問 日本は簡単に比較的高度な治療が受けられるから、そこに安心と期待が集中してしまい、病気は自分で治すという基本が疎かになって、お医者さん頼みになってしまうというわけですね。
米国でバラク・オバマ大統領が苦労しているのは、これと正反対のことですよね。日本には世界に誇れる保険制度があるけれども、寿命が延びたことで弊害の方が大きくなってきたということでしょうか。
人間の寿命が延びて西洋医学だけでは解決が難しくなった
答 西洋医学は急性疾患や感染症などの原因究明と治療方法の開発によって発展してきました。その半面、生活習慣病などの慢性疾患や原因不明の病気には治療方法が見つからないという例が少なくありません。
先進国では寿命が延びた結果、実は生活習慣病など治療方法が見つからない疾病が大きな問題となっているわけです。ですから、現代の病気は医者に頼っているだけでは解決できないのです。
欧米では、伝統的な西洋医学におけるこのような欠点を補うために、最近は相補・代替医療が盛んに行われるようになってきました。相補・代替医療とは、人間が本来持っている自然治癒力を使って治療しようという方法です。
問 川嶋先生は、米国に渡ってハーバード大学医学部に留学されています。西洋医学の粋を身につけてこられたわけですが、その経験から逆に西洋医学だけに頼るのは危険だと思われたのですね。
答 ええ。私が医者になったときは西洋医学の全盛期でした。だから本場の米国へ行ってもっと勉強してやろうと思ったのです。しかし、学べば学ぶほどその限界が見えてきました。そこで、相補・代替医療に注目し、その勉強を始めたのです。
例えば、中国や日本には古来から漢方がありますよね。その漢方では「冷え」の問題を重視しています。しかし、西洋医学には「冷え」の概念がないのです。
漢方では冷えは万病のもととされています。それにはちゃんと理由があって、冷えると人間の体の中にある様々な酵素の働きが鈍くなるのです。私たちの体の中にある酵素は深部体温が37~38度で最も活発になります。
ところが、1度温度が下がると約半分にまで活動を抑えてしまうことすらあるのです。これらの酵素は脳内伝達物質や各種ホルモンの合成に不可欠です。つまり、体が冷えるとがんやアルツハイマーにかかりやすい体質になってしまうということです。
例えば漢方のこのような考え方を取り入れて、西洋医学とともに総合的に患者さんを診察、治療することができれば、西洋医学だけでは手に負えなかった病気も治る可能性が高くなるでしょう。いいとこどりをすればよいわけで、これを統合医療と言います。
問 西洋医学で手に負えなかった末期がんの患者さんでも、治る可能性があるわけですね。そして、そうした治療が効果を上げるためには、西洋医学、そしてお医者さんに頼りっきりではいけない。
それには、日本人がかつて持っていた死を受け入れることから始めるべきだというわけですね。どうもありがとうございました。
次回は、川嶋先生のご専門である腎臓病にまつわる日本の医療の問題点を中心にお聞きしたいと思います。
(つづく)