第四十八話「強行軍」が生まれて
驚きましたわ、本当に驚きました。
かの有名な作家、フレデリカ=ベルンカステルが、なんと古手梨花だったなんて。
そのうえ、あの容姿で「男」だったなんて!!
心底驚きですわ。
「驚くのはそればかりではないのですよ」
「・・・もう何をいわれても驚かないと思いますわよ?」
「ふっふっふ、それは沙都子の想像力が足りないせいなのです」
そういいながら語った言葉の内容には驚きまくりました。
なんとあの、「園崎魅音」さんと「園崎詩音」さん、そして「竜宮レナ」さんも、こちらの世界にいるというのです。
本当に驚きです。
加えてレナさんは、なんと、エルフに生まれているというじゃないですか!!
・・・さすがレナさん、人の想像の斜め上に行く存在ですわね。
ただ、寂しいことに、もう一人のニーニー、圭一さんはまだ見つかっていないそうです。
「そのうちひょっこり現れるのです」
そんなリカの言葉に安心しましたが、にぃにぃとわたくしの記憶の食い違いについてリカに確かめてもらったところ、たぶん、意識のあった時間に差があるのだろう、ということでした。
私や詩音さん、魅音さんの記憶は「あの」鷹野が銃を撃った瞬間のところまで。
銃弾が圭一さんに当たる瞬間に起きた不思議な時間と、その銃弾が真っ白に輝いたそのときまででした。
ですが、その後、リカは再び過去の雛見沢に戻り、運命を私たちと共に打ち破ったとのことでした。
そのときの記憶がないのは残念ですが、寿命を迎えることができたと聞いてうれしく思えましたわ。
そんな瞬間までの時間に記憶のある私に対して、にぃにぃはあの失踪寸前の記憶までしかないのです。
何か理由があるのではないかと思いましたが、この世界でにぃにぃと幸せに暮らすうちに、気にならなくなっておりました。
でも、リカの言葉を聞いて再び疑問がもたげたのです。
だから、聞きましたわ。
「リカ、何か知ってますのね?」
「それは質問ではなくて確信なのですよ?」
いいえ質問ですわ。
もちろん、答えは「イエス」か「ハイ」。
ベアトリスは、沙都子はわからないからと頭を痛めてるけど、僕は実のところ何となく判っていた。
僕の記憶が「あの」日までしかない理由。
それは、僕があの日以降、死んでいたか、意識が保てていなかったからだろう、と。
で、たぶんなんだけど、リカちゃん、フレデリカ=ベルンカステル=ド=リステナーデは、その真実を知っているのだろうと。
沙都子は厳しく詰問してるけど、リカちゃんはノラクラと逃げているのが証拠だ。
リカちゃんのいう「幸せに暮らした世界」で僕がどうなったかだけでも知りたい気もするけど、今の自分の自力で支えるだけでも大変なので、気にしない方がいいかな、とも思う。
父上が言うように、いくら生まれる前の自分の記憶があったとしても、それは生きる状況でないのならば、今を生きるしかあるまい、と僕もそう思う。
「悟史、沙都子から詩ぃのことを聞いたですか?」
「ああ、聞いてるよ。魅音と時々入れ替わって僕の世話とかしてくれて、そのうえ、沙都子を守ってほしいって電話で受けてくれたのが魅音じゃなくて詩音さんだったんだって。」
そう、あの当時、誰も僕たちを守ってくれなかった。
でも魅音、いや、詩音さんだけは僕たちを守ってくれようと、守ろうとしてくれた。
そればかりじゃなく、僕がいなくなった後も沙都子を守ってくれたという。
もう、感謝程度ではすまないと思う。
「どうやって感謝したらいいと思う? リカちゃん」
「ぎゅっと抱きしめてあげればOKなのですよ」
「いやいや、だって、今やゲルマニアの貴族だろ?」
「ふっふっふ、そのへんは明日確かめるといいのですよ」
「え?」
聞けば、なんと魅音と詩音が明日、別件でトリステインに来るというのだ。
だったら、だったら、今更ながらだけど感謝をしようと思う。
心の底から感謝しようと思う。
リカちゃんからのフクロウ便を読んだ妹が、気絶した。
何かすごいことが書いてあるんだろうと思って読んで、妹の気絶が納得できた。
なんと沙都子と悟史を見つけたというのだ。
相手はクルデンホルフ大公国。
悟史はそのクルデンホルフ家の長男で、沙都子は妹だそうだ。
そりゃ、気絶するだろう。
心底探していた相手が、自分の届く範囲の地位に居ないと理解したのだから。
せめて平民、もしくは騎士階級なら良かったのだろうけど、さすがに王族相手じゃ・・・。
「おねぇ! いますぐトリステインに行きますよ!!」
あ、復活した。
「つうか、明日到着じゃん」
「そんなのを待っていられません!!」
「・・・わかったよぉ、もう」
自分達用の馬車から馬を外して、私達は飛び乗った。
「あとは、ゆっくり来てねぇ」
「急ぎますよ、おねぇ!!」
「へいへーい」
潰す勢いで駆け出す馬を操る妹は、本気でこえー。
あたしもケイちゃん見つけたらこんな勢いになるのなかぁ、とか思ってしまった。
汗だくの詩ぃの馬が飛び込んできたのは、もう深夜という時間だったのです。
リステナーデの別邸にいた僕がたたき起こされたのは寝入り端で、正直寝ぼけていたのですが、詩ぃを見た瞬間背筋が凍ったんですよ。
なにせ「ウケケケケ」寸前の表情なのです。
「さとしくんはどこですか?」
感情という感情の消え去った顔の詩ぃ。
このまま会わせる事は不可能なのです。
「鏡を見るのですよ、詩ぃ。そんな疲労困憊の顔では落とせるものも落とせないのですよ」
「・・・・!!!」
はっ、といろいろな事に気付いたらしい詩ぃは、近くにあった姿見をみて大混乱。
「今からお風呂を用意させるから、ゆっくりして、身支度を整えて、片手に持ってる魅ぃを休ませるのですよ」
さらに自分が魅ぃを引きずっていることに気付いた詩ぃは驚いているみたいです。
「詩ぃはいい女なんですから、絶対に気に入られるのです」
「・・・ありがとう、リカちゃま」
かなり冷静になったらしい詩ぃは、ボロ雑巾のような魅ぃをその場において、フラフラと浴場のほうに歩いていったのでした。
学園祭のときに泊まっていたので、一応場所は覚えているぐらいには冷静みたいですね。
「さーって、魅ぃはボクがヒールしておきますか」
「リカちゃーん、手紙なんかじゃなくて、もっと穏便な伝達方法無かったのなかー?」
「明日、トリステインに到着してから教えたら、僕が殺されるのです」
「おじさんが死にそうなんですけどー」
「即死じゃなければ、大概直してあげるのです」
「あー、うれしいなー」
魅ぃに付いている細かな傷まで直したボクは、入浴中の詩ぃに魅ぃを預けて、再び睡眠をとることにしたのでした。
もう起こすなよー、といっといたのですが、再び起こされて、やれ化粧だ衣装だなんだと・・・・。
まぁ殺されるよりマシなのですが・・・。
再会はいったん据え置きですw
※今回の元ネタ
「ウケケケケ」 ・・・ 本人なのですw