韓国の研究者が論文の主な著者として加わり、世界的な科学雑誌『サイエンス』『プラスワン』に掲載された生命工学分野の重要論文2本が「結果が再現されない」として撤回されていた事実が明るみに出た。
研究の真実性に関する専門家は通常、「結果が再現されない」ということは、すなわち論文が捏造(ねつぞう)された可能性を示唆すると解釈する。問題の論文はイネに特定のタンパク質を与えた場合、病原菌に対する免疫反応が起きることを突き止めた画期的な研究結果として注目され、100回以上引用された。同論文には韓国人研究者2人が主な著者として加わっており、韓国の学界は衝撃を受けている。科学者の団体である生命学研究情報センター(BRIC)からは、今回の論文撤回について、黄禹錫(ファン・ウソク)氏によるES細胞論文不正事件の再現だという声まで上がっている。
学界や関係者によると、2本の論文の責任著者で、同分野で最高の権威の1人とされるカリフォルニア大デービス校のパメラ・ロナルド教授は先月、米国の大衆科学雑誌『サイエンティフィック・アメリカン』のブログで論文撤回を表明した。ロナルド教授は「実験過程でサンプルの入れ替わりがあり、実験結果が一貫していないため、論文を撤回することを決めた」と説明した。
問題の論文は、2009年にサイエンスに掲載された「タンパク質放出類型1で放出される硫黄含有ペプチドイネのXA21抵抗性遺伝子による免疫機能誘導」、11年にプラスワンに掲載された「グラム陰性菌における低分子タンパク質による細菌の密度認識機能」だ。イネに特定のタンパク質を与えた場合、病原菌に対する免疫反応が起きることを究明する内容で、11年3月には論文引用数を集計しているトムソン・ロイターから「ニュー・ホット・ペーパー」に選ばれた。
当時、主な著者として加わった博士研究員のL氏、H氏は、それぞれ10年、12年に慶熙大、中央大の教授として任用された。BRICでも「韓国を輝かせた人物」として紹介された。サイエンスの論文には2人以外にも、別の2人の韓国人研究者が共同著者として名を連ねている。
問題の論文には、科学的に合成した特定のペプチドを与えると、イネの免疫機能が誘導されると指摘されているが、その後の科学者による実験では、そうした反応は認められず、論文の著者も研究結果を再現できなかった。関連分野に詳しい教授は「2人がカリフォルニア大デービス校に在籍中には問題はなかったが、11年にH氏が辞め、別の研究者が加わって以降、論文の再現ができなくなり、捏造の証拠が判明し始めた」と説明した。
韓国の研究者は、今回の論文撤回をめぐり、BRICを舞台に論争を繰り広げている。生命工学に詳しいソウル大教授は「黄禹錫教授の事件以来、再び韓国の学者の信頼度を低下させた事件であり、恥ずべきことで、罪状は重い」と述べた上で「撤回されるような論文を書いて韓国で教授になればそれでよいのか、と冷笑を買っても仕方ない状況だ」と語った。一方で「論文に誤りがあり、撤回されたことは事実だが、ミスである可能性も否定できない」との慎重論もある。
論文の主な著者である慶熙大のL教授は7日、本紙の電話取材に対し「研究を引き継いだだけであり、サンプルが入れ替わったことは知らなかった」と弁明。中央大のH教授は「撤回されたことは事実だが、捏造ではない」と主張した。