第十四話「外交手札」が生まれて
実家からの手紙で、ロマニアからの接触が多いという苦情が来ているのです。
異端審問官ではなく、純粋にファンとして接触してきて感動して帰って行くそうなのです。
で、その際に「お土産」を置いて行くそうです。
その内容が、その、痛々しいもので。
たとえば、始祖みての自作絵画とか、始祖みての自作詩集とか。
まぁ、学院でもその傾向がありますし、僕の部屋の一角を「そういうの」が占めているのは事実ですけど、坊主が同じ様な行動にでるのはどうかと・・・。
最近では教皇様からも「そういうの」が届いて、感想を求めてくるのが困るのです。
やっぱりファンと対象が近すぎるのでしょうか?
コンコン、とと、誰か来ましたね。
「我が友、少し良いかね?」
現れたのはバラバカ。
「友よ、いま、ひどいことを考えなかったかい?」
「まさか、いつもどおりの僕ですよ?」
「ならいいのだが。」
とりあえず、共用カップでお茶を出すと、少し感動したようなのです。
「・・・ふむ、この茶器で、乙女たちが・・・。」
「しね。」
バカな話はそこそこに、とりあえず話を進めると、男子寮の相談だとか。
いま、女子寮には自治組織が何となくあるのです。
これは学校側が準備したものではなくて、「始祖みて」ファンによる「山百合会」なる組織が出来ていて、スールなシステムによる緩やかな自治が行き届いているのです。
だから、バカみたいな規則を作らなくても、ゆるい規制を加えれば自浄作用が発揮される流れなのです。
つまり、このシステムを男子寮にも導入できないか、と言う相談なのです。
バラ、いや、ギーシュの相談はわかるけど、男子寮には難しいのですよ?
「やはり難しいかね?」
「・・・男子は御山の大将が「強い」か「すごい」かしないと纏められない原始人の集まりですから」
「ひどいね、どうも。」
「事実は客観的にとらえるべきなのです」
まぁ、外の権力とかもあるので難しいとは思うのですよ。
「つまり、世間的な権力と評判、そして学院内での権勢を誇る人間が祭り上げられた途端に変質しないか、そういうことだね?」
「最近頭を使っているようで、えらいえらい、なのですよ?」
「・・・我が友に後れをとってるからな。いろいろと考えざるえんよ」
そう、いろいろと本を読ませているうちに、ギーシュの学力がガンガン上がり、いつもルイズに追いつかないまでも学年一桁を必ずキープするほどになったのです。
逆に、女子に接そうなくアプローチする言動が無くなったせいで、こいつ本当にギーシュ?的な魔改造状態なのです。
原作と大差なく感じるのは「豚」ぐらいなものなのですよ。
あと「香水」かな? いやいや、貧乏なのが変わらないだけで、逆に僕の部屋の住人の一人になりつつあるのでした。
なにしろ、平民用の簡易装丁版を買うのも惜しむほどの状況らしいですから。
「始祖みて」は簡易装丁版で一気読みして、商売になりそうな部分をリストアップしてダッシュで香水を作り、学園内の独占専売件をもぎ取って行くようなモサなのです。
強者ではなく「モサ」。
限りなく本物に近いけど、どこか偽物臭が消えないと言いますか、なんといいうのですか。
まぁ、彼女には大金を与えてはいけないことを知っている僕は、もちろんのこと「著者」としてのマージンをとって、泣かせてしまいましたが。
「で、誰がいいかな?」
「僕は男子寮に詳しくないのですよ?」
「そういうと思って、各学年からピックアップしてきたよ」
並べられた名前をみると、まるで宮廷序列に爵位順列を付け加えたかのようなリスト。
その上なぜか、「アンドレ希望」とか「サンレイズ(日光)希望」とか「ムーンレイズ(月光)希望」とか書いてあるし。
思いの外、洗脳が充実していたみたいです。
あれ? 光の君がいないな?
ムー、さすがに乙女の夢を具現化しすぎましたかね?
「ギーシュ、光の君希望がいませんね?」
「それは無理だ。」
「・・・やっぱり、敷居値が高いですか。」
「そうじゃない。学院で最も光の君に似合っている存在がいるのに、自薦できるはずもないだろう?」
「・・・だれなのですか?」
僕の言葉に、さも呆れたという表情で肩をすくめるギーシュ。
むむ、ギーシュのくせに生意気な。ギーシュのくせに生意気な!!
大切なことなので二回言いました。
「・・・我が友、とりあえず、こちらが推薦状だ。」
そこには、
『フレデリカ=ベルンカステル=ド=リステナーデ を寮自治組織「生徒会」の会長「光の君」へ推薦する』
というもので、寮生2/3の署名が並んでいます。
あと1/3は「アリス」への推薦。
・・・泣かす、泣かすのですよ。
「つまりだ、空位に出来ない最高責任者を君に押しつけることにより、内外の意見を押しつぶし、楽しく「始祖みて」ごっこをしたい、というわけさ。」
有り体にぶっちゃけたギーシュ。
僕はとりあえず了解をすることにした。
「というわけで、男子寮にも部屋を作ったから、たまには来たまえ。そうそう、男子のロマン本は君の部屋のみの閲覧に切り替えたから、その辺もよろしく頼むよ」
「はぁ、つまり男子寮版の「館」なのですね?」
「そういうことだ。とりあえず、君の親交厚い次女に任せているので、こっちと同じ様な内装になる予定だが、気に入らないところがあったら言ってくれ。予算は組もう」
「いいのですよ。これでも色々と小銭を稼いでいるのです。自分の部屋ぐらい自分で何とかするのですけど・・・」
「ですけど?」
「寝るのはこっちなのです。」
「・・・ま、順当だね」
そんなわけで、男子寮に住んでいないのに男子寮長を拝命した僕なのでした。
もちろん、今回の資料をそろえたギーシュと愉快な仲間たちは、漏れなく「生徒会」に接収したのでした。
さぁ、働いてもらうのですよ。
そんな男子寮と女子寮を行き来する生活の中、女子寮で執筆しているときにノックがあった。
この時間は比較的に執筆していることが多いので、館に出入りしている女子も「黄金の時間」ということで入室を控えることに成っているらしいのですが、緊急時や休養があると色々と現れます。
今日は誰だろう、って、タバサ。
あれ? いつもなら問答無用ですよね?
