反転する魔力


「ふん、やはり人間など他愛もない生き物だな」
 上級悪魔デーモスはそう言うと、首根っこを掴まれうめき声を上げている女剣士を投げ捨てた。
 すでに残りのメンバーである男戦士や、魔術師も戦闘不能となって、悪魔の根城の床に倒れており、残るは女神官ミシェルのみである。
彼女にも、もはや回復魔法を放つだけの力は残っていない。
 そんな絶体絶命の状況でも戦意を失わず悪魔を睨み続ける彼女に、デーモスは言った。
「さぁて、そこの神官のお嬢ちゃん。私は無益な殺生は好まんのだ。
 お前たち人間の想像と違って、単純な力だけでやっていけるほど、魔族の世界も甘くはないのでね。
 というわけで、取引しようじゃないか」
「取引……ですか」
ミシェルは訝しむ。悪魔の持ちかける取引など、たいていはろくでもないものなのだ。
「そうだ、内容は単純だ。お前たちを全員、とどめをささずに助けてやろう。
 代わりにお嬢ちゃん、君だけは私の元に残り、私の部下として働いてくれ。
 お嬢ちゃんたちが散々暴れまわってくれたせいで、治療が追いつかなくなったのでね」
「私の聖魔法で、魔族が回復できるとでも?」
ミシェルの表情がさらに険しくなるのも意に介さず、デーモスは続ける。
「そうだとも、できるさ。確かに、君の聖魔法は、すでに一度死んでいるアンデットなどには、たとえ回復術式であったとしても有害だ。
 しかしね、私のような悪魔や、部下のゴブリンやオークなどは、お嬢ちゃんたち人間と同じ生き物なんだよ、つまり聖魔法で傷を治すこと もできるわけだ。
 現に、堕落した神官などはとても献身的に治療に当たってくれるよ」
そう言うと悪魔は下卑た笑いを浮かべた。この悪魔は私も同じように堕落させるつもりなのだと、ミシェルは思った。
悪魔はさらに言葉を続ける。
「君がここで私との取引を呑んで仲間を解放し、その後彼らが元気を取り戻せば、君を助けるために、また私に立ち向かってくるだろう。
 もしかしたら今度は彼らに私が負けてしまうかもしれない。つまり、全員が生き残る可能性を残せるわけだ。
 ところが、君がここで取引を呑まなければ、当然この場で皆殺しだから、その可能性もない。
 どうだい、悪くない取引だと思わないかね? それとも君は、君の仲間が助けに来ることが信じられないのかい?」
デーモスが最後に言った言葉が、ミシェルの怒りの琴線を刺激する。
しかし彼女には、もはやそれを体現するだけの力は残されていない。
抑えきれない怒りを無理に押し殺した声で、彼女は言った。
「分かりました……貴方の元で働きます。その代わり、仲間を開放してください」
「いいねえ、お嬢ちゃん。君は賢い。私は考えなしに無理に意地を張る子より、きちんと考えてよりよい結論を出せる賢い子が好きだ。
 女の子なら、なおさらね」
そう言うとデーモスは魔術を行使し、パーティの残る三人を近くの町まで飛ばした。
 自分たちと戦ってもなお、この悪魔はそれほどの力を残していたのだと、ミシェルは悔しく思った。
正直泣きそうだったが、悪魔の前で弱みを見せたくはないと、涙を必死にこらえていたのだった。

「いやあ、ミシェルさんよお、お前さんの回復魔法は本当によく効くよ。できればもっと愛想よくしてくれるといいんだがねえ」
 人間との戦いで傷つき、デーモスの城の医療室でミシェルの治療を受けていたオーク兵は言った。
「……愛想よくなんてできるわけがないでしょう。あなたたち、自分が何をしているのか分かってるんですか?」
怒気を孕んだ声でミシェルは切り返した。
「おお、怖い怖い。ったく、他の神官たちは、喜んで治療してくれるんだがねえ。男ばかりなのが玉に瑕だが」
やれやれと言った顔でオーク兵は言った。
「あんな堕落した連中と、私を一緒にしないでください。殺されたいんですか?」
ミシェルはいらついていた。ミシェルがデーモスの部下になってから、もう結構な時間が経っていた。
未だ仲間たちは助けに来ない。一度負けたデーモスとの再戦の準備には時間がかかることは分かっていたが、それを理解していてもなお、いらつきを完全に抑えることはできなかった。
そんなミシェルのいらつきにようやく気づいたのか、オーク兵は図体に似合わないおびえた声で言った。
「そいつは勘弁してくれ! 殺されるならせめて人間と戦って死にたいもんだ。
 ……そういやその呪文、前に似たような傷を治してもらったときと少し違う気がするが、気のせいかね?」
何でそんな当たり前のことを聞くんだ。同じことをするなら、唱える呪文は同じに決まっているじゃないか。
ミシェルのいらつきが、さらに増幅されていく。ミシェルは早口で言った。
「いいえ、変えてはいません……はい、もう治療は終わりました。とっとと帰ってください」
「そうかねえ、いやまあわしもオークだし、そんなに記憶力もよくないからねえ。
 余計なことを聞いて、怒らせちまったみたいでごめんよお」
そう言うとオーク兵は、逃げるように治療室を去ったのだった。
 ――その様子を、使い魔を通してデーモスが玉座から見ていた。
「ほう、唱える呪文が変わったか……それも無意識のうちに。どうやら経過は順調なようだな。
 信頼している仲間が助けに来ない苛立ちが、より魔力の『反転』を早めているのか……」
デーモスはニヤリと笑みを浮かべると、手に持っていたグラスの中のワインを飲み干し、独り言を続けた。
「彼女がさっきオークに使った回復呪文は、今まで彼女が使っていた呪文より、我々魔族が使う呪文に近いものになっている。
 ……彼女の魔力の属性が聖属性から闇属性へと、少しずつ『反転』しているいい証拠だ。
 普通神官が堕落するときは、魔力はいっぺんに『反転』してしまうものだが、彼女は違うようだな。
 簡単には堕落しない強い遺志ゆえに起こる現象か……面白い。実に面白い。次にどんな現象が起こるのかが楽しみだ」
そう言うとデーモスは使い魔が持ってきた新しいワインに、また口をつけたのだった。

