小説「響鬼外伝 中四国支部鬼譚」の背景となる独自設定です。
音撃の系統について書いた前回に続き、今回は、音撃武器の種類と歴史について。
「響鬼」TV本編、劇場版、そしてきだつよし氏の小説を可能な限り取り入れて書き綴ってみました。
音撃の系統について書いた前回に続き、今回は、音撃武器の種類と歴史について。
「響鬼」TV本編、劇場版、そしてきだつよし氏の小説を可能な限り取り入れて書き綴ってみました。
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【音撃武器の分類】
音撃武器は原則として実在の楽器をモチーフとしており、管弦打の三系統を基本とする分類が伝統的になされてきた。20世紀以降は、DMCに倣い、楽器分類学におけるザックス=ホルンボステル分類が適用されている。
ザックス=ホルンボステル分類とは、発音原理に着目して楽器を以下の五種類に分ける分類法である。
●膜鳴楽器:開口に張った膜の振動によって音を出すもの。太鼓の類。
●弦鳴楽器:弦の振動によって音を出すもの。いわゆる弦楽器。ピアノもこれにあたる。
●気鳴楽器:空気を振動させて音を出すもの。発音源の振動で直接外の空気を震わせる「自由気鳴楽器」(オルガンやハーモニカなど)と、管内部の空気で共鳴させる「吹奏楽器」(いわゆる「管楽器」全般)に分かれる。
●電鳴楽器:電磁気力によって音を出すもの。電気楽器(エレキギターなど)と電子楽器(電子ピアノ、シンセサイザーなど)に分かれる。この「電鳴楽器」という区分は他の四つとは由来を異にしており、音撃武器の分類には用いられない。
尚、楽器分類学における分類法と、「管楽器・弦楽器・打楽器・鍵盤楽器」といった実用上の分類法は一致しない部分も多く、それは音撃武器の呼称にもそのまま表れている。例えば「音撃鍵盤」と呼ばれる音撃武器の系統には、ピアノ型からグロッケンシュピール型までが含まれるが、上記の通り、ピアノは弦鳴楽器、グロッケンシュピールは体鳴楽器であり、同じ「鍵盤楽器」でも発音原理が全く異なるのである。
【体鳴楽器型音撃武器】
いわゆる「打楽器」の内、太鼓の類を除いたものが当てはまると考えてよい。楽器の種類ごとに独自の形状をしたものが多く、体系的な研究開発が困難であることから現代の鬼達にはあまり用いられていない。気鳴楽器型における「音撃管」や弦鳴楽器型における「音撃弦」のような総称もなく、楽器の種類ごとに独自の呼称が設定されている。主なものを以下に挙げる。
●音撃震張(おんげきシンバル)――直接打奏体鳴楽器(相互打奏容器)型音撃武器
シンバルを模した音撃武器。いわゆるクラッシュ・シンバル(二枚の円盤を両手に持って打ち合わせる形式のシンバル)の中央部に空洞と持ち手を設け、外周に刃を付けて魔化魍への近接攻撃を可能としている。二枚一組で運用される。戦闘時の持ち手とは別に、演奏時の持ち手用の帯が付いており、音撃の際にはそちらで保持する。
これを用いた音撃は「音撃拍(おんげきひょう)」と呼ばれ、垂直の刃のような形状をなす音撃の波動を比較的近距離から魔化魍に浴びせるものである。
伝説の「七人の戦鬼」の一人である煌鬼が用いたと伝えられており、現代では猛士総本部の白瀧鬼が音撃震張の使い手として知られる。
●音撃三角(おんげきトライアングル)――直接打奏体鳴楽器(単式単打奏棒)型音撃武器
トライアングルを模した音撃武器。三本の金属棒をリングで繋いだ形状をしており、戦闘時には三節棍として使用する。音撃時には金属棒先端のカラビナをリングに固定してトライアングルの形をなし、鎖分銅を持って保持する。撥(トライアングルビーター)には、鬼石を備えた専用の撥を用いる場合と、変身音叉で代用する場合がある。後者の場合、変身音叉の素材に鬼石が用いられ、有効な「清めの音」の威力を確保している。
これを用いた音撃は「音撃響(おんげききょう)」と呼ばれ、三角形の波紋をなす音撃の波動を連続して魔化魍に浴びせるものである。
「七人の戦鬼」の一人である西鬼が用いたと伝えられており、戦前までは京都支部にその流れを汲む鬼が在籍していたが、現在では音撃三角を用いる現役の鬼はいない。
●シロフォン型/グロッケンシュピール型音撃鍵盤――直接打奏体鳴楽器(複式単打奏棒)型音撃武器
広義の「音撃鍵盤」の内、シロフォン(木琴)やグロッケンシュピール(鉄琴)を模したもの。シロフォンやグロッケンシュピールの鍵盤を片手に収まるサイズに縮小したもので、平時は鬼の装備帯のバックルに着装される。鍵盤の片側に鏃が付いており、魔化魍の体に突き刺すことで、鍵盤全体が本物のシロフォン等と同じ大きさに巨大化。「音撃枹(おんげきふ)」と呼ばれる、先端に鬼石を備えた専用のマレットで打奏して「清めの音」を発する。
これを用いた音撃は、ピアノ等の音撃鍵盤によるものと同じく「音撃律(おんげきりつ)」と呼称されるが、外見的には「音撃打」に、技の原理的には「音撃斬」に類似するものである。音撃の波動は鏃を通じて斬撃のように魔化魍の体を貫く。
この類の音撃武器を用いる者は、中四国支部の綺咲鬼の他、関西支部や中部支部に数名が存在する。メインの武器として運用されることは稀で、音撃弦など他の種類の音撃武器を用いる鬼が副装備として携行することが多い。
●銅鑼型音撃鼓――直接打奏体鳴楽器(単打奏容器)型音撃武器
広義の「音撃鼓」の内、銅鑼を模したもの。和太鼓(膜鳴楽器)型の音撃鼓と外見上は類似しているが、発音原理を異にする。金属の銅鑼を片手に収まるサイズに縮小したもので、平時は鬼の装備帯のバックルに着装される。これを本物の銅鑼のサイズに巨大化させて中空に固定、ないし魔化魍の体に直接貼り付け、「音撃金棒(おんげきかなぼう)」と呼ばれる特大の音撃棒で打奏して「清めの音」を浴びせる。
これを用いた音撃は、音撃金棒を振りかぶる姿からの連想で「音撃殴(おんげきおう)」と呼称される。「七人の戦鬼」の一人である初代凍鬼が用いて以来、代々の凍鬼に限って受け継がれてきた音撃法であり、北海道支部総代である現・凍鬼もこのタイプを用いている。
●音撃鈴(おんげきりん)――振奏体鳴楽器(容器状ラッセル)型音撃武器
球形の鈴を模した音撃武器。神楽鈴のように、芯棒の周囲に多数の鈴を取り付けた形状をしている。極めて初期型の音撃武器であり、それゆえ戦闘に用いる形状をしていない。鈴の玉には鬼石が使われており、多数の鈴の音色が互いに共鳴することによって、非常に強力な音撃の波動を広範囲に拡散させることが可能。これを用いた音撃は「音撃奏」に含められる。
江戸時代の吉野で佐鬼という女性の鬼が用いた記録が残っている。現代では、同様の構造を持つDMCのスレイベル型音撃武器(HS-112.13, Vessel rattles)を参考にした最新タイプが総本部で試験的に運用されている。
【膜鳴楽器型音撃武器】
いわゆる「打楽器」の内、太鼓の類に属するもの。古くは砂時計型の小鼓(こつづみ)や大鼓(おおつづみ)型も用いられていたが、江戸時代以降、和太鼓型の音撃鼓が主流となった。
現代の猛士で「膜鳴楽器型」といえばほぼ和太鼓型とイコールである。一方、DMCには当然ながら「和太鼓」は存在せず、ティンパニ型やコンガ型など多岐に亘る膜鳴楽器型が運用されている。
●和太鼓型音撃鼓――膜鳴楽器(直接打奏太鼓)型音撃武器
広義の「音撃鼓」の内、和太鼓を模したもの。和太鼓を片手に収まるサイズの円盤状に縮小したもので、平時は鬼の装備帯のバックルに着装される。魔化魍の体に貼り付けることで太鼓のサイズに巨大化し、「音撃棒(おんげきぼう)」と呼ばれる、先端に鬼石を備えた専用のバチで打奏して「清めの音」を発する。これを用いた音撃は「音撃打」と総称される。