「いつもこの部屋にはフレデリカ以外がいる。そんなときにノックはいらないけど、一人の時にはちゃんと気を使う」
「・・・風の魔法で部屋を調べるのは、マナーに引っかかるのではないのですか?」
「フレデリカは気にしないし私も気にしない」
まぁ、いいか、とタバサを招き入れると、背後にはルイズとキュルケもいるのです。
「なんだか、ワンセットなのです。」
「あら、それは光栄ね」
「なら、フレデリカも一緒でしょ?」
まぁ、確かに。
そんな感心とともにミンナに試作品を出します。
片方はグラスに刺された野菜棒。
人参っぽいものやセロリっぽいものが乱雑に刺さってます。
で、ボウルには、新作試作品が、輝いているのです。
「えっと、これは?」
「この野菜の棒を「この」ソースにつけて食べてみてほしいのです」
「・・・ごく」
はじめにタバサが、続いてルイズとキュルケが試し、目を輝かせた。
「な、なに! このソース、おいしい!」
「す、すごいわ、フレデリカ!! ゲルマニアでもトリステインでも食べたことのない、新感覚!!」
「・・・(もしゃもしゃもしゃ)」
「タバサ! 私たちもまだ食べる!!」
「そうよ、私たちの分も残しなさい!」
「・・・・(もしゃもしゃもしゃ)」
うんうん、大好評ですね「マヨネーズ」。
あの世界では「マヨラー」なる人種まで生み出した程のソースです。この世界でも一大旋風を生み出すでしょう!
とりあえず、学院内で中毒者を増やし、ド・リステナーデから大々的に販売と簡単なレシピの公表、そして独自改良されたリステナーデ版を売り出して、「マヨネーズ」ならリステナーデと言わせるのです!!
そんな僕の未来設計は、目の前で野菜とマヨネーズを奪い合う少女たちによって支えられているのです。
ああ、たのしいですねぇ。
しばらくの混乱の後、マヨネーズの残りまで嘗めきったタバサが本題を切り出した。
「従姉妹が、少女歌劇団を見に来たいけど、お忍びにしたい。協力してほしい」
視線で問う、みなまで話しているか、と。
微かにうなずくルイズとキュルケ。
ふぅ、と溜息を漏らす僕は、背を伸ばした。
「タバサの従姉妹の話、知ってるのですね?」
「ええ、わかってるわ」
とルイズ。
「さっき、直接聞いた」
そしてキュルケ。
何となく解っていたルイズは別にして、結構不機嫌そうなのはキュルケ。
まぁ、キュルケだけ知らなかっただけみたいなものだし。
とはいえ話を聞いてみると、歓迎すべき点が満載立ったのです。
たとえば、タバサの母親の「病気」は、イザベラ嬢の政治力で王を動かし、そして「薬」を入手。
すでに投与が始まっており、自分が抱いている人形が「シャルロット」で無い気がしてきているという。
加え、オルレアン公爵家に押された不名誉印は後数年で撤回され、王家への復帰や継承順位復帰も視野に入っているとか。
もちろん、巻き込まれる形で不名誉を受けた貴族にも復帰の機会が与えられることになり、ガリア王の懐の深さを見せつけることになりそうだそうです。
「すべては、従姉妹が、イザベラお姉さまが、解ってくれたから・・・。」
ぼろぼろと涙を流すタバサ。
原作みたいに険悪な関係じゃないようだし、結構いい感じ? なのですよ。
「何度も世話になってるフレデリカ、あなたに頼むしか思いつかなかった。」
「・・・本当にお忍びで良いのですか?」
「どういうこと?」
「たとえばですね、「タバサ」を世話してくれている「トリスタニア」に表敬訪問し、名誉復帰とその報償を与える公開の場にしてしまうとか?」
「・・・!!」
「フレデリカ、それ、いい!」
「さすが「物語」のフレデリカね。」
「・・・でも、イザベラお姉さまが・・・。」
「今後の仕事が減る上に、トリスタニアの御花畑王女に少女歌劇団を観劇する時間も売れる。この外交カードを逃すのは第一王女としてモッタイナいのですよ?」
「あー、姫様なら泣いて悔しがるかも」
「フレデリカ、もう一枚ぐらい裏がありそうね。」
もちろんあるのですが、手品の種はあかさないものなのですよ、にぱ~。
※今回の元ネタ
アンドレ・サンレイズ(日光)・ムーンレイズ(月光)・アリス・光の君 ・・・ お釈迦様も見てる参照