今日もまだ完結しそうにない、すまん!
でもお前らが風邪引きそうで心配だから、急遽Hシーンを増やす羽目になったぞ!w

「私に人間を殺せというのですか」
 ミシェルは冷徹な声で、デーモスに聞き返した。
悪魔は彼女に対し、医療室に帰ってきた魔族の治療だけでなく、人間との戦闘への参加をも要求し始めたのだ。デーモスは言った。
「なあに、何も人間を殺せとは言っているわけじゃない。
 ただ後衛で、前線で傷ついて下がってきた兵の治療を担って欲しいだけだ」
「同じことでしょう? 私が治療した魔族たちが前線に戻り、また人間を殺すのですから」
こう答えたミシェルの血は怒りに煮えたぎっていたが、悲しいかな、それを体現するだけの力も、勇気、あるいは無謀さも、彼女は持ちあわせていなかった。
彼女は、ただ煮えたぎる怒りを押し殺して悪魔に従うふりをしながら、仲間の助けを待つことしかできなかった。
そんな彼女の様子を気に留めることもなく、デーモスは言った。
「お嬢ちゃん、尊い犠牲というやつだよ。
 君の仲間がやってくれば、君は堂々と私を裏切り、今度はきっと私を亡き者にすることができるだろう。
 君が治療した魔族に殺された人間は、その時間を稼ぐための、尊い犠牲だと思えばいい」
「本当に口だけはよく回りますね、この悪魔……!」
ミシェルは、今すぐにでもこの悪魔を殺してやりたい、と心の底から思っていたが、そこまでの怒りを覚えてもなお、彼女の理性はそれを許さなかった。

