洗脳されたヒロインが服を着るだけのSS
「ふぅ…」
シャワーから出て、バスタオルに体をくるみながら、部屋の中を歩く。
昨晩はさほど汗をかいたつもりはないけど、そろそろ私の新しい衣装が届く頃だ。
新しい私、大首領様に与えてもらった新しい自分を象徴する衣服なんだから
禊ぎ…とまでは言わずとも、奇麗な体で着たくなってしまう。
〈セラフィムピンク…いえ、ブラッディピンク様。
お召し物を持って参りました〉
「入れ」
短く告げると、黒い蛇に巻き付かれた少女が入ってくる。
彼女は恭しく一礼すると、テーブルの上に服を置き、立ち去った。
彼女もまた、私同様に洗脳された人と聞いた。もっともそんなことはどうでもいい
やっと…やっとあの人が私につくってくれた衣装が届いたんだから。
「これが…大首領様の…」
あの人が私のために用意して下さった衣装。
正義などという下らないものに惑わされ、大首領様に逆らった愚かな私を
大首領様は自らの配下に加えるため、捉え、洗脳までしてくれた。
今、私の胸の中はあの人への愛と感謝、忠誠で満たされている。
もう二度と、正義や倫理などといった不純物が入り込む余地は無いだろう。
「大首領様ぁ…」
衣装をつかみ、広げる。
黒いボンテージ風の衣装には、所々、蝙蝠を模した赤い刺繍や装飾が付属する。
乳房は強調するかのように、薄いストッキング状の生地しか被されず、
深紅の爪のようなパーツは乳首を擽るかのように配置される。
股間に食い込むだろう、光沢のある生地の角度も急だ。
扇情的、いっそ卑猥といった方がいいぐらいの衣装。
「ふふ…素敵…」
思わず笑みが零れる。
こんないやらしい服を来た私を見て、皆はどう思うんだろうか。
未だに私を助けるつもりでいる、あの馬鹿な仲間たちは、どんなに驚くのかな。
信頼してた正義の味方の一人が、まさに悪の手先に相応しい出で立ちで現れたとき、人々はどれほど絶望するか。
そして何より…大首領様は喜んでくれるだろうか
「あはっ…」
一秒でも早く袖を通したくて、
胸に、大切に抱えて、姿鏡の前に急ぐ。
途中、ここに連れてこられるまでの間、私が着ていた服が進路にあった。
淡いピンクのカーディガンに、白のワンピース。どちらも今は無き母の形見。
清楚で、おしとやかで、控え目だった私の象徴。
そんな忌々しい服を踏みつける。
だって、大首領様はそんな私を望んでないから。
あの人が望むのは残酷で、忠実で、淫乱な私なんだもの。
もうこの服なんてゴミ以下の価値しかない。
鏡の前、母の形見の上で、新しい服を着る。
身体に巻きつけたバスタオルを脱ぐと、鏡には一糸まとわない私の裸体が映る。
体型は良い方かなって自負はある。
唯一コンプレックスだった大きな胸も、今では大首領様を悦ばすことのできる自慢の部位だ。
あの日、洗脳装置にかけられながら、何度も何度も大首領様に貫いていただき、私の身体は変わった。
女の…いや、雌の悦びを、全てを支配してくれる方に身も心も捧げ、隷属し、快楽を貪る…
今まで生きてきた中で最高の悦びに、脳を洗浄され、白紙の心に大首領様への忠誠を書き込まれた。
その鮮烈な記憶が蘇るたび、私の身体は疼いてしまう。
「んっ…」
まずはストッキング風の全身スーツから。生地のピッタリと身体に張り付いてくる感覚が心地いい。
まるで、あの人に抱きしめられているみたい…
「あ…っ…」
乳首が生地にこすれ、思わず声がでてしまう。
…もう、こんなに硬くなっちゃってる…
次に、ロングブーツ。脇についた何本ものベルトで固定するタイプ。
「んっ…く…」
ラバーが足をぎゅうぎゅう締め付けてくる感覚すら、倒錯した悦びに変わる。
次は、ボンテージだ。
「っ…あ…きつ、い…でも…」
胴を全体的に締め付けられる感覚に、思わず吐息が漏れる。
身体が、あの人の腕に抱かれていた記憶を思い出し、熱く疼き始めてしまう。
この束縛はそのまま私の心に科せられた呪縛と同じ。
あの人のために生き、あの人のために死ぬ。それが当然であり、同時に私の最高の喜び。
そう洗脳されたからこそ、この苦しさが心地よくなる。
洗脳された自分を自覚すればするほど、心が喜びで満たされ、口が勝手にあの人への忠誠を紡ぐ。
「大首領様…大首領様ぁ…」
私をさらってくれてありがとうございます。
私を洗脳してくれてありがとうございます。
私を悪の奴隷にしてくれてありがとうございます。
私の心は大首領様でいっぱい。
だから、ボンテージの股間のパーツをよく見ても驚きはしても躊躇いはしなかった。
「これって…貞操帯?」
股間の部分は貞操帯になっていた。鍵はついてない。
性器をかろうじて覆う程度の鋼と、細く鋭い角度のラバー。
これをつければ私の性器は自分では決して慰められなくなり、しかも絶えず刺激されることになるだろう。
快楽の地獄。
でも、それをお望みになったのが大首領様だというのなら、それは天国へと変わる。
「あはっ…あ、ああ…んんんっ…!」
ぎゅっとラバーを締めれば、下のストッキング上の生地もろとも尻肉を割り、食い込んでいく。
気持ちいい、気持ちいい、気持ちいい…っ!
「あ、ああ…はあ、あ…っ…」
鏡に手をつき、快楽と嬉しさに耐える。
腰がガクガクと震え、崩れ落ちそうになるが、それでも手は勝手に動き、残るパーツを装着していく。
「んっ…くぅん…っ」
乳首にあたるように爪型の鎧をつけ、手袋を嵌めたら完成だ。
鏡の前に映っているのは、正義の味方の私でも、おしとやかな少女の私でもない
痴女同然の服に身を包み、調教と洗脳で悪の女幹部となった私だ。
「あはっ…」
思わず声が漏れる。
嬉しい。大首領様に洗脳された自分を自覚するのがこんなにも気持ちいい。
肉の悦びが心の喜びに変わっていく中、台の上から化粧品をとる。
思えば化粧は、やり方こそ知ってるものの、実際にはあまりしてこなかった。
精々が淡い色の口紅を塗るぐらいだったが、これからは違う。
だって、大首領様はきっと、化粧をしっかりした女の子の方が好みだもの。
「んっ…」
アイシャドウをひき、あの日、あの人に何度も奪ってもらった唇にルージュを塗る。
今は市販の口紅だが、いずれは奴らの血でこの唇を赤く塗っちゃおう。
私を惑わせ、正義なんて下らないもののために大首領様に刃向かうよう仕向けた奴らにはお仕置きが必要だ。
そしてご褒美にもう一度大首領様に抱いてもらって…あの悦びに支配されるんだ…
「大首領様…私は大首領様に永遠の忠誠を誓います…!」
静かな部屋で一人、噛み締めるように呟くと、
私は今までの服をゴミ箱に突っ込み、
大首領様への報告と出撃許可の申請をしに、部屋をあとにした。
終
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