第五十七話「使い魔品評会」が生まれて
突如、使い魔の品評会が始まったのです。
主催はお花畑。
なにやらチェックリストやらなんやらを見ながらニコニコしてるのが恐ろしいのです。
「フレデリカ、やばいわよ」
ルイズが指差しているのは、なんと「ブリミル叙事詩」という本。
お花畑が嬉しそうに時々覗き込んでいるのです。
一芸を終えた使い魔と主に向かって「始祖の祝福がありますように」なんて言葉まで振りまいて。
絶対、「何か」気付いたのですよ。
そんな危惧はさておき、タバサと風竜によるプリンセスミサイルが再現されたあたりで大盛り上がりになってる会場。
とはいえ、タバサも「プリンセス」なので、プリンセスミサイルの名に嘘はないのです。
「あ、あれがプリンセスミサイルですの?」
「・・・おじさん、この国に生まれなくて本当によかったと思うよ」
沙都子も魅音も驚きで身を固めているのです。
「アンリエッタは、グリフォンであれを二階の教室に向けてやったのです」
「どこの軍人ですの?」「いやぁ、エリート軍人でしょ?」
大喝采のうちに舞台から離れたタバサの後はキュルケ。
自分の火の魔法で作ったリングを、ペットジャンプの感じで走らせて見せているのです。
結構アクティブに動く火蜥蜴に、会場おおわき。
最後の最後で失敗して火だるまになったのですが、火蜥蜴だけに無事で「失敗しちゃった」という感じで頭をかく火蜥蜴の愛らしさにみんなメロメロなのでした。
結構高度な芸が続く中、とうとうルイズの番が回ってきたのです。
「で、なにするの? けいちゃん」
「え? ああ、圭一の本質なのですよ?」
「え?」「なんですの、りか?」
フレデリカに渡された「それ」は、あの「鍵盤ハーモニカ」だった。
「始祖見て」の中でも、その存在を大いに疑問視されたマジックアイテム。
が、実は「楽器」だったのだ。
吹き出す息と鍵盤に合わせて音がでる楽器で、難易度は低く、そして完成度が高かった。
で、この楽器で伴奏をしている私の前で、なんと圭一さんが「手品」をしてみせるというのだ。
あの「ヨシーノ」のように!!
試しに見せてもらった「手品」は見事の一語で、常に魔法探査をしていたキュルケとタバサにも魔法の痕跡が見られなかったといわしめた。
「そりゃそうなのです。種も仕掛けもある「技」なのですから」
フレデリカの一言に燃えた私たちは真似をしてみたけれど、全くうまくできなかった。
が、魔法探査に監視された圭一さんとフレデリカは難なくやってみせるのが悔しい。
就寝間際に圭一さんにお願いして「仕掛け」を聞き出した私は、あまりの盲点に驚くしかなかった。
そんなわけで、「物語」のなかではわからなかった楽曲「オリーブの首飾り」を楽器で演奏できるようになった私は、まるで「始祖見て」のワンシーンのような会場に使い魔品評会を塗り変えることにしたのあった。
やられましたわ、ルイズ。
どうやら私の企みを察知したらしいルイズによって空気を混ぜっ返されてしまい、計画を切り出す時期を失ってしまいましたわ。
でも、あの「始祖見て」の再現してほしいワンシーンのうちの第一位にもなっている「お姉さま方の卒業会」の「手品」を再現させるとは、さすがルイズの使い魔でありフレデリカの盟友にして、エレオノール様の婚約者候補。
恐ろしいまでの才覚を見せつけられましたわ。
加えて、フレデリカと亜人の少女。
息を吐くように先住魔法を使っているのに生徒たちも教師たちも当然のように受け入れています。
まるで芸人のような受け答えの二人に笑い、そして声を合わせて歌う姿に熱狂していました。
・・・おかしいですね。
なぜ私も「猫手」のステッキを振って熱狂しているのでしょう?
悔しいのでもう一晩泊まって、何とか計画を推し進めますよ?
