものだった。
「どうして?どうして人間にこだわるんですか?使徒に成ればこんなに気持ちよくなれるのに。
毎日毎日、欲望のままに暮らせるというのに……。勉強なんか、しなくても済むのに……」
「べ、べん きょ……」
この言葉に、喬はビクッと反応した。勉強がしなくてもいい。しなくてもいい?!
「おいおい、使徒に成ったら人間の理なんか関係ないだろうが。お前も使徒に成れば、毎日いつでも
水の中に篭ることが出来るようになる。勉強なんか気にせず、永遠にな…」
「え、永遠に、泳げる……?!ボクが、ずっと……」
それまで懸命に抗ってきた喬の瞳に、極めて危険な光が宿った。それほど龍華が語ったことは喬には魅力的なものだった。
「そうだ。文句を言う人間なんか肉人形にしてもいいし殺してもいい。お前は誰にも邪魔されることなく
いつまでもいつまでも泳ぎ続けることだって出来るようになるんだ。使途に成ればな」
「お、泳ぐ…、泳ぐぅ……。永遠に、永遠にぃ……」
そんなことは想像もしなかった。確かに今のままでは自分は勉強か水泳かの二択を迫られることになる。
だが、使徒に成ってしまえば勉強なんかしなくてもいい。いつまでもずっと、好きな水泳をし続けていられるのだ。
「さあ喬さん、どうします?使徒に成りたいですか?それとも、人間でいたいですか?」
その問いかけに、さっきまでの喬なら迷わず後者を選んだであろう。さっきまでなら。

だが喬はさっき自らが悩んでいた答えを見つけてしまった。勉強をとるか水泳をとるか。将来と趣味の狭間で揺れた
喬の心は、人間としての『将来』を捨てるという選択を取ることで、永遠に『趣味』の世界に生きるという道を開いてしまった。
「……して」
もう、喬の心に迷いはない。
「して!犯して!ボクを風子の触手で犯して!そして玉王の…ううん、玉王様の力をたっぷりと注いで!
そしてボクを使徒に生まれ変わらせて!いつまでも泳ぎ続けることの出来る使徒に成らせて!!」
喬は両手を太腿に回すと、風子の目の前で太腿をがばりと開いた。風子の目の前に左右に引っ張られ
うっすらと開いた陰唇が、熱く潤みながら奥から愛液をどぼどぼと吐き出している。
その瞳は決意に熱く輝いていたが、理性の光は完全に失われていた。
「フ、フフフ!そうよ喬さんそれでいいのよ!いいわ、約束どおりたっぷりと犯してあげる!!」
ついに喬から堕落の言葉を聞いた風子は満面に黒い笑みを浮かべると、膣口目掛け舌触手をぶっすりと刺し貫いた。
ビチビチィッと処女膜が破られる感触が喬の神経を流れるが、それを喬は痛みではなく腰が抜けるような快感に捉えていた。
「うあーーっ!!ボクの、ボクの処女膜ぶち抜いて風子ちゃんの触手がぁーっ!き、気持ちいいぃーーっ!!」
それまで肉人形に散々責められ、二人の使徒からは焦らされた挙句の果ての処女喪失に、喬は壊れんば
かりの嬌声を上げ風子の触手の感触に酔った。
一方、風子もようやっと味わうことが出来た翔儀天使の生気に顔を興奮で真っ赤に染めていた。
「あっあっ!喬さんの生気、すっごいおいしい!やっぱ人間と天使じゃ味が全然違うよ!!さいこぉ〜〜っ!」
風子はよっぽど喬の味がお気に召したのか、口を陰唇とピッタリ密着させて舌触手全部を喬の膣の中に収め
口をもごもごと動かしながら子宮の隅まで味わい、しゃぶり、舐り、吸っていた。
そして、舌触手が動くたびに喬も体をビクビクと震わせてその快感を味わっていた。
「ああーっ!風子ちゃん、もっと触手動かして!ボクの中を蹂躙して………?!」
霞む瞳に嬉し涙を浮かべ風子の為すがままにされている喬のお尻に、なにかぴとりと触れるものがあった。
「ふふ…。二人がそんなに乱れた姿を見ていたら…、私も我慢できなくなってしまったよ……」
喬の後ろから熱に浮かされたような笑みを浮かべた龍華が、股間から隆々と起立した陰核触手を喬の肛門に
あてがい、くりくりと弄繰り回している。
「喬、私も自慢の剣でお前の中をかき回してやるよ。前と後ろからお前に、玉王様の御力を注いでやる…」
「あぁ…、先輩も私に御力をくれるんだね?!ちょうだい、ちょうだい!!玉王様の御力、もっとボクに頂戴!」
「言われなくてもくれてやる!そぅら!」
龍華は壊れた笑みを浮かべる喬に、容赦なく陰核触手を突き刺してきた。ピッ!と何かが裂けた様な音がしたが
構わず龍華はずぶずぶと触手を埋め込み、根元までずっぷしと入れてしまった。
「あひぃぃ〜っ!せ、先輩の触手もすっごく熱いぃ〜〜っ!!お、お腹が火傷しちゃうよぉ〜〜っ!」
「う、うおぉっ!これが天使の生気か!!な、なんという心地よさか!体が力で満ち溢れてくるぞ!」
まるで串刺しのようにされた喬だったが、すでに玉王のエキスで人間の体ではなりかりかけている喬の
体はなんなく龍華を受け入れ、凄絶なまでの快楽に変換していた。
一方龍華の方も、風子と同じくはじめて味わう天使の生気に正体を無くし、欲望の赴くままに喬の腰を
掴みながらずぷずぷと抽送を繰り返していた。
「あぁん!喬さんの体最高!いつまでも犯していたいよぉ〜〜っ!」
「前も、後ろも気持ちいいぃ!ボク、ボクもうダメになっちゃう!あぐぅーーっ!!」
「ふんっ!ふんっ!!こ、腰が止まらないぞぉ〜っ!!」
三者三様、快楽を求めるままにグチャグチャに乱れる中、事を見守っていた歩美がプールの中に入ってきて
前後を挟まれてアヘ顔を晒す喬の顔を両手で掴んだ。
「さて、お楽しみの所悪いけれどそろそろこっちもいただかせてもらうね」
くわっと開いた歩美の口から、舌触手がにゅるにゅると伸びて喬の口元へと伸びていく。
「この舌触手で喬ちゃんの天使の力を貰うわ。喬ちゃんの力を吸う事で、また一歩玉王様の復活が近づくことになるのよ」
涎が流れて半開きになった喬の口に、歩美の触手がずぶずぶと潜り込んでいく。

「んぶっ…、ぶうぅん……」
歩美の触手を通じて自分の中から天使の力が吸われる様を、喬は力なく見つめていた。それと同時に
喬の体内には痺れる様な快感と共に天使を使徒に成らせる玉王の力が入り込んでいっているのだが、
それまでに散々犯し嬲られた喬に、それにまで反応するような気力はもう。残ってはいなかった。
「んぐっ、んぐっ……。あふわぁ…、きもひいいぃ………」
上と下の口、そしてお尻を貫かれている喬はもう完全に脱力し、虚ろな笑みを浮かべたまま歩美、風子、龍華
の動きにただ身を委ね、糸の切れた操り人形のように体を揺らしていた。
「うふふっ!もう身も心も蕩けてしまったみたいね。龍華先輩、風子、そろそろ喬ちゃんの中へぶち撒けちゃいましょうね!」
「うん!うん!!私出すよ!出しちゃうよ!喬ちゃんの膣内に、出しちゃんだよぉ!」
「ああっ!喬、受け取れ!私の熱い滾りを!お、おおぅーっ!!」

ドピュ!ドピュピュピュピュゥ!!
ドクンッ!ドプウゥゥッ!
ビュッ!ビュルルルルッ!!!

歩美が、風子が、龍華が、それまで堪えに堪えた欲望の迸りを口腔に、子宮に、直腸に思い切り噴射した。
「あっ!あぶぅぅぅぃぃぃっ!!」
その熱さに喬は一際大きく吼え、収まりきらないエキスが口からも膣口からも肛門からも派手に噴出してきた。
「ん、おおおぉぉ……」
そして、精根尽き果てた喬が気を失うと共にその髪の色が毒々しい赤へと変化していき、胸に『杏』の
文字を崩したような使徒の印が浮かび上がってきた。
「ふふふ…。これで5人……」
全身を粘液塗れにして堕ちた笑みを浮かべる喬を、歩美は冷たい視線で見下していた。
その胸の谷間には一際強く『玉』の字が輝いていた。



「うああーっ!あひーっ!」
「いいーっ!気持ちいい〜〜っ!」
だだっ広い室内プールの中に、多数の少女の嬌声が上がっている。
数多くの肉人形がプールの中に群がって淫欲の赴くまま互いの肉を貪りあい、絶えず分泌されている粘液で
水面はまるでワインのように澄んだ真っ赤に染まっている。
そして多数の肉人形の中心に、無数の触手を伸ばしている性戯使徒となった喬が佇んでいた。
喬の腹の臍はまるで口のようにパクパクと開閉し、それを中心に大量の触手がわさわさと茂っている。
その様は、まさにイソギンチャクの口盤のようであった。
その喬の触手に絡まれ宙に浮いた少女が穴という穴を触手に蹂躙され、甘い悲鳴を上げているのだ。
2年生の小堺雪菜もその一人だった。
彼女は学校も終り家に帰ろうとしたところ、突然漂ってきた匂いに惹かれ、まるで操られるかのようにふらふらと
室内プールへと入ってきてしまい、とても現実とは思えない空間に引きずり込まれてしまった。
そしてそのまま雪菜を捕らえた喬は、来ている服をすべて剥ぐと前も後ろの穴も全て触手によって貫いてしまった。
「いや……。もう、許してぇ……」
ズップズップと抽送される触手の感触のおぞましい快感に、雪菜は悦びとも苦痛とも取れる泣き顔で許しを請い続けた。
だが、雪菜のかぼそい声などまるで聞こえない、と言うかのように喬は雪菜の全身を責め続けていた。
「…何を言ってるんだい?ボクはキミを気持ちよくしてあげようとしてるだけなのに…」
そう言っている喬だが、その目はどうみても少女を蹂躙しようとしているようにしか見えない。

「…そうか、こんなものじゃ全然足らないって言うんだね?
じゃあ、もっともっと気持ちよくしてあげるよ。気持ちよすぎて、人間なんかやめたくなるくらいにね…」
雪菜に向けてニィッと笑った喬の腹部の巨大な臍がグバッっと開き、中から多量の触手がドドドッと飛び出してきた。
「きゃ…」
それは動けない雪菜にわらわらと纏わりつき、たちまちのうちに絡めとってしまった。
そのまま喬は臍触手を手繰り寄せて雪菜を臍まで導いた。そして、雪菜をぱっくり開いた臍で頭からぐぶりと飲み込んでしまった。
「ん?!んぐぐ〜〜っ!」
雪菜も全身をばたつかせて抵抗するがろくなことは出来ず、そのままずぶずぶと飲み込まれてしまった。
どう考えても喬の容積では雪菜を飲み込めるはずはないのだが、使徒の力なのか喬の外見は全く変わっていない。
「ヒ、ヒヒヒ!どうだいボクの腹の中は。とっても暖かくて気持ちいいだろ?でも、これからが本番だよ!」
雪菜をぱっくりと飲み込んだ喬がお腹をさすった時、僅かに開いている臍口からくぐもった悲鳴が漏れてきた。
「ん!んん!!んおおおぅ〜〜〜〜〜っ!!」
喬の中に飲み込まれた雪菜はぶよぶよ肉の檻に放り込まれ、次の瞬間全身の穴どころか体中に肉触手を
ずぶずぶと刺し貫かれてしまった。
本来ならばショック死しかねないほどの激痛なのだが、触手の効果か異様な空間のせいなのか雪菜の
体には痛みは全く走らず、代わりに脳が蕩け堕ちるような快感に全身を包まれた。
「んうーっ!んぐーっ!!」
雪菜はどうやら中で相当暴れているようだが、喬は平然とプールの中で佇んでいる。その顔は、
何かおいしいものでも食べているようにうっとりと緩み、満足そうにお腹をスリスリと擦っていた。
そしてそのうち、腹の中に響く悲鳴も暴れる感触もなくなった。どうやら、雪菜の体の生気の全てを吸い尽くしたようだ。
「あはぁ…。やっぱり人間は丸呑みに限るよ。全身から生気を吸い取れるし、余計な邪魔もされないし…
キミも、ボクの力になれて幸せだろ?使徒に直接力を吸われるなんて、誰にでも出来ることじゃないんだから」
喬はお腹の中の、もう反応すら帰って来ない雪菜に嫌みったらしく呟いた。いや、これは偽りのない本心なのだろう。
「じゃあ、もう出てきてもいいよ…。んっ…」
喬がお腹に力を入れるとプチュっと臍口から粘液が飛び、その後にぬぬっと粘液に塗れた雪菜が飛び出てきた。
その全身は周りにいる肉人形と同じピンクと紫のマーブル模様となっている。


「ヒヒヒッ!また新しい肉人形の誕生だよ!人間を肉人形にするこの感覚、癖になっちゃうよ!!」
喬が使徒に成った時、外にいた圭が一匹の人間を連れてきた。それの生気を一口吸ってみたら、あま
りのおいしさについ喬はその人間全てを吸い尽くしてしまった。
そして、より吸いやすいように喬の体は変化を起こし、人間を捕らえる無数の触手と人間を食らう第二の口を
形成し、まるでイソギンチャクのような体を手に入れたのだ。
この姿を、喬はまさに自分に相応しい体だと思った。水の中に住み、生き物を捕食するイソギンチャク。
これから自分が生きようとしている姿に、なんと似合っているのだろうか。
「もう勉強なんかしなくていいんだ。こうして好きなだけ水の中にいていいんだ。
邪魔する奴はみんな食べてやる。父さんも母さんも兄ちゃんも…、みんな肉人形にしてやる!イヒヒヒヒ!!」
快活だった彼女からは想像も出来ない暗い笑みを喬が浮かべている中、今産み落とした雪菜がざばりと
立ち上がり、喬に向けて虚ろな笑みを浮かべた。
「……アハ。アハハハァ………」
乾いた笑い声を上げる雪菜の腕がぶよぶよと不定形にわなないたと思うと、みるみるうちに枝分かれして
無数の触手へと変わっていく。
「うふふ、これでキミもボクの仲間だ。玉王様のために存在し、玉王様のために生きる存在になったんだ」
「アハァ…嬉しいですぅ……」
雪菜が完全に肉人形と化したことに満足した喬は、そのまま雪菜を肉人形の群れへと放り込んだ。
そのまま雪菜は腕触手を伸ばして他の肉人形との饗宴に加わり、生まれ変わった体を存分に使って肉の交わりをかわしていく。
それを見ながら喬は、触手でいたぶっていた少女をまたひとり目の前へと下ろしてきた。
「…さあ、次はキミだ」
色黒の顔を淫らに歪めた喬の下の臍口が、涎をだらだらと流しながらくぱぁと開かれる。
「…そう恐がることはないんだ。キミもすぐ、他のみんなと同じになる。
体中から触手を生やして気持ちいいことしか考えられないいやらしい肉人形にね!ヒヒヒヒヒ!」
性戯使徒・キョウは怯える少女の顔を無理やり掴むと、そのまま臍口へとあてがいずぶずぶと飲み込んでいった。
仲間を増やす快感を、今ひとたび味わうために






『性戯使徒アユミ〜馬原鶴花』

「まったく…、龍華さんはどうしてしまったのでしょうか…」
その日の放課後、馬原鶴花(まはらかくか)は所属している弓道部の更衣室で一人呟いていた。
ここ天童学園は前述の通り学園長の意向でやたらと部活動施設が充実している。遠的場を持っている高校など、おそらくは
ここ天童学園ぐらいしかないであろう。
その弓道部で鶴花は部長の役割についていた。同じ翔儀天使であり剣道部の部長をしている龍華と対になっていると言えるだろう。
そのため、翔儀天使としても弓を使った遠距離攻撃を得意にしており、剣を携えた龍華とコンビを組んでの攻撃は玉王の手
下を幾度となく打ち破ってきたのだ。
鶴花は龍華を信頼し、龍華もまた鶴花を認めて互いに翔儀天使だから、という以上の繋がりを持っていた。
だが、最近の龍華はどことなく緊張感が欠けているようにみえた。何か話し掛けてもどこと無く上の空で反応が悪く、時折
腑抜けたような微笑を意味もなく浮かべていたりする。
いや、学園の高等部全体が今そんなだらけた厭な空気に包まれているのだ。秋に入り気候もすごしやすくなり始めていると
はいえ、この雰囲気は明らかに異常だ。
とはいえ、具体的な原因がわからない以上対策としては普段の警戒を怠らないようにするしかないのだが、それを行うべき
龍華があの体たらくではどうしようもない。
今日だらけた龍華に対して雷を落し、龍華もさすがに縮こまって謝り今日は部活で気合を入れてくると言っていたが、果た
してどこまで本気なのだろうか。
「確かに玉王を倒して心の重荷が外れたのはわかるのですが…、それにしてもだらけすぎですわ…」
稽古着に着替えている際も、鶴花は龍華に対しての不満をぶちぶちと吐き出していた。
鶴花と龍華以外の翔儀天使はいずれも二歳以上年下の中学生である。そのため鶴花は歩美達への示しをつけるためにも常に
ある程度の緊張感を持って毎日を過ごし、よき相談役としての立場を築いてきた。
そんな自分に対し、同じ年長者としての龍華の自覚の無さがどうにも気に入らないのだ。
「まあ…、確かに平和なのはいいことなんですけれどね…」
以前の殺伐とした毎日に比べたら、争いの無い平凡な日常がなんとありがたいことなのかという実感が厭が応にもにも感じられる。
そのために気が緩むというのは仕方の無いことだろうか。
ただ、龍華が緩くなってきた時期と学園全体に厭な雰囲気が纏わり付いてきた時期が微妙に重なっているのが鶴花にとって
は少々気になるところだった。
だが、まさか龍華が玉王の手に堕ちているとは想像もしていない鶴花は、単なる偶然の一致だということで片付けていた。
体も心もあれだけの強さを持っている龍華が闇に堕ちるはずがないという前提を鶴花は持っていたからだ。
龍華が堕ちたときに見せた意外な弱さと脆さを見ていれば、それが単なる幻想だと気づいたはずなのだが…

ヒュン   タァン!

