問 でも、投薬費の7割は健康保険で支払われているわけだから、たこが自分の足を食べて「自分が成長した、大きくなった」と言っているようなものですよね。全くおかしい。
答 日本の官僚制度が抱える本質的な問題点なのでしょう。既得権益を守り、天下り先を確保することが何にもまして優先される。官僚の給料が安すぎることも原因の1つかもしれませんね。あれだけ働いているのに給料が安いから。
国会議員・役人には期待できないから草の根で
問 ええ。でも企業で言えば、やらなくていい仕事を作って一生懸命働いているというのが一番いけないんです。やらなくていいなら即刻やめるべきです。やるべきこととやってはいけないことを可視化することが企業経営の要諦の1つではないかと思います。
国の経営も同じではないでしょうか。官僚が忙しいのはいいけど、本当にやるべき仕事で忙しいのか、既得権を守るために忙しいのか、私には区別できないことが多すぎるような気がします。
それにしても、投薬や健診の重複など簡単にムダを省けるのだからなぜすぐにやらないんでしょうかね。本当に不思議です。日本国を経営しているという意識が全く欠如していますよ。
答 そうですね。私は日本という国は、国会議員だとか官僚だとか、上の人たちに改革を期待しても実行は難しいと見ています。だから、本を書いている。皆に少しでも本当のことを知ってもらって、意識を変えてもらいたい。
そこから始めないと日本の医療システムは変わらないのではないかという危機感があります。
問 私はネットメディアを運営しているのですが、ネットではダメでしょうか。
答 ネットはすぐ炎上するでしょう。匿名で何を書かれるか分かったものではない。だから、いまは本の出版という形で伝えていこうと思っています。
問 川嶋先生は、健康保険に逆マイレージ制を導入したらどうかと提案されていますね。これってとても面白いアイデアだと思います。医者にかかろうではなくて、できるだけ医者にかからないというインセンティブが働きますから。
答 そう。自動車保険と同じような考え方です。保険を使わない人には保険料を割り引きしたらどうかと。何しろ、日本の病院は3時間待って3分治療でしょう。医者の私も最近、そんな目に遭いましたよ。
この前、転んで足を痛めてしまったんです。立てなかったので骨折が心配になり、休日だったので仕方なく私が勤める東京女子医大病院の外来に行ったら、人がいっぱい。中には小さな子供を連れているお母さんがいて、恐らく子供が風邪を引いたかなんかなんでしょう。
ところが、子供は咳は時々しているようだけれども、元気いっぱいに待合室を走り回っている。おいおい、病院なんかに連れてくる必要なんてないんじゃないかと言いたくなりました。
私はというと本当に3時間待って、出てきた医師が研修医。足のレントゲンを撮ったのですが、それを見ても診察が下せない。私は、「いいよ、自分で見るから。足が折れているかどうか心配なだけだから」と言って、それ以上の診察は断りました。
どんな病院でも同じようなことが毎日起きていると思います。必要もないのに病院に行く人が多すぎる。日本のフリーアクセスの問題などもあるでしょうが、健康保険をマイレージ制にしたら、そういう現象が少なくなるのではないかと期待しているんですよ。
問 「日本の医療はここが問題だ!」などと大上段から構えないで、そういう制度を1つ作るだけで変わり始めるかもしれませんね。どうもありがとうございました。