2006年7月18日(火)「しんぶん赤旗」

9条の国で 過半数世論めざし

自民支持者も署名

84歳 集めた1766筆

和歌山・御坊市


 「私は愛国心の強い人間です」「国を愛すればこそ大胆な行動に出ました」―今月初め、日本共産党の本部に、憲法第九条を守ることを国会に請願する一束の署名簿(四百五十人分)が届きました。差出人は、和歌山県御坊(ごぼう)市の坂本ミチヱさん(84)。添えられた手紙には、平和への切実な思いがつづられていました。(藤原直)


平和憲法守って―4党に送る

 坂本さんは、日本共産党のほかにも、自民党、民主党、社民党の三党にも等分に分けて、集めた署名を送りました。その合計は、千七百六十六筆にのぼります。署名用紙は自分で作りました。

 「戦争をしない誓い」である九条が変えられるというニュースを聞いて以来、「神経が落ち着かなくな」ったという坂本さんが「独断で皆様のご意向を聞く決心」をし、近所を訪ね歩いて集めた署名だといいます。

経産相の地元

 御坊市は、自民党の二階俊博経済産業相の地元。昨年の総選挙では、約二万一千の有権者のうち約一万人が二階氏に投票したほどの保守地盤です。

 その「二階大臣の(自宅の)すぐ傍、徒歩五分の距離」に住み、「家族は二階大臣の支持者」という坂本さんは、こう書いています。

 「二階大臣がこの署名をご覧になれば、二階大臣支持者の多くが、署名している事にお気づきいただけると想います。いかに自民党支持者でも、軍隊を作ることには反対だとお分かりいただけると想います」

有り難いの声

 坂本さんの手紙には署名集めの苦労や喜びも書かれていました。

 主に家々を訪問しましたが、ときには街を歩いている人や集会所で出会った人に訴えたことも。

 「百人中五、六人」からは、「〇〇党ではないか」「忙しいから」など消極的な声もあったといいます。しかし、多くの人は大賛成で「こんな署名は有り難い。誰もこんなことをしてくれる人がいないから」と感謝されたり、「こんなことはお金が要るのでは」と財布を開く人もいたといいます。

 御坊市で小学生が刃物を持った男に襲われる事件があったときには、刑事らしい人が街角に立ち、家々は鍵をかけたため、訪問は難しくなってしまいました。そんなときには、八十四歳の体からどっと疲れが。歩けなくなり、途中でタクシーを呼んで帰りました。

 そんな思いまでしながら、なぜ署名を集め続けたのか。手紙には、その思いも切々とつづられています。


満州への勤労奉仕隊に応募した私

「正義」の恐ろしさ痛感

 「私は正義感の強い人間です。愛国心とか愛郷心が強いので、戦時中は上から指令されることは、命をかけて守らなくては、の心が強く働いていました。満州への勤労奉仕隊募集を知った時、これこそ女でも出来るお国のための仕事だと、即先し応募したのでした」

 坂本さんたちの勤労奉仕隊「(昭和)十九年隊」は無事帰国できましたが、終戦の一九四五年に「満州」にいた和歌山県出身者は、殺されたり、餓死したり、多くの人が帰らぬ人となったといいます。

 縁のある和歌山市も空襲にさらされました。焼夷(しょうい)弾で大半が焼かれ、爆風で飛ばされた人たちが空から降った、やけどをした人々の体に蝿(はえ)がたかってうじ虫がわいたと聞きました。

 坂本さんの親族は七人も戦死。同級生の男子はほとんどが戦死し、女子も早く結婚した人は夫を亡くしました。

戦争は地獄に

 坂本さんは「戦争は善人も悪人も、老若男女の関わり無く、世の中が地獄になります。けれども若い政治家は、軍隊を作る計画をしています。戦争の体験が無いから…軽く受け止めているのでしょうか?」と訴えます。

 そんな坂本さんは、イラクから帰還した自衛隊員の“自殺”にも関心が向かいます。「その意味を公表なさいませんが、大変な責任と、恐怖の中のご苦労がうかがえます」と。

 そして坂本さんは手紙でこうも語っています。

 「九条だけは絶対に変えないで下さい」「正義感の強かった私だが、正義の恐ろしさを痛感しています。敵も味方も正義だと想い、お互いが正義同士で戦っているのです。ポツダム宣言によって、世界から強要された九条こそ、平和をまもる憲法です。日本の都合のいいように改正してはならないと想います。憲法九条がある限り、世界が日本を守ってくれます。九条を守ることは、永遠の平和を守ることです」

手届かぬ人に

 坂本さんの行動は、地元でも「ご高齢なのにとても熱心に頑張っている」と評判になりました。

 昨年七月に結成した「御坊九条の会」の事務局代表で、元小学校校長の雜賀正芳さん(69)もいいます。

 「坂本さんは、本も出版されたり、さまざまな文化活動をされている顔の広い方。私たちの手が届かない人たちにも、二度と自分のような戦争体験を繰り返してならないと、熱心に九条の大切さを説いている。その情熱と頑張りに感心しています」


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