鶴花が的場に入ってきた時、そこには既に三人ほどの部員が的目掛けて弓を射っていた。部活動に力を入れている天童学園
の生徒だけあって、放たれる矢は的に吸い込まれるかのように飛んでいっている。
「「「あっ、部長!」」」
鶴花が入ってきたことに気づいた部員達は一斉に手を止めて鶴花に向かい挨拶をした。部長であり下級生への面倒見もよく
かつ弓の腕も並外れている鶴花は弓道部の全員から慕われていた。
「ああ、私のことは構いなく。皆さんはそのまま練習を続けていてください」
かといって鶴花は決してそのことで増長することなく、部員達に自分の意向を押し付けたりもせず各人の自主的な意識を尊
重させていた。上に立つ者はそれについてくる者を導くのが役割であり、ついてくる者を率いるのではないというのが鶴花
の基本論理だからだ。
だから鶴花は自分が来たことでほかの者の練習の手が止まることを良しとせず、自分のことは放っておいて練習を続けるよ
うにと言い放ったのだ。


「「「わかりましたー!」」」
それを聞いた部員達は一斉に頷いて、再び矢を弓に番えきりきりと弦を引き絞っていた。鶴花のほうも自分の弓を用意する
ため弓が入っている袋の口を開こうとしていた。
その時

"ザザザッ!!"

「っ?!」
多数の衣擦れの音が鶴花の耳に入り、ハッと顔を上げた鶴花の目に飛び込んできたものは…
「「「………」」」
自分目掛けて弓を構える、三人の部員達の姿だった。
「えっ……ちょ

"バババッ!!"

鶴花が何が起こったのか確認する間もなく、部員達の手から一斉に矢が放たれた。狙いは勿論鶴花一択。
「きゃっ!!」
鶴花は慌てて身を転がして難を逃れたが、次の瞬間鶴花がいたところに三本の矢がドドドンッ!と突き刺さった。綺麗に磨
かれた檜の床板に刺さった矢は、全力で放たれた証であるかのようにビィィンと波打っている。
それは紛れも無く、鶴花の命を狙って放たれた矢であった。
「な、何をするんですかみなさ……?!」
訳も分からず突然射掛けられ、珍しく怒りの感情をあらわにした鶴花だったが、自分を見る部員達の姿を見てすぐに言葉を失った。
そこにいた部員達は、数秒前までの部員達とは全く違う物体と化していた。
「うふふふ……ぶちょおぉ……」
「くすくす…けらけら…」
「せんぱぁい……せんぱぁ……ぁひゃひゃひゃ……」
薄開きになった口からは意味をなさない単語と渇いた笑い声がぶつぶつと漏れ、鶴花を見る瞳からは意志の光が失われガラ
ス玉のような鈍い輝きを放っている。
全身を中空から吊るされた糸に操られるかのようにかっくんかっくんと揺り動かし、鶴花を射るための矢を番えている姿は
どうみても人間のものではない。
そしてその姿に鶴花は見覚えがあった。
「……肉人形!なんで…」
肉人形とは、あの玉王が使役する人間の精気と魂を吸い取ることで作り出す外法の存在だ。ベースになった人間の元の人格
は残っておらず、ただ玉王の命令のままに動く傀儡人形になってしまう。
だが鶴花は、部員が肉人形になってしまったという衝撃より、この場に肉人形がいるということに激しい衝撃を受けていた。
なぜなら、肉人形がいるということは肉人形を操る玉王もまたこの世にいるということだからだ。
「ひゃはぁ!」
「くっ!」
肉人形の膂力で打ち出された矢が唸りを上げて鶴花に襲い掛かってくる。間一髪鶴花から外れた矢はそのまま的場の壁にあたり、
そのままドゴォンという貫通音と共に漆喰で出来た壁に大穴が開いてしまった。先ほどとは比べ物にならない破壊力だ。
しかも、そんなライフル弾のような矢が立て続けに鶴花に襲い掛かってきた。肉人形部員は女性の力では引き絞るのにも相
当な力を擁する和弓の弦を事も無げに引き、間髪いれずに矢を発射してくる。
そのあまりに早い発射間隔は、よく見ると肉人形は舌を異様に伸ばして矢篭から矢を引き抜いて弓に番えている。これなら
弦を絞る両手が開かないぶんより早く矢を射ることが出来る。人間ではない肉人形ならではの手であるが、射られる鶴花に
とってはたまったものではない。


(どうしましょう!いくら肉人形とは言っても皆さんに危害を加えるわけにはいきません…!)
そう、肉人形にされたからといってもう人間に戻れないというわけではない。一つの手段としては肉人形に施術した者を倒
し、囚われた魂を解放すれば肉人形にされた人間を元に戻すことが出来る。何しろ、かつて鶴花自身が玉王の肉人形にされ
たが、歩美が玉王を倒したことで元に戻ったという過去があるのだから。
だがこれは施術したその当人がいないと意味をなさない。そして今問題の当人はどこにも姿を現していない。
もう一つの手段は、翔儀天使の浄化の力を直接肉人形の中に打って術者の力を消してしまうというものだ。これなら多大な
力は使うがすぐに肉人形を人間に戻すことが出来る。
だが、これを用いるには翔儀天使へと変身しなければならない。そして今、そんな悠長な時間を肉人形は与えてくれようと
はしてくれない。
となると、ここは逃げるしかない。鶴花はくるっと振り返ると的場の入口目掛けて一直線に走り出した。
後ろから放たれる凄まじい弾幕をかわしきり、鶴花はなんとか的場の外へと逃げ出すことが出来た。
「とにかく、すぐに天使に変身……ハッ?!」
だが、外に出た鶴花を待っていたのは想像もしない光景だった。

「あははは…」
「いひっ、いひっ」
「じゅるじゅる…」

いつの間にか的場の周りは無数の学生によって取り囲まれていた。しかも、その全てが肉人形だ。
「な、なんてこと……他にも肉人形が……」
もしかしたら、以前から感じていた異様な雰囲気の正体はこれだったのかもしれない。しかし、もしそうだとしたら何たる
迂闊だったのだろうか。これほどまでに肉人形が増えたことに、まるで気づかなかったなんて!
鶴花を囲む肉人形は、そのどれもが鶴花に狙いを定めその肉体を味わおうとしている。すぐにでも飛び掛ってこないのは、
周りにライバルが多すぎるために互いにけん制をしているからだろうか。
ただそれは、鶴花にとってもチャンスであった。
(この隙に……変身して!)
これほど周りが肉人形だらけなら、もう人の目を気にする必要もない。鶴花の体内の天使の力が鶴花の体を覆うまでに膨れ
上がり、鶴花の体が一瞬光り輝いたかと思うと、次の瞬間には純白の衣を纏った翔儀天使・鶴花がそこに立っていた。
「では僭越ながら…、お相手仕ります」
鶴花は手に光り輝く弓を取り出し、ぎゅっと弦を引いた。すると、不思議なことに引いた弦と弓の間に光が収束し矢が形成されていった。
普段から弓道に勤しんでいるだけあって、その姿だけで周りには緊迫した空気が張り詰めてくる。肉人形達は、さっきとは
また違った意味で飛び掛ることが出来なくなっていた。
「破っ!」
そして、短い気合と共に鶴花の手から矢が放たれ、光の矢は先にいた肉人形の胸にぷっすりと突き刺さった。
「あ゛……、あぁーーーっ!!」
矢が刺さった肉人形は胸から発せられる焼けるような痛みに獣のような咆哮を上げ、口から泡を吹いてばったりと倒れてしまった。
「あがっ…あごぉっ…!」
激しく嗚咽を上げてビクビクと体を跳ねさせる肉人形だが、その顔は次第に狂気が抜けて、人間らしい表情を取り戻しつつある。
これが先ほど話した翔儀天使の浄化力だ。鶴花は特にこの力に長けており、放つ矢だけで肉人形化した人間を元に戻すことが出来る。

「グググ……ギィーッ!!」

そしてそれが合図になったのか、それとも人間に戻るのは御免だと思ったのか、周りの肉人形が一斉に鶴花目掛け襲い掛かって来た。
「破っ!破っ!破ぁっ!!」
四方八方から襲ってくる肉人形を、鶴花は正確な射的で射抜き次々と人間に戻していっている。その速さは瞬きするたびに
3体は確実に戻しているくらいのすごいものだった。


が、それでも限界がある。鶴花を取り囲む肉人形の数は予想をはるかに越えるものだった。
なにしろ、当てても当てても次々に肉人形が沸いてくるのだ。中には今日教室で言葉を交し合った同級生や授業を受けた教師までいる。
もしかしたら、高等部の人間全員が肉人形になってしまっているのではないかと言う非現実的な考えも浮かんできてしまっている。
「こ、これは…少しまずいかもしれません…」
あまりに引っ切り無しに襲い掛かってくるので、さすがに鶴花も疲労の色が濃く出てきた。光の矢を生成する速度も次第に
間隔が増し、肉人形の攻勢を凌ぎきれなくなってきている。
「しかたが…ありません!」
このままでは確実に力尽きて肉人形に飲み込まれてしまうと考えた鶴花は、肉人形の群れの中で比較的密度が薄いところへ
ありったけの矢を発射した。
勿論矢に射抜かれた肉人形はばたばたと倒れ、一瞬ではあるが包囲網に穴が開いた。
そこを鶴花は見逃さず、脱兎の如くそこを駆け抜けて肉人形の輪から抜け出すことが出来た。当然後ろから肉人形がわらわ
らと追いかけてくるが、翔儀天使の鶴花の速さに追いつくことはできっこない。
「とにかくどこか…、身を隠さないと!」
これまでの射的で鶴花の体の疲労は相当なものに達していた。まずは一旦身を落ち着けて息を整えないととても持たない。
とはいえ、学校の中で完全に身を隠せる場所などたかが知れている。今の状況では校舎内に入ることは非常に危険が伴うし
学校の外に出ると下手をすると追って来る肉人形を校外へ放ってしまいかねない。
となると、校内にある施設のどこかしかない。鶴花は駆けながらどこか適当なところはないか探し回った。
そして目の前に入ってきたのは、龍華がいるはずの女子剣道場だった。
「!ここなら!!」
まさか龍華が肉人形に遅れを取るとは考えられないし、昼休みに気合を入れてくると言っていたので今日は龍華はここにいるはずだ。
後ろを振り返ってみたが、相当な速さで引き離したからか肉人形は一体も姿が見えてない。
それを確認した鶴花は躊躇うことなく剣道場の中へと入っていった。

そここそ周到に張り巡らされた罠の中心とも知らずに。



「龍華さん!」
鶴花が道場の戸をガラガラと引いて中に入ると、中は多数の剣道部員が竹刀の音を響かせながら打ち合いをして…
おらず、龍華はおろか誰一人いなく電気もついていない稽古場が目に入ってきた。
「………え?」
そんな馬鹿な。今日女子剣道部は確かに部活はあるはずだ。それに龍華も今日は出るといっていた。
なのに、この空気の冷え方は少なくとも今日ここで稽古が行われていたということはない。
「龍華さん?龍華さん!」
鶴花は大声で龍華のことを呼んでみたが、勿論何の返事も返っては来ない。
「どういうことなんですか……?」
龍華が自分に嘘をつくなんてことは考えられない。そんなことをするメリットがまるで頭に浮かばないからだ。
だが、ここにきてさっきの大量の肉人形が思い出される。あの中には鶴花のクラスメートまでいたのだ。
それと関連して最近の龍華のおかしな様子が思い起こされる。あの、いつもの龍華とはまるで違う怠惰な龍華。
まさか、まさかとは思うが、もし龍華も肉人形になっているなんてことが……

「あはっ、いらしゃ〜い鶴花先輩〜〜〜〜」

鶴花の悪い妄想が暴走しかけているその時、稽古場の中に深刻な雰囲気に似合わない間の抜けた声が響いてきた。
しかも、鶴花と同じ翔儀天使の仲間であり後輩の歩美の声が。
「えっ、歩美さ……?」
何故こんなところにいるのかと一瞬思ったが、とにかく知っている人間に出会えた喜びから鶴花は胸を撫で下ろして声が聞
こえた方向へと振り返り…、言葉を失った。


「ふふ…、どぉうしたんですかぁ先ぱぁい……」
鶴花の前にゆらゆらと立つ歩美は全身の体毛を真っ赤に染め、瞳はこれ以上ないというくらいの邪悪な光を放っている。
上に着ている物を全てはだけ素肌を晒した胸元には赤々と輝く『玉』の字が見えており、足元には時折ビクビクと動く何か
をぼろきれで被ったものが転がっている。
その中で一際鶴花の目を引いたのが、胸に輝く『玉』の字だ。鶴花にとって、今の状況で『玉』の字を見て思い出すものは
ただ一つしかない。
「あ、あゆ み、さ……それ……」
鶴花が震える手で玉の字を指差すと、歩美は見せ付けるかのように胸を張った。
「うふっ、これですか?分かりますよね〜〜
『玉』の字ですよ。先輩もよぉ〜〜く知ってるあの人の印……」
歩美は玉の字に手を当て、うっとりとした視線を向けながら愛しそうに撫で回している。
「そう……」
が、顔を上げた次の瞬間歩美の雰囲気がガラッと変わった。
「この俺様、玉王の印だ!覚えているだろう鶴花ぁ!!」
顔も声も、そのものは確かに歩美のものだ。だが、尊大な態度、邪悪な気配、居丈高な喋り方は間違いなくあの玉王
そのものと言ってもいいものだった。
「ぎ、玉王?!なぜ歩美さんが玉王に……」
「ふふふっ、この俺がそう簡単にくたばるものか。隙を見つけてこの小娘の中に俺の意識を潜り込ませ、こうして乗っ取っ
てやったのよ。こいつの体は既に、この玉王様のものだ!」
慎みも無くゲラゲラと笑う歩美…いや玉王の姿を見て、鶴花は絶望に心を閉ざし…
ということはなく、逆に怒りの炎がメラメラと燃え上がっていった。
「では、高等部の皆さんを肉人形にしたのもあなたの仕業ですね…」
「ああ。この若い体を使って存分に吸ってやったぞ。数が多かったので貴様らに気取られずに吸うのに難儀はしたがな。
ふふふ、俺に勝手に体を使われて元の小娘の人格は相当に泣き腫らしていたぞ。だが、その心ももうすぐ消える。そして、
そのときがこの玉王様の完全復活のときよ!!」
「…そうですか。ではまだ歩美さんの心は残っているのですね」
ならばまだ救う道はある。鶴花は手に持った弓を歩美へ向けて構え、光の矢を番えた。
「ならば、この矢を以って歩美さんの中にいる貴方を浄化して見せます。覚悟しなさい、玉王!」
鶴花の目は怒りに燃え、手に持つ矢は稽古場全体を照らすぐらいの強さで輝いている。こんなものを喰らったらさすがに玉
王と言えども無事ではすまないだろう。
が、歩美=玉王は余裕の態度を崩していない。どうみても避けられない距離にいるというのに。
「ふふん、それで俺を射る気か?鶴花」
「勿論ですわ。この一矢に篭めた私の力、あなたと言えども耐えられはしません!」
「ああそうだな。そんなものを喰らったらさすがの俺もやられちまうだろうよ。だけどな…
これを見ても、その矢を撃てるか。鶴花ぁ!」
鶴花へ向けてニッと口元を釣り上げた歩美は、足元に転がっているぼろきれの片端を掴むと、一気にばさっと捲り上げた。
そこには…

「ひ、ひぃぃっ……お姉ちゃぁ…」
「そ、そんな…、動いちゃぁ……」
「だ、ダメだ。ボク…おかしくなっちゃう……」

全裸に剥かれ、体をびくつかせている風子、圭、喬が転がっていた。
しかも風子と喬は腹が、圭は胸が異常なまでに大きく膨れ上がり、それぞれが肥大した箇所を苦しそうに押さえつけている。
「なっ?!風子さん、圭さん!喬さん!!」


「ふふん!いくら天使とは言え、まさか俺様が仲間の中に潜んでいるなんて思いもしなかったようでな、簡単に俺の手に落ちてくれたわ。
こいつらには俺様の使役した蟲をそれぞれ子宮、胸、はらわたに仕込んであってな、俺がちょっと命令するだけでそいつら
はこいつらの体の中で媚液を吐きながら暴れまわるのだ。ほれ、こんなふうに」

"パチン"

「「「!!!」」」
歩美が軽く指を鳴らした瞬間、三人はビクン!と体を反らして激しく暴れ始めた。よく見ると、それぞれの張っている所が
ぐにゅりぐにゅりと不規則に蠢き回っている。
「う、ああぁっ!お腹、お腹のなかでぇ!」
「いやぁぁっ!おっぱい、おっぱぁ気持ちいひぃぃ!」
「やめてぇぇ!お尻が、お尻が熱いぃぃ!!」
其々が愛液、乳液、腸液を派手に噴出し、苦痛とも快楽とも取れる絶叫を上げてのたうっている姿は非常に痛々しいものであった。
「ひ、酷すぎますわ…、こんなことを……」
一緒に戦った仲間を、大切な後輩を、このような淫獄に堕とされた姿を見させられ鶴花は悔しさと憤りで顔を真っ赤にしていた。
もう玉王を射抜くのに何の躊躇もない。
「許さない…。許せませんわ玉王!覚悟!」
「だから俺を撃っていいのか鶴花!!もし俺がやられたら、こいつらの体に仕込んだ蟲は制御をなくし、体の中を暴れ回っ
てメチャクチャに食い荒らしながら皮膚を食い破って出てくるぞ!可愛い後輩を、その手で引導を渡すのかぁ?!」
「えっ?!」
今まさに歩美目掛けて矢を放とうとした鶴花は、その一言に体を凍りつかせてしまった。当然、矢は放たれることなく歩美も無事だ。
「そんな…、そんな……」
「信じられないか?じゃあ俺を撃ってみるがいい。そして俺がやられたら全てははっきりするだろうよ。
さあどうした。撃ってみろ、撃ってみろ鶴花ぁ!!どうしたぁ!!」
「うぅ……」
歩美は両腕を広げたままびくとも動いていない。この状態なら鶴花の腕なら目を瞑っていても歩美に命中させることが出来るだろう。
だが、鶴花は撃てなかった。撃った結果がもたらすもの、その悪い結果の可能性の酷さにどうしても矢を放つことが出来なかった。
「………くっ…」
長い躊躇の果てに、とうとう鶴花は構えた弓をガチャリと落としがっくりとその場に崩れ落ちた。
と同時に光の矢がサァッと細かい粒子になって消えていった。
「ふふふ、どうした。諦めたのか?後輩可愛さにこの俺を倒すチャンスをみすみす逃すとはな。天使天使と持ち上げられて
も、所詮は甘さが捨てきれない小娘よな」
歩美の罵倒がチクチクと鶴花の胸に突き刺さる。確かに玉王を倒す絶好のチャンスを逃してしまったのは痛恨事ではある。
だが鶴花は後悔してはいなかった。もしここで玉王を倒せたとしても、その代償で三人を見殺しにする羽目になってしまっ
たら恐らく自分は死ぬ瞬間まで後悔し続けていただろう。
「鶴花、もう抵抗はしないか?しないと誓って俺の軍門に下れば蟲どもを大人しくしてやろうではないか。
あ、誓わなくても別に構わないぞ。その時はこの三人がよがり狂って死ぬだけだからな」
そんなことを言われては鶴花には選択権はない。
「…分かりました…。わ、私は貴方のもとに、く、下ります……」
鶴花にとっては非常に屈辱的な屈服だった。かつて嬲られ意図せぬままに服従し、なんとか呪縛から抜けることが出来た相
手に、今度は自らの意志で下らなければならないとは。
(お、覚えていなさい玉王……。今だけ、今だけは頭を下げて上げますわ。
でも、なんとかして皆さんの蟲を浄化した暁には、必ず貴方の魂、涅槃へと送り届けて差し上げます!)
悔し涙を目頭に湛え、鶴花は酷くゆっくりではあるが歩美の前に深々と手をついた。それを見た歩美は満足そうにゲタゲタ
笑い、素足で鶴花の頭を押さえつけた。
「くくく!いい様だな鶴花。仇敵に頭を下げる気分はどんなだ?さぞかし爽快な気分だろうなぁ!!
まあ、そんな姿を見て気分も晴れた。約束どおり蟲を大人しくさせてやる」