戦国時代には既に「七人の戦鬼」の一人である初代響鬼が用いていたとされるが、魔化魍に直接接近する必要があるにも関わらず音撃武器自体が戦闘用の形状をしていない不便さのため、広く普及することはなかった。和太鼓の音撃が日の目を見るのは、江戸時代、吉野の響鬼(初代響鬼との関係は不明)が単身でこの音撃法を復興させてからのことである。響鬼の活躍が全国の鬼達に伝わったことで、伝統を破り彼に追随する者が多数現れ、和太鼓型音撃鼓は一躍、音撃武器の主流の一つに躍り出た。現代では、管楽器全般、弦楽器全般と並んで、和太鼓型のみで「太鼓の音撃」という一カテゴリーを築いている程である。
●鼓(つづみ)型音撃鼓――膜鳴楽器(砂時計形太鼓)型音撃武器
小鼓や大鼓を模した音撃武器。平安時代の鬼達に用いられたと伝わる。和太鼓型音撃鼓との違いは、バチ(音撃棒)を用いずに直接手で打奏すること。調緒(しらべお)を操作することで、退治する魔化魍の種類に応じて「清めの音」の音色を自在に調整できたとされる。
鬼石の利用すら確立されていなかった古の時代の音撃武器であり、吉野の総本山にいくつか収蔵されているのみで、現代の鬼には使われていない。
●音撃束鈴(おんげきタンバリン)――膜鳴楽器(片面無柄枠太鼓)型音撃武器
タンバリンを模した音撃武器。中央部に持ち手を設け、外周に小さなシンバルを配置した、いわゆるモンキー・タンバリンの形状をしている。戦闘時にはガントレットとしての使用が可能。シンバルは鬼石で出来ており、小刻みに重なり合う音撃の波動を放つことができる。これを用いた音撃は「音撃奏」に含められる。
音撃震張や音撃三角といった派手な音撃武器が好まれた戦国時代に、備前(現在の岡山)辺りの鬼が用いたと伝わっている。現在、ディスクアニマルの装甲化の技術を応用し、タンバリン型音撃ナックルの設計・開発が吉野で進められている。
【弦鳴楽器型音撃武器】
いわゆる「弦楽器」の類。ネックのような横木のない「ツィター」、胴とネックからなる「リュート」、弦が響版に対して垂直になった「ハープ」の三種に分類される。音撃斬に用いられるものは剣戟武器の形状をしているが、それ以外にもボウガン型や、戦闘用の形状をしていないものもある。
尚、猛士で用いられている弦鳴楽器型はツィターとリュートのみであり、ハープ型は存在しない(朱鬼の竪琴型音撃弦はハープではなくリュート)。DMCではダブルアクションペダルハープ型の音撃武器も試作されたというが、持ち運びが困難な割に威力が出ず、実用化されなかったようである。
●琴型音撃弦――単純弦鳴楽器(取付弦式完全筒形ツィター)型音撃武器
日本の琴を模した音撃武器。「琴(こと)型」と銘打っているが、実際には「琴(きん)」ではなく「筝(そう)」の形状をしている(「こと」と呼ばれる楽器には琴(きん)と筝があり、前者は弦を押さえる個所で音程が決まるが、後者は琴柱(ことじ)という可動式の支柱で音程を調整する)。
筝の先端に刃を付けた形状をしており、本体内部の空洞に片腕を収めて近接武器として使用する。弦の部分は「音撃連(おんげきれん)」という形で蛇腹状に折り畳まれ、平時は装備帯のバックルに着装されていて、音撃時には筝の本体に装着して弦を張る。本体の刃を魔化魍の体に突き刺し、弦を奏でることで「清めの音」を流し込む。
これを用いた音撃は伝統的に「音撃遊(おんげきゆう)」と呼称されるが、技の原理としては「音撃斬」と同様である。ただし、ギターやチェロなどの音撃斬と比べると、音撃の波動が斬撃のように敵を貫くのではなく、刃を突き刺した部分を中心に全円状に波動が広がって魔化魍を包み込み撃破するという違いがある。
古くから用いられてきた武器であるが、ギター型などに比べると取り回しの利便性では劣るため、次第に数を減らしてきている。現在では中四国支部の爪弾鬼が琴型音撃弦の使い手として知られる他、東北支部、北海道支部に使用者が存在する。
●ピアノ型音撃鍵盤――単純弦鳴楽器(共鳴箱式平板形ツィター)型音撃武器
広義の「音撃鍵盤」の内、アップライトピアノを模したもの。音撃武器への採用が珍しい鍵盤楽器型の中でも特に異彩を放っており、その巨大さゆえに通常の携行は不可能で、実際は車両の後ろに備え付けるなどして運用される。鍵盤の一つ一つに鬼石が用いられており、極めて高い威力を持つ。音撃の際には、管楽器の鬼が用いるのと同様の「音撃鳴(おんげきめい)」を併用し、音撃鳴を魔化魍の体に貼り付けて展開することで「清めの音」を増幅・集束させる。
これを用いた音撃は「音撃律」と呼称されるが、実質は音撃鳴の補助による音撃奏といったところである。
DMCで運用されているピアノ型音撃武器(HS-314.122-4-8, Board zither with resonator box)の技術提供を受け、吉野の開発局で一台のみ試験的に製作された。ピアニスト出身の月代鬼が中四国支部でこれを運用し、総本部の予想を上回る成果を上げている。ただ、製作コストが多大になることや、これを用いる鬼には極めて特殊な戦術が要求されることから、現時点では量産の予定はない。
●ヴァイオリン型音撃弦――複合弦鳴楽器(箱胴式頸柄リュート)型音撃武器
ヴァイオリンを模した音撃武器。ヴァイオリンの側面が展開してボウガンの形状をなし、鬼石の鏃を持つ矢を放って魔化魍を攻撃する。糸巻きとスクロールの部分は「音撃錠(おんげきじょう)」として独立しており、装備帯のバックルに着装されている。音撃時には音撃錠を指板先端に取り付けて弦を張り、変身鬼弓(へんしんおにゆみ)で擦奏する。また、ピチカート奏法による音撃も可能。
同じヴァイオリン属であるチェロ型やコントラバス型とは、楽器としての発音原理は同じであるが、音撃武器としては種類が異なる。チェロ型やコントラバス型が魔化魍への物理的接触を伴う「音撃斬」の方式を取るのに対し、ヴァイオリン型は、事前に打ち込んだ矢に「清めの音」を共鳴させ、遠距離から魔化魍を攻撃する「音撃奏」の方式を採用している。
日本には明治期に初めて入り、ギター型と並ぶ洋式音撃弦の主流として多くの鬼に使われてきた。しかし、同じ飛び道具なら音撃管の方が効率が良いと考えられるようになり、「近接武器としての音撃弦と、飛び道具としての音撃管」という分担が定着した現在となっては、敢えてヴァイオリン型を用いる鬼はごく少数になっている。
●チェロ型/コントラバス型音撃弦――複合弦鳴楽器(箱胴式頸柄リュート)型音撃武器
チェロやコントラバスを模した音撃武器。ヴァイオリンと同属の楽器で、音撃弦本体と音撃錠、変身鬼弓からなる構成は同じだが、武器としての運用法がヴァイオリン型とは異なる。チェロ型、コントラバス型ともに、エンドピンにあたる部分に鬼石の刃が装備されているが、戦闘時に武器として用いることはほとんどなく、大きさと頑丈さを活かして盾として運用される。音撃時にはエンドピンの刃を魔化魍の体に直接突き刺して「清めの音」を流し込むか、地面に刃を突き刺して遠距離から「清めの音」を伝える。音撃法としては「音撃斬」に分類される。
盾という形態の特性上、鬼によって好き嫌いがはっきり分かれる音撃武器といえる。特にコントラバス型は、音撃の威力が高い反面、その巨大さゆえに取り回しが難しく、相当な熟練者でなければ運用できないとも言われる。近年では、当代一の音撃弦使いと目された斗鬼がコントラバス型を用いていたことで有名で、彼女の引退に伴って孫弟子の彩鬼がそれを受け継いでいる。
●ギター型音撃弦――複合弦鳴楽器(箱胴式頸柄リュート)型音撃武器
