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特定秘密保護法案―市民の自由をむしばむ

 安全保障にかかわる秘密を漏らした公務員らに厳罰を科す特定秘密保護法案がきのう、衆院で審議入りした。

 安倍首相は、「秘密保全に関する法制を整備することは喫緊の課題」だと訴えた。だが、この日の首相らの答弁を聞く限り、これまで私たちが社説で指摘してきた数々の懸念は解消されていない。

 むしろ、役所だけの判断で特定秘密に指定される情報の範囲が広がりかねないこと、いったん特定秘密に指定されるとチェックのないまま半永久的に隠されてしまうおそれが改めて浮き彫りになった。

 この問題の影響は、情報を扱う公務員や報道機関の記者に限られたものではない。

 例えば、米軍基地や原子力発電所などにかかわる情報を得ようとだれかと話し合っただけでも、一般市民が処罰されかねない。社会全体にそんな不自由や緊張をもたらす危うさをはらんでいる。

 未曽有の原子力災害に見舞われた福島県議会は先月、原発事故に関する情報がテロ活動防止の観点から特定秘密に指定される可能性があるとして、慎重な対応を求める意見書を出した。

 その指摘は決して杞憂(きゆう)ではない。やはり、この法案に賛成することはできない。

■官僚の裁量次第

 特定秘密は、防衛、外交、特定有害活動(スパイなど)の防止、テロ防止の4分野で、法案別表に定めた23項目に該当するものが指定される。

 首相はきのうの質疑で、特定秘密はこの23項目に限定されると強調したうえで、これに該当するかどうかは、「行政機関の長が、専門的、技術的に判断することになる」と答えた。

 23項目といえば限られているように思えるが、多くの項目には「その他重要な情報」とのただし書きがついている。幅広い解釈の余地がある。

 法案が成立すれば、政府全体で万単位の情報が特定秘密に指定されるとみられる。

 それだけの情報を「行政機関の長」である閣僚らが一つひとつ判断することは不可能だ。結局は官僚の裁量に委ねられることになる。

 そしてその是非を、外部から検証する仕組みはない。首相は「一定期間の経過後、一律に指定を解除し、公開することは困難と考える」と答弁した。

 安全保障にかかわる機密は存在するだろう。それを一定の期間保護する必要性も理解できる。それを主権者である国民の目からいったん遠ざけるにしても、後世の検証を担保することが最低限の条件である。

■弱い情報共有の基盤

 そうした仕組みづくりをかたくなに拒む姿勢を見せつけられると、この国では政府が集めた情報は国民のものであるという意識があまりに低く、情報を共有する制度的な基盤が極めて弱いと言わざるを得ない。

 この根本的な構造に手をつけないまま幅広い秘密保護の仕組みを入れてしまえば、国民の知る権利はますます絵に描いた餅になるだけだ。

 本来、知る権利を確保するための市民の武器となるのが、情報公開法と公文書管理法だ。

 ただ、いまの情報公開法のもとで市民が情報を求めても、明確な理由がわからないまま拒否されたり、ようやく開示された文書が墨塗りだらけだったりすることはしばしばだ。

 民主党は、制度の不備を補うため、政権時代に提出して廃案となった情報公開法改正案を再提出した。秘密保護法案とともに審議される。

 改正案の柱は、公開の可否をめぐる訴訟で、裁判官がその目で文書を調べて開示すべきかどうかを判断する「インカメラ審理」を盛り込んだことだ。

 だが、役所は裁判所への文書の提出を拒むことができる。民主党は、秘密指定の乱用に一定の抑止効果があるというが、政府が国民との間に築こうとしている分厚い壁を突き崩すには、あまりにも不十分だ。

 秘密保護法案とセットで成立させればいいというものでは、決してない。

■秘密法案取り下げよ

 一方、公文書管理法は、公文書の作成、保存、一定期間後に歴史的文書として公開するまでのルールを定めている。

 法が施行された11年度に、このルールによって国立公文書館に移された政府文書は、保存期間が終わった約234万件の文書の1%に満たなかった。残りは内閣府などのチェックをへたうえで、未公開のまま捨てられているのが現状だ。

 日本に秘密保護法制を求める米国では、公文書館の情報保全監察局長に機密解除の請求権を与えるなど、政府の恣意(しい)的な運用に幾重もの歯止めがある。

 こうした手立てのない特定秘密保護法案はまず取り下げる。真っ先に政府がやるべきは、情報公開法や公文書管理法の中身を充実させることだ。

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