歩美は鶴花を足蹴にしながら、再び指をぱちりと鳴らした。これで三人の中の蟲は大人しくなるはずだ。ところが
「「「うああぁっ!ひゃああぁぅ!!」」」
三人は落ち着くどころかますます嬌声を張り上げ、ばったんばったんと小魚のようにのた打ち回っていた。
「ぎ、玉王!これはどういうことですか!約束が違います!!」
一向に落ち着かない三人を見て、鶴花は歩美をギロリと睨みつけた。が、歩美のほうはいたって涼しい顔をしている。
「別に約束は破ってはおらん。今の俺の合図でやつらの体の中の蟲は動きを止めておる。
だが、今まで随分と性感帯をつっつきながら暴れ続けたからな。蟲が動かなくなったぐらいで奴等の体に灯った快楽の火は消えはせんわ」
「なんですって?!じゃあ、じゃあ……」
ということは、このまま三人は悶絶死するしかないというのか?!
「早とちりするな。快楽の元凶である蟲を奴等の体から抜き出せば助かる。それほど悠長な時間は無いがな」
「で、では早くしなさ…、してください、玉王…様!」
仲間を、後輩を助けるため鶴花は涙を呑んで歩美=玉王に様付けで頼み込んだ。だが、玉王は鶴花を指差してこう言った。
「おまえが、やれ。
ただし、天使としての力は使わないでな。おまえ自身の力でこいつらから蟲をかきだしてやるんだ」
「わ……私が?!」
玉王の命令に鶴花は息を呑んだ。本来なら自分の手で三人を浄化出来るならそれに越したことはない。鶴花が持つ浄化の力な
ら、矢を一本放てば中の蟲など瞬きするうちに消滅させることが出来るだろう。
だが、玉王はそれを許さず鶴花の手で蟲を除けと言ってきている。それは、鶴花が直接彼女達の体を触って蟲を取らなければ
いけないと言う事だ。それも、秘部やお尻といったそうおいそれと触るには躊躇いまくってしまうような箇所をだ。
「そ、それは……」
「嫌か?それなら別に構わないぞ。ただ、あの小娘どもは狂い死にするがな」
「くっ…」
そう言われてはやるしかない。それはもう死ぬほど恥ずかしいが、彼女達の命と天秤にかけたら自分の羞恥心などどれほど軽いものか。
「わ、わかりました……」
屈辱と恥辱の中、鶴花は天使の衣を消して元の胴着姿になり、さらにそれを脱ぎ捨てて逸し纏わぬ姿になった。歩美、と言
うか玉王のいやらしい視線がチクチクと肌越しに感じるが、今はそれに気を取られている時間は無い。
「さあ、誰からしてもいいぞ?一人にそんなに長い時間はかけられないからな。さっさと抜き出せよ」
「わ、わかっています……」
鶴花は胸と腰下を手で覆い隠しながら、一番近くにいた喬の元へと歩いていった。
「喬さん…喬さん……」
「あ…?あぁ……鶴花先輩、助けて……。ボク、お腹が、お腹がぁ……あ!あああぁぁっ!!」
鶴花の声に僅かに反応した喬だったが、すぐにお腹を抑えて暴れ転げ始めた。よく見ると、喬のお尻の孔から僅かではある
がピンク色の蟲の先端が飛び出ており、ぴこぴこと先端を振って蠢いている。おそらく、喬の体内では見えているあれとは
比にもならないくらいの勢いで暴れまわっているのだろう。
(あれが…あれが喬さんを…!)
喬を嬲る蟲に激しい憎悪を覚えた鶴花は、すぐさま蟲を掴み取ろうとした。が、すんでのところで蟲は喬の体内につるりと
潜り込んでしまい姿を見えなくしてしまった。
だが、ここで蟲を逃す手はない!
「喬さん!腰に力入れて息んでください!いまなら、蟲を取り出すことが出来ます!!」
「は…はぁい!!ン…ンーッ!!ンーーッ!!」
鶴花に言われ喬は目を閉じて力をこめ、顔を真っ赤にして腹の蟲をひり出そうと試みた。
が、尻からは時折腸液が零れてくるぐらいで肝心の蟲は一向に姿を表さない。
恐らく蟲も必死なのだろう。喬の腸内で絡みつき、今以上の降下を懸命に防いでいる。
「だ、だめぇ先輩!ボクの、ボクのお尻のもう少しまで来ているのに、出てこない!出てこないよぉーっ!
取って、先輩!ボクのお尻に手突っ込んで蟲取ってぇぇ!!」


「喬さ…!」
喬は腹ばいになりながら涙目で鶴花に哀願してきた。その眼を見た瞬間、鶴花の心の奥でゾワッと波立つものがあった。
腹を膨らませて穴という穴から体液を噴出し、自分に淫らなお願いをする喬がたまらなく可愛く感じたのだ。
(な、何を考えているの?!こんな、酷い目にあっている喬さんを、か、かわいいだなんて……)
鶴花は顔を真っ赤にして、心の中に湧いた邪な思いを必死になって否定した。
「わ…、わかりました。で、では喬さん…、四つん這いになって、お尻を、む、向けて……」
(こ、これは喬さんを助けるため……。決して疚しい心からくるものじゃありません……)
「う、うん!うん!!」
一刻も早い蟲からの解放を望む喬は、よろよろと体を反転させて鶴花に向けて尻を高々と突き上げた。粘液に濡れ光り、ふ
りふりと振られるお尻を見て、鶴花は一瞬頭がクラッときた。
(こ、この中に…、私の手を……?)
喬のためとはいえ、他人の尻に手を突っ込むなんて背徳的な行為がはたして許されるのか。いやそれより手を入れることが出来るのか。
「あああぅ!!先輩、早く!早く!もう、もうボク狂っちゃう!狂っちゃうよぉ〜〜!」
ここに来て躊躇う鶴花に、喬の悲鳴が容赦なく突き刺さる。いや、喬だけではない。圭も風子も後ろで気が狂わんばかりに悶えている。
ここで時間をかけてしまったら、三人の命が本当に危ない。
(…やるしか…ありません!)
意を決した鶴花は、おずおずと喬の背後に寄りそのお尻に軽く手を当てた。
「ひゃん!!」
それだけで、喬は感電したかのように激しく体を奮わせた。
「う、動かないで…。いいですか、入れ、ますよ……」
鶴花の手が、つぷぷと喬の尻の中に沈んでいく。蟲の影響からのか、鶴花の手は殆ど抵抗らしい抵抗を受けずに喬の体の中へ潜り込んでいった。
「うあぁーっ!先輩の、先輩の手が入ってくるぅーっ!気持ちいいよぉーーっ!!」
内臓の粘膜を手が擦る感覚が快感に感じられるのか、喬は腰をぶるぶると揺すって鶴花がもたらす快楽に酔った。
その姿が、また鶴花にはたまらなく愛しい。
(あっ…喬さんが私の手に感じている…かわいい……
?!違います!こ、これは喬さんを助けるためなんです!なんですったら!!)
再び心に浮かび上がった邪念を振り払い、鶴花は喬の奥へ奥へと手を伸ばした。そして、ついに内臓の感触とは明らかに異
なる異物をその手に掴んだ。
「つ、捕まえました…。これが、蟲……。こいつの、せいで……」
(喬さんの体をいいように弄んだ憎っくき蟲。こいつのせいで、喬さんが酷い目に……)
蟲への憎しみが一気に噴出した鶴花は、蟲をがっちり掴むと一気に引っ張った。ズルズルズルッ!と引き抜かれる手と蟲が
喬の内臓をガンガンに刺激する。
「ひゃあああぁっ!!せ、先輩やめて!もっと、もっとゆっくりぃぃ!!」
「だめです!こんなもの、すぐに体からださないと!!」
「やあぁっ!あぎいぃ〜〜っ!!」
強制的な排泄に似たあまりにも激しすぎる刺激に耐えかねた喬の懇願を完全に無視し、鶴花は息もつかずに蟲を喬の体から抜き出した。
その長さは約1m強。太さも鶴花の腕回りはあり、これがよく人間の体に入っていられたものだと思わせる。
「こいつが…こいつが!」
鶴花は蟲を床に叩きつけるとそのまま歩美のほうへ蹴り飛ばした。
「ああ…もう可哀相に…、おっとといっけない…」
歩美は歩美でそんな鶴花をニヤニヤ見ながら蟲をぐびぐびと飲み込んでしまった。
「さあ喬さん、これでもう大丈夫……あら?」
「あ…あひぃ……」
鶴花が下にいる喬へと目を向けた時、喬は許容限度を越えすぎた肛虐に耐え切れず失神してしまっていた。
「あらあら…、随分と気持ちよさそうな顔をして……。そんなにお尻がよかったんですか……?」
鶴花は手を抑えてクスッと微笑むと、後ろで悶える圭と風子のほうへ顔を向けた。
「さあ、二人ともすぐに蟲を体から出してあげますね…」
二人を見る鶴花の目には、明らかに淫欲に溺れた光が灯っていた…





「さあ圭さん、いらっしゃいな…」
鶴花は胸をぱんぱんに膨らませた圭を手招きして呼び寄せた。ずっしりとした質量をもった胸が鶴花の手に当っている。
「せ、先ぱぁい…。私、胸が、胸が張って…張ってぇ…」
圭は辛そうに自らの乳首をキュッと扱いた。その先端からは乳白色の母乳がじわりと染み出してきている。これも蟲の影響なのだろうか。
「あらあら大変、おっぱいが出るなんて…。もしかして、この胸いっぱいに…?」
鶴花は乳首を掴む圭の手をきゅっと掴み、思いっきりギュッと力を入れた。
「?!きゃあぁぅっ!!」

ぴゅうぅっ!

乳首を力いっぱい握られた圭は目を真ん丸に開いて嬌声を上げ、また同時に乳首からは乳液が一本の筋になって噴出し鶴花
の体に生暖かい乳液がびしゃっと降りかかった。
「あぁ…、やっぱりその胸いっぱいにおっぱいが詰まっているのですね…。なんてかわいそう……」
圭は胸に入れられた蟲のせいで、妊娠していないにも拘らず乳腺を刺激されて母乳が無理やりに生成されているのだろう。
そんなおっぱいによって圭の胸が圧迫され、気が狂わんばかりに昂ぶっている。
「そんなおっぱいは…、全部出してあげないといけませんね…!」
口元に僅かに歪んだ笑みを浮かべた鶴花は両手を圭の胸に添え、ぎゅっぎゅっと扱き始めた。
「いっ?!せ、先輩!そんな、ダメェェ!」
「ダメじゃないんです!これも、圭さんを助けるためなんです!」
嫌がる圭を無視し、鶴花は力いっぱい圭の弾力のある双乳を揉む。その都度、圭の乳首からは母乳がホースから出る水のよ
うに勢いよく飛び出てきた。
「ほらほら、もっともっと出てきますよ。これを全部出さないと、圭さんはおかしくなってしまうのですから!」
「出さなく、ても!もうおか、おかしくなっちゃいますぅ!ふわあぁ〜〜っ!!」
鶴花の目の前で、乳牛のように母乳を搾り出されている圭が胸から送られてくる快楽に溺れ、気持ちよさそうに表情を崩している。
鶴花が一揉みすればその都度体をビクビクと動かし、まるで人形のように正確に反応する。
圭が快楽で体を捩じらすたびに、鶴花は倒錯的な愉しさに心が満たされていった。
(なんて…面白いのでしょう)
決して疚しいことをしているつもりはないが、ここまで乱れ狂った様を見せられるとどうにも心が燃え上がってしまう。
止め処なく吹きこぼれてくる母乳も、圭の体を蝕む忌まわしいものから自らの官能を引き立たせるスパイスに変わりつつある。
周囲に濃密に漂うミルクの甘い香りは、鶴花の気持ちを昂ぶらせるとともに猛烈な飢餓感も煽ってくる。
あれを口に咥え、直接吸い出したら圭はどういう反応を見せるのか…
「もう…我慢できませんわ…」
鶴花は真っ赤な舌で唇をぺろりと舐めると圭の大きく張った乳首をパクッとくわえ込み、唇と舌を使ってチュウチュウと吸い始めた。
「………っ!!」
放出するだけでなく吸引する刺激までもたらされ、圭は悲鳴を上げることも出来ないほど体を硬直させたが、鶴花は構うこ
となく圭の胸を吸い続け、たちまちのうちにごぶごぶと母乳が鶴花の口を満たしていった。
片方の胸は鶴花の口、もう片方は手によって強制的に搾乳されて圭からは夥しい量の乳液が噴出され続け、それに伴って水
風船のようにパンパンに膨らんだ胸は次第に小さくしぼんでいった。
そして、完全に母乳が搾り尽くされた後に鶴花の舌に当ったもの。それは圭の乳首から吸引されて飛び出てきた、線虫のよ
うに細い蟲だった。恐らくこの蟲が、圭の胸に寄生して快楽と母乳を圭にもたらしていたのだろう。
「ふふふ…、ついに出てきましたね……」


鶴花はそのまま蟲を歯で咥えると、顔を後ろに引いてズズズッ!と圭の胸から蟲を引っ張り出した。2mはあろうかという
蟲が、乳液を撒き散らしながら圭の乳首から飛び出してくる。
「ひ、ひゃあぁーーぅっ!!」
そして、乳腺を勢いよく蟲が通る間隔に圭は一際大きな声を上げて達しそのまま失神してしまった。
「ふふっ圭さん、いいお味でしたわよ。こんなに美味しいミルクを溜められるなんて、なんていやらしい……
あら?圭さんも耐えられなかったんですか?ダメですよ、この程度の快感で気絶してしまうなんて。
それに、蟲はまだ一匹残っているんですからぁ……」
口に咥えた線虫をプッと吐き出した鶴花は、待ちきれないといった速さで圭のもう片方の乳首にむしゃぶりついた。
「?!はひっ!」
その快感で、意識が沈んでいた圭は強引に現実に引き戻された。
だが、すぐにまた気を失うことになるだろう。肉食獣のような目をした鶴花がもう片方の母乳も吸い尽くし、蟲を引きずり
出すまでにそう時間はかからないはずだから。



「うふふ、では風子さん。あなたの番ですわよぉ…」
圭を再び気絶させ、風子のほうへと体を向けた鶴花の目は完全に据わっている。
そこには苦しんでいる風子を助ける、などという目的は感じられない。
腹から来る苦痛と快楽に悶え苦しむ風子を見ていると、ゾクゾクと心が震えてくる。もちろんそれはおぞましさからではない。
性的興奮からだ。
(どうして…、人が苦しんでいる顔を見ると…、こんなに興奮するのかしら……)
鶴花は今までたくさんの後輩や同級生から相談を受けてきた。困っている人を見ると放っては置けない性分だからだ、
と、自分では思っていた。
だが、そうではなかった。ここにいる圭達を見てようやく気がついたのだ。
自分は、人の困り苦しむ姿を見るのが好きだったのだ。だからこそその姿に惹かれていき、結果として当人を助けたにすぎない。
では、助けなければどうなるのか…
助けなければ、ずっとその人間が苦しみ、喘ぐ姿を見続けられるではないか!
「風子さぁん……。お腹が張って切ないのですね?苦しいのですね?疼いてしょうがないのですね?」
「は、はひぃぃ…。か、鶴花先輩……助け……」
鶴花に助けを求める風子。ついさっきまでの鶴花だったら即座に風子を救う手立てを考えただろう。
だが、今の鶴花は後輩思いで世話好きの鶴花ではなかった。
「ええ、助けてあげますわぁ…。その体の熱い疼きを静めてさしあげることで!」
風子へ向けてニィッと笑った鶴花は、風子の膣口へ右手を宛がうと、そのまま一気に中へと押し込んだ。

ズン!