暗い森に囲まれた悪魔の根城の目の前で、人間の軍隊と魔族との大規模な戦闘が繰り広げられていた。
「姉チャン、アリガトウ! コレデマタ戦エルゼ!」
 ミシェルが治療したゴブリンが、また前線へと飛び出していく。
 ミシェルのパーティ他、小規模なパーティを相当な数支援して送り込んだが、悪魔デーモスはついに倒れなかった。
そのことに苛立った国王は、ついに王宮直属の騎士団を送り込んできたのだ。
おそらく、単純な数だけを見ても数百はいるだろうし、指揮官も優秀だ。当然、個々の錬度も高い。
包囲戦を仕掛けるのにも十分な人数だったが、城を囲う森が天然の城壁となっておりそれが困難だったので、大軍による正面突破を仕掛けてきたのである。
(これで騎士団が勝ってくれれば、私もまたみんなと一緒に……)
ミシェルは表向きは魔族の治療にあたりながら、本心では全く逆のことを思っていた。
 ――そして双方とも相当な数の兵力を消耗させた頃、それは起こった。
人間側の隠密兵の部隊が、城を囲む森の中を密かに移動しており、魔族側の後衛を横から襲撃してきたのである。
「この中にいくらか人間がいるが、遠慮はいらん!
 そいつらは悪魔に魅入られて堕落した神官や魔術師どもだ!
 皆殺しにし、本隊と俺たちで魔族兵を挟み撃ちにするんだ!」
「おう!」
隠密兵たちは、それらしからぬ大声を挙げ、魔族たちに襲い掛かった。
こうやって敵意を煽らなければ、魔族を駆逐するという名目で同族の人間を殺すことへの抵抗をなくすことなど、できるはずもなかったからだ。
その傲慢さゆえ偵察を怠ったか、人間側がこのような作戦を仕掛けているとは露も知らなかった魔族側の後衛部隊は、完全に崩壊して散り散りになってしまった。
一瞬のうちに、ある者は成す術もなく殺され、ある者は命からがら城へと逃げ込み、ある者は無理に戦って返り討ちに遭うという、阿鼻叫喚の光景が展開されていた。
 ミシェルはその中で戸惑い、立ちすくむことしかできなかった。対抗すればもちろん、己の手で人間を傷つけることになる。それは絶対に避けたかった。
かといって戦闘を放棄して城の中に逃げ帰れば、どんな凄惨な罰を受ける羽目になるかを、医療室にいた彼女はよく知っていた。
そうやって逡巡することしかできなかった彼女を、ついに人間側の兵が見つけ出して襲いかかった。
そのとき彼女は、反射的に攻撃呪文を唱えた。すると彼女に襲い掛かろうとしていた隠密兵は、一瞬にして倒れた。
確認すると、大した怪我はないが、すでに死んでしまっているようだ。生気が全くない。
死相はまるで世界で一番おぞましいものに出逢ったショックで死んでしまったかのような、恐怖に歪んだものだった。
「こんなはずは……」
ミシェルは自分のした行為に戦慄した。こんなはずはない。神官の使う攻撃魔法は、たとえ魔族であっても、安らかに眠らせることのできるもののはずだ。そもそも、アンデットならともかく、人間を一発で殺せるような呪文を唱えたつもりはない。
(呪文を間違えた? いや、こんな短い呪文を間違えるはずは……)
混乱する彼女の脳裏に、以前医療室にやってきたオーク兵の言葉がよぎる。
「……そういやその呪文、前に似たような傷を治してもらったときと少し違う気がするが、気のせいかね?」
おかしい。そんなはずはない。まさか、魔族側の一員として働くうちに、私が魔族に近い存在になり、唱える呪文がそれに近いものになったとでもいうのか? あの堕落した神官たちのように。
いや、違う。それは違うはずだ。私はまだ、あの憎き悪魔デーモスに魅入られてもいないし、まして人を殺したいだなんて思ってもいない。彼女は必死でそう思い込もうとした。
しかし、知らず知らずのうちに、ミシェルの心のどこかには、自分のした殺人行為に昂ぶりを覚える、より魔族に近い新しいミシェルが生まれていたのだ。
その新しいミシェルは、魔族との交流や、なかなか助けに来ない仲間たちへの疑いや苛立ち、そして残酷な悪魔への怒りから生まれたものだった。
そして彼女の意志とは関係なく、その新しいミシェルが感じた、初めての殺人行為への昂ぶりは大きくなっていき、気がつけば激しい混乱に弱った彼女の心は、新しいミシェルに乗っ取られていた。

 ――その後、ミシェルはある面では無意識のうちに、ある面では激しい興奮と共に、襲ってきた隠密兵の部隊を壊滅させていた。
犠牲者は皆、最初の者と同様、恐怖に歪みきった顔をしていたまま死んでいたが、致命傷になるような傷は負っていなかった。
逆に彼女は一滴の血も流してはおらず、返り血さえも浴びてはいなかった。
その様子は、まるで鬼神が怒りに震え暴れまわっているかのようでもあり、あるいは殺人機械が冷徹に命を奪っているかのようでもあったと、命からがら逃げ帰った一人の隠密兵は、憔悴しきった声で騎士団の隊長に報告した。
そして作戦の失敗をその報告で知った人間側の王宮騎士団は、やむなく撤退したのだった。

 その晩、ミシェルは自室のベッドの中で、今日の出来事について考えていた。
彼女はよほどデーモスに気に入られたのか、一般兵であるにもかかわらず個室を与えられるという、破格の待遇を受けていたのである。
しかし、いくら考えても、彼女はその出来事を理解することはできず、むしろ戦いの興奮の残滓が、胸の奥で熱く疼いていたのだった。
 ――気がつけば、彼女の右手はその疼きを紛らわそうと、無意識のうちに股間をまさぐっていた。
その手は清潔で白い下着へもぐりこみ、彼女の恥部を直接刺激する。
「……っ、くぅ」
押し殺した喘ぎが彼女の口端から漏れる。指の動きが、より激しくなっていく。陰核を挟み、恥丘を割り開く。
「……あっ、ん、んあっ」
喘ぎが段々抑えきれなくなる。彼女の胸に疼いていた戦いの興奮が、自慰に伴う性的な興奮に飲み込まれていく。
そしてその興奮の正体を探り出すかのように、彼女の左手は自身の形のいい胸を、服の上から揉みしだき始める。
「こんなことしたら、きっとあの悪魔の思う壺なのに……止められない……う、くっ」
呼吸が荒く、激しくなる。両脚はさっきからずっともぞもぞ動いていて、彼女の恥丘の二枚の花弁をこすり合わせ、クチュクチュと淫猥な音を立てさせている。
頭ではいくら止めようと思っていても、両手の動きは止まらない。止めようと思うほどに早く終わらせようとしてしまうのか、かえって激しくなってしまう。
右手の指はすでに恥丘の花弁を割り開いてその中へと入り込み、敏感な部分を内側から刺激している。
体温が上がり、恥部だけでなく、全身がじっとりと濡れていく。玉の汗が吹き出してくる。そしてその興奮が、昂ぶりが、頂点まで一気に駆け上がっていく。
ついにそれらが頂点にたどりついたその刹那、仰向けになっていた彼女の腰が浮き上がり、彼女の全身は痙攣し、
「んっ、あっ、ああーっ……、はあ、はあ」
あやうく絶叫しそうになるのを必死に抑えながら、ミシェルは絶頂を迎えたのだった。
疼きは収まったものの、汗でじっとりと濡れた熱っぽい身体、未だ穏やかにならない呼吸、そして何より右手の指についた粘っこい液体の、ベトベトとした感触が、彼女がどんなことをしてしまったのかを物語っていたのだった。
 そして気が緩まったその時、彼女は自分の恥部から、粘液とは違ってさらさらとした、生ぬるい液体が漏れ出していることに気がついた。
そう、ミシェルは自慰の刺激のせいで、失禁してしまったのだ。
「そういえば昔も、こんなことがよくあったな……忘れたつもりだったけれど」
悪魔デーモスを倒すためのパーティの一員として旅立つ前、まだ修道院で神官としての修行に励んでいた頃に、彼女には自室で自慰をする悪習がついており、その際に失禁するのも癖になってしまっていたのだ。
いけないことだとは分かっていた。それでも、それだからこそ、彼女はやめることはできなかったのだ。
パーティを組んで旅に出ることにしたのも、誰かと寝床を共にすれば、この悪い癖をやめられるかもしれないと思ったからだなどという、浅ましい理由ではないと言えば嘘になってしまう。
そういったことを考えているうち、彼女は眠りに落ちてしまった。汚してしまった衣服や寝具をどうしようなどということは、考えたくもなかった。