ギターを模した音撃武器。「エレキギター型」とも呼ばれるが、あくまで形状がクラシックギターよりエレキギターに似ているというだけであり、電気的操作で音を出す訳ではない(従って「電鳴楽器」の区分にも入らない)。
ネックを持ち手とし、ボディーの両側に刃を付けた剣戟武器として運用される。弦の中心部は「音撃震(おんげきしん)」として独立しており、平時は装備帯のバックルに携行される。音撃時には音撃弦本体の切っ先を魔化魍の体に直接突き立て、撥弦して「清めの音」を流し込む。この音撃は「音撃斬」に分類される。
戦国時代には「七人の戦鬼」の一人である初代轟鬼が、後世のギター型の原形となる初代「烈雷」を用いていたとされる。初代烈雷は文献に記述が残るのみで現存しないが、明治に入り、西洋式の弦楽器が本格的に国内で用いられるようになって以降、戦闘時の攻撃力に優れたギター型は全国の鬼達に一気に普及した。ギターという楽器自体の大衆性も相俟って、現在、ギター型音撃弦は弦鳴楽器型の中で最もスタンダードな形式となっている。
●竪琴型音撃弦――複合弦鳴楽器(軛形柄リュート)型音撃武器
ライアー(殻胴式リラ)ないしキタラ(箱胴式リラ)を模した音撃武器。片腕で抱えるサイズのいわゆる「水瓶型ハープ」の形状をしており、中空の共鳴箱から二本の腕が伸び、上端の横木と底面のブリッジの間に四本の弦が張られている。尚、「水瓶型“ハープ”」とは言うものの、実態はハープではなくリュートである。
通常の戦闘には用いられず、専ら音撃にのみ使用される。これを用いた音撃は「音撃奏」に分類され、空気の共鳴のみを媒介として「清めの音」を直接魔化魍に浴びせる形式を取る。
関東支部にかつて所属していた朱鬼が「鬼太樂」という名の竪琴型音撃弦を用いていたが、本人によれば明治時代以前から存在した個体らしく、出自や製作者は明らかになっていない。後に、朱鬼の鬼太樂を模して竪琴型音撃弦の試作型が作られ、斗鬼が試験的に運用していたが、術力の衰えた現代の鬼には向いていないと判断されお蔵入りになった。
【気鳴楽器型音撃武器】
気鳴楽器は「自由気鳴楽器」と「吹奏楽器」に分かれ、後者がいわゆる「管楽器」全般に相当する。吹奏楽器の音撃管は、音撃弦と並んで最も広く用いられている音撃武器であり、長年に亘る研究開発の歴史を経て高度に体系化されている。多くは飛び道具としての形状を有し、魔化魍に鬼石を撃ち込んで「清めの音」を共鳴させる「音撃射」という音撃法を採用している。
また、笙やハーモニカといった自由気鳴楽器型も僅かながら存在する。
●音撃笙(おんげきしょう)――自由気鳴楽器(自鳴的中断層気鳴楽器)型音撃武器
笙を模した音撃武器。匏(ふくべ)の上に17本の竹管を円形に配置したもので、戦闘時には吹き矢として使用される。簧(した)と呼ばれるリードの部分に鬼石が仕込まれており、合竹(あいたけ)と呼ばれる和音を奏でて「清めの音」を発する。一般的な管楽器と異なり、吹いても吸っても同じ音を出すことができるので、息継ぎをすることなく音撃を放ち続けることが可能。
江戸時代初期に出雲の初代蒼鬼が用いた音撃笙「烈閃」があまりにも有名。その調べは天から差し込む光の如く魔化魍を祓うと言われた。「烈閃」が四代に亘って受け継がれた後、五代目・六代目の蒼鬼は笙から離れたが、七代目蒼鬼の代では再び音撃笙が用いられた。現在、「烈閃」は双柳寺家に収蔵され、七代目が用いた「烈輝」は吉野の開発局に寄贈されている。双柳寺家への遠慮もあってか、その他の鬼が笙の音撃武器を用いたことはない。
●音撃口風琴(おんげきハーモニカ)――自由気鳴楽器(自鳴的中断層気鳴楽器)型音撃武器
ハーモニカを模した音撃武器。ハーモニカのフリーリード部に鬼石を仕込み、「清めの音」を奏でるもの。大正時代に試作されたものが開発局に保存されているが、実際の戦果は記録されていない。
●尺八型音撃管――刃型付吹奏楽器(無隙溝型開管単式縦吹きフルート)型音撃武器
尺八を模した音撃武器。霊木に相当する聖地の竹を切り出して作り、歌口には鬼石が埋め込まれている。戦闘時には吹き矢として用いる。基本的な運指で西洋の12音階全てを演奏することが可能で、これによって多種多様な「清めの音」の調べを放つことが可能。
尺八は、元来は虚無僧が用いる法具であり、仏門以外の者が吹くことは幕府の法度で禁じられていた。音撃武器としての利用は、江戸時代末期の十代目蒼鬼がさる普化宗(ふけしゅう)の高僧と共闘関係を結んだことに端を発する。十代目が音撃としての尺八の奏法を完成させ、引き続き十一代目蒼鬼も尺八型を用いた。
現在用いられている他の音撃管と比べると、構造が比較的単純なので、現代の鬼でも少々手慣れた者なら呪術による縮小・召喚が可能。総本部の白瀧鬼以下、全国に数名の使用者がいる。
●竜笛型音撃管――刃型付吹奏楽器(無隙溝型開管単式横吹きフルート)型音撃武器
竜笛を模した音撃武器。尺八型と同様に聖地の竹を切り出して作り、管の中に鬼石を仕込んで音量を高めている。戦闘時には吹き矢として用いる。低音から高音の間を縦横無尽に駆け抜けるその音色は、舞い立ち昇る龍の鳴き声に喩えられる。
竜笛は古く平安時代から貴族や武将に愛され、音撃武器としても最も古い歴史を持つものの一つである。この竜笛型音撃管がシルクロードを通ってヨーロッパに伝わり、フルート型音撃武器(現代のコンサート・フルートとは異なる)の基礎になったとも言われている。
江戸時代には吉野の威吹鬼が竜笛型を代々用いていた他、六代目蒼鬼が愛用したことでも知られる。しかし現在では、銃器としての利便性が高い西洋式の音撃管に押され、実戦で用いる者は居なくなっている。
●フルート型音撃管――刃型付吹奏楽器(無隙溝型開管単式横吹きフルート)型音撃武器
西洋のコンサート・フルート(一般的な「フルート」)を模した音撃武器。金属製の管体の先端に刃を付け、吹き矢の他に近接武器としても使用できるようになっている。管体の頑丈さを活かし、敵の武器と鍔迫り合いを繰り広げることも可能。音撃の威力は、クラリネット以上・金管未満といったところ。
古くは戦国時代、「七人の戦鬼」の一人である羽撃鬼が用いたとされ、当時は「音撃吹道(おんげきフルート)」と呼ばれていた。ただし、その時代に「フルート」といえば単に笛全般を指しており、今日におけるフルート型音撃管とは仕様を異にしていたと考えられる。
現代のコンサート・フルートは、19世紀半ば、DMCドイツ支部の客員技師でもあったテオバルト・ベームにより、音響学の理論に基づいて大幅に改良され完成したものである。これを基にしたフルート型音撃武器は瞬く間にヨーロッパ全土に配備され、日本にも明治初期にもたらされた。国内に現存する最古のコンサート・フルート型音撃管は、東京支部の白銀鬼が用いたとされる「烈流」である(関東支部研究室に収蔵)。
現在では、金管型の音撃管と比べると採用頻度は極めて低いが、見た目の優雅さから女性の鬼に好んで用いられる傾向がある。中四国支部に所属していた卦矢鬼(先代冥鬼の妻)がフルート型音撃管の名手として知られた他、北海道支部の白雪鬼や吹雪鬼もフルート型を用いている。
●篳篥型音撃管――有舌吹奏楽器(円筒管単式オーボエ)型音撃武器
篳篥(ひちりき)を模した音撃武器。漆塗りの竹で作られ、内部に鬼石が仕込まれている。戦闘時には吹き矢として用いる。リードにあたる葦舌(した)は「音撃舌(おんげきぜつ)」と呼ばれ、平時は装備帯のバックルに着装されており、音撃時には音撃管上部に結合させて「清めの音」を奏でる。
雅楽では、笙、竜笛、篳篥を併せて「三管」と呼ばれ、笙は天から差し込む光、竜笛は天地の間を泳ぐ龍の声、篳篥は地に在る人の声をそれぞれ表すとされる。篳篥型音撃管は平安時代から広く用いられ、その音色によって死にゆく者を生き返らせたり、盗賊を改心させたという逸話が残っている。