「いひぃっ!!」
すでに蟲が暴れたことで口もゆるゆるに蕩けていたのだが、それでも突然の異物の挿入に風子は鋭い悲鳴を上げた。
「ふふ…、風子さんの中はとぉっても熱く濡れていますね…。この中のどこに、蟲が潜んで…いるのかしらぁ!」
手首まで中に突っ込んだ鶴花は、そのまま手をぐにぐにと動かし風子の膣内を攪拌しはじめた。ぐっちゅぐっちゅと肉同士
が擦れあう音が道場内に卑猥に響き渡っている。
それは蟲を掴もうとしているというより、明らかに風子を責めようとしている動きだった。実際、鶴花の手に風子の子宮の
奥に潜む蟲が時折当るのだが、鶴花はそれを完全に無視して風子の中を掻き回すのに没頭している。
「いやあぁっ!先輩、やめてぇぇ!!」
あまりの激しさに風子は体を揺すって逃げようとするが、鶴花は余った左手で風子の体を抑えより奥へと手を突っ込もうとしている。


「ダメです!これは風子さんのためを思ってしているのですよ!一刻も早く風子さんの体の中から蟲を取り出さないと、
風子さんの体がおかしくなってしまうではありませんかぁ!!
もっとも、その前に風子さんの心のほうがおかしくなってしまうかもしれませんがねぇ!!アハハハッ!!」
そうは言いつつもあくまで蟲を取り出さず風子を嬲って愉しむ鶴花には、もう翔儀天使だった頃の面影は残っていない。
鶴花は既に淫虐を嗜み、人間を壊して悦ぶ一匹の魔物と成り果てていた。
「ほらほら風子さん!まだ終わってはおりませんわぁ!もっともっと頑張りなさい!イキまくって上からも下からも涎を流
し、気が狂わんばかりに悶えて私を愉しませなさいな!!」
鶴花の右手は手首と肘の真ん中まで風子の中に潜り込み、左手は膨らみかけの胸をぎゅうぅと搾り、口は痛いほど尖ってい
る乳首をつぷつぷと舐り、風子の体から体液と悲鳴をからっぽになるまで出し尽くそうとしているように見える。
「あははぁっ!最高ですわ風子さん!風子さんを責めるたびに、なんか、力が湧いてきますわぁ!!」
よく見ると、風子の体をガツガツと貪る鶴花の体に周りに漂っている淫気がずるずると吸収されていっている。いや、それ
は最初に喬の手当てをはじめた時から知らず知らずのうちに吸収されていっていたのだ。勿論、性戯使徒である喬や圭自身が発する淫気を。
三人の安否を気遣う鶴花は漂う淫気に対する警戒を怠り、自身も気づかぬうちに淫気に心身を犯され、今まで隠されていた
サディスティックな性癖を表に浮かび上がらせていた。
「おいおい、どうした鶴花。この娘を助けるのではなかったのか?このままでは気が触れて壊れてしまうぞ?」
さすがに見かねたのか歩美がやんわりと止めに入ったが、鶴花は歩美を一瞥しただけでまったく動きを止めはしない。
「邪魔しないでください玉王様。私は今、風子さんをグチャグチャにしたくて、たまらないのですから!!」
もう鶴花に玉王に逆らうなどという気持ちは残っていない。知らず知らずのうちに鶴花は身も心も玉王に隷属していた。
が、いくら真に玉王に従ったとはいっても自分の愉しみを手放す気もまたなかった。今鶴花が求めるものは、風子をボロボ
ロになるまで陵辱し、その悶える様を心ゆくまで見続けることなのだから。
「ぐちゃぐちゃに、したいか…。ふふ、すっかり人間の心を無くしたみたいですね…おっとと、だな」
鶴花の変わりようにほくそ笑んだ歩美は、最後の一押しをすべく鶴花の耳元で囁いた。
「そうか…。でも、俺としてはこっちのほうが面白いんじゃないかとは思うのだがな……。おい、出て来い!」
歩美が手招きをし、道場の更衣室の戸がガラガラと引きあけられる。
「うぁ……」
そこから出てきたのは、全身を赤く火照らせた龍華だった。やはりほかの者と同じように蟲を入れられているのか、表情は
虚ろで下腹が異様に膨らんでいる。
「りゅうか、さん……?」
そんな龍華の姿を見た途端、鶴花は風子を責める手を止めてゆらりと立ち上がった。見る見るうちに欲情に染まっていくそ
の顔からは、もう風子などに構っていられないといった思いがあるのが見え見えだ。
「か、かくかぁ……」
「あぁ…、龍華さん…。龍華さんまで蟲に…」
呂律の回らない口で自分に助けを求めてくる龍華を見て、鶴花の心の奥の嗜虐心が一気に刺激された。
そうか。ここのところずっと龍華の様子がおかしかったのは蟲を体に入れられていたからだったのか。
自分に黙ってずっと蟲を入れて、疼く体を必死にごまかしていたのか。
なんでもないふりをして、隠れて気が狂うほどオナニーをしていたのか。
「龍華さん……、なんて、いやらしいの……。そんなに蟲を……体の中に…」
「そうだ。こいつも蟲に体を冒されて今は年中発情しているような状態になっているぞ。早く蟲を取ってやらないと…」
「蟲を取る?何を言っているのですか……」
歩美の言葉を途中で遮った鶴花の目には、かなり危険な光が宿っている。
「もっともっと、全身を蟲の毒で染め抜いて、脳髄の隅々まで色狂いにして綺麗で淫らな穴奴隷にしてあげないと……」
人を責め壊すことに快感を覚えるようになってしまった鶴花にとって、今の龍華は格好の玩具だ。こんな素晴らしい素材、
徹底的に壊しつくさないと絶対に後悔する。
「ですから玉王様、龍華さんの体をもっといやらしく作り変え……」
「それ…、お前がしたくはないのか?」
「えっ…?!」


その質問に鶴花は目を輝かせた。自分の手で思うがまま龍華を嬲り犯せるならばそれはそれで万万歳だ。目の前で龍華が淫
らに泣き叫ぶ姿を見たら、きっと自分もエクスタシーの極みに達してしまうだろう。
「それは…もちろんです!私の、私の手で龍華さんを……。ふふふ、なんて素晴らしいのでしょう……!」
「そうか…。しかし、お前が人間のままでは責める手段にも限りがあろう。
もし、お前が俺を受け入れ完全に俺の下僕…性戯使徒に成れば、よりディープに龍華を犯し抜くことが出来るぞぉ……」
ニィッと笑った歩美の口から舌触手がひゅるひゅると伸びてくる。
「お前が俺に全てを捧げてもいいならば、この舌触手を受け入れるがいい。至上の悦楽とともに先輩の中に…おとと
お前の中に使徒の力を注ぎこみ、新たな生を与えてやろう……」
「………」
目の前でぱくぱくと息づく舌触手を暫く無言で見ていた鶴花は、躊躇うことなく口を開き、自ら舌触手をずるずると含んでいった。
「んっ…ちゅぱ……」
鶴花は使徒に成るとは一言も口で言っていない。だが、鶴花が歩美=玉王を受け入れているのは明らかだった。
「ふふふ…、いい子ですよ先輩……」
美味しそうに舌触手を咥える鶴花の頭を歩美は一撫でし、舌触手を鶴花の奥へと沈めて鶴花の天使の力を吸い取り始めた……



「ほらほら龍華さん!もっともっといい声で哭きなさいなぁ!!」
「ひあっ!ひゃああぁっ!!」
窓から射す夕日が道場内の畳を照らす中、性戯使徒・カクカに跨られた龍華が派手に悶えている。
その胸元には鶴花が完全に性戯使徒に成った証でもある『角』という字を崩したような紋章が浮かんでおり、真っ赤に染ま
った鶴花の長い髪は、幾束かに分かれて先端が纏まって男性器のような形を形成してさながら髪触手と言えるようなものに
変化し、意思があるかのように蠢きながら龍華の全身に巻き付き開いた孔に潜り込んでいた。
女性器と尻に極太の触手を突き刺され、尿道、臍、乳首、鼻、耳と大小織り交ぜた触手を出し入れされて卑猥な水音が木霊し、
鳴き声を聞くために唯一挿入を免れている口からは絶える事のない嬌声が発せられていた。
「ククク!龍華さんの体の中で、私の触手と蟲と肉が擦れあって、なんて気持ちがいいのでしょう!
龍華さんも気持ちいですわよね!蟲を入れたまま登校してきて、ずっと悶々としていた変態さんには得難い快楽でしょう!」
「ふ…ふあぁ!そ、そう!いいんだ!気持ちいいんだ!鶴花ぁ、もっと、もっと私の体を苛めてくれぇ!!」
髪触手が絡まりあい僅かに見える龍華の目は淫蕩に澱み、鶴花の触手をさらに求め体を揺らしている。
「ふふふ…、あの凛々しい龍華さんが私の下で腰を揺らして淫らにおねだりを…
そう思っただけで、もうたまりませ…あぁーっ!!」

ブシャアァァ!

「んおぉぉっ〜〜!」
龍華の痴態に堪えきれなくなったのか、鶴花はブルルッと震え触手という触手から白濁した液体を噴き出した。龍華は全身で
それを受け止めたが当然押さえ切れず、触手と孔の隙間から夥しい量の粘液を吐き出していた。
「ハアッ、ハアッ…
うふふ、龍華さんがあまりにもいやらしいものですから、これだけ出してもまだこんなに元気……
今日は龍華さんが気絶するまで、いや気絶してからもずっと愛し続けてあげますわぁ!!」
鶴花は出した後にも拘らず全く萎えない髪触手をちろりと舐めると、そのまま龍華の口の中にガボリと突っ込んだ。
他の触手もまた龍華の体の奥の奥まで潜り、再び激しい抽送を行い始めている。
「んぐぅ…!んんん〜〜〜っ!」
休む間もなく陵辱を再会された龍華だったが、その顔は歓喜と悦びに彩られていた。




「うふふ…鶴花先輩ったら、もうすっかり使徒の悦びに目覚めてしまって…」
「うん…。先輩ってあんなにエッチで残酷だったんだね…。正直、恐いかも…」
「私のアソコに手突っ込んだ時、先輩の眼完全にイってましたよ。先輩、真性のサドですよ…」
鶴花が龍華を嬲る後ろで、圭と喬と風子が使徒の姿に戻ってその様をニヤニヤと眺めている。勿論、歩美も一緒だ。
「それにしても、歩美さんの演技も見事でしたわ。私たちが見ても玉王様の振る舞い方そのものでしたから」
「やめてよ圭ちゃん…。あれって本当恥ずかしかったんだから…。いくら先輩を陥れるためだからって玉王様の真似するなんて…」
「とは言いながらノリノリだったじゃん。歩美も結構楽しんでいたんじゃないの?」
「う〜〜〜!喬ちゃんまでぇ〜〜〜」
圭たちに対して顔を真っ赤にして照れる歩美は、さっきまでの玉王そのもののような傲岸不遜な態度とは全く違っていた。
考えてみれば、歩美達天使の力が全て集まらないと玉王が復活することはないのだ。全ては、鶴花を効率よく堕とすために
圭が歩美に授けた策だったのだ。
「しっかし鶴花先輩、龍華先輩を犯すのに夢中でボクたちの正体にも全然気がついていないよ?」
「龍華先輩も人が悪いですわね。すぐにでも使徒の姿に戻ればよろしいのに…」
「龍華先輩も愉しんでいるのよ。こんな機会今までなかったんだから」
なるほど、確かに年長の龍華は使徒に成っても自分が責めるほうが主で責められる機会は殆どなかったのだから、このよう
に自らが嬲られる様というのは実に新鮮なことなのだろう。触手に塗れて体を揺する龍華は歩美達には実に愉しそうに見えていた。


「でも…、お姉ちゃんの胸の玉王様の印、随分強く輝いてきたね…」
喬が指差す歩美の印は、夕焼けの日差しに負けないほどの強い輝きを放っていた。歩美を含め6人もの翔儀天使の力を取り
込んだからであろう。
「うん…。体の奥に今までにないくらい玉王様の力を感じるようになったわ。
もう少しよ。あと琴ちゃんと吟ちゃんの力を取り込めば、いよいよ玉王様が復活なさるわ。
そうすれば、玉王様の下でずっとずっと気持ちいいことができるのよ…」
「そうですわね。早く、琴さんと吟さんにも使徒の素晴らしさを教えてあげないと…」
「明日の学校が楽しみだよ。もう、仕込みはすんでいるしね……ククク!」
明日にも行われるであろう玉王復活の宴を想像し、歩美達はこみ上げる笑いを隠すことが出来なかった。



以上です。以前レスしていただいた髪の毛を触手にするを採用させていただきました
アユミは次作が最後になりますので、もう少しお付き合いください


『性戯使徒アユミ〜琴・ショルーノフ&吟・ショルーノフ』前編

いつもと同じ晴れた朝。いつもと同じ通学路。いつ一緒の登校風景。
だが、何かが違う。
それが何かは言い表せない。だが、いつも同じ事を繰り返しているがゆえに、その違いを漠然と感じることが出来る。
「……ねえ、ギンちゃん……」
双子姉妹の姉、琴・ショルーノフは妹の吟に不安そうな顔を向けた。
「ん?どしたのキン姉。そんな今にも死にそうな顔しちゃってぇ」
「はい…。なんか、いつもと違うような感じを周りから受けないですか?
なんというか……、何かに見られているような……」
「見張られている?」
吟はあたりをきょろきょろと見回してみる。が、そこには吟たちと同じく学校に向う学生がパラパラといるぐらいで別に
不審者がいるような気配はない。
「…気のせいよキン姉。それに見られることには慣れてるじゃない、私たちはさ」
吟は自分の銀髪と姉の金髪を指差しながらケラケラと笑った。
そう、髪の色から見ても分かるとおり琴と吟は純粋な日本人ではなくロシア人の母親をもつ日露ハーフであり、琴のほう
は母親譲りの蜂蜜色の髪の毛を持ち、吟は琴に比べ色素の含有が生まれつき低く銀髪といってもいい色合いをしていた。
双子で殆ど同じ顔形をしている上に髪の毛の色が金銀と明確に別れているため、琴と吟は異様に周囲から目立ち常に奇異
と好奇の視線に晒されていた。
小学生の頃は周りからあまりに浮いている自分たちに、琴は心を閉ざし気味になり吟は誰かれ構わず反発しまくったが、
現在は周囲の人間も琴と吟の存在に慣れて普通の15歳の少女としての生活を送れるようになっている。
が、幼少のトラウマというものはそう簡単に消え去るものでもなく、琴は外を歩く時はついビクビクと周りを気にし、吟
は自分が弱く見られないよう尊大な態度を取りがちになる。まあそれも個性というものではあるのだが。
「……ええ、そうですね。ごめんなさいね、私ったらつい周りを気にしすぎてしまって……」
「全然構わないってキン姉。そんなへたれた所もひっくるめてこそのキン姉なんだからさ」
しょげる琴を、吟はまるでバカにするかのような物言いで励まし、バチンと力強く背中を叩いた。おそらく、これでも吟
的には琴を励ましているのだろう。
琴もそんな吟の本心を察しているのか、クスッと笑って応えた。まあ生まれた時から一緒にいる姉妹だしその辺は互いの
心の内も理解しているのであろう。
「さ、もう気にすることなんてないんだから、今日も張り切っていこうよ」
「ええ。きちんと勉強をね……。ねえギンちゃん」
「うっ……!」
数々の喧騒の中、琴と吟の姉妹は他愛のない会話を交わしながら天童学園へと向っていった。

だが、そんな姉妹をじっと見ている目は確かにあったのだ。けっして琴の気のせいではない、姉妹の一挙手一投足、顔の
筋肉の動きからその息遣いまでも逃さないほどに。
「………」
「…………」
琴と吟の周りにいる学校への通学路を共に進んでいる学生達。一見思い思いのままに学校へと向っている彼ら彼女らは、
琴たちに気取られない程度に彼女達を取り巻きじっと監視をしていたのだ。
彼女らを見る学生の生気のない目は限りなく深い闇に彩られ、果てしない淫欲に濡れ光っていた。


「みなさん。今日の授業はいつもと違うことを行います」

一時限目の授業が始まる時、教壇に立った女教師が突然突拍子もないことを言い始めた。
(いつもと違うこと?)
数学でいつもと違うこととは何なのだろうか。琴の頭の中では数字を用いる以外の数学の姿を想像することは出来なかった。
というか、この教師は教科書も何も持たずに教室に入ってきた。そんな中で一体何をしようというのか。
「一体何をするんだろ?」
「すっごく楽しみ〜」
教室の所々で何が始まるのかと勝手な想像を騒ぎ立てているが、琴はどうも嫌な予感がしてならなかった。
(先生…いつもそんなことを言う人ではありませんのに…)
朝から感じているどことない違和感が再びむくむくと頭をもたげてくる。
「琴、先生何をしようとしているのかしらね?正直、数学やるより面白いことがいいわよね〜」
「は、はい…」
そのため後ろからの声にも、琴は生返事でしか返すことは出来なかった。



「みなさん、今日の授業は……」
そこまで言ってから女教師は、ビシッと琴のことを指差した。


「琴さんを犯す授業になりました」


「え……?」
最初、琴は教師が何を言ったのか理解できなかった。自分を犯すとか何とか言っている気がしたが、常識的に考えてそん
なことが起こり得るはずがないではないか。
あまりの酷い悪ノリに、琴は怒ることすら忘れてしまっていた。
ところが、琴のまわりでは

「やったーっ!!」
「あの琴を犯せるんだーっ!!」
「おもしろそーっ!」

等々、教師の言葉に賛意を唱える生徒で溢れかえっていたのだ。中には歓声を上げている輩までいる。
「え、え、ええぇっ?!ど、どういうことです……」
「うふふ〜、琴〜〜〜」
訳の分からない事態に戸惑う琴の肩を、後ろにいる同級生がぎゅっと掴んできた。
「じゃあ、私からさせてもらうわねぇ〜〜」
「ち、ちょっと、冗談は止めてくださ……」
悪ノリ激しい同級生に琴は苦笑いをし…、そのまま凍りついた。
「うふっ、うふふふ〜〜〜〜!」
琴を掴むクラスメートの肌の色は毒々しい紫色に染まり、自我が感じられない顔には果てしない淫欲を求める笑みが張り付いている。
腕の関節は変な方向に曲がっており、体中からぽき、ぱきといった乾いた音が鳴っていた。
「な……肉人形?!」

あの玉王が使う人間をベースにした肉の傀儡である肉人形に成り果てていた同級生に、琴は息を呑んだ。
「なんで…あなたが肉人形に………はっ!」
肩をつかまれたことと突然目の前に現れた肉人形に気を取られてしまった琴だったが、自分の周りを囲む異様な気配に気
づいて周りを見渡すと、そこには琴の想像を越える光景が展開されていた。
「うふふ……」
「くひっ、くひひ……」
「おかす……おかぁすぅ……」
なんと、クラス中の生徒全員が肉人形化して琴を取り囲んでいるではないか。もちろん、言い出しっぺの教師も立派な肉
人形になって長い舌をべろんべろんと垂らしながら琴に迫ってきている。
「な、なんでみなさん……どうして、みんな肉人形に……」
突然の事態に琴は翔儀天使に変身することも忘れ、呆然と自分に迫る肉人形を見つめていた。
(肉人形は、玉王が使うもの……、で、では玉王は生きているのですか?!
そんな、玉王は確かに倒されたはずです。歩美さんの、手によって……)

ビチャッ……ズルズル……

「…ハッ!」
逃げることも進むことも出来ず固まっていた琴は、周りで聞こえる粘ついた粘液の滴る音に我に帰った。
「おかすぅ、おかすぅぅ……」
「エヘヘ…キヘヘヘ……」
いつの間にか、琴の周りには教室中の肉人形がにじり寄ってきていた。
「い、いけません!」
はっきり言って、ここまで寄られてしまっては変身する時間的余裕もありはしない。琴は自分の剣呑さを後悔しながらも
すぐさまこの魔窟と化した教室ら脱出しようと廊下へと走り出そうとした。
が、廊下への扉はすでに肉人形生徒たちによって塞がれていてとても通れそうにない。
「…っ!」
琴は慌てて窓のほうへと振り向いた。この教室は二階だが、飛び降りれないこともない。
しかし、窓側もすでに肉人形による肉壁が出来ていて飛び降りることはおろか窓を破ることすらまず不可能だ。
自業自得ではあるのだが、ちょっとの間逡巡していた時間により、琴の退路は完全に断たれてしまっていた。
「へっへっへ〜〜〜きぃんさぁ〜〜〜ん!」
男子生徒…だった肉人形が関節が幾節も増えたような腕をぞろりと伸ばし、琴の腕に掴みかかってきた。
琴も何とか避けようとしたが、周り中に肉人形がいるので殆どからだの自由が利かず、あっさりと腕を掴まれてしまう。
「キャアッ!」
粘液が滴り異常に熱もっている掌のおぞましい感触に、琴は背筋を震わせてしまった。

「「「「キャハハハハ――ッ!!」」」」」

その腕を皮切りに、琴の四方から舌やら腕やら触手やらがズルズルッと覆い被さってきた。逃げようにも腕をつかまれて
いるのでそれすら叶わない。
「い、いやあぁぁっ!!!」
もうどうにもできない…、琴は覚悟を決めてぎゅっと目をつぶった。せめてあの無数の触手が自分に巻きつかれる光景は
この目に焼き付けたくはない。
が、その時


"ドバーンッ!!"

