異なる社会観や一見理解できない世界観に染まってしまうと抜け出せなくなってしまうものです、ええ。
これはそんなはなしW
第五話 「誰得」世界が生まれて
我が隊、マンティコアの鉄の規律を越えて、半泣き状態で部下が私に頼むこと、それは娘や妻の誕生祝いに何とか「王立少女歌劇団」のチケットを手に入れたいので何とかしてほしいと言うものであった。
本来、頭の先から足の先まで武人である私に何かできるはずもないのだが、一番強力なコネがあるために、何とか手に入れられるのではないかと思ってしまうようだ。
その一番のコネというのが「我が子」フレデリカ。
生まれたときより才気溢れる姿もさることながら、魔法に優れ容姿に優れ、そして文才まであるというのだからさすが我が子である。
そんな我が子が書き下ろしたという「ツェルプストーとラ・ヴァリエール物語」が劇場化するという話になったとき、脚本家として召還された息子であったが、あまりに非凡な才能は、新しい劇団というか世界を生んでしまった。
男役も女役も娘役も何もかも、少女達で行う。
演技も歌も踊りも、洗練された夢の空間。
「トリステイン王立少女歌劇団」
国の内外を問わず、少女という少女、どころか未だ夢見がちな貴婦人まで取り込んだ大人気演劇集団を作り上げてしまったのだ。
我が国の夢見がち少女のトップであるアンリエッタ王女を劇団トップにしつらえた時点で、貴族が見に来なければならない義務が生じたわけだが、初めの一回を義務でみた後は、何度でも何度でも通ってしまうという事態になっている。
第何回目の公演の演技よりも第何回目の方がよかった。
いえい、あのアドリブと本編のつなぎが、ああ、姫様が来ると内容がちょっと変わりますものねとかなんとか。
で、一度も見たこともない人間には冷たい視線が交差したり。
そんなこんなで「フレデリカ」の父親である私に、下級貴族出身の父親達が泣きついてくるわけだ。
全員に配れるほどの度量はないので、功績があった者や努力している者に勲章代わりに配ったところ、恩給をもらうより妻に尊敬されたとか、娘に大サービスを受けて、もう死んでもいいと思ったなどの感想が集まり、あまりのことに泣けてきた。
そんなふうに盛り上がる妻子をみて嫉妬したある隊員が「伝統も何もない、お遊び演劇を見て何を喜んでいるのだ」と発言したところ、即日に妻子が実家に戻り、離縁状まで突きつけられたという。
さすがに不味いと思った隊員が私にチケットを頼んで、どうにか手に入れたことを伝えると、今度は見たこともないような笑顔で帰ってきて、チケットをうばった上でダッシュで家を出たとか。
もう自分には居場所がないと泣きながら寄宿舎になだれ込んで来た姿を今も忘れない。
我が息子よ、なんと罪深い男だ。
一時帰郷という建前だけど、実は入学準備でもあるのです。
今度の春に僕はやっとこさ、魔法学校に入学できるのですよ。
学校に入れば勉強もあるのです。
だから原稿も遅れがちになるに決まっているのですよ。
理論武装は完璧なのです。
と、そう思っていた時期もあったのです。
が、現実はさほど甘くなく、フクロウ便できたアンリエッタからの手紙には、年間新作スケジュールがびっちりかいたったのです。
もう一便で来た手紙には、ルイズから物語の新作依頼が山のように来ている旨が書いてあり、学院の部屋に転送しておくと書いてあったのです。
くそ、無駄に優秀なのです。
致し方無く、新作脚本と執筆活動をせざる得ない僕なのでした。
「ふーちゃん、ふーちゃん。ちょっとおしえて~」
御師匠様に預けられた当初は、結構恨んでいた母上ですが、実は母上も結構辛かったのを知った後は蟠りを捨てることができたのですが、捨てる前は割と母上と隔意があったのです。
だから、隔意の無くなった僕に母上はべったり状態になってしまいました。
「母上、なんですか~?」
「これこれ、これなんだけど~」
ちょっと前まで母上は社交界で「鬼母」とか「人でなし母」とか言われていたそうです。
まぁ、あの特訓魔神師匠に自分の息子を預けたと広まれば、そんな噂が出てもおかしくないのですが、それ自体は自分のしたことだからと諦めていたそうです。が、少女歌劇団台頭後は周囲に集まる貴族子女によるオベッカの海に叩き込まれ、人間不信になりつつあるそうです。
ここらで調子に乗って天狗にならないのが母上の良いところなのですが、このまま引きこもってしまうのも困りますよね?