 ――そして悪魔は当然のように、玉座からそれらの光景を見ていた。
「こいつは滑稽、実に滑稽だ。お嬢ちゃん、君は面白い。
 同属であったはずの人間を虐殺し、あまつさえその興奮で自慰までしてしまうとはね」
悪魔デーモスは笑いをこらえきれないといった調子で言った。
「殺人に興奮を覚えるとは、まさに我々魔族そのもの。
 ……そういえば今日の戦闘で君が唱えた呪文、あれは確かに君たち神官が、アンデットを駆逐するのによく使う聖属性の呪文だ。
 しかし、敵対者に恐怖を与えショック死させるなど、効果はまさに我々魔族の使う闇属性の呪文そのもの。
 君の魔力の『反転』はもう相当なところまで進んでいるようだね。
 その結果に驚くあまりに、正体をなくして暴走してしまったみたいだから、本人にはほとんど自覚がないようだが、逆にそのあたりが見ていて実に面白い。
 まあ、実は隠密兵が森の中を進んでいたというのは、使い魔から報告を受けて受けていたんだがね。
 人間どもの不意打ちなどという行為に対して、今の君がどんな反応をするか見てみたくて、あえて何の対策も打たなかったのは私だから、仕組んだことだと言われればそうかもしれない。
 いやでもお嬢ちゃん、じわじわと反転する魔力に蝕まれていく君がこれからどうなっていくのか、実に楽しみだよ」
悪魔は誰に語りかけるのでもなく感想を述べ終わると、手に持ったワイングラスの中で波打つ澄んだ真紅の液体を、美味そうに飲み干したのだった。




