第三十一話「乙女の嘆き」が生まれて
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第三十一話「乙女の嘆き」が生まれて
舞い込んだチケットに狂喜したのはあたしばかりじゃないだろう。
メイドたちも小躍りしているし、アミダクジで随行人員まで決め始めている。
お父様も行く気満々で「パンフレット」のチェックに余念がない。
まぁ、わかるさ、なにしろフレデリカからの直接の誘いだ。
どんなに冷静に振る舞っていたって舞い上がるに決まっているじゃないか。
「で、姫よ。どうする?」
「基本、リステナーデの別邸を定宿に出来るよう交渉済みです」
「なんと、物語の屋敷に招かれているのか?」
「いいえ、父上。別邸はあのマティー隊長の方です」
「うーむ、それでも興味深いな。」
「はい、あの物語の父親ですから。」
「うんうん」
あの悲嘆家だった父が、ここまで周辺に興味を持つようになったなんて誰が信じるだろうか?
さらには「少年歌劇団」のメンバーを使った諜報組織「ガリア少年歌劇団月組」なんてものまで作り上げて大喜びだなんて。
二年前の私なら信じなかっただろう。
しかし、去年の私なら信じたかもしれない。
なにしろ、フレデリカを知ってしまっていたから。
「では姫よ、後は任せたぞ?」
「お父様、政務に精励していただけなければ、この行幸認められません」
「ふぬっ!なんたる脅迫!!」
「・・・王権を持つのはお父様ですよ?」
「ぐぅ・・・い、いつまでにすればよい!?」
「今晩中にお願いいたします」
「・・・しかたあるまい!! 家臣団召集じゃ、だれかある!!」
大声で私の部屋を飛び出していったお父様をみて、私もメイドたちも笑ってしまった。
なんて暖かな空気にしてくれたんだい、フレデリカ。
何としても責任をとらせないといけないねぇ?
招待状は各国併せて数千に上るのです。
各王族、各王権族、有「力」貴族、大豪商、そして抽選で受かった一般読者。
遠くはサハラの方からもくるというのだから、どんな抽選をしたのか疑問なのです。
とはいえ、個人的なコネも呼んでおいたので、色々と面白いことになると思うのですよ。ニパー。
「で、コネって言うのは何処の王族だい?」
「ギーシュ。王族ばかりが権力者ではないのですよ?」
「ふむ、しかし宗教は嫌い、と」
「当たり前なのです。なんの生産性もないのに消費しかしないし、心の安定だけが目的なら、まだ花畑のほうがマシなのです」
愛の力でプリンセスミサイル、ちょっと感動したのです。
「んー、ボクも平均的な貴族なんでね、貴族的な思考からは離れられないらしいね。」
もう降参ですか。
まぁ、二人とも誰にも知られないように暮らしているので、知っているはずも無いのですが、それでも、みんなに幸せになって欲しいのですよ。
これは、ボクの、フレデリカ=ベルンカステル=ド=リステナーデの中の人の、最後の妄執なのです。
「まぁ、わが友のことだ、我々の眼すら剥くような衝撃を見せてくれるのだろう?」
「さすがギーシュ、わかっているのです」
さぁ、タバサのお披露目ですら霞むような衝撃を叩きつけるのですよ!!
フレデリカぁ・・・・・・。
よくもやってくれましたね、フレデリカ。
たしかに私も「カリン」を書けとは言いましたが、この「カリン」は、どういうことですか!!
「すてきですわ、カリーヌさま。」「ええ、本当にすてきですわぁ。」「ああ、私もあの頃が物語りになって帰ってきてほしいものですわぁ。」
「「「でも、カリーヌ様ほど波乱に満ち溢れていませんものねぇ。」」」
わざわざトリステインの別邸まで押しかけてきた自称貴族マダム達が、今まで私に使ったこともない声色と視線で私を絡めとります。
なにしろ、フレデリカが「烈風姫カリン~カリンの恋」なんていう番外編を書き上げてしまったから!
羨ましいが、自分達は平凡だ、ああ、羨ましいと、一日中言ってくるのですよ!!
それも毎日毎日別の貴族マダムが!!
