スポットライト

吉岡 寿倫 医学部5年次生 (生化学講座第一教室)

吉岡 寿倫

研究紹介

Yoshioka T, Hagiwara A, Hida Y, and Ohtsuka T: Vangl2, the planar cell polarity protein, is complexed with postsynaptic density protein PSD-95. FEBS Letters. 2013

背景

 細胞極性は生体の機能維持にとって重要な現象であり、多くの細胞が何らかの極性を有しています。近年、細胞極性の一つである平面内細胞極性(planar cell polarity)が、細胞増殖や細胞運動、神経管の発生など多くの細胞・組織構築に関与していることが明らかとなってきました。また、平面内細胞極性因子が関連する細胞内シグナル伝達経路は、生物の非対称性に関わる経路として注目を集めています。
我々が研究している神経細胞は、軸索・樹状突起の極性形成によって、きわめて極性に富んだ形態と機能を有していますが、その機序には未だ不明な点が多くあります。
そこで、平面内細胞極性因子のひとつであるVangl2と神経細胞の極性形成との関係について検討するため、その局在および関連蛋白質との相互作用の解析を行いました。

結果

 Vangl2に特異的な抗体を作製し、神経細胞における局在やシナプス関連蛋白質との相互作用を、生化学的手法を用いて解析したところ、Vangl2は成熟脳ではシナプス後肥厚部画分に局在し、C末端の3アミノ酸を介して、シナプス後肥厚部関連蛋白質であるPSD-95と直接相互作用することが明らかになりました。さらにVangl2がPSD-95を介してNMDA型グルタミン酸受容体と複合体を形成することを示唆するデータが得られました。
また、Vangl2およびその変異体を神経細胞に発現させ、樹状突起棘(スパイン)への局在を共焦点レーザー顕微鏡下で観察し解析したところ、C末端の3アミノ酸を欠損させたVangl2変異体はスパインへの局在が顕著に低下することが分かりました。

考察

 本解析により、Vangl2はC末端の3アミノ酸を介してスパインに局在し、後シナプスの重要な足場蛋白質であるPSD-95と相互作用することが示されました。
本報告は、平面内細胞極性因子であるVangl2がシナプスに局在することを最初に示したものであり、神経細胞の極性形成における平面内細胞極性因子の役割の解明に繋がる成果と考えられます。

プロフィール

 私の研究生活は大学一年生の冬から始まりました。
 奇しくも、私の入学が教授の着任と同じ年であったため、当初の仕事と言えばもっぱら研究室の改装でしたが、この“研究室の立ち上げ”に立ち会えたことは本当に貴重な経験だったと思っております。
 研究室の立ち上げも落ち着き、自身の実験的手技も増えてきた3年生の春、初めて自分のテーマを持つことが出来ました。そのテーマが“Vangl2の神経細胞におけるはたらき”というものでした。
 本報告は、生化学的解析の命とも言うべく抗体の取得には少々手古摺ったものの、スタッフの方々のサポートにより比較的スムーズに纏めることが出来ました。この続きのデータに関しては、さらなる解析の余地があるため、まだ論文投稿には至っておりませんが、残りの期間、研究室の仕事を手伝いつつ、それらのデータが纏められたらと思っております。
 最後に、この場をお借りしまして、大塚教授ならびに当講座スタッフのみなさんへ、心より日々の感謝を申し上げたいと思います。

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