 王宮騎士団が上級悪魔デーモスに敗北したままで終わることを国王が許すはずもなく、騎士団はまた悪魔の根城へと攻めてきた。
当然女神官ミシェルも、その防衛戦に出撃することになった。
彼女がそれを望んでいたのかいなかったのかは、もはや彼女自身にさえ分からない。
しかし、それは起こるべくして起こったのだった。
(どうして……? どうして私は、こんなところまで来ているの?)
 ミシェルは思った。後衛で回復や支援を担っていたつもりだったが、気がつけば中衛の部隊に混じっていた。
それも、もうほとんど前衛に近い位置だ。
(これ以上前に出たら、また人間と戦わないといけなくなってしまう……嫌、それだけは嫌……)
彼女の脳裏に、先日の戦闘の結果であった、大量の人間側の隠密兵の死体の中に自分一人が立ちすくんでいる光景が浮かぶ。
 その時だった。人間側の騎士の攻撃で、ミシェルの目の前にいた魔族側のアンデット兵が深い傷を負ったのは。
彼女は反射的に、回復呪文を唱えていた。
本来なら、この行動は致命的な間違いだった。アンデットには彼女の扱う聖属性の回復魔法は、むしろ有害であるはずだった。
しかし、奇妙なことに彼女の行動は間違ってはいなかったのだ。
「ぐああ……貴様……この裏切り者……!」
なんと彼女の使った魔法に、悪態をつきながら苦しんでいるのは、人間の騎士だったのだ。
それどころか、アンデット兵の負った傷もみるみるうちに癒えていく。
結果、アンデット兵の反撃により、騎士はあっさりと絶命してしまった。
「え、嘘……どういうこと……?」
彼女は困惑した。目の前の出来事が信じられなかった。
自分の回復魔法がアンデットを回復させたのも奇妙なことだが、それ以上に人間を苦しめたという事実が理解できなかった。
彼女のような神官が必要とされるのは、聖属性の回復魔法によって、厄介なアンデットへの有効な攻撃と、味方の回復を同時に行うことができるからだ。
現に、彼女が悪魔に捕まる前は、何度もそうやってパーティの危機を救ってきた。
しかし、今目の前で起こった現象はまさにその逆。
「呪文を……間違えた? いや、そんなはずない……私、アンデットを回復させるための呪文なんて、知らない……」
彼女は錯乱した虚ろな目で、まるで呪詛の言葉を唱えるかように、ぶつぶつとまとまらない思考を呟くことしかできなかった。
思い浮かんだのは、魔族であれば生きていようが死んでいようが回復させる、堕落した神官たちの姿。
それから、医療室で聞いたオークの言葉。
「……そういやその呪文、前に似たような傷を治してもらったときと少し違う気がするが、気のせいかね?」
それらがぐるぐると黒く渦を巻いていた。
 ――そしてその呪詛の言葉に答えるかのように、彼女の脳内で、邪悪そのものが語りかけているような声が響き始める。
「ミシェル、おめでとう。これであなたはもう神官どころか、ただの善良な人間にさえ戻れないことが分かったでしょう。
 デーモス様の配下として働くうち、あなたの魔力は、聖属性から闇属性に『反転』してしまった。
 人間の役に立つような効果を出すための魔力は、今のあなたには残っていない。
 あなたがデーモス様の配下になってから、知らず知らずのうちに身につけていた魔族の呪文はもちろんのこと、
 たとえ『さっきみたいに』、昔と同じ神官の呪文を唱えたって、今のあなたじゃ人間に害を与えるような効果しか出ないわ。
 だからあなたはもう、前のパーティに戻ったって、魔族を倒す役になんて立たないのよ。
 今のあなたは、まさに堕落した神官。
 ……いいえ失礼、そんな程度の低いものになるにはもったいないだけのものを、あなたは持っているわ。
 あなたは今から、『悪魔神官』になるの。
 だから誓いなさい、デーモス様への忠誠を。
 受け入れなさい、デーモス様が教えてくださった限りなく昏く深い欲望と、それを満たし続けることでしか得られない快楽を。
 ……そしてすぐそばにいる、魔族としての新しいあなたを」
その声の主は、彼女に以前隠密兵たちを皆殺しにさせた新しいミシェルであり、そして彼女自身でもあった。
もはや、悪魔に捕まっても決して屈することのなかったそれまでのミシェルと、魔族と生活し共闘までするうちに生まれた、魔族ととてもよく似た新しいミシェルの間に、たいした差はなくなっていたのである。
それに気づいた彼女の目から、虚ろな戸惑いが消えていく。
しかしその瞳には、決して以前のような輝きが戻ることはなかった。
そこにあるのは、見つめているだけで吸い込まれそうになる、昏く深い闇だけだった。