ああ、でも、この猫耳はかわいいですね。ウエールズさまにお見せしたいですわ。
「ルイズ、あなた、「虚無」ですね?」
突然僕の部屋に電撃訪問しにきた「御花畑」が、ルイズ・キュルケ・タバサ、羽入・僕・圭一がいる中で、おもむろにそんなことをいい始めたのです。
内心冷や汗をかいていたのは僕とルイズだけで、後はガン無視。
圭一は僕と共に執筆中ですし、タバサはその書き上がった原稿のチェックを続行。
キュルケは最近校内で出回っている新刊の発注嘆願の処理をしていて、ルイズは内心の狼狽はおいておいて、V&R出版関係の処理に戻った。
「・・・えーっと、みなさんお聞きくださいませんこと?」
「忙しいので、後にしてほしいのです」
「・・・結構、重大なことをはなしているつもりなのですが?」
「今書いてるのは、某王族にして御花畑が妄想の限界まで引っ張りだした駄文という名の設定を脚本にしている最中なのです」
「ごめんなさい」
さすがに速攻で折れたのです。
「・・・お忙しいとは思うのですが、本当に少しだけお時間をいただけませんか?」
王族とは思えない腰の低さに視線をあげると、本当にうれしそうに笑う御花畑。
くそ、羽入にしろ御花畑にしろ、何で僕の周りには嗜虐心を煽る人材がいいのですか。
「一応言っておくのですが、王位継承順位をどうこうするという提案なら、絶対に動かない旨の根回しは終わってるのですよ?」
「・・・えええええええ!?」
「少なくとも、アンリエッタが握っていると思いこんでいる「ネタ」なんか、くすぶる前に水かけ終わってるのです」
「・・・・・・・・・・・・・」
がっくり膝から落ちる御花畑。
「せっかく、不良債権を押しつけられると思ったのに・・・」
案の定の反応なのです。
あまりに鉄板すぎて、ため息もでないのです。
とはいえ、トリステインにしてもアルビオンにしても不良債権であることには変わらないのですから、復興に心血注ぐべきなのです。
「りかちゃーん、この書類なんだけどさ~」
ふらりと現れた「魅音」は、その人口密度を見て眉をしかめつつ、僕にハイタッチ。
「・・・ん~、わかったのです。出版にはこっちで書面にしとくのです」
「たすかるわぁ、一応値下げだけどさ、ほかの業者さんとも歩調あわせないとならなくてさぁ」
「ダンピングじゃないのが大歓迎なのです」
ほんじゃねー、と手を振る魅音を羽入が送ってゆくといってでていったのです。
「じゃ、野望も潰えたし、そろそろ帰るのですよ、アンリエッタ」
「・・・一つだけ確認させてください」
「何ですか?」
「ルイズは虚無ですか?」
「その問いを枢機卿と皇太后に聞くのです」
深いため息をはくアンリエッタ。
つまり僕は、その問題は国の中枢に関わる問題であり、肯定も否定もできない代わりの答えを得よ、そんな状況を指し示したのです。
「で、だれか虚無がいれば、アンリエッタは幸せなのですか?」
「・・・ゼロとまで言われた親友の名誉が、国を挙げて盛り上げられるのです。この機会を利用したいじゃありませんか」
「で、ついでに王位継承順位を繰り上げて押しつける、と」
「・・・それはついでです」
とはいえ虚無が国を仕切らなくちゃいけない理由はないのですよ。
まぁ、虚無がトップをとっている国は知ってますが。
「あら、どこですの?」
「ガリアのジョセやん」
「「「ぶーーーー」」」
思わず吹く、アンリエッタ・キュルケ・タバサ。
タバサなんか、無表情な仮面を落として、完全に驚愕しているのです。
実は、ルイズには、今判明している虚無の情報は話しているのです。聞いたときは結構驚いていたのですが。
「ジョセフ王が虚無ですか・・・・」
「これでトリステインの王を虚無にすると、さすがに色々と不味いことが起きるのです」
「それは?」
「まず、虚無イコール始祖の再来、ということでロマリアによる介入が大きくなるのです」
前後を考えず教義的な介入と横やりがはいって、国の体裁が方々になるのです。
財政的にも信じられない状態になり、国内貴族が割れて、大騒ぎなのです。
まぁ、オリバー君の騒ぎを見ればわかるのですよね?
で、そんな騒ぎが起きている国なんかを信用する気になんか無いので、無惨に引き裂かれること必至なのですが、力ばかりはある「虚無」。がんがんハルケギニアが壊れてゆくのが丸ワカリなのです。
「自分の権益のために、世界を壊すですか?」
さすがにそんな先までは読んでいなかったらしい御花畑は、がっくり肩を落として帰っていったのでした。
「で、どこまでがマジ?」とキュルケ。
「虚無が王になったら『今まで弟子筋の分際でかってしやがったバカどもを成敗』とかいってロマリアと戦争になるかと思うのです」
僕の言葉にげんなりのキュルケ。
「フレデリカ、ジョセやんが虚無ってほんと?」
「これは本当なのです。見せてもらったのですよ」
こんな感じの魔法で~、と説明すると、興味津々のタバサ。
「・・・こんど直接聞いても大丈夫?」
「避けてほしいのです。直接虚無を教えられるまで待つしかないのですよ」
「・・・残念」
さーって、そろそろ執筆再開なのです。
「ところでさ、リカちゃん」
「なんですか?」
「一国の王族を護衛もなしに帰してよかったのかい?」
「「「「「・・・あ」」」」」
瞬間、ものが壊れる音、破裂する音、悲鳴、絶叫が響き渡ったのです。
途端に枯れましたw
フレデリカの部屋は、本人プラス五人が優雅に過ごせる限界です。
そのため、それ以上に人がいる際は出直すルールになっています。
魅音がすぐに出たのはそういうわけです。