江戸時代以降は、五代目と九代目の蒼鬼が用いたことで知られる。現在の鬼には用いられていない。
●ファゴット(バスーン)型音撃管――有舌吹奏楽器(円錐管単式オーボエ)型音撃武器
ファゴットを模した音撃武器。全長135cm程の長大な管体を有し、戦闘時には強力な火砲として用いる。「音撃木片(おんげきもくへん)」と呼ばれるダブルリードが装備帯のリードケースに収められており、音撃時にはこれを取り付けて吹奏する。銃弾となる鬼石の口径も他の音撃管より遥かに大きく、「清めの音」の共鳴の威力もそれに比例して高い。
DMCで一部の音撃戦士に運用されているファゴット型音撃管が九州支部に払い下げられ、現在は好鬼が用いている。通常戦闘と音撃のいずれにおいても多大な成果を上げているが、管体の巨大さゆえに取り回しは難しく、また大口径の鬼石の安定供給にも難があるため、国内での量産化は今のところ計画されていない。
尚、「ファゴット」とはイタリア語での名称であり、英語では「バスーン」と呼ばれる。
●クラリネット型音撃管――有舌吹奏楽器(円筒管型単式クラリネット)型音撃武器
クラリネットを模した音撃武器。グラナディラによる木製の管体で長銃の形状をなし、主に片手で保持して射撃を行う。音撃時にはシングルリードの音撃木片を取り付けて吹奏する。
低音から高音まで幅広く対応できる音色の豊かさが売りだが、金管の音撃管のように「清めの音」の波動が一気に魔化魍の体内に駆け巡るのではなく、じわじわと全身を浸食していくような響き方をする。そのため、安定した音色を一定以上の時間に亘って持続させなければ魔化魍の撃破に繋げることができず、鬼自身に高い術力が求められる音撃武器であるといえる。
中四国支部から北海道支部に移籍した粉雪鬼の他、関西支部の埜鬼、九州支部の雄鬼と好鬼がクラリネット型音撃管の使い手として知られていたが、九州の二人は上述の難点を憂い、クラリネット型を手放して別の音撃管に持ち替えている。
粉雪鬼の弟子の耀鬼に支給された音撃管は、クラリネット型の弱点を補うために、速射性能の強化や散弾銃への切り替え機能、また鬼石の錬成度の強化など、様々なチューンナップが施されたものである。
●サクソフォーン型音撃管――有舌吹奏楽器(円錐管型単式クラリネット)型音撃武器
サクソフォーン(サックス)を模した音撃武器。ソプラノ、アルト、テナー、バリトンの四種類が製作されている。ソプラノ以外の三種は、ベル部分が二股に展開してボウガン型となる仕組みが共通しており、鬼石の鏃を持つ矢を放つ。ソプラノはクラリネット型と同様の長銃として運用される。いずれも音撃時にはシングルリードの音撃木片を取り付けて吹奏する。
管体は真鍮を主とした金属製。木管楽器の運動性能の高さ、金管楽器のダイナミックレンジの広さを兼ね備えており、洗練された運指、発音の容易さは他の吹奏楽器に類を見ない。音撃の威力はバリトンが最大だが、取り回しの難易も考慮し、鬼達は自分の好みに合った種類のものを選択している。
サクソフォーンは1840年代にベルギーのアドルフ・サックスによって発明され、ベーム式フルートと並ぶ最新鋭の音撃武器としてDMCで広く使用された。日本では、明治初期、十二代目蒼鬼によって西欧から持ち込まれたことで非常に有名。以後、現在の十七代目に至るまで代々の蒼鬼がサクソフォーン型を用いている他、九州支部の雄鬼など、全国に十名程度の使用者がいる。
●音撃螺(おんげきら)――唇簧吹奏楽器(上端歌口式法螺貝形トランペット)型音撃武器
法螺貝を模した音撃武器。実物のホラガイを利用し、口金を石膏で固定して加工したもの。鬼道の黎明期であった平安時代、修験道の立螺作法(りゅうらさほう)との混淆によって鬼達に用いられるようになった。様々な音階の音色を組み合わせて獅子の咆哮の如き「清めの音」を発し、魔化魍降伏の力を発揮したと伝説に伝わっている。
はっきりとした記録に残っている音撃螺は、江戸時代、吉野の里の指導者の一人であった鬼堂という鬼が用いたものが唯一。内部に鬼石を配置し、極めて威力の高い音撃を発することが可能だったとされる。明治の頃までには完全に廃れ、後世の鬼には受け継がれていない。
●トロンボーン型音撃管――唇簧吹奏楽器(スライド式半音階トランペット)型音撃武器
トロンボーンを模した音撃武器。トロンボーンからベルを取り除いた形状の、ロングバレルの銃器で、長い射程距離を持つ。音撃時にはバックルに着装された音撃鳴を合体・展開させてベルの形をなし、マウスピースを唇で振動させて「清めの音」を発する。
西洋では古くから用いられていたタイプの音撃武器であり、日本には明治期にもたらされた。日本で金管の音撃管と言えばトランペット型の方がポピュラーだが、DMCではトロンボーン型の方が遥かに多く用いられている。これは、トロンボーンという楽器が、そのハーモニーの美しさなどから「神の楽器」と称され、古くから宗教音楽の場で重宝されていたことと無関係ではないと思われる。教会直属のエクソシストやヴァンパイア・ハンターに由来を持つDMCの音撃戦士にとって、神聖な性格を帯びるトロンボーン型音撃管が退魔の武器として好まれるのは必然であったと言えよう。
●ホルン型音撃管――唇簧吹奏楽器(変音弁付き半音階トランペット)型音撃武器
ホルンを模した音撃武器。ホルンからベルを取り除いた形状の輪剣で、中央部に持ち手があり、外周には鬼石を研磨した刃が付いている。他の金管型と同様、音撃鳴を合体・展開させてベルの形状をなす。
飛び道具としての性質を持たない音撃管は極めて珍しい。当然、鬼石の撃ち込みというプロセスを事前に経ることが出来ないので、これを用いる鬼は「音撃奏」の高い技量を持つことが前提となる。鬼石用の銃器を音撃武器とは別に携行するという手段もあるが、そこまでしてホルン型を使用する必然性は薄い。
DMCでもあまり用いられていない種類の音撃武器であるが、日本では大正時代、山陰支部の初代幸鬼がさる外国の軍人から託されてホルン型音撃管「輝穂」を手にしている。それ以降、鬼の力で太平洋戦争を生き延びた二代目幸鬼以下、現在の四代目幸鬼に至るまで「輝穂」が受け継がれている。
●トランペット型音撃管――唇簧吹奏楽器(変音弁付き半音階トランペット)型音撃武器
トランペットを模した音撃管。トランペットからベルを取り除いた形状のハンドガンで、トロンボーン型と比べると小型で取り回しに優れる。音撃法は他の金管と同様。
トランペットの起源は、紀元前7世紀のアッシリアや旧約聖書、ギリシア、古代ローマまで遡ることができる。中世ヨーロッパで初めて音撃技術が体系化された際、前述の通り神聖視されていたトロンボーンと並び、金管楽器の代表格として用いられたのがトランペット型音撃管であった。これは戦国時代の日本にも伝わり、一説によれば、「七人の戦鬼」に名を連ねる初代威吹鬼が国内で最初に用いたとされる。
国内におけるトランペット型音撃管の本格的な隆盛は明治以降であり、双柳寺家が主導するサックス型の普及と競うようにして、吉野の和泉家が主体となってトランペット型の全国配備が進められた。取り回しの利便性や安定した音撃の威力が現場の鬼達の支持を集め、現在では他の音撃管を大きく押さえて国内トップの普及率を誇っている。
……以上、音撃武器の設定でした。
楽器オタクが気の赴くままに書いてると凄いボリュームに(笑)
これらはあくまで私が勝手に作った設定であり、「響鬼」の公式設定ではありませんのでご注意下さい。
音撃武器は原則として実在の楽器をモチーフとしており、管弦打の三系統を基本とする分類が伝統的になされてきた。20世紀以降は、DMCに倣い、楽器分類学におけるザックス=ホルンボステル分類が適用されている。