 そして彼女は、小さくともはっきりした声で宣言した。
「そう、本当はもう気づいていたのに、怖くて気づかないふりをしていただけだったんだ。
 全部が全部、呪文を間違えたせいじゃないってこと。
 あるいは私の魔力の属性、すなわち私自身の属性が、
 魔族との生活や共闘、なかなか助けに来ないかつての仲間たちへの疑いや苛立ち、そして残酷な悪魔への怒りや憎しみによって、
 聖属性から闇属性に『反転』してしまっていたということ。
 ……だからミシェル、改めておめでとう。
 あなたは、いいえ私は限りない欲望と、それを満たし続けることでしか得られない快楽を受け入れる。
 そして、それを教えてくださった偉大なる悪魔デーモス様の忠実な下僕となることを誓う。
 そう、私は今から、『悪魔神官ミシェル』になるの」
そして魔族と交流、共闘した影響により不安定になり、分裂したようになっていたミシェルの心は、今再び一つとなった。
『悪魔神官ミシェル』として。
それを祝福するかのように、彼女の周りを闇が覆い始めた。
 ――自らが手練手管をつくして作り上げたともいえるその光景を満足げに鑑賞していた悪魔デーモスは、手に持っていたワインを掲げ興奮した声で言った。
「面白い……こいつは本当に面白い!
 さあ、悪魔神官ミシェルのショータイムの始まりだ!」
 ――その声はきっとミシェルには聞こえていなかっただろう。
しかし、悪魔神官となり、同時にデーモスに忠誠を誓った彼女は、もはや悪魔と以心伝心と言っても過言ではなかった。
もはや言葉を交わさずとも、ミシェルにはデーモスの望みが分かるのである。
もちろん、それを満たせるだけの力が自分にあることも、彼女は知っていた。
 彼女の意識が現実へと戻される。気がつけば騎士たちの必死の攻勢に、魔族の兵たちは押され始めていた。
「情けないわね……私の仕事が増えるじゃないの」
彼女が冷たい声でそう言って呪文を唱えると、彼女のまとっていた闇が広がっていく。
魔族の兵たちの傷は即座に癒えていき、気勢を上げていた人間の兵たちの顔に苦悶の色が浮かぶ。
原因がミシェルにあると人間たちはすぐに気づいたが、ミシェルの魔法による苦痛に耐えながらでは、回復どころか活性化までした魔族の兵の相手をするだけで精一杯だった。
 そうやって魔族側の軍勢が、人間側の軍勢を押し返し始めたときだった。
「仲間たちの仇だあああああああああああああああああああ!」
比較的遠くからその様子を見ていた人間側の隠密兵の一人が短剣を掲げ、恐怖を振り払うかのように大声を上げながら、持ち前の俊足を生かして、ミシェルの魔法の影響を受けるより早く飛び掛ったのだ。
その隠密兵は、前回の戦闘でミシェルによる虐殺から、命からがら逃げ出した者だった。
彼が振り下ろした、暗殺用の強力な毒が塗られたその短剣は、ミシェルの左腕にずぶりと突き刺さった。
あっという間にミシェルの全身には毒が回り、その命の灯を消してしまうはずだった。
しかし、そうはならなかった。
ミシェルはそれさえ見透かしていたのかのように、短剣が刺さるより先に呪文を唱えていたのだ。
「よりによって、悪魔神官に毒を使うとはね……後悔なさい。それがどれだけ恐ろしいことか、その身をもって教えてあげる」
ミシェルがそう言っている間に、隠密兵は、苦しみに歪みきった顔で絶命してしまっていた。
そう、まるで自らの短剣に塗られた毒を受けたかのように。
「ただの神官に対して毒や呪いを使ったのなら、解毒や解呪をされるだけですむ。
 けれどね、悪魔神官の魔法は、そんなに甘くはない。
 悪魔神官は、回復した毒や呪いを、必要であれば増幅して、敵対者に返すことができる。
 もちろん、それを使った本人だけでなく、その仲間にさえも……ね」
ミシェルは悪意を込めた調子で、わざと人間側の兵たちにも聞こえるように言っていた。
その言葉を聞いた人間側の兵たちの背筋は、吹雪にでも遭ったかのように凍りついた。
隠密兵が暗殺に使う毒の恐ろしさは、人間たちの間では有名だったからだ。
それが増幅して襲い掛かってくるなど、考えたくもないほどの苦痛を伴う死をもたらすに違いなかった。
そして次の瞬間にはおびえた顔のまま、戦闘を放棄して逃げ出していた。

「獲物を逃がすなんて、悪魔神官として、いいえそもそも魔族の一員としてさえ恥よ。逃がさない」
その言葉に呼応して、彼女のまとう闇が、逃げ惑う人間たちを絶望の淵に叩き落すかのような勢いで広がっていく。
そしてしばらくしてミシェルが闇をしまいこむと、あたり一面に人間たちの死体が転がっていた。
人間側の陣地にまで魔法の範囲を広げていたらしく、指揮官や逃げ帰って報告しようとしたと思われる隠密兵すら、生き残ってはいなかった。
精鋭を誇った王宮騎士団が、全滅した瞬間だった。
「デーモス様のおっしゃっていたとおり、人間って本当に他愛もない生き物ね。
 頑なに人間でいようとしていたついさっきまでの自分が、本当に馬鹿だったとしか思えないわ。
 でもこうやって人間を殺していると、だんだん、愚かな人間だった自分が浄化されていくのを感じる……
 愚かにもデーモス様に立ち向かってくる人間を殺し続けていれば、心身ともに魔族の一員になれるのはもちろん、
 その中でもっとも高貴な悪魔にだってなれそうな気がする。
 うん、なれるに違いないわ。
 ……でも、それまで待てない。できるなら今すぐ、デーモス様と同じ、悪魔になりたい……!」
 悪魔神官ミシェルは、悪魔デーモスへの愛を囁くように一人呟いたのだった。

