第五十二話「運命を切り裂く者」が生まれて
翌日、早朝から、学院長に直撃したのです。
「爺! 大事件なのです!!」
「又厄介ごとか、リステナーデ殿!!」
「コルベール先生も聞くのです!」
羽入と圭一を引き連れて学院長室に行くと、すでにオールドマンスミスとコルベール先生は居たのでした。
そして二人のルーンを見せ説明したところ、絶句したのです。
「ガンダーヴル」「ウィインァーヴル」「ミョズニトニルン」
僅か二人に三つのルーンが発現したのです、驚くのですよ。
さらに、そのルーンが「虚無」関係となれば、絶句も必至なのです。
「ボクはかなり非常識なので比較になりませんが、多分ルイズは虚無なのです」
「その根拠はあるのかな?」
「明確なものは無いのです。ただ、四系統全てに適性が無くコモンすら正常な形で発現しないくせに制御ができるルイズの適正は、未だ試していない、試せていない虚無しかない、と思うだけなのです。あと、ラ・ヴァリエールは、王家の血筋。発現は必然かと」
「「うーーーーむ」」
悩むコルベール先生とオールドマンスミス。
まぁ、思うに、虚無だなんて事になったら・・・・
「なんて好都合! トリステイン王家はルイズに任せるわ! 私はウエールズ様と共に・・・」
とかなんとか・・・、やばい、リアルすぎるのです。
あと教皇にも利用されそうですね。虚無ですもの、伝説ですよ?
これ幸いと聖戦発動して、宗教的理由から誰も反対できないような話を振ってくるに違いないのです。
そうなったらもう遅い。
以前の件でジョセやんやらアルぽんの口沿いがある時点で、二大強国によるロマリア殲滅戦が開始されてしまうのです。
で、方やジョセやんも「虚無」。
先日呼び出した使い魔も、わりとヤバ目な方。
紹介してもらったのですが、恐ろしいレベルのヤンデレ感覚満載だったのです。
実に、実に不運な話なのです。
「というわけで、王宮には秘匿せねばならんじゃろうなぁ」
「ボクもそう思うのです」
そんなわけで、使い魔の詳細は秘匿されることになったのです。
というか、東方の賢者で納得してしまうルイズも、結構暖かいままですよねぇ。
力強い瞳の紳士にして賢者、ケイイチ=マエバラ。
エルフにすら友人を持つフレデリカだけに、その友好範囲にいる人物が召還されたのは驚きだったけど、彼の柔軟さにも驚いた。
まさか、エレ姉様狙い撃ちでも大丈夫だなんて・・・・。
この感動を手紙に叩き込んで、私はお母様とお父様にフクロウ便で送った。
所作に問題はあれども、騎士たる心根を持つ少年。
フレデリカに対等な知識を持つ賢者。
姉の婿を求めて召還した使い魔。
その屈強さはフレデリカの保証付き。
私は、私は、エレ姉様だけの人になりうる人材を呼び込んだ喜びに身を震わせていたのだった。
「あー、リカちゃん、これどういうこと?」
圭一の前には、お師匠様が悠然とたっているのです。
それは間違いなく臨戦態勢であり、それは絶対的な「死」の象徴。
「えー、とりあえず、ルイズの母親にして僕の魔法のお師匠様なのです」
それを聞いた圭一は、ゆったりとした礼を取って見せたのです。
「お初にお目にかかります。あなたの娘様の使い魔となった、ケイイチ=マエバラともうします」
ぴりりとした空気をそのままにお師匠様は杖を構えます。
が、臨戦態勢で杖を構えていても攻撃はしていない。
つまり、こちらに、圭一に先手を譲る形で叩きのめすという宣言なのです。
「圭一、ここは命の賭どころなのです」
「・・・まじで?」
「まじなのです」
というわけで、僕は錬金して作った「悟史」金属バットを渡すのです。
「・・・くあぁ、こりゃ燃えるな」
きゅっとバットを握ると、圭一の左のルーンが輝くのです。
両者共に必殺の準備完了。
が、お互いの手の内を知らない二人は、相手の準備ができるのを待っているのです。
双方ともに一方的な先手を嫌う傾向にあるので、手に汗握るにらみ合いが続く中、初めに動いたのは御師匠様。
つぶやくように囁くように発せられた呪文を見取った圭一は、まるで見えているかのようにエアハンマーをバットで打ち消して前に飛びます。
それは、あの雛身沢で培ってきた勝負運と戦度胸。
毎日毎日で命すら懸けたといってもおかしくないほどの実践で培われた「力」。
運命すら切り裂く圭一を、風の一撃程度で破れるものか。
そのまま駆け抜けるかと思いきや、急遽伏せる圭一の背中の方にいた生徒を僕がエアシールドで守ります。
何の身振りもないエアカッターを、圭一は気配だけでよけました!!
よけたそのままの姿勢で足下を強襲した圭一を避けるように、御師匠様は軽く背後に飛びましたが、それは致命的です!!
「くらえ、バスターホームラ○!!」
立ち上がりと同時に振るったフルスイングを、反射的に杖で受けた御師匠様は、瞬間的にフライで逃げました。
「・・・ちっ、もう勝ち目はねえな」
一方的な攻め手をやめて両手をあげた圭一をいぶかしむ御師匠様。
「どうしました? まだ全力ではないでしょう?」
「でも、あんたの油断は終わった。つまり勝ち目はもうなくなったってことさ」
その言に、頬をゆるめる御師匠様。
「あなたにはフレデリカ並の才能を感じます」
「そりゃありがてぇが、何の意味がある?」
「ルイズを守る使い魔として認めましょう」
そう言いながら、御師匠様が僕にだけ見えるように杖を差し出しました。
なんと、あの御師匠様の杖にひびが入ってるのです!
あのまま全力攻撃をしていたら、もしかすると負けたのは御師匠様だったかもしれないのです。
「さて、フレデリカ。いろいろと詳しい話を聞かねばならないようですね」
「うっす、細かく説明するのですよ、御師匠様」
「ルイズにも聞かせます。良いですね?」
「・・・猶予期間はおしまいですか」
「良い経験と成長をしています。問題ないでしょう」
まぁ、思いの外圭一がチートなので、この先も安心なのですが。
「(騎士団長よ、ソナタの配下は良い戦士ばかりだな)」
「(猫大将、仲間なのですよ?)」
「(ふむ、そちらの方がよい響きだな)」
うにゃーと嬉しそうになく猫大将を背負って、僕は食堂に向かうのでした。
フレデリカの言うとおりだった。
彼は、私の使い魔をしてくれることになった彼、ケイイチ=マエバラは、本当に運命すら切り裂く勇者だった。
お母様の油断を逆手に取り一撃を加えるどころか、お母様に認められてしまった。
見えない魔法を打ち消す、避けるのにあわせて打ち込む、そして、眼前の死すらこえて勝負を見通す冷静な目。
本当に、本当にこんな人が私に呼び出されてくれたなんて、信じられなかった。
でも、フレデリカは言う。
「圭一は呼び出してくれたことを感謝しているのですよ」
聞けば、あれほどの力を持っていても、津波のような運命からは逃げられず、死ぬ寸前だったところで私が召還できたそうだ。
まさに運命的だったとほほえむ彼は、少しだけ苦笑い。
深く聞いてはいけないと思うけど、少しだけ胸が痛んだ。
「そういえばフレデリカ」
「? なんですか、ルイズ」
「ミスタケーイチとあの前世仲間はお知り合いじゃないの?」
え? という顔のミスタケーイチと、「わちゃー」という顔のフレデリカ。
え、え? わたしなんかやっちゃった?