首相動静は「知る権利を超えている」という小池元防衛相の発言は典型的インテリジェンス
新聞の首相動静が「国民の知る権利の範囲を超えている」という小池百合子元防衛相の発言が話題となっている。特定秘密保護法案が国会提出されるタイミングだけに、小池氏の発言には賛否両論が出ている。
だが、本当に重要なことは首相動静が「知る権利」なのかという問題ではない。小池氏がどれほど意識しているかは不明だが、小池氏の発言は典型的なインテリジェンス(諜報活動)的なものであり、国民はこの点をよく理解しておく必要がある。
インテリジェンス活動というと多くの人がスパイ活動や軍事衛星を使った情報収集などを思い浮かべるかもしれない。
だがインテリジェンス活動のうち9割以上を占めるのは、新聞や雑誌といった公開情報を丹念に収集分析することであり、インテリジェンス先進国と呼ばれる国でも多くの要員が公開情報の収集分析に割かれている。
また能動的なものではマスコミやネットに対する積極的な情報発信も立派なインテリジェンスに相当する。インテリジェンスは秘密にすることだけに意味があるのではなく、ウソや偏った情報をあえて流し、周囲の反応を見ることも重要な活動の一つなのである。
その意味で政治家や官庁からの垂れ流し記事が多い日本の新聞記事は、インテリジェンスの宝庫といえる。誰が何の目的でその情報を新聞記者に流したのかという視点で記事を見ると、実に多くのことが分かるのだ。記者が持論を述べてしまう欧米の新聞よりも、むしろ分析には都合がよいこともある。
そういった観点で小池氏の発言を眺めてみると、少し違った側面が見えてくる。小池氏は日本の首相動静はあまりにも詳細なものだと指摘しているが、永田町関係者でそれを信じる人はいない。実際に新聞の首相動静を見れば分かると思うが、日程はスカスカなことが多い。重要なのは、大きく空いた時間の方であり、本当に重要な人物との面会はこうした時間帯でセッティングされ、首相動静には一切載らないのだ。
確かに小池氏が指摘するように、海外の新聞には日本ような細かい首相動静の記事はないが、例えば米国であれば、ホワイトハウスがかなり詳細なスケジュールを公表している。少なくとも公務時間内であれば、新聞に頼らなくても必要な情報は得られるようになっている。だがホワイトハウスの公式日程がすべて本当なのかは誰にも分からない。インテリジェンスとはそのようなものなのだ。
首相官邸には首相動静に載らないよう、首相とのウラ面会をアレンジすることで、上手く立ち回っているような人物もいるし、首相動静にあえて載るように、わざとらしく面会に来る人もいる。また新聞記者に面会を報道させない代わりにバーターで別な情報をもらうという取引も存在する。首相動静を海外の政府が悪用しているというなら、あえてニセの情報を動静に載せ、諸外国の動きを探ることもできるわけで、防衛大臣だった小池氏がそのことを知らないはずはない。
小池氏の発言を評価する場合には、小池氏が何の目的でこの情報を誰に向けて発信しているのか?ということを考える必要があるだろう。単に国民の知る権利について過剰に国民が騒がないよう牽制したのかもしれないが、それにしては少々安直である。首相動静の欄が新聞から消えると、得する人と損する人が出てくるはずである。小池氏の本当の狙いはこのあたりにあるのかもしれない。
少なくとも、この発言を聞いて「その通りだ。首相動静を新聞に載せるなど安全保障上問題だ!」などと思ってしまっているようなら、政府に情報をコントロールされる側にいる可能性が限りなく高い。