数百円のアプリで在宅医療支援
医療法人社団プラタナスは東京・神奈川の4カ所で在宅療養支援診療所を運営する。このうち世田谷区にある桜新町アーバンクリニックは2009年に在宅医療部を立ち上げ、現在は医師9名、看護師6名、事務3名で地域に約200名いる在宅患者の診療にあたっている。
「医療については医師、生活支援や介護ケアは看護師やケアマネジャー、介護ヘルパー、看護師が担当するので、医療と介護が上手くかみ合わなければ患者を支えることは難しい」と院長の遠矢純一郎医師は在宅医療における多職間連携の重要性を強調する。
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| 医療法人社団プラタナス 桜新町アーバンクリニック 院長 遠矢純一郎氏 |
桜新町アーバンクリニックでは以前、関係者間の唯一の情報共有ツールとして、各自が気づいたことを書き留める「連携ノート」を患者宅に置いていた。しかし、日々の容態を把握するためには患者宅まで足を運ばなければならず、深夜に容態が急変したときなども、担当医が患者宅に駆けつけるまで詳細な情報がわからないなど不便な状況にあった。介護ヘルパーが患者の異変に気づいても、その重要性を理解できずに放置してしまうといった事態も起きていた。
在宅医療におけるICT活用という意味では、遠矢医師自身が4~5年前からノートPCとPHSカードを携行し、ハードディスクに患者の情報を保存して持ち歩いていた。しかしノートPCは重くかさばるうえ、紛失や盗難の危険性があった。
ちょうどクリニックのオープンと時を同じくして、日本でも「iPhone 3GS」が発売された。「ノートPCやフィーチャーフォンではできなかったことが、スマートフォンではできるのではないかと可能性を感じた」と遠矢医師は振り返る。それ以後、在宅医療の現場でのiPhoneの活用を模索し始めた。
iPhoneのカメラ機能を使って患部を撮影することで、より詳細に状況を把握し、的確な指示を出すことができる。また、オンラインストレージサービスに患者のサマリーを保存して外出先でも閲覧できるようにしたり、メールテンプレート作成アプリ「Maildash」で診療情報提供書や他の病院への紹介状を作成するなど、汎用アプリをニーズに合わせてフル活用した。
アプリにかかる費用は1つ100~200円程度で、利便性の高いシステムを実現することができた。大規模な病院であれば、大掛かりなシステム開発も可能だが、それには数千万円あるいは数億円単位の費用がかかる。中小規模の診療所ではそこまでコストをかけるのは不可能だ。遠矢医師は「大きなシステムを入れるのではなく、アプリケーションを組み合わせて仕組みを作り上げたところがユニークだと思う」と語る。

月刊テレコミュニケーション2013年9月号から一部再編集のうえ転載(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)