最悪、ラ・ヴァリエールの人たちと共に、社交の世界に戻ってもらうのもありでしょうか?
少なくともカトレアねえ様は絶賛売り出し中の次女ですし、エレオノールねえ様もガンガン売り出し中なのですから。
母上が餌になって人を集めて、お二人の今を売ってしまうのがいいですね。
あ、そうか。
男性向け作品でエレノオールねえ様系の女性最高みたいな話を書けば、少しは婚姻お話も増えるでしょう?
・・・破談の話が増えたら洒落がききませんね。
実家に一度帰ったフレデリカがラ・ヴァリエールに戻ってきたのは、私たちが学院に向かう前日だった。
荷物は事前に寮に送ったそうで、こちらに持ってきたのは原稿だけだったんだけど、その量が尋常じゃなかった。
新作4、続編5、脚本に至っては8。
既に私と姫様が共謀して打ち立てた年間スケジュールを越えていた。
ふつうの女の子が裸足で逃げ出すような可愛い顔をやつれさせて「これで一年は自由のはずなのです」とにっこり微笑むフレデリカ。
わかってない、わかってないわよ、フレデリカ。
とりあえず読むけど、あなたが書く新作がつまらないワケないでしょ?
だったら続編を望まれるし、望まれたら逃げきれない。
この迷宮が、一年も待ってくれるワケないじゃない。
それに新作脚本をこんなに書いたら、姫様が毎月新作公演をするとか言い出すわよ?
もちろん、劇団員は募集すればするほど集まる現状だもの。練習三月体制で「エトワール」「ラッセール」「エンデミニオン」の三組をフル回転させるつもり満々に決まってるじゃない。
あー、「計算が狂ったのです」と涙を流すあなたの顔を思い浮かべられるわ。
「ところで、フレデリカ。」
「なんですか?」
「この、女子学園って、どんな利点があるのよ。折角の学校なのに男女を分けて入学させて、全く良いことないじゃない」
魔法学校なんて言うのは、いわば方便だ。
三年間の猶予期間中に友人の輪を広げ、交際の輪を広げ、そして婚約や友誼をつなぐ。
加えて言うなら婚約済みの子女の火遊びの場でもある。
それなのに男女を分けて学校に行かせるなんて何て意味のないことを。
そんな私の意見を聞いて、フレデリカは邪悪な笑みを浮かべた。
「それは自信作なのです。お年頃の子女に直撃なのですよ? ニパー」
あー、はいはい、泣きましたわよ、ええ。
フレデリカの手の上で踊らされているのがわかってるけど、このなんというか、新感覚に泣けた、泣いたわよ!
なんなのかしら、この、血も繋がらない女子どおしが「お姉さま」「妹」と呼び合う風習は。
何なのかしら、このもどかしいまでにお互いを求めつつすれ違う展開は。
なんなのかしら、この、女子しかいないはずなのに優美にして優雅な空間は!!
フレデリカ、恨むわよ。
なんで私が学院にいるときにこれを流行らせなかったの!?
こんな、優雅で優美な学園生活を送りたかったわよ!!
と、そんなことを考えていた時期もあったわ。
先日、新作としてアカデミーに送りつけられた「始祖さまがみてる」は、アカデミー女性局員が全員で回し読んでいる。
今までの男女の恋愛物語を鼻で笑っていた局員達が、切ない切ないと泣きながら読んでいたりする。
最近では私のことを「お姉さま」とか呼び始めたのが怖すぎる。
がさつと効率だけしか意識していなかった彼女たちが、スカートにはきかえたり、裾を気にしたり、髪型や髪飾りが「始祖みて」してるし!!
・・・フレデリカ、前言を撤回するわ。
私が学院にいる頃に「始祖みて」を流行らせないでくれたことを感謝するわ。
こんな状況が少女時代に起きてたら、絶対、絶対あなたを殺さなくちゃいけなかったから。
「おねえさま、そろそろ会議の時間です」
「・・・わかったわ。」
私専用の「始祖みて」から視線をあげて、助手、いいえ妹の一人に微笑む私。
これも「お姉さま」の役目か、とほほ。
本作のエレノオール様は、妹の救命のための研究に没頭していないので、結構気楽です。
その辺が魅力となるといいのですがW
※今回の元ネタ
始祖さまがみてる ・・・ マリア様がみてる