廊下の引き戸が派手な音をしてぶち壊され、その弾みで近くの肉人形も吹き飛ばされた。
そうして出来た隙間から、銀色に光り輝くものが弾丸のような速さで飛び込んでくる。
「どおりゃああ―――っ!!」
派手な掛け声をあげながら『それ』は琴を掴む肉人形に突っ込み、華麗なとび蹴りを深々と食い込ませた。
「ぎいぃっ!!」
蹴り飛ばされた肉人形はその拍子で琴を掴んでいた腕を外し、そのまま教師肉人形のほうへと突っ込み、幾体かを巻き添
えにしてぶっ倒れた。
「え……?」
一瞬何が起こったのかわからず立ち尽くす琴の前に立っていたのは、銀色に輝く翔儀天使のコスチュームに身を包んだ妹
の吟だった。
「大丈夫キン姉!どこもやられてたりしないよね?!」
「ギ、ギンちゃん!なんでここに?!」
突然目の前に、しかも翔儀天使の格好で現れた妹の姿に、琴は信じられないといった思いを抱いていた。こういう状況で
白馬に乗った王子様が助けにくるというのはよく思い至る夢想ではあるが、まさか妹がその役を担うとは。
「なんでって……、多分キン姉と同じ理由よ。
いきなりクラスのみんなが肉人形に変わって襲ってきてさ……。まあ手当たり次第にぶっ飛ばしたんだけれどね。
そしたら、ひょっとしたらキン姉のほうも同じ事になってやしないかって思って急いで駆けつけたのよ。
ま、大正解だったみたいだけれどね!」
同じ顔形をしているにもかかわらず、おとなしく控えめな性格をしている琴に対し、吟は非常に活発で口も早ければ手も
早い。二人が混ざって一つになれば理想的な人間になるとは口悪い同級生の弁だ。
だが、琴の前でガッツポーズを取る吟は、今の琴には非常に頼もしく見えた。
「とりあえず、早くキン姉も変身して!このままじゃ肉人形に押し潰されちゃうよ!」
「そ、それはわかってるんだ、けれど……」
それは分かっている、と琴の顔は語っているが、琴は天使に変身することを躊躇っていた。
琴の逡巡も分かる。変身するにはどうしても一瞬ではあるが周りに対して無防備になる時間がある。ここまで周りを囲ま
れていたら、例え吟のフォローがあったとしても変身しきる前に邪魔をされるのは間違いない。
そんな姉の思いを、双子の持つ感応力なのか吟は素早く察知した。
「うっ…、確かにここで変身するのは難しいか……」
となると、この教室から脱出するしか打つ手はない。
だが、廊下のほうからはどこにこれだけいたのか続々と肉人形が教室内へと入ってくる。まるで三年生の生徒全員が肉人
形になってここに迫ってきているみたいだ。
そうなると、脱出する道は窓からしかない。
「キン姉!」
迷っている暇はない!吟は琴の襟首をむんずと掴むと、そのまま窓目掛けて走り出した。もちろん立ちはだかる肉人形を蹴散らしながら。
「ちょっと?!ギンちゃん?!」
「キン姉!飛び降りるからその隙に!!」

"ガッシャァーン!!"

吟の勢いをつけた蹴りで分厚いガラス窓は粉々に砕け散り、その勢いで二人は校舎の外へと飛び出した。
「き、きゃあぁっ!!」
たちまち重力に引っかかり落下する琴は、慌てて体内の『力』を集中しその身を翔儀天使へと化身させた。
その背中に生える純白の羽は空を飛ぶにはいささか無理があるが、高層階からの落下速度を和らげるには充分な能力を持
っており、二人は優雅とまではいかないまでも比較的軽やかに校舎間の中庭に着地を果たした。

窓ガラスが破れたところからは中の肉人形の騒ぎ声や姿が見えるが、さすがにそこから落ちてきてまで琴たちを襲おうと
する輩は出てこない。
「ふう…、とりあえずは逃げられたか……」
「このこと、皆に伝えないとね…。それから…」
吟は上で騒ぐだけの肉人形を見て安堵の溜息を漏らし、琴は溢れる肉人形の群れに不安の声を呟いた。
この時、まさか校内でこれほどの数の肉人形に襲われることなど考えてもいなかったので、琴も吟もそのことだけに頭が
向いておりそれ以外のことに気を配る余裕がなかった。
だからこそ肉人形の群れから逃げられたことを素直に喜び、それに対する手立てにしか頭が働かなかった。
少し冷静になればすぐに思い至っただろう。

同級生で同じ階にいる歩美、喬、圭はなんでこの異常事態に顔を出してこなかったのかを。

「っ!ギンちゃん!」
異変に先に気が付いたのは琴だった。
校舎の陰の一角から突如、肉人形が沸いてくるかのようにぞろぞろと飛び出てきた。その数たるや一学年の数に匹敵するものだ。
「ま、まずいっ!」
吟も琴も慌てて肉人形がいないほうへ駆け出すが、その方向からも同様に肉人形の群れが現れた。完全な挟み撃ちだ。
「ギ、ギンちゃん……」
教室より下手に広いだけに肉人形の密度はさっきの比ではない。これなら教室内で限られた数を相手にしていたほうがま
だ戦いやすいというものだ。
「こ、これじゃあ教室にいたほうがよかった……?!」
その時吟はふと気づいた。教室内での肉人形の密度は廊下側に比べて明らかに窓側のほうが薄かった。廊下から入り込ん
で来ていたから当然のことだと思っていたが、それを差し引いても薄すぎた。
まるで吟たちを窓側に逃げるように誘導させるみたいに…
「まさか……、嵌められた?!」

「ピンポンピンポン。大正解〜〜〜!」

肉人形の群れの中から、どことなく間の抜けた声が聞こえてきた。その声に琴も吟もギョッとなって声の方向へ頭を向けた。
なぜなら、その声はとても聞き覚えのある……
「ちょっ!歩美!!」
「歩美さん……なんですか?!」
「うふふ〜〜、そうだよ。私以外の誰に見えるのかな〜〜〜」
ウジャウジャといる肉人形をかきわけ、二人の前に現れたのは間違いなく二人の仲間である翔儀天使の一人、兵頭歩美だ。
だが、その姿は二人の知っている歩美では決してなかった。
髪はおろか全身の体毛は真っ赤に染まり、同じく赤く染まった瞳からは寒々しいまでの邪悪な光が輝いている。
一糸も纏わぬ体は腹部が異様に膨らみ、まるで妊婦のような外観である。
そして、その全身から漂ってくるあまりにもおぞましい気配。
「な、なによ歩美……、あんた、なんて格好してるの……。それに、そのお腹……」
「い、いえ…。そんなことより、なんで肉人形の中から出てきたんですか…、歩美さん……」
琴も吟もその気配には覚えがある。だが、それを信じたくはなかった。勘違いだと思いたかった。
「なんでって?ふふふっ、もう二人とも分かっているんじゃないの〜?」
が、歩美はそんな二人の心を見透かすかのようにくすくすと笑った。
「見てみてこのお腹ぁ。ここにはね、もうすぐ復活される玉王様が宿っているんだよ。
玉王様を復活させるため、学園のみんなぜぇ〜〜んぶ食べちゃったの。残っているのはもう、琴ちゃんと吟ちゃんだけ」

歩美はさも愛しそうに、膨らんだお腹をすりすりと擦った。まだ少女の面影を残す歩美がみせるその姿は慈愛をはるかに
通り越して異様極まりない。
「じ、じゃあこの皆さんは…、全部歩美さんが……?」
「うん。最初は一人づつ食べていったんだけれど、段々面倒くさくなって触手作って一気に食べちゃった。
どう?見てよこの触手。すごいでしょぉ」
琴と吟が見ている前で歩美の膨らんだ腹がぐにっっと蠢いたかと思うと、ぼたぼたと粘液がこぼれると共に歩美の股間か
ら無数のピンク色の肉触手が溢れ出てきた。
同時に口からも同様の触手が飛び出てくる。
「私ね、玉王様のお力が強くなるにつれていろいろなことができるようになったんだよ。こうして触手を作ることもでき
るようになったし、みんなを操ることも簡単に……。うふふふ……」
「「「うふふふ〜〜〜、ふふふふぅ〜〜〜」」」
口から触手を飛び出させた歩美が低く笑うと、それに釣られて周りの肉人形達も一斉に不気味なコーラスを奏でだした。
「な、なんてことを……」
「歩美……、あんた……」
完全に堕ちてしまっている歩美に、琴は絶望から顔が真っ青になり吟は怒りから真っ赤になった。
「歩美さん、正気に戻ってください!あなたは天使の一人なんですよ。玉王に惑わされてはいけません!」
「このおバカぁ!簡単に玉王に操られちゃうんじゃないわよ!しかも学校をこんなメチャクチャにしちゃって!!」
「…うるさいね。玉王様の素晴らしさを何にも知らないくせに」
琴の懇願も吟の罵声も今の歩美にはどこ吹く風だ。それどころか、二人に向って意地悪そうに顔を歪めた。
「…いいえ、知っているはずだよね。二人とも玉王様のお力に屈した事があるんだからさぁ!」
「「うっ!!」」
そうだ。確かに琴も吟もかつて玉王に天使の力を吸い取られ、身も心も隷属させられてしまった屈辱の経験がある。
あの時は歩美…というか玉王の自爆により助かったが、今回は肝心の歩美が堕ちてしまっている。
「気持ちよかったでしょ?素晴らしかったでしょ?!偉大な力に身も心も屈する快感は!体が蕩けそうになったでしょ!
だから琴ちゃんも吟ちゃんも堕ちよう!『みんな』待っているんだからさぁ!!!」
"ビュルン!!"
歩美の狂気に満ちた笑みに二人の意識が集中している時、不意に二人の背後から粘ついた音が聞こえてきた。
「ハッ!危ないキン姉!」
より歩美のほうに気を取られていた琴の反応は一瞬遅れ、一瞬早く気がついた吟は琴に向って飛んでくる触手を目の当た
りにして力一杯琴を突き飛ばした。それにより琴は尻餅をついたものの触手からは逃れられたが…
「ギ、ギンちゃん!」
「くそっ!離せぇ!」
その代償として吟の腕は触手にがんじがらめにされてしまった。
「あ〜あ、吟ちゃんったら邪魔しちゃって……、せっかく琴ちゃんから蕩かしてあげようと思ったのに。ねえ圭ちゃん」
「うふふ…そのとおりですわ……」
吟を縛る触手の先から聞きなれた声がする。肉人形の群れを掻き分け出てきたのは、無数の胸から吟に向って乳触手を伸ばす圭だった。
歩美と同じく髪の毛を真っ赤に染め異形の触手を伸ばす圭に、琴は更なる驚きに包まれた。
「け、圭さん……あなたも……?!」
「何を驚いているのかな〜琴ちゃんは。『みんな』だっていったじゃない!」
その歩美の声に反応したのか、肉人形の中から次々に見慣れた顔が飛び出てきた。

「うふふ…琴さぁん…吟さぁん……」
口から舌触手を伸ばす兵頭風子。
「すごいでしょぉ…ボクの触手……」
臍触手を揺らめかせる居車喬。
「ふふ…みんなお前達を待っていたんだ…」
猛々しくそそり立つ陰核職種を扱く飛天龍華。
「素晴らしい世界を見せてあげますわぁ……」
ざわざわと髪触手をざわめかせる馬原鶴花。
対数分前まで仲間だと思っていたみんなが、そのいずれもが体毛が真っ赤に染め淫らに表情を蕩かせ、体から生えた触手
を物欲しそうに揺らめかせていた。


「あ、あ、あぁ……」
見知った大切な仲間が、そのいずれもが玉王の手に堕ちていたことを悟り、琴は立ち上がる気力も萎えてぺたりと尻餅を
ついてしまった。その顔には血の気が感じられず、カチカチと歯を不規則に鳴らしている。
「ほぉら、琴ちゃんと吟ちゃん以外はみんな、玉王様にお仕えする性戯使徒に成ったんだよ。だからみんな、琴ちゃんと
吟ちゃんを襲いたくてうずうずしているの。そのために、ここ一週間念入りに準備してきたんだから」
「じ、準備って…、どういうことよ歩美!!」
琴と違い、いまだに気力が衰えない吟はこの絶望的な状況にも関わらず気丈に歩美を睨みつけた。でも緒戦は空元気に過
ぎないことを分かっている歩美はむしろ嗜虐心をそそられているかのようにゾゾゾッと体を奮わせた。
「ふふ…、たくさんの肉人形の中で琴ちゃんと吟ちゃんをグチャグチャに犯してから、その力を吸い取って玉王様をこの
世界に呼び戻す儀式の準備。ここにいる人間(クズ)たちのちっぽけな力なんか比べ物にならない、強大な翔儀天使の力を
ゆっくりたっぷり吸い取るためのね!」
歩美の体から生える触手がわさわさと動き、今すぐにでも琴と吟の体を貪りたいと主張している。それは二人を囲む五体
の性戯使徒も同様で、各々の触手が待ち遠しそうに揺らめいている。
中でも、吟を掴む圭の乳首触手は真っ赤に充血し吟の腕を先端からこぼれる乳液でだらだらと汚していた。
「くそぉっ!こいつめ、離れろぉ!」
怖気を感じた吟が自由になる手で力いっぱい解こうとするが、ぎゅっと絡まった触手は全く離れる気配を見せない。むし
ろ、その力加減がいい刺激なのか、向こうで圭がビクンビクンと体をよがらせている。
「あはぁ…吟さん。そんなに力を入れられては困ってしまいますわぁ……」
そんな圭の姿に淫欲を刺激されたのか、他の使徒たちの触手がにゅるにゅると二人に向って伸びてきた。これに絡め取ら
れたら、おそらく逃げることは無理だろう。
「……キン姉、逃げて!」
少しの逡巡の後、吟はしゃがみこむ琴に怒鳴った。
「ここで二人ともやられたら間違いなく玉王が復活しちゃう。それだけは絶対に避けないと!!だからキン姉、ここは逃げて!」
それはつまり、圭に絡まれてて逃げられない自分を見捨てろと言うことである。確かに現状ではその判断は正しいかもしれない。
でも、そんなことを即断できる琴でもない。
「そ、そんなこと……ギンちゃんを置いてなんて……できないわよぉ……」
どんな時でも、それこそ生まれた時から二人一緒に生活をしてきたのだ。その繋がりはどこの誰よりも深いと自認できる。
それを、片割れが大ピンチのときに捨てて逃げることなど出来ようはずもない。
「私のことはいいの!早く逃げてよぉ!このおバカさぁん!!」
「いやいや!そんなのいやぁ!!」
泣きながら怒鳴り散らす吟と泣きながら頭を振る琴。その姿に歩美たちも一瞬あっけに取られたが、すぐに渦巻く肉欲に
心を塗りつぶされていく。
「安心して…。吟ちゃんにも琴ちゃんにも同様に、肉の快楽を教えてあげるからぁ!!」
目の前の肉を貪らんと、歩美の触手が二人に襲い掛かっていく。無論、それを見て他の使徒の触手も覆い被さってきた。
対する吟は圭によって動きを封じられ、琴は腰が抜けているのか立ち上がることも出来ない。
「キン姉!!」
二人とも逃げられない!そう確信した吟はわざと体のバランスを崩し、そのまま琴へと倒れこんでいった。
結果、そのために琴に向っていた触手は吟によってその進路を封じられてしまい、琴には一本の触手も襲ってくることはなかった。
だがしかし、その代償はまた大きかった。

ドドドドドドドドッ!!

