京都新聞 11月10日(日)19時49分配信
業者から和食店に送られてきたダイレクトメール。商品の価格一覧表も添えられている
全国のホテルや百貨店で発覚が相次ぐ食材の虚偽表示問題。京都市内の調理担当者や食材納入業者らが、京都新聞の取材に対し、この問題が長年「常態化」していた業界の実情を明らかにした。
■昔からロブスターは伊勢エビ
「数カ月前までロブスターを伊勢エビと表記していた。牛脂注入肉は悪質だが、エビは昔からの名残。だますつもりはなかった」。11月上旬、市内のあるホテルの料理長が打ち明けた。ロブスターの仕入れ値は伊勢エビの「約半額」と言い、原価を抑える意図もうかがわせた。
一連の問題では、市内のホテル9店と百貨店2店で魚介類や肉の虚偽表示が表面化。記者会見したホテルや百貨店側は、ブランドを装った表示を禁じる景品表示法の理解不足などを挙げ「偽装」を否定するが、客側の感覚とは、ずれている。
料理歴数十年のこの料理長は「今までは食材表記の仕方がはっきりせず、あかんという決まり事の一線がなかった」と話す。
ホテルなどの内部調査により、業界全体にわたる虚偽表示の実態が一気に噴出したが、「昔からそんな事例は珍しくなかった」との声も聞こえる。
虚偽表示があった京都府内のホテルや百貨店に魚介を納める業者は、納入先ホテルの広告にロブスターが伊勢エビと掲載されているのを見つけた。「あれっと思ったが、取引してもらう以上、こちらからどうこう言うのは難しい。ホテルや百貨店業界の習慣だったのではないか」。別の業者は「ホテルの料理長は50〜60代が多く、昔の感覚で表示を続け、下の者がおかしいと思っても、料理長が絶対の社会で声を上げられないのでは」と推し量る。
■「代替品」の営業攻勢も
高級店は、納入業者の活発な営業活動を受ける。料理店の格付け案内本「ミシュランガイド」で星がついた和食店は、ミシュラン掲載後、多い月は10回ほど納入業者が営業に来たり、ダイレクトメール(DM)が送られるようになったという。
ある業者のDMは、アワビと類似するロコ貝を並べて記載し、3倍近い価格差をアピールする。偽装を持ちかける業者はないというが、店主は「安い食材を高級食材と偽り提供するのはあくまで料理人。原価を抑えたい思いは誰しもあるだろうが、料理人としてどう判断するが問われている」と警鐘を鳴らす。
府内の水産仲卸業者でつくる京都全魚類卸協同組合の池本周三理事長(78)は「プロが見れば魚やエビの種類の違いは歴然。メニューの表記通りの食材を使っていたら提供できない値段設定もある。ただ一般の人には分からない。業界全体で信頼を取り戻す努力をしなければならない」と話す。
最終更新:11月10日(日)19時49分
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