【第14話】【 魯山人の珍味 山椒魚 】

珍味(ちんみ)とは、地域古来の珍しい食材、あるいは昔は一般的であったが、食文化の変化により現在では口にされなくなっていったものを指す。

その伝からいうと、山椒魚(サンショウウオ)料理などは、最たるものであろう。

山椒魚(サンショウウオ)の味は、魯山人いわく、
「山椒魚はすっぽんのアクを抜いたようなすっきりした上品な味である」
とある。

魯山人が「サンショウウオを、最初に手に入れたのは2尺ぐらいのものであった。」
というから、オオサンショウウオのことであろう。

オオサンショウウオ(大山椒魚)は、日本では本州の岐阜県以西と四国、九州の一部に生息する、チュウゴクオオサンショウウオと並ぶ世界最大の現生両生類である。体長は50〜60cm、中には1mを越えるものもいる。目はとても小さく、視力は弱い。日本国の特別天然記念物(1952年3月29日指定)。 出典 ウィキペディア(Wikipedia)

食材としてではないが、たしか、横溝正史の「金田一幸助シリーズ」の小説の中に、山椒魚を眼病治療薬として飼っていたというのがあった。

魯山人も、出雲の人から山椒魚を送られたときに、山口県あたりでは、始終食っており山椒魚料理が珍しいものではないことを聞いている。

料理といっても、土地の人は、山で見かけると、その場で焼いて食うのだそうだ。

しかし、今では絶対に食べることのできない料理、というより食ってはいけないものである。
なにせ、山椒魚は特別天然記念物である。

特別天然記念物には、オオサンショウウオの他、アマミノクロウサギ、ライチョウ、オナガドリ、ニホンカモシカ 、トキ 、タンチョウ 、コウノトリ、アホウドリ 、カワウソ 、メグロ 、ノグチゲラ 、イリオモテヤマネコ 、カンムリワシ 、オオタカ などがいる。

しかし、指定希少野生動植物の無許可捕獲に対する罰則は、国ではなく、各地方自治体の裁量に任せられているようだ。
絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律

横溝正史の小説の舞台となることの多い、岡山県では、
岡山県希少野生動植物保護条例の制定についてによると、
○指定希少野生動植物の無許可捕獲等は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金
となっていて、他の地方自治体においても、この罰則を掲げている所が多い。

話がそれてしまったが、山椒魚(サンショウウオ)料理の下ごしらえであるが、
(以下引文 魯山人の料理王国)

大分前の話になるが、旧明治座の八新の主人が、山椒魚料理の体験談を聞かせてくれたことがある。その話の中で「山椒魚を殺すには、すりこぎで頭部に一撃を喰らわせるんですが、断末魔に、キューと悲鳴をあげる、あの声はなんとも言えない薄気味悪いもんですな」と心から気味悪そうに語った。

sannshouuo.jpg(18434 byte) 出典 ウィキペディア(Wikipedia)

もともとの姿かたちが、グロテスクなものである。
それが、断末魔の叫びを上げるというのだから、魯山人も始めて山椒魚を料理するときは、さすがに、ためらいがあったようだ。

八新の主人公の伝で、頭にカンと一撃を喰らわすと、簡単にまいった。腹を裂いたとたんに、山椒の匂いがプンとした。腹の内部は、思いがけなく綺麗なものであった。肉も非常に美しい。さすが深山の清水に育ったものだという気がした。そればかりでなく、腹を裂き肉を切るに従って、芬々たる山椒の芳香は厨房からまたたく間に家中にひろがり、家全体が山椒の芳香に包まれてしまった。恐らく山椒魚の名はこんなところからつけられたのだろう。

山椒魚の名前の由来である。

また、魯山人お気に入りの寿司屋久兵衛の主人に懇願され、山椒魚を裁かせたときには、(この久兵衛という人を魯山人は、「気骨稜々意気軒昂たる気構えは、今様一心太助といってよい。」とまで持ち上げている。)

なにしろ、四ツ足なので、豪気の久兵衛も初めのうちは、ガタガタとふるえて気味悪がっていたが、意を決して一撃を食らわし、とうとう三匹とも料理してしまった。

こんな人ですらこうであるから、魯山人が、山椒魚の前で、ひるんだのもムベなるかな、
なのかもしれない。

この山椒魚、スッポンのようにぶつ切りにし煮てみたが、煮れども煮れども一向に柔らかくならない。2、3時間たっても硬いまま。味は最良だったようだが、硬さは取れないものだったようだ。

翌日、食べてみると、前の日にあれほど長いこと煮ても硬かったものが、皮などトロトロになっていて、肉も非常に柔らかくなっていて、汁も遥かに美味くなっていた。一旦冷めると、大きく変化するようなもののようだ。

その後、何度か魯山人は山椒魚料理の会(?)を開いているが、やはり肉は硬いままであった。 普通に考えれば、前日から準備して調理していればいいのにと思うのだが・・。
招待して食事をさせるとなると、食材の姿を見せてから料理を始めるというのが、魯山人の考え方だったのだろう。

一番、うまいところで食いたいとは思うんだが・・・な。

料理法であるが、

まずはらわたを除いたら、塩でヌメヌメを拭い去り、一度水洗いして、次に塩を揉み込むようにして肉を清める。こうして再び水洗いして三、四分ぐらいの厚さの切身にする。
汁は酒を加え、丸生姜と葱を入れて、ゆっくり煮る。
山椒魚をは肉をうまいが、ゼラチン質の分厚な皮がとびきりうまい。すっぽんで言えば、あのペラペラしたところに当たる訳であるが、それよりモトモチしていて品の高いものがある。
山椒魚を裂くと、山椒の香りがすると書いたが、この香りは鍋に入れて煮てゆくうちに段々消え去ってしまう。

おそらく、というより絶対に食えることのない珍味の調理法でした。

蛇足:露座人が出向中(銀行に缶詰状態)のため、外部への連絡もできず、朝から夜遅くまで働かされ時間がないと泣き言をいってきた。

早く会社に戻してもらいたい、とも(そんなことは、会社へ言え。)
そんなわけで、ピンチヒッター、KOKI

  資料出典 魯山人の料理王国 北大路魯山人 文化出版局


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