ザックス=ホルンボステル分類とは、発音原理に着目して楽器を以下の五種類に分ける分類法である。
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●体鳴楽器:弾性体で作られた本体が振動して音を出すもの。シンバル、トライアングル、シロフォン(木琴)やグロッケンシュピール(鉄琴)など。●膜鳴楽器:開口に張った膜の振動によって音を出すもの。太鼓の類。
●弦鳴楽器:弦の振動によって音を出すもの。いわゆる弦楽器。ピアノもこれにあたる。
●気鳴楽器:空気を振動させて音を出すもの。発音源の振動で直接外の空気を震わせる「自由気鳴楽器」(オルガンやハーモニカなど)と、管内部の空気で共鳴させる「吹奏楽器」(いわゆる「管楽器」全般)に分かれる。
●電鳴楽器:電磁気力によって音を出すもの。電気楽器(エレキギターなど)と電子楽器(電子ピアノ、シンセサイザーなど)に分かれる。この「電鳴楽器」という区分は他の四つとは由来を異にしており、音撃武器の分類には用いられない。
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発音原理が異なるとは、音撃の観点からいえば「清めの音」の発生原理が異なるということであり、音撃武器の研究開発においては重要な要素である。上記の分類法に従い、例えば太鼓の音撃武器は「膜鳴楽器(直接打奏太鼓)型音撃武器」と定義される。ただし、こうした呼称は開発局や各支部の技術者が専門的な文脈で用いるのみであり、現場の鬼達には「音撃鼓」や「音撃管」といったフランクな呼称の方がよほど通用しやすい。尚、楽器分類学における分類法と、「管楽器・弦楽器・打楽器・鍵盤楽器」といった実用上の分類法は一致しない部分も多く、それは音撃武器の呼称にもそのまま表れている。例えば「音撃鍵盤」と呼ばれる音撃武器の系統には、ピアノ型からグロッケンシュピール型までが含まれるが、上記の通り、ピアノは弦鳴楽器、グロッケンシュピールは体鳴楽器であり、同じ「鍵盤楽器」でも発音原理が全く異なるのである。
【体鳴楽器型音撃武器】
いわゆる「打楽器」の内、太鼓の類を除いたものが当てはまると考えてよい。楽器の種類ごとに独自の形状をしたものが多く、体系的な研究開発が困難であることから現代の鬼達にはあまり用いられていない。気鳴楽器型における「音撃管」や弦鳴楽器型における「音撃弦」のような総称もなく、楽器の種類ごとに独自の呼称が設定されている。主なものを以下に挙げる。
●音撃震張(おんげきシンバル)――直接打奏体鳴楽器(相互打奏容器)型音撃武器
シンバルを模した音撃武器。いわゆるクラッシュ・シンバル(二枚の円盤を両手に持って打ち合わせる形式のシンバル)の中央部に空洞と持ち手を設け、外周に刃を付けて魔化魍への近接攻撃を可能としている。二枚一組で運用される。戦闘時の持ち手とは別に、演奏時の持ち手用の帯が付いており、音撃の際にはそちらで保持する。
これを用いた音撃は「音撃拍(おんげきひょう)」と呼ばれ、垂直の刃のような形状をなす音撃の波動を比較的近距離から魔化魍に浴びせるものである。
伝説の「七人の戦鬼」の一人である煌鬼が用いたと伝えられており、現代では猛士総本部の白瀧鬼が音撃震張の使い手として知られる。
●音撃三角(おんげきトライアングル)――直接打奏体鳴楽器(単式単打奏棒)型音撃武器
トライアングルを模した音撃武器。三本の金属棒をリングで繋いだ形状をしており、戦闘時には三節棍として使用する。音撃時には金属棒先端のカラビナをリングに固定してトライアングルの形をなし、鎖分銅を持って保持する。撥(トライアングルビーター)には、鬼石を備えた専用の撥を用いる場合と、変身音叉で代用する場合がある。後者の場合、変身音叉の素材に鬼石が用いられ、有効な「清めの音」の威力を確保している。
これを用いた音撃は「音撃響(おんげききょう)」と呼ばれ、三角形の波紋をなす音撃の波動を連続して魔化魍に浴びせるものである。
「七人の戦鬼」の一人である西鬼が用いたと伝えられており、戦前までは京都支部にその流れを汲む鬼が在籍していたが、現在では音撃三角を用いる現役の鬼はいない。
●シロフォン型/グロッケンシュピール型音撃鍵盤――直接打奏体鳴楽器(複式単打奏棒)型音撃武器
広義の「音撃鍵盤」の内、シロフォン(木琴)やグロッケンシュピール(鉄琴)を模したもの。シロフォンやグロッケンシュピールの鍵盤を片手に収まるサイズに縮小したもので、平時は鬼の装備帯のバックルに着装される。鍵盤の片側に鏃が付いており、魔化魍の体に突き刺すことで、鍵盤全体が本物のシロフォン等と同じ大きさに巨大化。「音撃枹(おんげきふ)」と呼ばれる、先端に鬼石を備えた専用のマレットで打奏して「清めの音」を発する。
これを用いた音撃は、ピアノ等の音撃鍵盤によるものと同じく「音撃律(おんげきりつ)」と呼称されるが、外見的には「音撃打」に、技の原理的には「音撃斬」に類似するものである。音撃の波動は鏃を通じて斬撃のように魔化魍の体を貫く。
この類の音撃武器を用いる者は、中四国支部の綺咲鬼の他、関西支部や中部支部に数名が存在する。メインの武器として運用されることは稀で、音撃弦など他の種類の音撃武器を用いる鬼が副装備として携行することが多い。
●銅鑼型音撃鼓――直接打奏体鳴楽器(単打奏容器)型音撃武器
広義の「音撃鼓」の内、銅鑼を模したもの。和太鼓(膜鳴楽器)型の音撃鼓と外見上は類似しているが、発音原理を異にする。金属の銅鑼を片手に収まるサイズに縮小したもので、平時は鬼の装備帯のバックルに着装される。これを本物の銅鑼のサイズに巨大化させて中空に固定、ないし魔化魍の体に直接貼り付け、「音撃金棒(おんげきかなぼう)」と呼ばれる特大の音撃棒で打奏して「清めの音」を浴びせる。
これを用いた音撃は、音撃金棒を振りかぶる姿からの連想で「音撃殴(おんげきおう)」と呼称される。「七人の戦鬼」の一人である初代凍鬼が用いて以来、代々の凍鬼に限って受け継がれてきた音撃法であり、北海道支部総代である現・凍鬼もこのタイプを用いている。
●音撃鈴(おんげきりん)――振奏体鳴楽器(容器状ラッセル)型音撃武器
球形の鈴を模した音撃武器。神楽鈴のように、芯棒の周囲に多数の鈴を取り付けた形状をしている。極めて初期型の音撃武器であり、それゆえ戦闘に用いる形状をしていない。鈴の玉には鬼石が使われており、多数の鈴の音色が互いに共鳴することによって、非常に強力な音撃の波動を広範囲に拡散させることが可能。これを用いた音撃は「音撃奏」に含められる。
江戸時代の吉野で佐鬼という女性の鬼が用いた記録が残っている。現代では、同様の構造を持つDMCのスレイベル型音撃武器(HS-112.13, Vessel rattles)を参考にした最新タイプが総本部で試験的に運用されている。
【膜鳴楽器型音撃武器】
いわゆる「打楽器」の内、太鼓の類に属するもの。古くは砂時計型の小鼓(こつづみ)や大鼓(おおつづみ)型も用いられていたが、江戸時代以降、和太鼓型の音撃鼓が主流となった。
現代の猛士で「膜鳴楽器型」といえばほぼ和太鼓型とイコールである。一方、DMCには当然ながら「和太鼓」は存在せず、ティンパニ型やコンガ型など多岐に亘る膜鳴楽器型が運用されている。
●和太鼓型音撃鼓――膜鳴楽器(直接打奏太鼓)型音撃武器
広義の「音撃鼓」の内、和太鼓を模したもの。和太鼓を片手に収まるサイズの円盤状に縮小したもので、平時は鬼の装備帯のバックルに着装される。魔化魍の体に貼り付けることで太鼓のサイズに巨大化し、「音撃棒(おんげきぼう)」と呼ばれる、先端に鬼石を備えた専用のバチで打奏して「清めの音」を発する。これを用いた音撃は「音撃打」と総称される。
