2011-04-30
■[歴史と伝説]有職読み
面白い。
『名前とは何か なぜ羽柴筑前守は筑前と関係がないのか』(青土社)のp.100に「有職読み」という語が出てくるが、このような言葉は存在しない。これは2006年何者かによってWikipediaに立項され、その内容がいかにもありそうだったため、以後増補が続けられてきたもので、2010年9月9日読売新聞西部版夕刊に、こんなコラムがある。
そもそも俺は「有職読み」という言葉を知らなかっただけでなく、「故実読み」という言葉さえ知らなかったんだけれど。
ちょっと調べてみた。
小谷野先生は「有職読み」という言葉は存在しないというけれど、三省堂の『大辞林』に載っている。
⇒ゆうそくよみ【有職読み】 の意味とは - Yahoo!辞書
ただし、意味は、
「故実(こじつ)読み」に同じ。
であるから、ウィキペディアの説明とは違う。
ウィキペディアの記事の初出は2006年1月18日のこと。
それ以前に使われた例はないかと調べると、2005年2月14日に
「有職(ゆうそく)読み」と言って、特に成功した人の名前を音読みで読むことは古来からの慣習であり、特段失礼なことではありません。
とあり、また別の人が
と回答している。
さらに古くは
35 名前:日本@名無史さん :01/10/01 17:27
>1
あのね、こういうのを「有職読み」っていうの。
これは慣例なんだよ。
確かに元々は中国かぶれだったのかもしれないけど、もう日本語としての慣例なの。
分かった?
とあったりする。
調査続行中。
※「有職読み」って「ゆうしょく」と読むべきところを「ゆうそく」と読むって意味も含んでいるんだろうか。本来の意味で使えば「故実読み」よりもしっくりする感じ。
(追記 16:40)
さらに古いのを発掘。2001/5/18のもの。
⇒苗字と名前の間に「の」つくのはなぜ? - 歴史 - 教えて!goo
しかし、音読みにしても、有職読みというものがあって、式子内親王は漢音で「しょくし」と読むのが、伝統的です。彰子の院号は上東門院ですが、これも濁らず「しょうとうもんいん」と読みます。まあ、この辺はどうでもいいのですが。
「伝統的」というところを重視すべきなのに「漢音」というところに注目してしまった人がいて拡散した可能性もある。
ただし、定型的な説明がなされたものが多いので、ウィキペディア以外でどこかにそう書かれた元ネタがある可能性が大きそう。
(追記)
小谷野氏の追記によると、角田文衛『日本の女性名』にあるらしい。上の「教えて!goo」も角田氏のことが書いてあるから、ここが発祥の可能性は大きい。
ただし、上にも書いたけれど、これは特定の歌人は音読みするのが慣例、すなわち有職読み(=故実読み)だという意味であって、音読みするのが有職読みだという意味ではないでしょう。それが誤解されて広まったのではないだろうか。
しかも、誤解したにしても、ウィキペディアのもっともらしい説明は何が根拠になっているのか全く不明。話に尾ひれが付くの典型例でしょうね。
(追記 5/2)
「故実読み」「有職読み」あるいは「名目読み」と同じ意味を持つ言葉があって、それがいつからあるのかわからないけれど、最近出来たというわけではないでしょうね。呼び方が複数あるのは、これが学術用語ではなくて、たとえば歌道の流派ごとに呼び方が違ったとかいった理由かもしれない。
角田文衛『日本の女性名』が発祥かもしれないと書いたのは、角田氏が「有職読み」という言葉を作ったということではなくて、これを誤解した人(角田氏が誤解しているわけではない)が発祥で異なった意味で流布するようになったのだろうということ。
ただ、それだけでネットで広まるだろうかというと疑問に思わないでもない(ウィキペディアによって爆発的に拡散したのは間違いないだろうけれど)。その中間で誰かが間違った説明をどこかの雑誌等で披露した可能性があるように思う。