 王宮騎士団が全滅したことが広まると、もはや悪魔に立ち向かおうとする者はほとんどいなくなってしまっていた。
しかしそんな中でも、本当に勇気あるものたち――あるいは、無謀と言う方が適切かもしれないが――は、パーティを組んで悪魔デーモスの根城へと向かうのだった。
 今日ようやくたどりついてきたのは、かつて神官ミシェルが所属していたパーティ。
「遅かったわね。ずいぶん待ったわよ」
出迎えた悪魔神官ミシェルは言った。
 ー―彼女が晴れて悪魔神官となったことをたいそう喜んだデーモスは、彼女のために、悪魔神官としてふさわしい衣装を用意してやったのだった。
若く美しい彼女の肉体の曲線を強調し、しかし下品になりすぎない形状。
漆黒、あるいは紫の生地を、上品さを保ちつつ豪華に彩る紋様。
それらの条件を満たすその衣装を着た彼女は、清廉潔白な神官のイメージとはかけ離れてはいたものの、
敵であっても思わず息を呑むほどの、艶やかな美しさを身にまとっていたのであった。
「ミシェル……どうして……」
パーティの一行は目の前の状況が理解できていないようだった。構わずミシェルは続ける。
「あら、そこにいるのは修道院にいた頃一緒だったルチアじゃない、久しぶり。元気にしてた?
 なるほど、私に代わる新しい神官を仲間にしたから、私のことなんてどうでもよくなっちゃったんだ?」
「違う、僕たちは君を助けるために……」
「そうです、私はミシェルさんを助けるために、新しくパーティに加わって欲しいと頼まれて……」
あざけるような声できつい言葉を投げかけるミシェルに対し、リーダーの男戦士と、新しく加わったミシェルのかつての僚友、女神官ルチアが必死に言い返したが、
「言い訳なんて聞きたくないわ」
ミシェルが冷たい声でそう言うと、かつてのパーティメンバーたちと、ルチアの身体が浮き上がった。
全員が首を絞められるような苦しみにもだえている。魔族が好き好んで拷問に使う呪文だ。
「正直におっしゃい。あなた達、逃げたんでしょう?
 代わりの神官がすぐに見つかったから、私のことなんてどうでもいいって思ったんでしょう?」
「違う、だからこうやって助けに……がはっ」
パーティメンバーたちは息も絶え絶えに許しを乞うたが、
「もういいわ。なんだかあなたたちが私を置いて逃げたせいでひどい目にあった気もするから、
 殺してくれと叫びながらのたうちまわるまで苦しめて殺してやろうとも思ったけれど。
 あなたたちがああやって逃げてくれたおかげで、こうやって悪魔神官としての新しい自分に出会えたわけだし、
 というわけで一思いに殺してあげるわ、さよなら」
ミシェルがそう言い放つと、断末魔を上げる間もなく、一行は窒息死したのだった。
どさりと音を立て、彼らの死体が地面に積み重なった。

 そこにデーモスがやってきて、かつてとは違う親しみを込めた声で言った。
「ほう、何のためらいもなくかつての仲間を殺すとは、お前もずいぶんと悪魔神官が板についてきたな、ミシェル」
「ええ、デーモス様のためですから」
殺人の興奮に頬を赤らめ、甘えるような声でそう言った彼女は、よく見ると両脚をもじもじとこすり合わせている。
「……そうだな、褒美に、そろそろお前を私の女にしてやろう」
「本当ですか、ありがとうございます!」
ミシェルは心の底から嬉しそうに言った。
その声を聞いたデーモスは、ミシェルよりも二回りほど大きいその身体でミシェルを抱え上げ、服の隙間からミシェルの股間をまさぐる。
「ほう、これはまたずいぶんと濡れているな……殺人の興奮だけでここまで濡らすとは、よほど悪魔の素質があるようだ」
「ねぇデーモス様、私悪魔神官になったあの日から戦いの興奮で身体が火照るたびに、
 デーモス様のその大きな身体にふさわしい立派なオチンポで女にしてもらうことだけを想像しながら、
 一人寂しくオナニーして慰めてきたんです……
 だから早くその立派なオチンポで、私の処女の癖に浅ましくびしょびしょに濡れたオマンコを貫いて、
 デーモス様の形にぴったりの大人のオマンコにしてくれませんかぁ……?」
目の前にかつての仲間の死体があることなど全く気にもとめていない様子で、ミシェルはデーモスを急かす。
「催促もしないのにそんな下品なおねだりができるとは。
 まさに私の女、いや雌奴隷にふさわしい」
そう言ったデーモスはまだ行為の前であるにも関わらず、満足げな表情をしている。
「もう下品でも奴隷でも何でもいいです、
 デーモス様のいうことなら何でも聞きます!
 だから早くそのオチンポを、私のオマンコに入れてください!」
そんなデーモスに、ミシェルはもう待ちきれないと言った調子で言った。
「いいだろう、そこまで下品な言葉をすらすら言えるなら、私の雌奴隷として十分合格だ。
 お前を、喜んで私の女にしてやろう!」
そう言うとデーモスは、今まで誰の侵入も許してこなかったミシェルの陰唇に、自らの怒張を派手に突っ込んだ。
「ああん、デーモス様の熱いの、一気に入ってきますぅ♪」
ミシェルは処女をあっさり散らされたことなど、まったく気にかけていない。
それを心から待ち望んでいた彼女に処女喪失の痛みなどあるはずもなく、
たとえあったとしても、彼女を悦ばせるスパイスにしかならなかっただろう。
「あはあ、あん、あん、ああん、すごい、デーモス様のオチンポ、想像よりずっとすごいですぅ♪
 大きすぎて子宮にまで届いちゃう、子宮まで犯されちゃう……嬉しいっ、あっ、ああん♪」
「当たり前だろう! 魔界の貴族、悪魔デーモスたるこの私の一物が、浅ましい雌奴隷ごときの想像の範疇に収まるわけがない!」
「はい、そうでした、申し訳ありませぇん♪
 魔界の貴族様の偉大なるオチンポを、この浅ましい雌奴隷めに恵んでいただいてありがとうございますぅ♪」
口での下品な言葉の応酬と、結合部が鳴らすグチュグチュという水音、
そしてお互いの臀部がぶつかり合って刻まれるパンパンというビートが、
重なり合って淫靡な和音を奏で、二人の興奮を高めていく。