くぅ、これは意趣返しですね、フレデリカ。
貴方の罠は年々巧妙になっていきます。
・・・ああ、この遣る瀬無い思いをどうしてくれよう。
流石に一般貴族に物語化の話は持ってこれない。
これは難しすぎる。
フレデリカだけの苦労で済むなら、いくらでも持ってくるが、絶対にそれだけでは済まず、国政に対する不満になって帰ってくる。これは間違いない。
あの脳味噌御花畑カップルみたいな機動力を普通の貴族は持っていないので、そのへんは不満に感じても羨望で済むだろう。
が、一般貴族にそれが振舞われれば、そうそう解消できる類の不満、いや不公平感ではない。
以前から物語化されてきた宮廷スキャンダルも、その際に不名誉とされていた事件でさえも、物語化されたという名誉とすら囁かれているのが恐ろしい。
この状態で、「アルビオンの休日」が開演されるのか・・・・。
そういえば最近の著作で「ツンデレを超えたツンドラ美人が主人公を滅多切り、だけど内心デレデレ」という新ジャンルが評判になっていて、そのヒロインがエレオノールにそっくりだと言う話を聞く。
その噂のせいか、国外からも娘への求愛の手紙があるとか。
フレデリカ、あなたはラ・ヴァリエールをどうしたいの!?
わたし、エレオノール=アルベルティーヌ=ル=ブラン=ド=ラ=ブロワ=ド=ラ=ヴァリエールは、困惑している。
何しろ、実家と私の職場に、山のような恋文が送られてきたから。
送り主は様々で、国内貴族、国外貴族、国家間大豪商、ロマリア司教と様々。
中には「バーガンディ伯爵」様からのものもあり、正直困惑しすぎて研究もままならない。
このことをトリステインの別邸にいたお母様に相談した所、「フレデリカぁぁぁぁ」と歯軋りしていた。
・・・なるほど、フレデリカの「物語」の影響か。
そう言われてみると、色々と冷静になれた。
確かに今まで物語の題材にされた人たちや事件には人々の気持ちが集まり、注目も十二分に集まった。
題材にされた人たちは最初迷惑がっていたが、最後には鼻高々に物語にされたことを誇っていたものだ。
なら、私はどのような物語になっているのだろう、そう思って話題の物語を取り寄せてみると、なんというか、この、趣向が偏っているというか、なんというか。
ヒロインの内面展開や心理状態は、解りやすいほどにわかる。
なにしろ、私もそう思うから。
でも、これはないわよ。
相手も若い男の子なんだから、ちょっとぐらい気を許してあげても良いだろうに、結婚するまで手も握らせないでは、若いこの気持ちは離れてしまうでしょう。
まぁ、主人公の特殊性癖の御蔭で、物語は進むのだけれど、一般的にはありえない展開だった。
強く辛く当たるヒロインの言動に、妄想と特殊性癖で迎え撃つ主人公。
なんだか戦争みたいな人間関係が、面白おかしく書き綴られている印象だった。
その人間関係を気持ち良いと感じている主人公とヒロインが、周囲の怪異や事件を解決してゆく物語は、主題や目的が二重三重にもなっていて難しく感じるけど、基本は二人の掛け合い。
言葉の掛け合いがこの物語の主題だと感じる。
礼儀も儀式も何もない、裸の罵りあいが気持ちいい。
そんな物語。
そうか、そうなのね、フレデリカ。
私はこんな人間関係を求めていたのね。
私は理解したわ。
フレデリカが折に触れて私の好みの物語や演劇を見せてくれていたのは、こういう意味だったのね。
私が物語から学ぶことが出来る、そんな感性を磨けるように、私を育ててくれていたのね。
ありがとう、フレデリカ。
小生意気で自己中心的で腹黒で、自分が可愛いことを武器にして無茶と無理を世界に押し付ける魔王のような存在だと思っていて御免なさい。
私はこれから少しだけ素直になるわ。
だから・・・・・・。
「この変態たちの手紙を何とかして、フレデリカ・・・。」
バーガンディ伯爵様までそっちの人だと思うと絶望は深くなった。
取り合えず、うちのフレデリカ様は有言実行です。
せめてエレオノールフラグだけでも折りたいと考えて活躍しました。
もちろん、その逆の展開が口を「くぱぁ」と開けている訳ですが、その辺の情報の伝達速度が遅い世界なので、大概は片足を突っ込むまで気付けません。
実に不幸な話ですw
※今回の元ネタ
ガリア少年歌劇団月組 ・・・ サクラ大戦
烈風姫カリン~カリンの恋 ・・・ お師匠様のラブ話
ツンデレを超えたツンドラ美人が主人公を滅多切り、だけど内心デレデレ ・・・ 化物語>実際は小説の解説のような内容ではありませんw
(3,380文字)