「うぐあぁっ!!」
琴の分の触手をも受け持ってしまった吟は、文字通りその全身を触手によって串刺しにされてしまっていた。それは吟の
淫裂、尻、乳首、臍のみならず鼻、耳、口はおろか毛穴までもあらゆる穴へ余すところなく侵入し、吟の肢体を蹂躙していた。
「あ、あぁ…ギンちゃ……」
「うぐぅ……キ、キン姉ぇ……。よか ったぁ あぁ……」

目の前の妹の無残な姿に、もはや琴はまともな言葉を発することは出来なくなっていた。
でも、そんな琴に対して吟は姉が無事だったことに心から安堵し、精一杯の笑みを浮かべていた。
だが、琴への陵辱を邪魔された使徒たちは面白くない。
「なにすんだよ吟の奴……、せっかく二人とも気持ちよくしてあげようとしているのに……」
「馬鹿なことを……。そんなことをしても無駄だというのに……」
喬と圭の吟を見る目は、決して友人仲間に向けるものではない悪意に満ちたものだ。
今の彼女たちには吟にかつての同士、仲間、友達、後輩などという感情は持っていない。
あるのはただ、獲物を嬲るのを邪魔した小生意気な天使に対する憎悪の念だけだ。
それは、琴を改めて襲うよりもまず吟を徹底的に犯しぬくということに全員が同時に思い至ったことからも明らかだ。
「ちっ…吟の奴…、余計な真似を」
「絶対に許しませんわ…。すこしきついお仕置きが必要ですわね……」
年長の龍華と鶴花が同時に毒づき、それに伴い吟に刺さっている触手が突如乱暴に暴れ出した。
"グリグリィ!!"
「あひっ!!」
体の中を強引にかき回される感触に、吟の顔が苦痛とも快楽とも取れる表情に歪む。ズチッ、ズチッと抽送する卑猥な音
が琴のすぐ上から響き渡ってきた。
「あぁっ!ギンちゃん、ギンちゃん!!」
自分で何とかしなければ、そんな考えも浮かばず琴は目の前で行われる吟の公開陵辱に対しただ声を上げることしか出来ない。
「あぐっ!あぐぅっ!!キ、キン姉……、だいじょ……うぐぅぅ!!」
吟は吟で、琴に心配をかけまいと精一杯の虚勢を張って応え使徒たちからの陵辱に耐えていた。ここで逃げたら使徒たち
の矛先が琴に向うことは間違いない。それだけはなんとしても防がなければならない。
「だ、だから早く……逃げてキンね…あひいぃ!」
「むぅぅ〜〜〜!吟ちゃんめ、しぶとい!!こうなったら、もう手加減しないよ!」
吟の意外なしぶとさに剛を煮やしたのか、歩美は耳に挿入している自身の触手を奥へ奥へとぐにぐに動かし始めた。
「ぎっ?!!」
耳の奥を穿られる感触に吟は苦しげな悲鳴を上げる。
が、それで終わりではなかった。

"ズニュウゥッ!"

これまでの人生で決して感じたことのない異様な感触が吟の『脳内』に電流のように走った。
(ひっ!なにこれなにこれぇ!!)
歩美の触手はどうやったのか、鼓膜を浸透して吟の頭の中へ直接その肉管を伸ばし始めていた。触手が直接脳に弄られる
という不気味な感触が吟の神経にビリビリと伝わってくる。
「うっふっふ…吟ちゃんのお味噌、ぷりぷりしていて超気持ちいい〜〜。でも、本番はこれからよ〜」
しばしの間吟の頭の中の感触を堪能していた歩美は、突如その触手をぐにぐにといじくり始めた。
どこをどうすればいいのかは、体の中に潜む玉王の意識が歩美の脳に働きかけて無意識に理解している。
「ぴっ?!」
吟の体はまるで感電したかのようにビクン!と大きく震え、苦しげだった顔には壊れた笑みがみるみる浮かんでくる。
(あ、あああなにこれ!!頭が、頭が気持ちいい!おかしいよこれおかし…いっ、いっ!いああぁぁうっ!!!)
吟の脳内に入り込んだ歩美の触手が吟の快楽神経を強引に刺激し、閉ざされていた吟の快感への欲求を無理矢理に開花させていった。
「あっ、あひっ!!あきぴっ!いひいぃぃ!!」
琴の目から見ても明らかに、吟の様子が変わり始めていった。それまで必死に琴のことを思っていた面影は既になく、顔
は快楽に蕩け全身は赤く発情し、腰は上と下の穴に穿たれた触手を迎え入れるかのようにぐいぐいとスライドしている。
(き、きもちいい!きもちいいぃ!!ああぁぁあたまがバカになるうぅぅ!!)
今まで嫌悪感と痛みしか感じなかった体中を埋める触手が、脳天が抜けるほどの爽快感と悦楽をもたらしてきている。体
中から体液という体液がドドッと噴き出し、生暖かい滝となって下にいる琴に降りかかってきた。

「キンちゃん……!」
自分の上で今まで気丈に頑張ってきた妹が、突然壊れた笑みを上げて獣のような雄叫びを上げ快楽を貪り始めたことに、
琴は言葉にならない焦燥感を感じていた。
いつも勝気で毒舌家で琴のこともよく馬鹿にしながら、それでいて頼りなげな自分を守ってきた妹が今まで見たこともな
いような淫らな姿を晒していることが琴は受け入れることが出来なかった。
「キ、キンちゃん!キンちゃん!!お願い、しっかりしてぇ!!」
「あっあっあっ!きも、きもきもきもちいいぃぃいぃぃっ!!!」
琴の必死の呼びかけにももう吟は答えられない。吟は脳内で爆発する快楽に完全に我を忘れ、それを感じ貪ることしか出来なくなっていた。
「うふふ…、馬鹿な真似をするからよ、吟ちゃん」
「でも、今の吟はとっても可愛いね。いっつもツンツンしている吟に比べて、よっぽどいいよ」
「もっと、もっと蕩かしてあげますわ。もう元には戻れないくらいに…」
同級生でよく鉢を合わせている歩美、喬、圭は吟の変わりように満足そうに溜飲を下げ、吟の体をグチュグチュとかき回していた。
その度に、吟の肢体はビクンビクンと大きく跳ね、その動きが使徒たちが挿している触手を刺激する。
「うぅん……あ、歩美ぃ……ボ、ボク…」
「お姉ちゃん……、もう、我慢できないかも……」
喬と風子が歩美に切なげな視線を向けた。見ると、他の使徒たちも大なり小なり顔を赤く染め体をぷるぷると細かく震わせている。
「ふふ…、じゃあ一回出してみようか。吟ちゃんの体中の穴という穴にさ」
実際、歩美もそろそろ体の奥からこみ上げてくるものを我慢するのが限界に達しようとしていた。
歩美の許しを得た彼女達は今まで抑えてきたものを一気に解放するかのように体を大きく反らし、欲望の滾りを触手に乗
せて吟に向けて流し込んだ。
そしてそれが吟に達した時、吟の体の中へ大量の淫液がドクドクと注ぎ込まれていった。

"ブシュウウアアアァッ!!"

それは子宮、直腸、乳腺、口内といったところだけではなく、体中に開いた汗腺、そしてもちろん脳内に入り込んだ歩美
の触手からも大量の噴出が起こっていた。

「ぴ、ぴぎいぃぃっ!!」

全身体内はおろか、脳味噌にまで熱い噴流を受けた吟は人間が発したとは思えないような奇怪な悲鳴をあげ、その顔を快
感に戦慄かせながら達し、あっという間に意識を失って琴の上に倒れこんできた。
「ギンちゃん!ギンちゃぁん!!」
琴がいくら呼びかけても吟は全く反応しない。彼岸の果てに魂が吹っ飛んでしまったような呆けた顔をして、四肢をビク
リビクリと痙攣しているかのように時折動かすのみだ。
「ギンちゃん!ギンちゃんしっかりしてぇ!!」
それでも琴は圧し掛かられた吟に向けて必死に呼びかける。するとそのかいがあったのか、吟の顔がピクリと反応した。
「……」
「ギンちゃん!」
琴の顔にパッと明るい笑みが浮かぶ。だが、それも一瞬だけだった。
吟の頭はビクッと跳ねたか思うと喉の奥から何かを込み上げるようにブルブルと震え、次の瞬間吟の口からお尻に挿され
ていた触手が粘液に塗れながらゴボリと顔を出してきた。
つまり、吟の意識が戻ったのではなく単に奥から昇ってきた触手に吟の体が動かされていただけだったのだ。
「ひっ?!」
ぼたぼたと滴る粘液が琴の顔を濡らし、ぱくりと割れた口吻が目の前に迫り、さらその後ろに見える吟の眼が琴の視線と交錯する。
「………」
虚ろな目をして口から触手を吐き出し粘液をダラダラとこぼしている吟の顔は、意識がないはずなのだがなぜか酷く艶かしく見えた。

と、その時、琴の見間違いなのだろうか。
「…………っ」
吟の口元が釣りあがり、琴のことを見てニィッと笑ったように見えた。
「ひぃっ…!あっ………」
それがまるで逃げなかった自分を吟が責めているか。もしくは琴にも自分が受けた悦楽を味あわせたいとでも思っている
のか。いずれとも取れるしいずれとも取れないその吟の笑みに、琴は後悔と自責と恐怖の念がごちゃまぜになり…
折れかけていた心はそれに耐えることは出来ず、意識がスゥッと遠くなっていった。



「うふふ…。これで二人とも私たちの手に堕ちたね…
玉王様、今しばらくお待ちください。すぐに琴と吟の力を奪って玉王様に捧げますから。そうすれば……ふふ」
折り重なるようにして倒れる琴と吟に、歩美が大きくなったお腹を擦りにやつきながら近づいてくる。
「さあみんな、これから宴の始まりよ。偉大な玉王様が、ついにこの世界に戻ってくるのよ!」

「「「「わ――――っ!わ――――――っ!!」」」」

魔界と化した天童学園に響いた歩美の掛け声に、周りの肉人形や使徒たちは震えるような大きな歓声を上げた…



「ふぐぅ――っ!ふぅぅ―――っ!!」

夜のように真っ暗になった空。
互いの体を絡めあう肉人形と化した学生。
所々で蠢くぶよぶよの肉塊。

肉人形や触手が発する淫らな熱気で、もう秋になるにもかかわらず南国にいるかのような蒸し暑さ漂う学園の校庭。
その朝礼台の上で、使徒たちの手に堕ちた琴は鶴花と喬による容赦ない責めに晒されていた。
全裸に剥かれた体には容赦なく触手が纏わりつき、口、膣口、肛門は言うに及ばず尿道や臍には喬の臍触手、外耳や鼻腔
には鶴花の髪触手が潜り込み、今はさらに乳首の先から鶴花の髪触手がその細長い利点を生かしてずるずると侵入してきている。
目と耳すら触手で塞がれ、視覚と聴覚を失ったことにより琴の性感は普段よりさらに大きく増していた。
「琴さぁん…、これから人間同士のまぐわいでは決して得ることの出来ない快感を教えてあげますわ!」
鶴花の眼がギラリと赤く輝き、一本一本の髪の毛の先がしっかりと亀頭状に変化した髪触手が琴の乳首からどんどん奥へ
と進んでいっている。それは琴の細長い乳腺全てに深く潜り込み、ずりずりと抽送を開始していた。
「?!んぐぅぅ!!」
まるで両胸の奥に何千個もの性器が作り出されたような激しい快感に、琴は触手で縛り付けられた頭をがくがくと上下に振っていた。
顔に巻かれた触手の間から、汗と涙と涎が一緒くたになってボトボトと染み出し落ちてきている。正直、このままでは心
が壊れてしまう恐れがあった。
だが、もともと使徒たちはそんな事気にも留めていない。
「ふふふふ…!あちこちから垂れ流しっぱなし…。まるで壊れた蛇口ですわ」
「ほらほら、気持ちよすぎて喋ることもできないのかい?ひひひっ!」
どうせ使徒に成る時には今までの心なんてぶっ飛んで、人間の弱さを亡くした強靭な心を植え付けられるのだ。
むしろ人間の時の心なんて邪魔なものでしかない。とっとと壊してしまったほうがいい。
「喬さん、もっともっと激しくして琴さんの心を完全に壊してしまうのです。頭の中を空っぽにして、玉王様のお力をす
ぐに染みこませられるようにしてしまいましょう」
「オッケー先輩!」
自分たちの欲望を満たすという側面もあるのだろうが、鶴花と喬の責めはさらに増して琴を襲ってくる。あまりの激しさ
に当り一面に琴と鶴花たちの体液が飛び散って肉人形にかかっているくらいだ。
「あはっ!はっ!!いいですわ琴さん!触手の一本一本に、琴さんの肉が纏わりついてきますわ!」
「やっぱり、て、天使の体は最高だよぉ!ただの人間なんか比べ物にならない!」
そのあまりの激しさからか、次第に鶴花も喬もそれまでの邪悪さに満ちた表情から単に肉欲に溺れた牝の表情へと変わっ
ていき、琴の心を壊すという目的を忘れて単に琴の肉を貪るようになっていった。
「う……うぐうぅ……!」
そんな人知を超えた激しい責めに、琴のほうはもう小さい呻き声しか発することしかできなくなっていた。ただ、目元を
鶴花の触手で隠されているために壊れたのかどうかまでは確認できない。
「あぁ……、もう、辛抱できませんわ!」
それまで激しく琴を突いていた鶴花が、全身をがくがくと震わせ目元も虚ろになってきている。そろそろフィニッシュのようだ。
「ボ、ボクも!ボクももう出ちゃ……うぅ〜〜っ!!」
また、喬も鶴花と同じく昂ぶりが限界に達しようとしていた。


「うあっ!」
「あうぅ〜〜っ!!」
"ビュウウウゥゥッ!!"

そして肉欲に任せ一際深く琴の体に挿した瞬間、ついに耐え切れなくなった二人は夥しい量の精液を触手から迸らせた。
「むぐうぅぅっ!!」
喬の触手から出た精液はたちまち琴の子宮と直腸をいっぱいに満たし、臍からは収まりきらない精液がブシュッ!と吹き出してきた。
鶴花が琴に挿していた口からは触手と唇の間からごぼごぼと精液が湧き出し、耳の中までたぷたぷに満たされていった。
中でも、一本一本の乳腺の中まで侵入した髪触手はその一本一本から普通の成人男子が一回に出すのと同じくらいの量の
精液が注入され、胸の体積が一瞬膨張しただけでなく、乳首からまるで母乳のように真っ白な精液が噴出してくる。
「ぐぶっ…ぐふぅぅ!」
精液が気道に行ってしまったのか琴は激しくむせ、咳と共に鶴花の精液が口の間から垂れてきた。息が満足に出来ていな
いのか、触手の間から覗く顔色は真っ青になっている。
「うはぁ……。気持ちよかったですわ、琴さん…」
そんな琴を見て殺してはまずいと思ったのか、それとも散々射精して満足したのか鶴花は琴に挿していた触手を一本一本
ゆっくりと引き抜いていった。
ちなみに喬のほうはまだ出し足りないのか、自らの精液を潤滑油にしていまだにグチュグチュと音を立てながら琴の穴を味わっている。
「げぇっ…げほっ!げほっ……!」
それによりやっとまともに呼吸が出来るようになり、琴は口と喉に絡む鶴花の精液をえづきながら吐き出した。相当な量
を流し込まれたようで、吐き出した精液により琴の下に白い水溜りが出来てしまった。
「あらあら勿体無い。せっかく飲ませてあげたのに……あら?」
顔を真っ赤にしてむせている琴の顔を意地悪く覗き込んだ鶴花だったが、その顔を見て思わず目を丸くしてしまった。
触手に巻きつかれたことで所々が真っ赤に擦れ精液や粘液でべっとりと汚れているが、その目に宿る光はいまだに強い輝
きを放っていた。
とっくに堕ち、壊れていたと思っていた鶴花にとって、これは全く意外なことだった。
「なんですの、その目は……」
鶴花の態度がみるみる不機嫌になっていく。散々嬲り、散々犯し、魂まで汚しぬいたと思ったのに目の前の人間はいまだ
に確固たる自我を保ち続けている。
「不愉快ですわ……。あんなにぐちゃぐちゃにしましたのに、まだ心が残っているなんて……
どうやら、昔の仲間ということで無意識に手加減をしてしまったみたいですね……」
鶴花の髪触手が、まるで蛇のように一本一本ざわざわと蠢きだした。しかも今回はある程度束ねられて触手化しており、
一本の太さが相当なものになっている。
「覚悟なさい……。今度こそ滅茶苦茶に犯し尽くして、いっぱい精液を注ぎ込んでその体をパンパンのザーメン袋にして上げますわ。
そうすれば、クソ忌々しいその心も確実に壊れることでしょうよ……」
鶴花の触手が先端から粘液の糸を引きながら、再び琴の体の中に埋まろうと覆い被さってくる。だが琴はいまだにむせて
いる上に下半身を喬の触手に絡められているためにとても逃げだすことは出来ない。
(こ、このままじゃ殺されてしまいます……?!)
鶴花に明らかに自分に対する殺意を感じ、琴は背筋をゾワリと震わせた。
「あ〜あ、琴が下手に頑張るから先輩本気で怒っちゃったよ。
ま、悪いのは琴だからボクは知らないよ。正直、穴が無事なら琴なんかどうなっても構わないんだし。くくくっ」
琴の穴に抽送をしながら、喬は脅える琴にさらに絶望に落すような言葉を発した。見知った同級生が、先輩が、自分に対
して向けるとはとても思えない態度で接してくる。それが哀しくもあり恐ろしくもある。
「さあ、壊れてしまいなさいな!!」
鶴花が一際大きく叫び、その触手を琴に埋めようとした時、



