09-50 それぞれのそれから
翌日、24日。
朝食を大急ぎで済ませた仁は、まずカイナ村へ跳んだ。報告のためである。
マーサの家へ行くと、ちょうど起きたハンナが顔を洗いに出てきたところだった。
「おにーちゃん!」
仁を見つけたハンナが駆けてきて飛び付いた。仁はそんなハンナを抱き上げる。
「おはよう、ハンナ。ちゃんと終わらせてきたよ」
「おはよう、おにーちゃん! じゃあ、もうどこへも行かない?」
仁はハンナをそっと地面に降ろすと、
「うーん、後片付けがあるから、あと1日、待っていてくれるかい?」
「えー……」
そんな話をしていると、声を聞きつけてマーサ、エルザ、ミーネも出てきた。
「お帰り、ジン」
「マーサさん、ただいま。エルザ、ミーネ、ただいま」
「お帰りなさい」
「お帰りなさいませ。ご無事で何よりです」
仁は、全員に向かって、統一党を無力化したこと等を簡潔に説明する。
「あとは、統一党の再編成というか、無力化した統一党に償いをさせようと思うんだ」
主席、第2席が洗脳されていたことを説明する。エルザは多少知識があったのですぐに納得したし、ミーネも心当たりがあったので理解は早かった。
マーサはなんとなくしかわからなかったようで、ハンナに到っては言わずもがな。
「まあ、とにかく今日1日、いろいろと後片付けをしてこようと思うんだ」
そんな仁の説明に、ハンナも渋々頷いたのである。
* * *
「さて、それじゃあまずエレナ、お前の役割だ」
蓬莱島に舞い戻った仁はエレナを呼んだ。
「はい、ごしゅじんさま。何をすればいいでしょうか」
「お前はこれからしばらく、統一党の顧問として、その組織の解体と再生をだな……」
『エレナさん、必要に応じて私も手伝いますので……』
と、老君にも補足してもらいながら指示を出した。
「それではごしゅじんさま、行ってまいります」
ファルコン4に乗り、アスール湖の浮沈来基地経由でエレナは統一党本部に戻る。
そこには(元)主席ジュール・ロランと第2席ドナルド・カロー・アルファがいる。
2人とも死にかけたり衝撃の魔法を受けたりで洗脳は解けている。
また、元破壊姫であるエレナの記憶には潜在意識誘導の魔法についての情報もあった。もちろんその解き方も。
「うまくやってくれよ……」
研究所裏手の巨大転移門に消えるファルコン4を見て、仁は成功を祈った。
仁の目算としては、以下のようになる。
元々統一党の理念は魔導大戦前のディナール王国を再現することだった。それが黄金の破壊姫によって、大陸の統一へとすり替えられたのである。
そこで、TOP2が正気に戻った事を使い、幹部から平党員にいたるまでの洗脳を解き、無害な集団にしてしまおうというのだ。
その際、破壊姫が教えた過去の技術以外にも幾つかを与えて求心力にするつもりであった。
具体的には『魔素通話器』を考えている。これは言うなれば魔素通信機の劣化版で、無線ではあるが、特定の相手とだけ通話できる通信機である。
その大きさも、だいたい大きな机くらいで持ち運び出来るものではない。魔素通信機のように相手を選択することも出来ない。が、各国首脳間のホットラインになら十分使える。
これの更に劣化版というか、小型だが有効距離の短いものは統一党でも破壊姫と主席の間で使われていたようだ。だから特に広めて不味い技術というわけでもない。
こういった技術は、新生統一党の求心力にすると共に、周辺国家への詫びも兼ねることとなる。
ジュールやドナルドがどんな形で謝罪をするつもりかまではわからないが、その時にこの技術を供出することで、少しは罪滅ぼしになるだろう。
「しかし、でかいな……」
老君が試作したという魔素通話器は本当に机くらいある大きさであった。
「長距離を繋ぐと言うことは大変なんだな」
大きくなっている原因は、たくさんのパートに分かれているからである。そのパートの一つ一つが高度な魔導具なのだ。
あらためて、自分が作った魔素通信機の到達距離に感心する仁であった。何せこの星の裏側まで届くのだから。
「そうしてみると、俺の作った方は魔力素でなく自由魔力素使っているんだろうな……」
古代遺物である魔導投影窓を解析してその方法を応用した時には気が付かず、うっかり魔素通信機と名付けてしまったが、実際には自由魔力素通信機とでも言うべきだった。まあ、語呂が悪いので今のままでいいと思っているのだが。
余談だが、小型化には、漢字使用が大きな貢献をしている。言霊でもある魔法語は、表音文字よりも表意文字で書くと効果が数倍になるのだから。
閑話休題。
統一党についてのサポートは老君に頼むとして、各国への補助が残っている。
これは別に仁が悩むことではないのであるが、介入が遅くなったために犠牲者や被害が出ていることから、何らかの援助をしたいと思っているのだ。
