第七十五話 「特上献上品」が生まれて
家令頭のジェロームが大慌てでやってきた。
聞けばルイズがやってきたのだという。
ふむ、先日会ったばかりなのに父に会いたいとは、随分と甘やかしてしまったのかもしれない。
いずれはルイズも姉になるのだ。少し背筋を伸ばしてもらわんとな、うむ。
「あなた、たいへんですわ」
カリーヌですら驚きを表している。
何事か、と広間に向かうと、貴族の礼をしたルイズがいた。
・・・つまり、貴族どおしの話がしたい、とうことか。
フレデリカ、もしくはマエバラ子爵の件だな?
「はい、お父様。本日は、我が家にとっても大きな利益となる話を持って参りました」
どうどうとしたその有様に、私は思わず涙してしまった。
「お、お父様? 突如、滝のような涙を流してなにがあったのですか?」
いいや、ルイズ。これは心の汗だよ。
ええい、そうではなくて、末っ子だと思って甘やかしていたルイズが、随分と立派になったものだと嬉しくなってしまったのだよ。
「お父様、嬉しくなるのは、この書状をみてからにしてくださいませ」
見せられたのは、新たに作られたマエバラ子爵から王家への献上品をヴァリエール経由でお願いしたいという話だった。
献上品の中身は「幻獣」。
その数を見せられて寒気すらした程だった。
これほどまでの幻獣を、彼が捕らえたというのか!?
「いいえ、お父様。ケイイチは捕らえたのではなく、騎手を募集している幻獣を森から引き出したにすぎませんわ」
・・・つまりなにか? マエバラ子爵とともに森からでてきた幻獣を王家に献上し、力ある貴族に立ち会わせ、幻獣が気に入れば下賜する、そういうことか?
「はい、その通りですお父様。もちろん、それ以前に騎手になってほしい人間がいれば、彼らが望みますが・・・」
にっこりほほえむルイズをみて、ピュピンときた。これは、父の勘!!
「私のかわいいルイズ、きみはなにに気に入られたのだね?」
「・・・ペガサスです。名前はルイード」
すでに名前まで付けちゃってます、うちの娘。
「もちろん、目録に入っていませんし、ケイイチにも許可を得ていますわ」
あー、まぁ、許可するだろうな、彼なら。
が、さすがに外聞が悪いので、その辺の調整を私に、そう言うわけか・・・。
存外彼も黒いな。
いや、フレデリカの入れ知恵か?
「る、ルイズ、そのルイードと言う子はかわいいのですか?」
「はい、お母様。紹介しますから一緒にいきませんか?」
「ええ、ルイズ」
わくわくとした表情のカリーヌは、ヒョコヒョコと少し大きくなりつつあるお腹をかばいながらルイズとともに広間を出ていった。
「ジェローム」
「は」
「時間が流れるのは早いな」
「は」
ルイズからの手紙を見て、私は驚いた。
ミスタケイイチが貴族になったことも驚きだが、数多の幻獣を従えて王宮へ献上するという話も驚いた。
聞けばミスタケイイチ、ガリア・ゲルマニア・トリステイン3王家から認められた貴族ということで、家紋章に各国の意匠が取り入れられているとか。
つまりこれは、三国の恒久同盟の象徴ともいえる話でもあるわけだ。
・・・さすが我が妹、ルイズ。
こんな大物を私の婿にする為に召喚するとは・・・。
ルイズ、恐ろしい娘♪
そんなわけで、お祝いを持って王宮献上の場に居合わせることを理由に休暇を申請した所、上司が半泣きで「今度は幸せになるんだよ」と送り出してくれたのがムカつく。
「お姉さまの幸せのために、敬礼!」
自称妹達が敬礼で送り出してくれるのも微妙だわ。
嬉しくない訳じゃないけど、ねぇ?
かの麻雀外交で子爵になったということで、随分と宮廷雀たちの評判が悪かったケイイチ=マエバラが、下賜された領内から大量の幻獣を従えてやってくると言う。
それを聞いた幻獣騎士団は大喝采で彼を迎えることを表明した。
数にして、マンティコア12体、ヒポグリフ11体、グリフォン10体。
他にもユニコーン、ペガサスなどの王宮行事に必須の幻獣なども多く、すべてを一度に、それも人の理に従う契約をした形で、などという話は今までなかったことだった。
ケイイチ=マエバラは、ルイズ=フランソワーズの使い魔として召還されたと言うが、その功績は恐ろしい程であるといえる。
幻獣の森と呼ばれ、処置不能と言われた領地であったため、誰もがほしがらなかった直轄領であったが、彼は下賜された途端、一気にひっくり返した。
農地に向かない河川状況の改善、農地にはびこる岩礫の破壊、そして崩壊しつつあった家々の再生。
最後に、幻獣の森に住む幻獣たちとの交渉。
はっきり言おう、信じられなかったと。
フレデリカ殿の報告では、使い魔のルーンと説得力ある熱い言葉で森長を説得したというのだが、あそこには裏がいただろう!?
「マザリーニ、なにを興奮しているのです?」
「い、いいえ、何でもございません、姫様」
少し考えごとが深くなってしまったようだ。
実際、あの森には裏があったはずだ。
数代前の治世で、あの森には異形の種族が住み、いや、追いやられて、それを出さぬ為に幻獣たちが包囲していたはずなのだ。
その報酬としてあの領地の作物は無制限に与えられていたはずだったのに。
・・・もしや、異形が尽きたか?
それならば説明が付く。
加えて、ケイイチ=マエバラの説得を受けたと考えれば、かなり納得ができる話だ。
ふむ、少し話をせねばならないかもしれませんね。
そんな思いをよそに、王宮上空へ数十の幻獣を引き連れた、幻獣の王「マンティコア」を騎獣とした彼が現れた。
小さく手を振る姫に対して、マンティコアの隣のペガサスに騎乗したルイズ=フランソワーズとフレデリカ=ベルンカステルが手を振り返す。
その友情を知る人々には、かなりの感動を持って迎えられていた。
マンティコアよりも先に、ドラゴンを従えたラ・ヴァリエール卿が降り立ち、家臣の礼を持って姫に頭を垂れる。
「先触れでお知らせしました幻獣たちを納めに参りました。ご許可いただけますか?」
「よいでしょう、ラ・ヴァリエール卿。第一王宮広場に騎手たちを待たせています。彼らにお披露目しましょう」
「御意」
そう、今回の幻獣のほとんどは、高い知性を持っているので、騎獣が騎手を選ぶという方式をとっている。
いかに技量に優れていても、人なりで信用できなければ騎獣一体はめざせないからだという話を聞いている。
この王宮に来る前でも、何体かの幻獣が己の主と決めたメイジに従っているという。
たとえば、ルイズ・フランソワーズに従うペガサスとか。
最悪、幻獣がだれも選ばない可能性もある、とはラ・ヴァリエール卿も言っていたが、それだけは無いことを祈ろうと思う私だった。
というわけえ、梨花ちゃん出番薄w
神代の書く話は、大事件をするっと解決した後始末の話が多いと考えています。
まぁ、チートくんの背後では、みんなが苦労してますよ、ということで。
とりあえず、元ネタというわけではありませんが、騎獣とのお見合いは「ファイブスター」な物語が大本です、