第1話 なりゆき! 魔法少女
OPパート そして喜劇の幕は上がる
照明を落とした室内。壁のスクリーンにある記録映像が流されていた。その映像の上映が終わると、室内には各々が交わす私語でざわめいていた。
そんなざわめきの中、机に肘をついて両手を祈るように眼前で組んだ男のシルエットがスクリーンの前にせり上がり、それと共に室内のざわめきは潮が引くように無くなった。
「諸君。今、見てもらった通りだ」
彼は沈黙した室内を見渡し、重々しく声を発した。その室内に居た全員が緊張が走り、何人かが喉の渇きを覚えて、唾を飲み込む音が静まり返った室内に響いた。
「しかし、これは……私の意見としましてはそこまで問題視するほどではないかと……」
室内の誰かが緊張に耐えかねてか発言した。年のころなら三十半ばぐらいの優しそうな顔をした男であるが、緊張のせいでその表情は硬い。
「ふっ。君は若いからな。我々の世代の感性は古いと言いたいのだろう?」
それに対して四十も終盤に差し掛かったぐらいのだみ声の男が若い彼に嫌味を返した。
三十代の男が嫌味を言った男の方に怒りを込めて視線を向けた。
「どうして、いつもそう言うことを言うのですか? 若いとか古いとかは今は関係ないことでしょうに」
「それこそ、今はそんな事を言い合っている時ではないだろう。支部長。この問題をどうお考えで?」
険悪になった二人を止めるように、嫌味を言った男と同年代の品のよさそうな男がシルエットの男に話を戻した。
「うむ。近年稀に見る逸材を得ることができ、今、我々の手によって冬の時代に終止符を打つチャンスなのは大変喜ばしいことだ」
支部長のその言葉に場の空気が少し軽くなり、その重圧から開放された者達によって、再びざわざわと私語が交わされた。
「が、しかし!しかしだ!このままでよいのか?このまま無駄に時間を過ごしてしまってせっかくの逸材を駄目にしてしまってよいのか!皆もよく知っている通り、最大の敵は時間なのだ!」
支部長の続けた言葉は会場を圧倒した。誰もが私語をやめ、前よりも更に重い、マリアナ海溝の海底にいるかのような重苦しい静寂が流れた。
「し……しかし、現状でも一定の成果は上げております。そこまでしてしまってよろしいのでしょうか? 確かに、一般的とはとても言えるようなものではありませんが、現代社会は昔に比べて複雑になってきています。今の時代のこれだけの評価を得られたのは、方向性が間違っていなかったと思うべきです。冒険して一世風靡するよりも、むしろ確実性を重視した方が……」
勇気を奮って沈黙を破ったのは先ほどの若い彼であった。今回は彼が口火を切ることが一種の義務に似たものになりつつあり、会場の空気もそれを強要していた。
「確実性か。確かに確実に一部のものだけを狙うことは間違ってはいない。それなりに成功することも容易いことだが、それでいいのか?それではこれまでと同じことを繰り返すだけなのではないのか? 今我々がこの場にこうしていること自身、そのつけが回ってきていると考えられないかね? 若いとか、古いとか時代などと言う感性の問題ではないのだよ。これは王道だ。我々は黄金時代を再び呼び戻す王道復古をするために、それを外れるわけにはいかないのだ」
支部長は諭すように、しかし、これ以上の口論は無用と無言の圧力をかけて彼に語りかけた。
「まあ、今はわからないものもいるであろう。しかし、いずれわかる時が来る。その時に今を後悔せぬように、今行動しなければならないのだ。それが我々、年長者の役目だ」
「それでは支部長。もしや、あの作戦を?」
だみ声の男が顔に喜色を浮かべて支部長の言葉を確認すると、支部長にシルエットの首が縦に動いてその質問に無言で答えた。それと同時に会場に動揺が走った。
そして、品のよい男が立ち上がって反対の声を上げた。
「無謀です! どうなるか、まだわからないものにそこまで賭けるのは……」
支部長は彼の反対意見を微動だにせずに聞いて、何も言葉を発せず、じっと彼の方を見ていた。
「……決意は固いのですね。そうですね? そうでしょう? わかりました。私も運命共同体です。地の果て、地獄の先まで付き合いますよ」
「わかってくれたようで嬉しい。他に反対の者はいるか?」
支部長のシルエットは会場を見渡した。もうこうなった支部長を誰も止めるものはいない。
「いないようだな。それでは、これより『悪い魔法少女がいないのなら作ってしまえ作戦』の発令を宣言する。十二時間以内に作戦会議を召集する。なお、本件に関わる情報は只今をもって最重要機密とする。これにて正義の魔法少女協力組合の緊急集会を解散する。以上!」
その言葉を合図に大勢の人間があわただしく動き始めた。意見を交わすもの、急いで退出するもの、感慨深げに天を仰ぐもの様々であった。
そんな中で議長席に座ったままの支部長、柊陽介は会議中と同じポーズのまま、口の端を歪めるように笑うと呟いた。
「いよいよだ」
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