そしてミシェルは、ついに我慢しきれないといった調子で言った。
「ああん、デーモス様、ごめんなさいいっ♪
 ミシェル、雌奴隷の分際で、ご主人様より先にイってしまいそうですぅ♪」
ミシェルは、デーモスと睦びあう中で、「雌奴隷」という自らの立場を完全に刷り込まれてしまっていた。
しかし、それが彼女の幸せを薄めることは決してなく、むしろ深めているような有様だ。
「うむ、そいつは確かにあまりよろしくないな。
 雌奴隷なら、主人が満足するまでは果ててはならん!
 だがしかし、お前の初物も、想像よりずっと素晴らしい具合だ!
 だからお前が私の女になった記念に、お前が絶頂すると同時に、私の精液をお前の子宮に注ぎ込んでやろう!
 ……そういえばすっかり言い忘れていたが、悪魔の精液が人間や魔族の子宮に入ると、そいつは段々悪魔になっていくんだ!
 お前はもう悪魔神官になっているから、きっとすぐに悪魔になれるだろう!
 そうやって完全に悪魔になれば、いつかお前も私の子供が孕めるかもしれないな!」
「はい、ありがとうございますぅ♪ ご主人様と同時にイケるだなんて、雌奴隷として、ありがたき幸せですぅ♪
 ああぁ、ご主人様の精液、私にたくさん注いでくださいぃ♪
 私のことを早く悪魔にして、ご主人様の子供を孕ませてくださいぃっ!」
ミシェルがそう言うと、デーモスのストロークがいっそう激しくなった。
二人のかく汗が、いっそう激しくなっていく。
そしてついに、一際大きくミシェルを突き上げたデーモスが、
「ほら、お待ちかねのご主人様のの精液だ!
 子宮でたっぷり飲み干して、早く悪魔になって私の子を孕むがいい!」
と叫ぶと、ミシェルもそれに呼応して、獣のような嬌声を上げた。
「ああーーーーーーーーーーーーん!! ご主人さまぁ、ミシェル、イっちゃいますうーっ!」
その声を合図に、デーモスの睾丸からミシェルの子宮まで、悪魔の精液が一直線に流れ込んでいく。
「あはぁ、デーモス様の精液、オチンポ汁ぅっ♪ 熱くて、熱くて、オマンコから子宮まで、みんな焼けちゃいますぅ♪
 ああん、感じますぅ、熱と一緒に、デーモス様の高貴な闇の魔力が身体に広がって、
 自分がどんどん悪魔に変えられていくのを感じますぅ♪」
ミシェルの全身に、闇の魔力が黒い稲妻となってほとばしる。
「ああ、好きなだけ吸収するがいい! そして望みどおり、早く悪魔になって私の子供を孕むがいい!」

「あはぁん♪ デーモス様太っ腹ぁっ♪ 精液で子宮いっぱいになっちゃう、溢れちゃったらもったいないですぅ♪
 ああっ、でも何か私の身体の中からも、熱いものがせりあがってくるのを感じますぅ♪
 あはぁ、多分おしっこですう♪
 ごめんなさいぃ♪ 私、ご主人様に抱きかかえられながら、おしっこ漏らしちゃいますぅ♪」
ミシェルのオナニーの後失禁してしまう癖は、実際のセックスを経験して治るどころか、さらにひどくなってしまったようだった。
「ふん、主人の前でお漏らしとは、なんとできの悪い雌奴隷だ!
 だがまあいい、そこにちょうどいいトイレがあるから、連れて行ってやろう!」
 デーモスはあきれた声でそう言うと、ミシェルを抱きかかえたまま、ミシェルのかつての仲間たちの死体の山まで連れて行った。
「あは、ありがとうございますぅ♪ ご主人様の前で、かつての仲間たちをトイレ代わりに、
 できの悪い雌奴隷ミシェル、おしっこ漏らしながらイっちゃいますぅ♪」
そう言うとミシェルは、かつての仲間たちの死体の上で悪魔に抱きかかえられながら、ためらうこともなく放尿しその屍を汚し始めた。
そして、そうやって死者を好きなだけ冒涜し終わると、ミシェルはすっかり腑抜けた顔で、
「はぁ……すっきりしましたぁ……」
と言って、気を失って眠りこけてしまった。その様子は無邪気な子供のようだったが、それ故に悪意に満ちたものだった。
それを見て悪魔は呟いた。
「人間だった頃はあれほど高潔だったくせに、雌奴隷になったとたん、
 とんだ浅ましい本性をひけらかしてくれたものだ……これからじっくり、調教してやらねばな。
 ……それにしても人間とは、やはり他愛もない生き物だ。
 だがしかし今回だけは、こいつのおかげで実に面白いものを見せてもらった。
 そのお礼と言ってはなんだが、死ぬまで可愛がってやるぞ……ミシェルよ」






保管庫へ戻る