特定秘密保護法案、生活保護法改正案とともに問題含みの児童ポルノ禁止法改正案。「単純所持の禁止」をめぐって長らく議論が続き、先の通常国会では再提出されたものが自民党法務部会に差し戻され、継続審議に。先日、この問題に詳しい研究者を招いて開かれたメディア関係者の集まりでは、参加者から「自民党内でも問題視する意見があり、会期が53日しかない今回の臨時国会では、ほぼ継続になりそうだ。満を持して通常国会で(法案成立への動きが)出てくるのは間違いない」との見通しも語られた。
この会合で、改正案の内容でただちに影響が及びそうなものとして挙げられたのは「単純所持の禁止」と「自己使用目的所持の犯罪化」。改正法案では、第6条と7条に新たな条項が新設された。(児童買春勧誘)の第6条の2として、(児童ポルノ所持等の禁止)「何人も、みだりに、児童ポルノを所持し…(中略)…情報を記録した電磁的記録を保管してはならない」と規定。(児童ポルノ提供)の第7条については、(児童ポルノ所持、提供等)と書き加え、「自己の性的好奇心を満たす目的で、児童ポルノを所持した者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。自己の性的好奇心を満たす目的で…(中略)…情報を記録した電磁的記録を保管した者も、同様とする」との条文を第1項として加えた。
第6条の2が「単純所持の禁止」で、7条第1項が「自己使用目的所持の犯罪化」に該当する。前者は罰則のない「違法化」だが、後者は罰則を伴う「犯罪」とされる。現行法で罰則が定められているのは、「児童買春」「児童買春周旋」「児童買春勧誘」「児童ポルノ提供等」「児童買春等目的人身売買等」で、単純所持への罰はない。つまり、犯罪ではないので、単純所持は家宅捜査・職務質問など刑事捜査の根拠にはならない。これが、改正法が成立すると、個人でひそかに楽しむだけでも、所持は刑事罰の対象となる。
そもそも現行法の第2条の3にある「児童ポルノ」の定義でも、「児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態」(第1項)「他人が児童の性器等を触る行為又は児童が性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの」(第2項)という内容はグローバルな定義だが、「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの」との第3項は日本独自の定義で「不明確」との批判もあるという。
そういう法制において改正法が成立して自己使用目的所持が犯罪化されたらどうなるか。刑事罰の対象とならない刑法35条の「正当行為」による所持であっても、過剰捜査で家宅捜索をかけられる可能性も出てくる。あるいは特定の“ターゲット”を別件で捕まえるための口実にもなりかねない。単純所持の「みだりに」をめぐっても、当事者と警察の見解が分かれ、警察署へ同行を求められる恐れもある。
ただ、改正法の附則(施行期日等)第1条の2は「この法律による改正後の第7条第1項の規定は、この法律の施行の日から1年間は、適用しない」としている。これは、児童ポルノを所持している人に「この間に処分せよ」との趣旨だという。
――といった内容が、この会合で研究者から解説された。
この改正案は政府提出でなく、議員立法であることもその特徴。発議したのは自民党政調会長の高市早苗衆院議員ら。高市氏のホームページには改正案についてQ&A形式の説明があり、「『児童ポルノの所持罪』は、児童ポルノを所持・保管していることの認識がないと、処罰されません」。「『嫌がらせなどによりメールを送りつけられた場合』などは対象外」、プールでの水着姿や親子の入浴時における裸の画像など、「児童の姿態を撮影・録画する必然性・合理性がある場合は、『児童ポルノ』には該当しません」(京都地裁判決)としている。