戦国時代には既に「七人の戦鬼」の一人である初代響鬼が用いていたとされるが、魔化魍に直接接近する必要があるにも関わらず音撃武器自体が戦闘用の形状をしていない不便さのため、広く普及することはなかった。和太鼓の音撃が日の目を見るのは、江戸時代、吉野の響鬼(初代響鬼との関係は不明)が単身でこの音撃法を復興させてからのことである。響鬼の活躍が全国の鬼達に伝わったことで、伝統を破り彼に追随する者が多数現れ、和太鼓型音撃鼓は一躍、音撃武器の主流の一つに躍り出た。現代では、管楽器全般、弦楽器全般と並んで、和太鼓型のみで「太鼓の音撃」という一カテゴリーを築いている程である。
●鼓(つづみ)型音撃鼓――膜鳴楽器(砂時計形太鼓)型音撃武器
小鼓や大鼓を模した音撃武器。平安時代の鬼達に用いられたと伝わる。和太鼓型音撃鼓との違いは、バチ(音撃棒)を用いずに直接手で打奏すること。調緒(しらべお)を操作することで、退治する魔化魍の種類に応じて「清めの音」の音色を自在に調整できたとされる。
鬼石の利用すら確立されていなかった古の時代の音撃武器であり、吉野の総本山にいくつか収蔵されているのみで、現代の鬼には使われていない。
●音撃束鈴(おんげきタンバリン)――膜鳴楽器(片面無柄枠太鼓)型音撃武器
タンバリンを模した音撃武器。中央部に持ち手を設け、外周に小さなシンバルを配置した、いわゆるモンキー・タンバリンの形状をしている。戦闘時にはガントレットとしての使用が可能。シンバルは鬼石で出来ており、小刻みに重なり合う音撃の波動を放つことができる。これを用いた音撃は「音撃奏」に含められる。
音撃震張や音撃三角といった派手な音撃武器が好まれた戦国時代に、備前(現在の岡山)辺りの鬼が用いたと伝わっている。現在、ディスクアニマルの装甲化の技術を応用し、タンバリン型音撃ナックルの設計・開発が吉野で進められている。
【弦鳴楽器型音撃武器】
いわゆる「弦楽器」の類。ネックのような横木のない「ツィター」、胴とネックからなる「リュート」、弦が響版に対して垂直になった「ハープ」の三種に分類される。音撃斬に用いられるものは剣戟武器の形状をしているが、それ以外にもボウガン型や、戦闘用の形状をしていないものもある。
尚、猛士で用いられている弦鳴楽器型はツィターとリュートのみであり、ハープ型は存在しない(朱鬼の竪琴型音撃弦はハープではなくリュート)。DMCではダブルアクションペダルハープ型の音撃武器も試作されたというが、持ち運びが困難な割に威力が出ず、実用化されなかったようである。
●琴型音撃弦――単純弦鳴楽器(取付弦式完全筒形ツィター)型音撃武器
日本の琴を模した音撃武器。「琴(こと)型」と銘打っているが、実際には「琴(きん)」ではなく「筝(そう)」の形状をしている(「こと」と呼ばれる楽器には琴(きん)と筝があり、前者は弦を押さえる個所で音程が決まるが、後者は琴柱(ことじ)という可動式の支柱で音程を調整する)。
筝の先端に刃を付けた形状をしており、本体内部の空洞に片腕を収めて近接武器として使用する。弦の部分は「音撃連(おんげきれん)」という形で蛇腹状に折り畳まれ、平時は装備帯のバックルに着装されていて、音撃時には筝の本体に装着して弦を張る。本体の刃を魔化魍の体に突き刺し、弦を奏でることで「清めの音」を流し込む。
これを用いた音撃は伝統的に「音撃遊(おんげきゆう)」と呼称されるが、技の原理としては「音撃斬」と同様である。ただし、ギターやチェロなどの音撃斬と比べると、音撃の波動が斬撃のように敵を貫くのではなく、刃を突き刺した部分を中心に全円状に波動が広がって魔化魍を包み込み撃破するという違いがある。
古くから用いられてきた武器であるが、ギター型などに比べると取り回しの利便性では劣るため、次第に数を減らしてきている。現在では中四国支部の爪弾鬼が琴型音撃弦の使い手として知られる他、東北支部、北海道支部に使用者が存在する。
●ピアノ型音撃鍵盤――単純弦鳴楽器(共鳴箱式平板形ツィター)型音撃武器
広義の「音撃鍵盤」の内、アップライトピアノを模したもの。音撃武器への採用が珍しい鍵盤楽器型の中でも特に異彩を放っており、その巨大さゆえに通常の携行は不可能で、実際は車両の後ろに備え付けるなどして運用される。鍵盤の一つ一つに鬼石が用いられており、極めて高い威力を持つ。音撃の際には、管楽器の鬼が用いるのと同様の「音撃鳴(おんげきめい)」を併用し、音撃鳴を魔化魍の体に貼り付けて展開することで「清めの音」を増幅・集束させる。
これを用いた音撃は「音撃律」と呼称されるが、実質は音撃鳴の補助による音撃奏といったところである。
DMCで運用されているピアノ型音撃武器(HS-314.122-4-8, Board zither with resonator box)の技術提供を受け、吉野の開発局で一台のみ試験的に製作された。ピアニスト出身の月代鬼が中四国支部でこれを運用し、総本部の予想を上回る成果を上げている。ただ、製作コストが多大になることや、これを用いる鬼には極めて特殊な戦術が要求されることから、現時点では量産の予定はない。
●ヴァイオリン型音撃弦――複合弦鳴楽器(箱胴式頸柄リュート)型音撃武器
ヴァイオリンを模した音撃武器。ヴァイオリンの側面が展開してボウガンの形状をなし、鬼石の鏃を持つ矢を放って魔化魍を攻撃する。糸巻きとスクロールの部分は「音撃錠(おんげきじょう)」として独立しており、装備帯のバックルに着装されている。音撃時には音撃錠を指板先端に取り付けて弦を張り、変身鬼弓(へんしんおにゆみ)で擦奏する。また、ピチカート奏法による音撃も可能。
同じヴァイオリン属であるチェロ型やコントラバス型とは、楽器としての発音原理は同じであるが、音撃武器としては種類が異なる。チェロ型やコントラバス型が魔化魍への物理的接触を伴う「音撃斬」の方式を取るのに対し、ヴァイオリン型は、事前に打ち込んだ矢に「清めの音」を共鳴させ、遠距離から魔化魍を攻撃する「音撃奏」の方式を採用している。
日本には明治期に初めて入り、ギター型と並ぶ洋式音撃弦の主流として多くの鬼に使われてきた。しかし、同じ飛び道具なら音撃管の方が効率が良いと考えられるようになり、「近接武器としての音撃弦と、飛び道具としての音撃管」という分担が定着した現在となっては、敢えてヴァイオリン型を用いる鬼はごく少数になっている。
●チェロ型/コントラバス型音撃弦――複合弦鳴楽器(箱胴式頸柄リュート)型音撃武器
チェロやコントラバスを模した音撃武器。ヴァイオリンと同属の楽器で、音撃弦本体と音撃錠、変身鬼弓からなる構成は同じだが、武器としての運用法がヴァイオリン型とは異なる。チェロ型、コントラバス型ともに、エンドピンにあたる部分に鬼石の刃が装備されているが、戦闘時に武器として用いることはほとんどなく、大きさと頑丈さを活かして盾として運用される。音撃時にはエンドピンの刃を魔化魍の体に直接突き刺して「清めの音」を流し込むか、地面に刃を突き刺して遠距離から「清めの音」を伝える。音撃法としては「音撃斬」に分類される。
盾という形態の特性上、鬼によって好き嫌いがはっきり分かれる音撃武器といえる。特にコントラバス型は、音撃の威力が高い反面、その巨大さゆえに取り回しが難しく、相当な熟練者でなければ運用できないとも言われる。近年では、当代一の音撃弦使いと目された斗鬼がコントラバス型を用いていたことで有名で、彼女の引退に伴って孫弟子の彩鬼がそれを受け継いでいる。
●ギター型音撃弦――複合弦鳴楽器(箱胴式頸柄リュート)型音撃武器