「偽善でもやらないよりいいよな……」
ということで、まずは一番の被害国と思われるエゲレア王国に、資材として溶けたゴーレムから作ったインゴットを贈ることにしたのである。
その量、鋼鉄がおよそ200トン、青銅が200トン、軽銀が50トン。アダマンタイトとミスリル少々。時価にして約1500億トール。
同様に、クライン王国テトラダにもその半分を寄贈する予定。
加えて、押収したエルラドライトの中で、国の刻印が刻まれているものはその国に返す事にした。エゲレア王国へは15個、クライン王国には10個である。
セルロア王国とフランツ王国、それにエリアス王国の刻印はなかった。
これら全て、溶けたゴーレムからの素材なので、蓬莱島の懐は痛まない。かかる手間だけである。
エルラドライトも、刻印無しのものが41個、仁の手元に残った。十分である。
夜中に、消身機能を追加したペリカン数機を使って運び込んでしまう予定。
朝になって驚く資材倉庫管理官の顔を思うと笑いがこみ上げてくる仁であった。
* * *
「……いつになったら出発できるんだ」
帰国途上のラインハルトとフリッツ達は、セルロア王国内のごたごたとかで、更に足止めされていた。
* * *
『御主人様、統一党の傀儡を教えた各国首脳部の対応ですが』
今、仁は老君からの報告を聞いている。今朝、第5列からもたらされた最新の情報だ。
『クライン王国、エゲレア王国は傀儡とみなされた者をとりあえず更迭しました。セルロア王国はまだもめているようです』
セルロア王国は統一党が最も深く根を下ろしていた国であるから無理もない。
『派遣した軍は全てそれぞれの国へ引き上げました。国境線は元に戻ったようです』
それでも、侵略したされたと言う事実は消えるものではない。謝罪や賠償金などのやりとりは各国でやってもらうとして、仁が気にしているのは一般人のこと。
「庶民の被害状況は?」
『はい、僅少だそうです。事前に避難を始めていたので庶民には死者はいません。重傷者が計24名、軽傷者が249名』
「重傷者にはこっそり回復薬与えたいな」
『はい、可能です。今夜第5列に指示を出しましょう』
「うん、そうしてくれ」
これで仁もかなり気が楽になった。
「あとは、やっぱり知り合いの様子が知りたいかな?」
そう呟くと、老君はすぐに反応。
『はい。わかっている範囲ですと、クライン王国のリシア・ファールハイトさんはテトラダにいらっしゃいます。救護騎士隊として頑張ってらっしゃいます』
あのリシアが、と仁は思う。やりたいことが見つかったのだろうか。
『ビーナさんとクズマ伯爵ですが、伯爵は出兵に加わってらっしゃいましたものの、紛争が終結しましたのでブルーランドに戻られたそうです』
そろそろ結婚式だろうか、と考える仁。
『ポトロックのあるエリアス王国は今回の騒動とは無縁なようです』
マルシアは頑張っているだろうな、と仁はポトロックでの日々を懐かしく思い出す。
『エゲレア王国首都アスントの混乱はまだ続いているようですが、収束に向かい始めているとのこと』
アーネスト王子やライラとのやり取りは楽しかったなあ、と仁は思い出して笑顔になる。
『以上です。なお、セルロア王国のテルルスは今のところ封鎖されており、人の出入りは出来ません』
テルルスと言えば、治癒師のサリィはどうしているだろうか、と思い出す。
「そういえば、シーデたち一家もまだいるんだろうか」
『あ、その方達でしたら紛争前に帰国されているようです。第5列のカペラ3がディジールで見かけたそうですので』
「そうか、それなら良かった」
まだいろいろ気になることはあるが、とりあえず打てる手は打った、と仁は肩の力を抜く。
そこへ礼子がシトランジュースを持ってやって来た。
「お父さま、一休みして下さい」
「ああ、ありがとう」
良く冷えたジュースを飲みながら、ようやく訪れそうな平穏と、これからのことに思いを馳せる仁であった。
これで9章は終わります。閑話を挟んで新章突入!
お読みいただきありがとうございます。
20131102 19時26分 表記修正
(旧)早めの朝食を済ませた仁は
(新)朝食を大急ぎで済ませた仁は
気が急いている表現なのですが、早めの朝食だと、カイナ村に着く時間が少しおかしい(時差の関係)ので表現を変えました。
20131103 13時12分 誤記修正
(誤)元々統一党は魔導大戦前のディナール王国を再現することだった
(正)元々統一党の理念は魔導大戦前のディナール王国を再現することだった
「理念」が抜けていました。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。