『やめなさい先輩』

後ろから鶴花を静止する歩美の声が響き、その声にビクッと反応した鶴花はすんでの所で触手を止めた。
「な、なんで……歩美さん、あなた……っ?!」
邪魔されたことに憤慨して後ろを振り返った鶴花だが、歩美の姿を一目見て言葉を失った。
歩美の腹は先程よりもさらに大きく肥大し、体のあちこちに奇怪な紋様が浮かんできている。
が、それより何より歩美の体にまとう気配が先ほどとは段違いに黒く巨大になっている。それはまるであの玉王本人のもののようだ。
「あ、歩美さん……?」
「先輩、琴ちゃんを犯してもいいとは言ったけれど、琴ちゃんを殺してもいいとは言ってませんでしたよね?
あ、言い訳は聞きませんよ。玉王様の下僕である使徒の考えは、今の私には丸わかりなんですから」
歩美はお腹をぽんぽんと叩きながら鶴花をじろりと睨みつけた。その視線の寒々しさは、あの快活な歩美が見せるものとは思えない。
「要するに、私の中の玉王様のお力が大きくなったことで玉王様のお力が私に干渉してきているみたいなんです。
だから、どんなに誤魔化しても今の私には通じませんよ。さあ先輩、そこをどいてください」
「は、はい……っ!」
鶴花はまるで玉王に命令されたかのように、ぴんと背筋を立てて横に引っ込んでしまった。命の危機を脱した琴だったが、
自分に向って進んでくる歩美を見てまたその顔から血の気が引いていく。
「あ、歩美、さん……」
「ふふ…琴ちゃん見てみてぇ、この大きくなったお腹ぁ。もうすぐ、ここから玉王様が蘇られるんだよぉ…」
琴の前で大きく膨れ上がり、真っ赤な妊娠線が幾重にも張っている腹はグロテスク極まりない。が、歩美はそれをさも大
事そうに優しく擦っている。
「これから琴ちゃんの力を吸って、琴ちゃんも使徒に成らせてあげる。そうすれば、これからみんな玉王様の下でいつま
でもいつまでも気持ちよく暮らせることが出来るんだよ?とっても凄いことだと思わない?」
「そ、そんなの…全然凄く、ありません……。お願いです歩美さん、正気に……戻って…」
「………琴ちゃん…」
さっきから散々喬たちに犯されているというのに、まだ正気を保っている琴に正直歩美も驚いていた。琴よりよほど意思
が強いと思う鶴花ですら、そう間をおかずに自分たち使徒の発する淫気に呑み込まれ自ら堕ちていったというのに。
(となると…やっぱ決定的なダメージを与えなければいけないね)
それも、肉体ではなく心に直接与える強烈なものを。
「…ふぅん。まだそんなこと言うんだ。素直じゃないなぁ〜
吟ちゃんのほうは、もうとっくに受け入れているって言うのにさ」
「えっ……?ギン ちゃ……?!」
吟の名前を言われ、琴はビクリと反応した。『もうとっくに受け入れている』とはどういうことか。
いやその意味はもうわかっている。でも、それを認めたくはない。
「ふふっ、吟ちゃんの体ってとっても柔らかくって、生気も舌が溶けちゃうくらいおいしかったのよぉ。
だからもう吟ちゃんは……ほら琴ちゃん向こうを見てみなよ!」
いや、そんなもの見たくはない!
「ん?どうしたの?見たくないの?見ようよぉ!」
「いやぁぁ!そんなの見たくありません!やだやだぁ!見たくないぃ!!」
「ふん、わがまま言ってるんじゃないよ!よっこいしょ、っと!」
吟の姿を見ることを頑なに拒否し掌で顔を覆っていやいやする琴を、喬が琴を挿したまま腰に手を当て強引に持ち上げた。
そのまま喬は朝礼台の端まで進み、腕に触手を絡ませて強引に腕を開かせた。
「ほら見ちゃいなよ琴!大事な妹の生まれ変わった姿を!!」
見ちゃダメだ!すぐに目をつぶらなければ!と思い瞼を閉じようとした琴だったが、それより先に眼下の吟の姿が網膜の
中に飛び込んできてしまった。
「あぁ……ああ!!」


琴が目にした吟。それはもう琴が知っている吟ではなかった。
新たな使徒として生まれ成った性戯使徒・ギンは下半身を風子に押さえつけられ、立ったまま愛撫を受けていた。
「あぁっ!!風子ぉ!気持ちいい、気持ちいいよぉ!!」
雪のように光く輝いていた銀髪は他の使徒と同様真っ赤になり、背中から生えた黒い羽がぱたぱたと羽ばたいている。
半開きなった目には淫欲の光が宿り、股間に埋まっている風子の頭を両手でガッチリと掴んだその姿からは正気は感じられない。
いや、琴に見えるのはそれだけではない。吟の下半身を掴んでいる風子は時折口をもごもごと動かし、その都度吟はビク
ビクと腰を震わせて快感に戦慄いている。
それは明らかに風子が何かを頬張っているように見えた。それも、吟の体から生えたものを。
「んぐ……ふふ……。ぎんふぁん、ふぉんなひもひいいれすかぁ?」
『何か』を口に含んだままクスッと微笑んだ風子は、そのまま顔を吟の股間から離していった。
「?!」
琴はその時風子の口から出てきたものを見てギョッとした。そこに見えたものはピンク色をしたぬめぬめと輝く触手だった。
しかも、それは吟の膣口の中から伸びてきている。
「ああぁっ!!風子、それ気持ちいい!気持ちいいぃぃっ!!」
触手が唇で擦られる感触がよほどいいのか、吟は腰をガクガクと揺らし、今にも腰を抜かしそうに悶えている。やがて、
ちゅぽんと艶かしい音をたてて、優に40cmを超える長い触手が風子の口から出てきた。
「あははっ!吟さんの膣中から出てきた子宮触手、とぉっても綺麗でいやらしい〜〜〜」
そう、それは吟の肢体の奥の子宮口が変化して伸びてきた触手だった。どうやら使徒は体の器官の一部分が触手となって
顕現するようになっているらしく、他の使徒も全てどこかしらが人間を責める触手となっている。
「どうです吟さん。早くその触手で人間を食べたいでしょ?すっごく気持ちいいんですよ。触手で人間の生気を吸うのって」
「…うん。食べたい……。人間食べたぁい……。この触手で、たっぷりねっとり……、ああぁぁ―――っ!!」
人間の味を想像して感極まったのか、吟の子宮触手の先から勢いよく精液が噴き出し目の前にいた風子の顔にべっとりと降りかかった。
「うふふっ、さっきから私の口の中に何回も出しているのにまだ収まらないんですね。そんなに射精するの気持ちいいんですか?」
「うん……、しゃせぇきもちいぃ……。人間も食べたいけど…もっと出したい、ぶちまけたい!どくどくしたいぃ!」
すっかり射精の虜になったのか、血走った目を風子に向けた吟は子宮触手をぐにぐにと動かして、今出したばっかりの風
子の口に再び触手を突っ込んでしまった。
「あはぁっ!やっぱ風子の口いいよぉ!もっともっと私の触手舐めてぇ!お肉かみかみしてぇ!精液飲んでぇ!
うはあぁぁ〜〜〜、気持ちいい〜〜〜〜っ!!」
もはや以前の吟のイメージを全く思い起こさせないまで堕ちた吟は、琴に見られていることも気づかずに風子の口からも
たらされる悦楽に完全に虜になっていた。
「や…やだぁ……ギン、ちゃ……」
目の前でいる妹のあまりに無残な姿。しかも、その原因の一端が自分にある。
「ギ、ギンちゃん…ギンちゃん………」
自分でも抑え切れないほどの自己嫌悪が琴の心を蝕んでいく。正直、自分の肉体がどれほど責められるよりもこの光景を
見せ付けられるほうが琴には響いた。
「いや……ギンちゃ……ぃ  ゃ……」
琴の瞳から急速に光が失われていき、その頭はかくんと力なく垂れてしまった。歩美が俯いた琴の顔を覗き込むと、琴は
何も写さなくなった瞳を大きく見開き、『ギンちゃん、ギンちゃん』とか細い声でうわ言のように呟き続けていた。
「……琴ちゃん。琴ちゃん?」
歩美が話し掛けても琴は全く反応しない。何も見えていないし、何も聞こえてはいないようだ。
「…どうやら、心が壊れちゃったみたいだね」
こんなにもあっけなく壊れたのはむしろ拍子抜けではあるが、下手に抵抗されるよりはまだ都合がいい。
本来ならじっくりと身も心も嬲って心を屈服させ、琴自らが堕ちることを宣言させたかったのだが、そんな悠長に待つ時
間も今は惜しい。
なにしろ、この琴の力を吸ってしまえば待ちに待った玉王の復活が実現するのだから、気長に屈服させるより壊してでも
早く心を開かせたほうが手っ取り早い。


「うふふ。ではいよいよ、琴ちゃんの力いただきま〜〜す!」
歩美は琴の髪を掴んで強引に頭を持ち上げ、ぶつぶつと小声を発している半開きの口に自らの舌触手をつぷりと捻じ込んだ。
「……んっ…」
異物が入ってきた感触に琴が軽く眉をひそめるが、それ以上の抵抗らしい抵抗は見せず歩美の舌触手はずぶずぶと琴の喉
の奥に潜りこんでいっている。
「あぁ…、これでついに玉王様が蘇りなさるんだぁ……いひひひっ!」
「待ち遠しいですわ……。もうすぐ、あのご尊顔を再び見ることが出来るかと思うと……あぁ!」
いまだに琴を嬲っている喬は嬉しさからその突き入れるペースを加速させ、歩美の横にいる鶴花は辛抱し切れなかったの
か股間に指を這わせて手淫を始めている。
「じゃあ琴ちゃん、気持ちよすぎて狂っちゃうかもしれないけれど……、存分に狂ってね!!」
完全に舌触手を琴の中へ埋めた歩美は瞳を金色にギラリと輝かせると、舌触手が琴の体から何かを汲み出すかのようにぐ
びり、ぐびりと蠢きだした。
「うふふ!これで、これでついに玉王様が蘇られるのよ!!琴ちゃんの中にある天使の力、一滴残らず吸い取ることでね!
ああ、安心してね。吸い取った力の代わりに、たっぷりと玉王様の力をあげるから!
そうして、琴ちゃんも玉王様の下僕の性戯使徒に生まれ成らせてあげるよ!!」
嬉々とした表情で歩美は鼻を鳴らせて琴の体から力を吸い出していた。それに対し琴は、ろくな抵抗も見せず歩美の為すがままになっていた。
周りで見ている喬や鶴花の目から見ても、玉王復活はもう時間の問題だと思われていた。
しかし、そこで異変が生じた。
「?!」
愉しそうに舌触手を動かしていた歩美が、突然目を見開いて琴の顔を覗き込んだ。その顔には動揺の様子が見て取れる。
「ん…?!どうしたんだい歩美ぃ」
丁度歩美と挟むように琴を犯していた喬が、歩美の変化に気づいてそれとなく声をかけた。それに対する歩美は戸惑いを
隠せない様子だった。
「喬ちゃん……。なんでだろ。琴ちゃんの力が、吸い取れないの……」
「はぁ?!吸い取れない?何バカなことを言ってるんだ。歩美の舌触手で吸い取れないものなんて……っ!!」
そこまで言った時、喬の体がビクン!と大きく跳ねた。別に快楽を感じたからではない。その顔には、明らかに苦痛の色が浮かんでいる。
「あ……あぁ……」
「ど、どうしたの喬ちゃん?!」
喬の呻き声に驚いた歩美が顔を上げると、なんと喬と琴の繋がっている部分からぶすぶすと煙が上がっているではないか。
喬は急いで触手を琴から抜こうとしているが、それよりも煙の回りのほうが早い。
「あ、あつ……触手が、熱……あがぁ―――――っ!!」
とうとう喬は獣のような叫び声を上げて仰け反り、その拍子に臍触手がビンビンと跳ねて琴の体の中から飛び出てきた。
その先は高熱からか溶け崩れており、周りに肉が焦げる嫌なにおいを振りまいている。
「がぁぁ……っ!」
そのまま喬はひっくり返って倒れ、白目を剥いて失神してしまった。
「き、喬ちゃん!!」
突然のことにびっくりした歩美だが、その時自分の舌触手の粘膜も異様に熱を持ち始めていることに気づいた。
「ま、まずっ!」
歩美は慌てて琴から身を離し、舌触手を一気に引き抜いた。その先端のほうは高熱で白く変色し始めており、危機一髪だ
ったことがよくわかる。
「あつっ……。き、琴ちゃん!!なにをす……」
完全に自我を失っていたと思っていた琴の思わぬ抵抗に、歩美は驚きと同時に激しい怒りが込み上げてきて琴をギロッと
睨みつけ…、凍りついた。
「えっ……?琴ちゃん……?!」
そこには、つい今まで歩美と喬になすがままにされていた琴がゆらりと立ち上がっていた。
しかも、元々白かった肌が鮮やかな白銀色に輝き、意志の光を失っていた瞳は金色の輝きをたたえている。


その姿はどう考えても普通の琴では…、いや翔儀天使の琴ですらない。
「………」
琴が目の前にいる二人の使徒をジロリと睨みつけてきた。その圧倒的威圧感は、まるで玉王に睨まれた感じすらする。
「こ、この感じ……どこかで…」
歩美の足がかたかたと細かく震えてきている。自分は確かにこの力を知っている気がする。だが、思い出そうとすると頭
の奥がズキリと痛んで思考を妨害してくる。
「き、琴さん……。あなたは、あなたは何ですの!!」
その威圧感に耐えられなくなった鶴花が、髪触手を振りかざし一斉に琴目掛けて打ち放った。それは相手を捉えるための
動きではない。明らかに相手を突き殺すためのものだ。
"バチィン!"
だが、鶴花の髪触手は全て琴の目の前で虚しく弾かれてしまった。まるで琴の周りに見えない壁でもあるみたいだ。
「な?!」
驚く鶴花に、琴が手をスッとかざした。すると掌から目も眩むような光量の光球が放たれ、鶴花の鳩尾に吸い込まれていった。
「ぐはっ!!」
その光線に当った鶴花は苦悶の声を上げて朝礼台から吹き飛ばされ、乳繰り合ってる吟と風子のほうへと落ちていった。
下のほうでなにか派手な音が聞こえてきたが、今の歩美にそれを省みる余裕はない。
それだけ、目の前の琴が発する圧力に気を奪われていた。
「琴ちゃん、ううん違う……。あなたは……」
その時、上での異変を察して琴の後ろから龍華が飛び込んできた。鶴花を突き飛ばされたからなのかその顔は怒りで燃えている。
「琴、貴様ぁ!!」
龍華は鋭い爪を振りかざし琴の胸板を貫こうと勢いよく腕を突き出してきた。が、やはりその腕は琴には届かず直前でバ
チンと弾かれてしまった。
「クソッ!なんでこんな!!」
「…少し眠っていなさい」
冷たく言い放った琴の掌からまた眩い光球が放たれ、直撃を食らった龍華はそのまま肉人形の群れの中へ突っ込んでいき
何体かの肉人形を派手に吹っ飛ばして昏倒してしまった。
それを感情の無い目で追っていた琴の腕や腰に、不意にシュルシュルと巻きつくものがあった。
横を見ると勝ち誇った顔の圭が自らの乳触手を琴に絡ませている。
「フフフッ、油断大敵ですよ琴さん。このままその体中の穴に触手を突っ込んであげ…」
「ま、まって圭ちゃん!」
さっきの喬の顛末を知っている歩美があわてて圭に警告しようとしたが、既に手遅れだった。
琴に絡みついている圭の触手からたちまち煙が上がり、高熱により触手はドロドロと溶け出してきた。
「ひぎっ?!きゃあぁ―――っ!!」
刺すような熱の痛みにたまらず胸を抱えてのたうつ圭に琴からの攻撃が容赦なく加えられ、他の使徒と同じく圭も眼下に
吹き飛ばされてしまった。
理性のリミッタ―が外されて以前よりはるかに強力な力を出せるようになった性戯使徒たちをまるで相手にせずにあしら
う琴。その姿を歩美はわなわなと震えて見ていた。
「や、やっぱりあなたは……、いや、お前は!!」
その時、歩美の気配ががらりと変わった。瞳が琴と同じ金色に変わり、体から発する邪悪な気配が何倍にも増して高まっている。
それはまさに、玉王そのものといえるものだった。
「キング!貴様なのか!!」
「…そうです、玉王。これ以上あなたの好きなままにはさせません」
歩美=玉王にキングといわれた琴はそのことを否定せずに歩美に言い放った。
今の歩美が玉王に意識を乗っ取られているのと同様、琴も今は翔儀天使の力の源であるキングジェネラルに意識を奪われていた。
「ふん!普段は決して表に出てこない臆病者の貴様が出てくるとは、そんなに自分の持ち駒が俺に奪われるのが嫌だったのか?
所詮駒は駒だろうが」


歩美=玉王はここぞとばかりに琴=キングジェネラルを罵倒した。
同一の力を持つキングと玉王は、どちらも相手を直接倒すことが出来ない。そこでキングは玉王に自分の力を分けた人間
を差し向け、自分以上の力を玉王にぶつけることで玉王を押さえ込もうとしてきた。
だから玉王にしてみれば、ここでキングが自分の前に出てきたのは、最後に残ったキングの力の持ち主である琴を玉王に
奪われたくないためにへっぴり腰を上げてきたようにしか見えなかったのだ。
だが、そんな歩美へ向ける琴の目は相変わらず表情の感じられない怜悧なものだった。どうやら歩美の罵声など気にもめていないようだ。
「…何か勘違いしているみたいですね。あなたは決して琴の力を奪うことは出来ません」
「なに?!」
意外なことを口走り始めた琴に歩美は目を丸くした。決して力を奪えないとはどういうことだ?
「この琴の持つ『金』の力は決して外からのあなたの力に侵されない特性をもっています。つまり、琴を外部から汚して
使徒に堕とすことも琴の力を吸収してあなたが復活することも叶わないのです。
そして、琴が汚されそうになったときのみ私はこの世界に顕現することが出来る。あなたがこの子の体を狙った時点で、
あなたの敗北は決まっていたのです」
「な、なんだとぉっ?!」
とんでもない事実を突きつけられ、歩美は滑稽なほど狼狽した。いや、玉王がと言うべきだろうか。
玉王はぎりぎりと歯軋りをして悔しがっていた。目の前に見えていた肉体の復活が、決して叶わない夢だと知ったショッ
クは相当なものだったのだろう。
「ち、畜生…キングぅ……姑息な手を使いやがってぇ……。外からはそいつの力を吸う事は出来ねえだとぉ…。だったら!!」
その時、怒りと悔恨で真っ赤になっている歩美の目がギラリと光った。と、同時に歩美の膨らみきったお腹が急激にしぼみ、
下腹部から薄いもやのようなものが飛び出してきた。
「う……うはぁぁぁ……」
歩美は苦しそうに顔を歪めながら下腹からもやを吐き続け、完全にもやが出きったあとにドサリとその場に崩れ落ちてしまった。
そして、漂うもやは次第に人の形をとり、玉王本人へと姿を変えていっている。ただ、その体はあくまでももやだ。
歩美達天使の力を吸い続けてなんとかこの世界に顕現するまでにはなったが、やはり琴の力も奪わないと実体化までは至らないようだ。
そして、ある程度の形を取った玉王は、そのまま琴に向って猛スピードで突進していった。
「だったら琴の体を乗っ取ってやるうぅぅっ!!」
ある意味、これは無謀な行為と言える。琴の体の周りには、先ほどから使徒の攻撃を悉く退けてきた障壁があるから突進
するだけ無駄なのは普通に考えれば明らかだ。
だが今の玉王は怒りで頭に血が上り、そんな分別すら失っていた。
ところが、玉王が琴の体に触れた時、玉王は弾かれることはなくそのまますぅっと琴の体の中へ潜りこんでいけてしまった。
『ハハハハッ!!どうだキング!このままこいつの体の中から力を吸い取れば、俺は復活することが出来るぞ!!』
琴の体の中から玉王の勝利を確信した笑い声が聞こえてくる。確かに外部からの侵食ができないなら、内側から攻めるの
は道理に叶っている。
でもそれはキングも十分承知のはずだ。なら、なぜ簡単に玉王の侵入を許したのか。
「…ひっかかりましたね、玉王」
その解答をキングは口開いた。
「これであなたはもうこの体から逃げ出すことは出来ません。あなたは私の体の内に閉じ込められたのです」
『はぁ?!』
つまり、キングはわざと玉王を体内に受け入れ、その逃げ道を閉ざしたのだ。
だが、これだけでは単に玉王を閉じ込めただけにすぎない。そして、玉王と同じ力を持つキング自身では玉王を滅ぼすこ
とができないのも前述の通りだ。
『…お前はバカか?!こんなことをしてもお前が俺を倒せない以上、俺はゆっくりと中から琴を乗っ取ることが出来るんだぞ?!』
「ええ。私自身ではあなたを滅ぼすことは出来ない。あなたを滅ぼすことが出来るのは、私の力を受けた翔儀天使たちだけ」
『ああそうだ!だがお前の天使はこの琴を除きすべて俺の使徒として生まれ成っている!つまり、俺を滅ぼせるものはいない!!』
「いいえ、琴だけではありません……。目を覚ましなさい、歩美!」
琴が凛とした声で傍らに倒れている歩美に呼びかけ、その掌から放たれる白い光を浴びせ掛けた。