ギターを模した音撃武器。「エレキギター型」とも呼ばれるが、あくまで形状がクラシックギターよりエレキギターに似ているというだけであり、電気的操作で音を出す訳ではない(従って「電鳴楽器」の区分にも入らない)。
ネックを持ち手とし、ボディーの両側に刃を付けた剣戟武器として運用される。弦の中心部は「音撃震(おんげきしん)」として独立しており、平時は装備帯のバックルに携行される。音撃時には音撃弦本体の切っ先を魔化魍の体に直接突き立て、撥弦して「清めの音」を流し込む。この音撃は「音撃斬」に分類される。
戦国時代には「七人の戦鬼」の一人である初代轟鬼が、後世のギター型の原形となる初代「烈雷」を用いていたとされる。初代烈雷は文献に記述が残るのみで現存しないが、明治に入り、西洋式の弦楽器が本格的に国内で用いられるようになって以降、戦闘時の攻撃力に優れたギター型は全国の鬼達に一気に普及した。ギターという楽器自体の大衆性も相俟って、現在、ギター型音撃弦は弦鳴楽器型の中で最もスタンダードな形式となっている。
●竪琴型音撃弦――複合弦鳴楽器(軛形柄リュート)型音撃武器
ライアー(殻胴式リラ)ないしキタラ(箱胴式リラ)を模した音撃武器。片腕で抱えるサイズのいわゆる「水瓶型ハープ」の形状をしており、中空の共鳴箱から二本の腕が伸び、上端の横木と底面のブリッジの間に四本の弦が張られている。尚、「水瓶型“ハープ”」とは言うものの、実態はハープではなくリュートである。
通常の戦闘には用いられず、専ら音撃にのみ使用される。これを用いた音撃は「音撃奏」に分類され、空気の共鳴のみを媒介として「清めの音」を直接魔化魍に浴びせる形式を取る。
関東支部にかつて所属していた朱鬼が「鬼太樂」という名の竪琴型音撃弦を用いていたが、本人によれば明治時代以前から存在した個体らしく、出自や製作者は明らかになっていない。後に、朱鬼の鬼太樂を模して竪琴型音撃弦の試作型が作られ、斗鬼が試験的に運用していたが、術力の衰えた現代の鬼には向いていないと判断されお蔵入りになった。
【気鳴楽器型音撃武器】
気鳴楽器は「自由気鳴楽器」と「吹奏楽器」に分かれ、後者がいわゆる「管楽器」全般に相当する。吹奏楽器の音撃管は、音撃弦と並んで最も広く用いられている音撃武器であり、長年に亘る研究開発の歴史を経て高度に体系化されている。多くは飛び道具としての形状を有し、魔化魍に鬼石を撃ち込んで「清めの音」を共鳴させる「音撃射」という音撃法を採用している。
また、笙やハーモニカといった自由気鳴楽器型も僅かながら存在する。
●音撃笙(おんげきしょう)――自由気鳴楽器(自鳴的中断層気鳴楽器)型音撃武器
笙を模した音撃武器。匏(ふくべ)の上に17本の竹管を円形に配置したもので、戦闘時には吹き矢として使用される。簧(した)と呼ばれるリードの部分に鬼石が仕込まれており、合竹(あいたけ)と呼ばれる和音を奏でて「清めの音」を発する。一般的な管楽器と異なり、吹いても吸っても同じ音を出すことができるので、息継ぎをすることなく音撃を放ち続けることが可能。
江戸時代初期に出雲の初代蒼鬼が用いた音撃笙「烈閃」があまりにも有名。その調べは天から差し込む光の如く魔化魍を祓うと言われた。「烈閃」が四代に亘って受け継がれた後、五代目・六代目の蒼鬼は笙から離れたが、七代目蒼鬼の代では再び音撃笙が用いられた。現在、「烈閃」は双柳寺家に収蔵され、七代目が用いた「烈輝」は吉野の開発局に寄贈されている。双柳寺家への遠慮もあってか、その他の鬼が笙の音撃武器を用いたことはない。
●音撃口風琴(おんげきハーモニカ)――自由気鳴楽器(自鳴的中断層気鳴楽器)型音撃武器
ハーモニカを模した音撃武器。ハーモニカのフリーリード部に鬼石を仕込み、「清めの音」を奏でるもの。大正時代に試作されたものが開発局に保存されているが、実際の戦果は記録されていない。
●尺八型音撃管――刃型付吹奏楽器(無隙溝型開管単式縦吹きフルート)型音撃武器
尺八を模した音撃武器。霊木に相当する聖地の竹を切り出して作り、歌口には鬼石が埋め込まれている。戦闘時には吹き矢として用いる。基本的な運指で西洋の12音階全てを演奏することが可能で、これによって多種多様な「清めの音」の調べを放つことが可能。
尺八は、元来は虚無僧が用いる法具であり、仏門以外の者が吹くことは幕府の法度で禁じられていた。音撃武器としての利用は、江戸時代末期の十代目蒼鬼がさる普化宗(ふけしゅう)の高僧と共闘関係を結んだことに端を発する。十代目が音撃としての尺八の奏法を完成させ、引き続き十一代目蒼鬼も尺八型を用いた。
現在用いられている他の音撃管と比べると、構造が比較的単純なので、現代の鬼でも少々手慣れた者なら呪術による縮小・召喚が可能。総本部の白瀧鬼以下、全国に数名の使用者がいる。
●竜笛型音撃管――刃型付吹奏楽器(無隙溝型開管単式横吹きフルート)型音撃武器
竜笛を模した音撃武器。尺八型と同様に聖地の竹を切り出して作り、管の中に鬼石を仕込んで音量を高めている。戦闘時には吹き矢として用いる。低音から高音の間を縦横無尽に駆け抜けるその音色は、舞い立ち昇る龍の鳴き声に喩えられる。
竜笛は古く平安時代から貴族や武将に愛され、音撃武器としても最も古い歴史を持つものの一つである。この竜笛型音撃管がシルクロードを通ってヨーロッパに伝わり、フルート型音撃武器(現代のコンサート・フルートとは異なる)の基礎になったとも言われている。
江戸時代には吉野の威吹鬼が竜笛型を代々用いていた他、六代目蒼鬼が愛用したことでも知られる。しかし現在では、銃器としての利便性が高い西洋式の音撃管に押され、実戦で用いる者は居なくなっている。
●フルート型音撃管――刃型付吹奏楽器(無隙溝型開管単式横吹きフルート)型音撃武器
西洋のコンサート・フルート(一般的な「フルート」)を模した音撃武器。金属製の管体の先端に刃を付け、吹き矢の他に近接武器としても使用できるようになっている。管体の頑丈さを活かし、敵の武器と鍔迫り合いを繰り広げることも可能。音撃の威力は、クラリネット以上・金管未満といったところ。
古くは戦国時代、「七人の戦鬼」の一人である羽撃鬼が用いたとされ、当時は「音撃吹道(おんげきフルート)」と呼ばれていた。ただし、その時代に「フルート」といえば単に笛全般を指しており、今日におけるフルート型音撃管とは仕様を異にしていたと考えられる。
現代のコンサート・フルートは、19世紀半ば、DMCドイツ支部の客員技師でもあったテオバルト・ベームにより、音響学の理論に基づいて大幅に改良され完成したものである。これを基にしたフルート型音撃武器は瞬く間にヨーロッパ全土に配備され、日本にも明治初期にもたらされた。国内に現存する最古のコンサート・フルート型音撃管は、東京支部の白銀鬼が用いたとされる「烈流」である(関東支部研究室に収蔵)。
現在では、金管型の音撃管と比べると採用頻度は極めて低いが、見た目の優雅さから女性の鬼に好んで用いられる傾向がある。中四国支部に所属していた卦矢鬼(先代冥鬼の妻)がフルート型音撃管の名手として知られた他、北海道支部の白雪鬼や吹雪鬼もフルート型を用いている。
●篳篥型音撃管――有舌吹奏楽器(円筒管単式オーボエ)型音撃武器
篳篥(ひちりき)を模した音撃武器。漆塗りの竹で作られ、内部に鬼石が仕込まれている。戦闘時には吹き矢として用いる。リードにあたる葦舌(した)は「音撃舌(おんげきぜつ)」と呼ばれ、平時は装備帯のバックルに着装されており、音撃時には音撃管上部に結合させて「清めの音」を奏でる。
雅楽では、笙、竜笛、篳篥を併せて「三管」と呼ばれ、笙は天から差し込む光、竜笛は天地の間を泳ぐ龍の声、篳篥は地に在る人の声をそれぞれ表すとされる。篳篥型音撃管は平安時代から広く用いられ、その音色によって死にゆく者を生き返らせたり、盗賊を改心させたという逸話が残っている。
