CMディレクター兼、舞台演出家、劇作家として活躍してきた山内ケンジ監督の来歴について左程知識を持たずに観た『ミツコ感覚』だったが、観始めてすぐに独特なリズムで展開する“山内ワールド”にどっぷりハマってしまった。初音映莉子、石橋けい、古舘寛治、三浦俊輔らアンサンブルキャストも見事に決まり、悲劇にも似た日常の中で奇妙な展開を見せる喜劇が、出鱈目なようでいてキチンと物語に回収されていく様が知的かつ痴的に楽しい。誰かが何気なく発した“軽い”言葉は、その言葉尻を捉えられて、リアルなシーンへと発展していく。この不条理劇めいた方法論をリアルな日常に落とし込んで展開していく、その手法に“山内ワールド”の基本があるのかもしれない。
そんな独特に“山内ワールド”な脚本を見事に消化し、とても魅力的な女性像を創り上げた女優初音映莉子さんにお話を伺う機会を得た。舞台やCMを中心に活躍してきた初音映莉子は、映画の観客にとっては『ノルウェイの森』のハツミ役の凛とした佇まいが強く印象に残っているに違いない。実際にお会いした初音さんは、率直にご自分の考えを口にする、とても美しく聡明な方だった。このインタヴューを読んで頂ければ、初音映莉子はミツコを演じたのではなく、ミツコの人生を生きたのだということを感じ取って頂けると思う。そんな初音さんの魅力が全開する『ミツコ感覚』を是非劇場でご覧になって頂きたい。
1. 計算され尽くしたお芝居の中で、何か微睡(まどろ)みみたいなところで、みんなお芝居をしていた |
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OUTSIDE IN TOKYO (以降OIT):山内ケンジ監督の初監督作品『ミツコ感覚』でミツコを演じることになったきっかけを教えてください。 初音映莉子(以降初音):最初に山内さんと会ったのは23〜24歳の時で、それからのお付き合いなんです。ショートムービーやCM、その後も舞台で何度か呼んでくださったりしています。それで、少し前に(『ミツコ感覚』の)お姉ちゃん役の石橋けいちゃんと姉妹の役で舞台をやったんですね、それを演出した山内さんが、あ、この姉妹を映画で撮れたらおもしろいな、っていうのが元々の発想だったみたいですね。昔から山内さんは映画を撮りたいと思ってたと思うんですけど、(『ミツコ感覚』の)発想はその舞台からだと思います。 OIT:役者さん皆さんのアンサンブルが素晴らしいですね。そうして石橋さんと初音さんが共演していたっていうのも結構大きかったのかもしれませんね。
初音:そうですね、その姉妹の役をやってたのも大きいとは思うんですけど、今回、映画のための稽古期間があって、それで結構詰めて詰めて詰めて、会話のタイミングとか、流れを徹底的に稽古しました。そういうのが自然に出来るようになっていました。だからアドリブも無いし、全部計算されつくした中での芝居。でも演じている私は計算されつくしてない、何か微睡みみたいなところの中で、みんなお芝居をしていたと思います。少なくとも私はそうでした。 OIT:台詞とか流れはもう全部体に叩き込まれていて、それを現場でどんどん発展していくという感覚なんでしょうか?
初音:そうですね、稽古の最中に深めていく作業をしていたんですけど、やっぱり衣装、役の服を着て、役の髪型になって、役の設定の家だったら、いつも使ってるテーブルであろう家具、それが揃って初めて芝居が成立すると思ってるんです。そういう感覚っていうのは稽古でやるより現場で得たものの方が大事ですね。例えば、どこの場所に何があるか、その時の天気がどうだったか、室内の光とか、そこに行くまでの自分の移動時間に何を見て何を感じたとか、そういう全部の要素、どれも必然っていうか、何を昼ご飯に食べたか、誰とどういう会話をしたかとか、それは少なからず芝居に影響すると思っているんです。稽古でやってることをそのままやるべきかもしれないけど、私はそういうのが上手く出来ないかもしれないですね。 OIT:映画のタイトルが『ミツコ感覚』っていうタイトルで、これが分るようで分んなくてちょっと面白いなって思ったんですが、初音さんは『ミツコ感覚』っていうのは、どういう風に理解しましたか?
初音:最初は台本を頂いた時に『ミツコ感覚(仮)』って書いてあったんですよ、私はその(仮)もタイトルに入ってるのかなって(笑)。山内さん、そういうことしそうなんですよね。“感覚”ってすごく色んなイメージがあるじゃないですか、ストレートだったり、ちょっと歪んでいたり、グレーだったりとか、まず“感覚”ってなんだろうって、なおさら仮がついてるとまた変化球があるっていうか。でもその仮っていうのが私に与えた影響は実はものすごく大きくて、自分は今こう感じてるけどそれは何かの感覚を得るための一歩手前の感覚なんじゃないのかなとか。まだこの感覚は感覚に達してないっていうか、感覚っていう意識もない感覚、その感覚の手前の感じっていうか、その中で彷徨ってるようなイメージはありましたね。
OIT:感覚ってそもそも言葉で言いずらいので“感覚”なわけですけど、そういうちょっと掴みどころがない『ミツコ感覚』の空気感が面白いんですね。物語自体は悲劇的なプロットですが、映画自体はコメディなんですよね。脚本を稽古の時点で直すことはなかったですか?
初音:それはないですね。手元に届いた時点で完成されています。稽古をやってみて動きずらいから台詞を変えようとか、それはもう一切ないです。だけど山内さんは当て書きをする方なので、私の台詞なんかも、まるで私の口調で書かれているんです。台本の台詞を覚えるんですけど、なんか覚えてる感覚にならないっていうか、気付くと自分が発してる言葉にすごく近いものになってるっていう感覚がありますね。例えば、古舘さんとは、そのお姉ちゃん(石橋けい)と3人のシーンとかで、台詞の言い方や音量のチューニングはありますけど。
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『ミツコ感覚』 12月17日(土)よりテアトル新宿ほか全国順次公開 脚本・監督:山内ケンジ 製作:小佐野保 プロデューサー:木村大助 撮影:橋本清明 照明:清水健一 美術:原田恭明 装飾:三浦伸一 スタイリスト:加藤和恵 ヘアメイク:陽(akira) 録音・製音:木野武 音響効果:森木由美 編集:山内ケンジ、河野斉彦 助監督:井川浩哉 ライン・プロデューサー:石塚正悟 音楽:L.ベートーヴェン、D.スカルラッティ、A.モーツァルト、大城静乃 制作:ギークサイト 出演:初音映莉子、石橋けい、古舘寛治、三浦俊輔、山本裕子、永井若葉、金谷真由美、岡部たかし、金子岳憲、本村壮平、端田新菜、木之内頼仁、安澤千草、ふじきみつ彦、菅原直樹 2011年/日本/106分/35mm/カラー/アメリカンビスタ/DTSステレオ 企画・製作・配給:ギークピクチュアズ © 2011 GEEK PICTURES 『ミツコ感覚』 オフィシャルサイト http://mitsukokankaku.jp インタヴュー
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