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第7回 天国 五感に訴えかける楽園

飯塚 正人

 ご存知のとおり、目下ムスリム社会は聖なるラマダーン月の真っ最中。人びとは日中、長時間の断食に耐える一方で、この月の間に少しでも多くの善行を積んでおこうと、日夜努力を重ねている。預言者ムハンマドは「ラマダーン月には天国の門が開かれ、地獄の門は閉ざされる」と述べたと伝えられ、この月に行った善行は、いずれ訪れる最後の審判をクリアして永遠の天国に入るために、極めて効果的と考えられているからだ。

 

 クルアーンが「ジャンナ」(楽園)や「アドン」(エデン:35章33節、61章12節など)、「ダールッサラーム」(平安の家:10章25節)、「フィルダウス」(パラダイス。もとは「囲い」を意味するペルシャ語で、ギリシャ語に入ってパラデイソスとなり、アラビア語に借用された:18章107節、23章11節)などのことばで表現している天国は、地獄と対称をなす同心円状の円錐で、7層または8層構造でできていると多くのムスリムが信じている。

 クルアーン55章の記述が、最低でも4つのジャンナの存在を示唆していること(46節、62節)、また天国の住人が見下ろすと、地獄に落ちた知り合いが見えるとされること(37章54~55節)などから、地獄の逆円錐・7層構造をほぼ逆さにしたイメージで、ムスリムは天国を考えるようになったのかもしれない。

 

 天国は、地獄との間を壁で仕切られた(7章46節)、天地の広さほどの広大な楽園で(3章133節、57章21節)、世界の果てに生えるとされるトゲのないスィドラの木や、累々と実るタルフの木(一説によればバナナの木)が枝を張り、長く伸びた木かげを、腐ることのない水をたたえた川、味の変わることのない乳の川、飲む者に心地よい美酒の川、純良な蜜の川が絶え間なく流れ続ける(47章15節、53章14節、56章28~31節)。そこには泉も湧き出ており、ナツメヤシやザクロなど、すべての果物が用意されているという(55章48~52節、同64~68節)。

 

 生前、神の命令に従って善行を積んだムスリムは、最後の審判を経て、集団でそこに招かれ、彼らが到着すると楽園の諸門が開かれる(39章73節、46章16節)。人びとは絹の衣装をまとって、黄金の腕環と真珠で身を飾り(35章33節)、美しく平安な永遠の邸宅に住む(6章127節、61章12節)。そこでは何の苦労もなく、疲れを感じることもない(35章35節)。

 

 人びとは錦を張り詰めた寝床やソファーに向かい合って寄りかかり、彼らの間を永遠の若さを保つ少年たちがめぐり歩いて、黄金の皿や杯、輝く水差し、汲みたての飲み物の杯を捧げる(43章71節、56章15~18節)。ジャコウで封印された真っ白な美酒は、心地よい甘さでありながら酔うことがなく、あとで頭痛をもよおすこともない(83章25~27節、37章46~47節、56章19節)。果物だろうと肉だろうと、望みのものは何でも手に入り、周りでは秘めた真珠のように美しい子供がかしずいてまわる(52章22~24節、56章20~21、同32~33節)。

 

 加えて男たちには、神が彼らのために特別にお創りになった永遠の処女、まなざしを押さえたしとやかなルビーかサンゴのような乙女、伏し目がちな大きな目、輝くまなざしを持った素晴らしく美しい乙女であるフールが配偶者として与えられる(55章54~58節、同70~76節、37章48~49節、56章22~23節、同35~37節、52章20節など)。

 生前の配偶者や祖先、子孫も、善行を積んでいれば一緒に天国に入り(13章23節、43章70節)、男たちはかつての妻とともに木かげの寝床に寄りかかって、美酒や食事を楽しむともいうのだが(36章56~57節)。

 

 このように五感に訴えかける天国の描写は、

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飯塚 正人(いいづか・まさと)

 東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所教授。1960年神奈川県生まれ。東京大学文学部卒。2008年から、現職。11年度から東京大学大学院人文社会系研究科附属次世代人文学開発センター客員教授を兼任。専門はイスラーム学、中東地域研究。特に近現代におけるイスラーム政治思想と政治運動を中心とする中東政治。著書に『現代イスラーム思想の源流』(山川出版社世界史リブレット69)など。

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