江戸時代以降は、五代目と九代目の蒼鬼が用いたことで知られる。現在の鬼には用いられていない。
●ファゴット(バスーン)型音撃管――有舌吹奏楽器(円錐管単式オーボエ)型音撃武器
ファゴットを模した音撃武器。全長135cm程の長大な管体を有し、戦闘時には強力な火砲として用いる。「音撃木片(おんげきもくへん)」と呼ばれるダブルリードが装備帯のリードケースに収められており、音撃時にはこれを取り付けて吹奏する。銃弾となる鬼石の口径も他の音撃管より遥かに大きく、「清めの音」の共鳴の威力もそれに比例して高い。
DMCで一部の音撃戦士に運用されているファゴット型音撃管が九州支部に払い下げられ、現在は好鬼が用いている。通常戦闘と音撃のいずれにおいても多大な成果を上げているが、管体の巨大さゆえに取り回しは難しく、また大口径の鬼石の安定供給にも難があるため、国内での量産化は今のところ計画されていない。
尚、「ファゴット」とはイタリア語での名称であり、英語では「バスーン」と呼ばれる。
●クラリネット型音撃管――有舌吹奏楽器(円筒管型単式クラリネット)型音撃武器
クラリネットを模した音撃武器。グラナディラによる木製の管体で長銃の形状をなし、主に片手で保持して射撃を行う。音撃時にはシングルリードの音撃木片を取り付けて吹奏する。
低音から高音まで幅広く対応できる音色の豊かさが売りだが、金管の音撃管のように「清めの音」の波動が一気に魔化魍の体内に駆け巡るのではなく、じわじわと全身を浸食していくような響き方をする。そのため、安定した音色を一定以上の時間に亘って持続させなければ魔化魍の撃破に繋げることができず、鬼自身に高い術力が求められる音撃武器であるといえる。
中四国支部から北海道支部に移籍した粉雪鬼の他、関西支部の埜鬼、九州支部の雄鬼と好鬼がクラリネット型音撃管の使い手として知られていたが、九州の二人は上述の難点を憂い、クラリネット型を手放して別の音撃管に持ち替えている。
粉雪鬼の弟子の耀鬼に支給された音撃管は、クラリネット型の弱点を補うために、速射性能の強化や散弾銃への切り替え機能、また鬼石の錬成度の強化など、様々なチューンナップが施されたものである。
●サクソフォーン型音撃管――有舌吹奏楽器(円錐管型単式クラリネット)型音撃武器
サクソフォーン(サックス)を模した音撃武器。ソプラノ、アルト、テナー、バリトンの四種類が製作されている。ソプラノ以外の三種は、ベル部分が二股に展開してボウガン型となる仕組みが共通しており、鬼石の鏃を持つ矢を放つ。ソプラノはクラリネット型と同様の長銃として運用される。いずれも音撃時にはシングルリードの音撃木片を取り付けて吹奏する。
管体は真鍮を主とした金属製。木管楽器の運動性能の高さ、金管楽器のダイナミックレンジの広さを兼ね備えており、洗練された運指、発音の容易さは他の吹奏楽器に類を見ない。音撃の威力はバリトンが最大だが、取り回しの難易も考慮し、鬼達は自分の好みに合った種類のものを選択している。
サクソフォーンは1840年代にベルギーのアドルフ・サックスによって発明され、ベーム式フルートと並ぶ最新鋭の音撃武器としてDMCで広く使用された。日本では、明治初期、十二代目蒼鬼によって西欧から持ち込まれたことで非常に有名。以後、現在の十七代目に至るまで代々の蒼鬼がサクソフォーン型を用いている他、九州支部の雄鬼など、全国に十名程度の使用者がいる。
●音撃螺(おんげきら)――唇簧吹奏楽器(上端歌口式法螺貝形トランペット)型音撃武器
法螺貝を模した音撃武器。実物のホラガイを利用し、口金を石膏で固定して加工したもの。鬼道の黎明期であった平安時代、修験道の立螺作法(りゅうらさほう)との混淆によって鬼達に用いられるようになった。様々な音階の音色を組み合わせて獅子の咆哮の如き「清めの音」を発し、魔化魍降伏の力を発揮したと伝説に伝わっている。
はっきりとした記録に残っている音撃螺は、江戸時代、吉野の里の指導者の一人であった鬼堂という鬼が用いたものが唯一。内部に鬼石を配置し、極めて威力の高い音撃を発することが可能だったとされる。明治の頃までには完全に廃れ、後世の鬼には受け継がれていない。
●トロンボーン型音撃管――唇簧吹奏楽器(スライド式半音階トランペット)型音撃武器
トロンボーンを模した音撃武器。トロンボーンからベルを取り除いた形状の、ロングバレルの銃器で、長い射程距離を持つ。音撃時にはバックルに着装された音撃鳴を合体・展開させてベルの形をなし、マウスピースを唇で振動させて「清めの音」を発する。
西洋では古くから用いられていたタイプの音撃武器であり、日本には明治期にもたらされた。日本で金管の音撃管と言えばトランペット型の方がポピュラーだが、DMCではトロンボーン型の方が遥かに多く用いられている。これは、トロンボーンという楽器が、そのハーモニーの美しさなどから「神の楽器」と称され、古くから宗教音楽の場で重宝されていたことと無関係ではないと思われる。教会直属のエクソシストやヴァンパイア・ハンターに由来を持つDMCの音撃戦士にとって、神聖な性格を帯びるトロンボーン型音撃管が退魔の武器として好まれるのは必然であったと言えよう。
●ホルン型音撃管――唇簧吹奏楽器(変音弁付き半音階トランペット)型音撃武器
ホルンを模した音撃武器。ホルンからベルを取り除いた形状の輪剣で、中央部に持ち手があり、外周には鬼石を研磨した刃が付いている。他の金管型と同様、音撃鳴を合体・展開させてベルの形状をなす。
飛び道具としての性質を持たない音撃管は極めて珍しい。当然、鬼石の撃ち込みというプロセスを事前に経ることが出来ないので、これを用いる鬼は「音撃奏」の高い技量を持つことが前提となる。鬼石用の銃器を音撃武器とは別に携行するという手段もあるが、そこまでしてホルン型を使用する必然性は薄い。
DMCでもあまり用いられていない種類の音撃武器であるが、日本では大正時代、山陰支部の初代幸鬼がさる外国の軍人から託されてホルン型音撃管「輝穂」を手にしている。それ以降、鬼の力で太平洋戦争を生き延びた二代目幸鬼以下、現在の四代目幸鬼に至るまで「輝穂」が受け継がれている。
●トランペット型音撃管――唇簧吹奏楽器(変音弁付き半音階トランペット)型音撃武器
トランペットを模した音撃管。トランペットからベルを取り除いた形状のハンドガンで、トロンボーン型と比べると小型で取り回しに優れる。音撃法は他の金管と同様。
トランペットの起源は、紀元前7世紀のアッシリアや旧約聖書、ギリシア、古代ローマまで遡ることができる。中世ヨーロッパで初めて音撃技術が体系化された際、前述の通り神聖視されていたトロンボーンと並び、金管楽器の代表格として用いられたのがトランペット型音撃管であった。これは戦国時代の日本にも伝わり、一説によれば、「七人の戦鬼」に名を連ねる初代威吹鬼が国内で最初に用いたとされる。
国内におけるトランペット型音撃管の本格的な隆盛は明治以降であり、双柳寺家が主導するサックス型の普及と競うようにして、吉野の和泉家が主体となってトランペット型の全国配備が進められた。取り回しの利便性や安定した音撃の威力が現場の鬼達の支持を集め、現在では他の音撃管を大きく押さえて国内トップの普及率を誇っている。
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……以上、音撃武器の設定でした。
楽器オタクが気の赴くままに書いてると凄いボリュームに(笑)
これらはあくまで私が勝手に作った設定であり、「響鬼」の公式設定ではありませんのでご注意下さい。