すると、完全に意識を失っていた歩美の指がピクリと動き、頭を抱えながら歩美がフラフラと立ち上がってきた。
「……あ、あれ……、私……」
起き上がってきた歩美の髪の色は次第に赤から昔どおりの黒髪に染まり、狂気と獣欲で緋色に輝いていた虹彩も元の茶色に戻っていた。
「私……確か…玉王……に…!」
起き抜けの時ようにうまく働かない頭がゆっくりと回り、歩美はここ数日自分がしてきた行いを次第に鮮明に思い出して
まずは羞恥で赤く染まり、次に絶望で真っ青になった。
「や、やだ……私、なんてこと……」
自らのしたことに脅え、後悔し、気を落すその姿は、ついさっきまで玉王を復活させることにこの上ない悦びを感じ、臨
月のように腹が膨らませていたことを全く想像させることのないものだった。
『あ、歩美!きさまキング!歩美に何をした!!』
「私はあなたと同じ力をもっているのですよ?あなたが天使を使徒に成らせることが出来るように、私も使徒を天使に成
らせることが出来るのは分かっていることでしょう?先ほどまでは歩美の体の中にはあなたがいたためにさすがに成らせ
ることは出来ませんでしたが、今の歩美なら天使に成らせるのは造作もないこと」
『?!』
そう言われてみれば、周りで気を失っている他の使徒たちも全て元の人間の姿に戻っている。玉王が直接力を吸わないと
使徒に成らすことが出来なかったのに、キングは光を放つだけで天使に成らすことが出来たのは、単純に今の玉王の力が
戻りきっていない差であろう。
『し、しまったぁぁっ!!』
「歩美!後悔するのは後にしなさい!今は、玉王を倒すことのみを考えるのです!」
その場にぺたりと蹲る歩美に聞こえてきた叱咤の声。その声に促された歩美が力なく顔を向けた先には、白く光り輝く琴
が自分のほうを向いて立っていた。
「え……琴ちゃ…?!いや、違う…この力…」
琴から発せられる力、玉王に体を乗っ取られていた時は玉王の力に邪魔されてはっきりと感じ取ることは出来なかったが
今の歩美にはかつて自分に天使の力を分け与えたキングジェネラルのものだということがはっきりと理解できる。
「歩美、仇敵玉王は今私の体の中に閉じ込めてあります。今のうちにあなたの力で、玉王を完全に滅するのです!」
『や、やめろ歩美!貴様に与えた至高の快楽、あれを再び味わいたくはないのか?!いま少し、いま少し待てばこいつの
体を乗っ取ることが出来る!そうすれば俺は完全に復活し、この世を淫乱と悦楽の園に変える事が出来るぞ!』
琴の体から相反する二つの声が聴こえて来る。かたや自分を諭す声。かたや自分を誘惑する声。
玉王の依代とされていた時の悦楽は、未だに記憶の中に鮮明に残っている。あの時歩美は確かに魂まで溶けそうな快感を
味わい、それに溺れていた。
でも、だからと言ってそれを望む…、ということは当然なかった。
「玉王……」
歩美の目に怒りの炎が燃えがって入る。自分が玉王の手先にされた事に対する屈辱もあるが、自分の手で仲間や学校をメ
チャクチャにさせたことに対する怒りのほうがさらに上回っていた。
「玉王!今度こそこの世界から完全に消滅させてやる!!」
歩美の怒りが炎となって歩美の体を覆い、久しく着けていなかった翔儀天使のコスチュームとなって顕現する。赤い天使
となった歩美は、そのまま拳をぎゅうぅっと力強く握り締め、琴へ向って突進していった。
『うわ、うわわっ!!やめろ歩美!やめろやめろやめろぉ!!』
退路を立たれた玉王は、琴の体の中からただただうろたえた悲鳴を上げることしか出来なかった。そして、そんな言葉に
従う歩美でもなかった。
「消え失せろおぉっ!玉王ぉぉっ!!」

"ドスン!"

歩美の燃える拳が琴の腹へと吸い込まれていき、強烈なインパクトと共に炎の幻影が琴の背中から飛びぬけ、その拍子で
琴の体から玉王の幽体も飛び出してきた。


『グオオオオオォォッ!!』
玉王の体は実体がないにも関わらずメラメラと燃え、次第に大気に拡散し始めていっている。その顔は苦痛に歪み、恨み
がましい目で歩美と琴を睨んでいる。
『お、おのれ歩美、おのれキング!!お、俺は俺は俺は俺は俺は俺はあああぁぁぁぁっっ!!!!!!』
断末魔の悲鳴を上げながら玉王の体はみるみるうちに薄くなり、やがて完全に消え失せてしまった。
「はあっ、はあっ……、こ、これで玉王は……」
「有難うございます歩美。これで今度こそ今回の玉王は完全に消えてなくなりました」
全身全霊の一撃を叩きつけへたりとしゃがみこむ歩美に、琴=キングがねぎらいの言葉を投げかける。
「ですが、いつかまた玉王は蘇ってきます。これは光である私の暗黒面として玉王が存在する以上、仕方のないことなのです。
ただ、それがまたすぐという訳ではありません。少なくとも、あなた方が生きているうちに玉王が体を取り戻すことはないでしょう。
そういう意味で、あなた方が対峙していた玉王は消え去りました」
「消えた……本当に、玉王が……」
つかれきった歩美の顔に、達成感から繰る爽やかな笑みが浮かんできている。
「ですが、この世界には……玉王以外の……脅威もたくさ…ん、ありま す」
これからも……強い意志 を失わ  ず に、世界のへい わを………」
ドサリ
「えっ?!うわっ琴ちゃん?!」
それまで饒舌に話していた琴がいきなり意識を失って自分に倒れ掛かってきたので、歩美は慌てて琴の体を受け止めた。
歩美の腕の中にもたれてきた琴の体は光ってはおらず、それまであった超然とした気配も感じられない。
「…ん、あ、歩美さん……?」
気がつき、うっすらと開いた瞳の色も元の濃いブルーに戻っていた。顕現する理由がなくなったキングは琴の体から抜け
ていってしまったようだ。
「歩美さん……あなた元に……?みんなは……、玉王は……?」
どうやら琴はキングに憑かれていた時の記憶は残っていないらしい。きょとんとした目で歩美のほうを見る琴を歩美はぎゅっと抱きしめた。
「終わったよ、琴ちゃん。みんな、みんな終わったんだよ……」
琴を抱きしめている歩美の目からは、本人も気づかないうちに涙が溢れていた。


☆エピローグ


その後、玉王が消滅したことによって肉人形と化した生徒たちも元に戻り、学園にも7人+1人の天使たちにも元の日常が戻ってきた。
もちろん天使たちに性戯使徒と成って仲間や学園の皆を陵辱した忌まわしい過去の記憶は残っているが、それも結局は自
分たちの心の弱さが招いたことと感じ、未熟さを恥じる一方で今後二度とこんなことがないようにと決意を新たにしていた。
しかし、歩美だけはそうはいかなかった。
皆の前では以前と変わらず快活に振る舞おうとしてはいるものの、やはり自分が大本となって仲間を使徒に堕とし、学園
全体を淫獄と化したという事実が歩美の心に暗い影を落としていた。
圭たちも、歩美が無理をしているのが分かってはいるのだが、下手な言葉は慰めになるどころか歩美の心の傷を深めるば
かりだと分かっているので、あえてそのことに言及はせず歩美自身の力で立ち直るのを待っている状況だった。
でも、それが三週間も続けばさすがに口を出さずに入られなくなる。
放課後、一人でとぼとぼと家路を進む歩美に、見かねた琴と吟が後ろから追いかけてきた。
「歩美さん、待ってください!」
「少しはこっちを向きなさいよ!無視するなっつぅの!!」
後ろから琴と吟の声が聞こえるが、歩美がその足を止めることはなかった。
琴と吟が自分を心配してくれていることは痛いほどわかる。自分がいつまでも腐っていることで、みんなに迷惑を掛けて
いることも自覚している。


はやく立ち直らなければならないというのは充分に理解している。のだが、自分が行ってしまった数々の淫行を思い出すと
どうしても鬱になってしまう。
「お願い…。お願いだから、もう少し私のことはほうっておいて……。必ず、必ず立ち直るから……」
「そんなこと言って、もう一ヶ月近くになるじゃないのさ!!」
明らかに怒った声で、追いついた吟が歩美の肩を掴んできた。そのショックで、歩美の体がビクン!と跳ねる。
「触らないで!!」
自分に触れると吟が穢れてしまうような錯覚を覚え、歩美は吟の手を叩いて除けようとした。が、それより前に琴の腕が
歩美の体を抱きしめてきた。
「歩美さん!お願いです、もう自分を責めるのはやめてください!見ているこっちまで辛くなってしまいます!」
「放して、放して!」
なんとか二人を振りほどこうともがく歩美を、琴と吟は放すまいと必死に抱きしめていた。
「あれは仕方がなかったのです!歩美さんが悪いわけではありません!」
「過ぎたことはもういいじゃない!時間が巻き戻ってなかったことになるはずがないんだから!」
「でも…でも私、皆にひどいことしたんだよ?!玉王のいいなりになってみんなを襲って……たくさんたくさん…エ、エ
ッチなことして、使徒にしちゃったんだよ?!」
「ですが歩美さんは玉王を倒して皆を助けたではありませんか!」
「!」
皆を助けた。その一言は荒みきった歩美の心にズキンと響いた。
「歩美さんが玉王を倒さなかったら、今でもみんな玉王の奴隷……いや、下手をするとこの町全てが玉王の手の中に落ち
ているかもしれません!
歩美さんは皆を助けたのです!これは紛れもない事実なのですから!」
「私が……みんなを、助けた……?」
この言葉は歩美にとってまさに救いだった。今までは自責で潰されそうになっていた心が、みんなを助けたという思いに
よって少しづつだが枷が外れていっているような感じを受ける。
「そ、そうなの、かな……」
歩美の顔に僅かだが笑みが戻っている。それはそれまで皆に見せていた無理矢理作った笑顔ではなく、歩美本来が持っていた笑みだ。
「んっ?ようやっと元の歩美のバカ顔に戻ってきたかしら?」
「ギンちゃん…こういうときに茶化してはいけませんよ……」
歩美の顔を覗き込んで意地悪く笑う吟とそれを嗜める琴。それを見ていると歩美の心のつかえも幾分和らいでくる感じがした。
「ごめんなさいね歩美さん。ギンちゃんが無作法なことを言って……」
「い、いいよ琴ちゃん…。吟ちゃんも私のことを思っていっているわけだし……」
「そういうことそういうこと。軽いジョークなの気にしない気にしない」
あくまで茶化した態度を崩さない吟だが、歩美を心配していてのものというのは歩美も理解しているので気にはしていない。
むしろ、そういう軽い態度を取ってくれることが歩美にとっては嬉しかった。
「歩美さん、先ほども言いましたがあれは仕方のないことだったのです。
過ぎたことを後悔せず、明日に向って歩いていきましょう」
「うん……、ありがとう琴ちゃん、吟ちゃん」
二人に向って改めて御礼を言った歩美の顔には、さっきまであった暗い影は薄れていた。まだ多少割り切れないところが
残っていそうだが、これなら日を重ねていけば完全に消え失せてしまうだろう。
「もう私、悔やんだりしない。忘れることはできないけど…、もう二度と、みんなをあんな目にあわせないようにがんばる」
「…それでこそ歩美さんですわ」
「やぁっとそこに気がついたか」
琴も吟も、歩美の決意を聞いてようやっと胸を撫で下ろした。
「じゃあね琴ちゃん吟ちゃん。また明日学校で!」
「えぇ。また明日……」


二人に向って深々と頭を下げた歩美は、そのままパタパタと走っていってしまった。琴と吟は歩美が見えなくなるまで、
その場で手を振っていた。
「……行ってしまいましたね、ギンちゃん……」
「うん……そうだ ね……」
歩美を見送っていた琴と吟だが、突然吟はふらりと体を崩し琴のほうへもたれかかってきた。その顔は真っ赤で、辛そう
に荒い息を吐いている。
「ん?ギンちゃんどうしました?」
「キ…キン姉……、わかっているくせ、にぃ……。今まで、歩美の前だからずっと我慢、してきたのよぉ……
は、はやくぅ……」
まるで何かを急かすように濡れた瞳で吟は琴を見つめている。それを眺める琴の表情は、先ほどまでと違い酷く淫靡に感じられた。
「うふふ、仕方がないですねぇギンちゃんはぁ……」
大きく開いた口から舌を伸ばしてせがむ吟に、琴はその顔をゆっくりと近づけていき、その唇を吟の唇へ重ねていった。
「んむっ?!」
その瞬間、吟の顔は幸せそうに蕩けうっとりとした目は虚空を彷徨い始めた。
「んっ、んっんんっ………」
吟の口の中で何かがもごもごと蠢き、その度に吟の表情が悦楽に歪む。明らかに道中ということを忘れ、吟は琴の為すが
ままにされており、暫くの間重ね合わせていた琴の唇が堪能しきったのか吟の唇から離れた。
「んふふふ……」
そして、ぷちゅりと唾液の糸を引いて離れた唇の間から飛び出てきたのは明らかに人間の長さとは思えない舌だった。
ぶよぶよとしたピンク色の舌は意思でもあるかのようにぐねぐねと蠢き、その先には蛭の口のような口吻がパクパクと息づいている。
その形状は紛れもなく、歩美が玉王の使徒に堕された時に変化した舌触手だった。
「……んぱぁっ」
完全に吟の口から飛び出た舌触手に、吟は名残惜しそうにピチャピチャと舌を這わせていた。その瞳からは光が失われて
おり、意思のない人形のようにしか見えない。
「…ふふ……。そうなんですよ歩美さん。あれは仕方がないことだったのです。
玉王様のお力に逆らえる人間など、いるはずがないんですから……」
不気味に微笑む琴の瞳と髪は、血のような真っ赤な色になっている。その姿は紛れもなく、性戯使徒のものであった。
『ぐふふふ…。経過は順調なようだな…』
琴の心の中から不気味な、それでいて絶対の支配力を持つ声が聞こえてきている。言うまでもなくその声の主は、約一ヶ
月前に歩美によって滅ぼされたはずの玉王のものだった。
あの時、確かに玉王は歩美の炎によって燃やし尽くされたはずだし、玉王自身も覚悟を決めていた。
しかし、玉王が気づいた時、非常に力は弱まってはいたものの玉王は琴の体の中に残されたままになっていた。
なぜなんだろうか?と玉王は疑問に思っていたが、ふとある決まりを玉王は思い出した。
それは、『歩の力を持つ天使では決して王に止めをさせない』ということ。それだからこそ、最初に歩美の力を吸って自
爆したときも完全に滅びはせず、逆に歩美の体を支配することが出来たのだ。
あまりにも古い決まりであり、おそらくキングジェネラルも失念していたのであろう。
結果、玉王はその後二週間かけ、他の天使にもキングにも気取られぬようにじっくりじっくりと琴の体内から堕としていき
その体を使徒に成らせることが出来た。
今の琴の胸には以前の歩美と同じく『玉』の印が浮かび上がっている。これこそ、体内に玉王を宿している証であり、琴
が玉王の忠実な下僕である性戯使徒に生まれ成った証拠であった。
『今度は以前のような失敗はせぬ……。誰にも気づかれぬよう、じわじわと天使どもを使徒に変えてくれるわ……
我が下僕、琴よ、お前に与えた力で今度こそ全ての天使を使徒に堕とし、俺の体を蘇らせるのだ。
さすればお前に、永遠に続く闇の快楽を与えてやる……』
「承知いたしました。玉王様……。フフフ…」
心に響く玉王の声に、使徒となった琴はこくりと頷いた。


「キ、キン姉ぇ……私、もう我慢できない……。欲しい、生気が欲しいよぉ…」
熱そうに服を捲り、はだけた胸から『全』の印を浮かび上がらせた吟は、薄笑いを浮かべながらスカートをたくし上げた。
そこから見えるびしょびしょに濡れた内股の間からは、ずるずると伸びた肉色の子宮触手が顔を覗かせている。
やがて、雪のような銀髪がうっすらと赤く染まっていき、吟もまた性戯使徒へと姿を変えてしまった。
「ふふっ、吟ちゃんもすっかり元に戻りましたね。とても悦ばしいことです。
じゃあ、帰りがけにちょっとつまみ食いでもしていきましょうか。でも吸い尽くすのはダメですよ。
まだまだ皆さんに気づかれるわけにはいきませんからね…」
「うん…うん!わかったから、わかったから早くぅ……」
子宮触手を切なそうに扱く吟の腕に手を回し、琴たちは裏道へと消えていった。
歩美達翔儀天使への終わったと思われていた淫の連鎖は、形を変えて再び始まろうとしていた…


性戯使徒アユミ 終


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