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来るべく必ず起きる大地震に備え、仕事も辞めて津波の届かない田舎へ引っ越した青年神崎結斗。水も食料もアニメも漫画もパソコンも太陽光パネルもついでにキャンプ用品、大工道具、調理器具、種に苗木、にがりや酵母まで備蓄。どんな大地震もこれで安心。
しかし、大地震の衝撃で家ごと異世界へ。そこは美少女が国王で腐った貴族の悪事で財政危機。美少女にお願いされ財政改革に挑む青年。かわいいハーフエルフとモフモフの猫娘に萌え死にそうになりながら財政改革に挑む青年。果たしてどーなることやら、基本ほのぼのです。言葉のくだり改稿しました。
1話 二代目頑張ります
「また、地震か……。最近やけに多いな。ついにアレが起きる兆候なのか」

 軽トラから荷物を下ろしているときにまた揺れる。
 ここ2、3日震度4以下の体に感じる地震が不気味な位頻発している。

 アレとは近々起きるであろう南海トラフ巨大地震である。
 日本列島の太平洋沖「南海トラフ」沿いの広い震源域で
 連動して起こると警戒されているマグニチュード(M)9級の巨大地震。
 最大40mの津波が日本列島を襲う。

 超心配性な俺は神崎結斗26歳。
 寝る前に欠かさないのが戸締りチェックと火の元確認だ。
 中二病時代にはもしもの強盗の襲撃に備え寝るときに
 枕元に木刀を置き、携帯強力催涙スブレーをポケットに忍ばせていた。

 もちろん将来必ず起こるであろう巨大地震の備えも抜かりはない。
 退職し田舎に引っ越したのはそのためだ。

 現在の俺の家は太平洋側の田舎にある。
 いわゆる限界集落と呼ばれる地区。
 標高は300mぐらいなので津波の心配はない。

 高齢者ばかりでわずか5軒の柿葉 (かきのは )集落。
 十年前に亡くなって今は誰も住んでいない祖父の
 純日本家屋をリフォームした。

「これでリストのものは全部揃ったな」

 庭の空きスペースに建てた倉庫兼書斎の地下室に
 缶詰の入った大きなダンボール箱を下ろして
 缶コーヒーを飲み一息ついた。
 南海トラフ巨大地震も怖いがここのところの異常気象。
 噂される富士山の大噴火。

 今までに経験のない大災害が起きる予感がする。
 災害時の停電対策として太陽光発電とクリーンで低コストなガス発電機を準備してある。

 液体燃料の発電機のほうが安いのだが
 いざ使おうとしたらキャブレータが詰まっていて
 エンジンがかからなかったなんてことがよくある。

 原因は油の劣化だ。
 その点、ガス発電機はガス燃料を使用しているため
 液体燃料特有のキャブレータの詰りがないし
 ガスはカセットコンロ用のガスボンベやプロパンガスが使用できる。

 インターネットも繋がらなくなる想定で思いつくものはハードディスクにコピーしていった。

 食料その他、思いつくものはすべて揃えた。
 「あとは大天使チタンダエルことエルタソのような嫁か……あのぅどこで売っているか誰か知りません?」


        ◇◆◆◆◆◆◆◆◆◆◇

「……うぐっ」

 足元からいきなりの強い衝撃が俺を襲う。
 一瞬、体が浮いてすぐさま床に叩きつけられる。
 その時は地鳴りとともに突然やってきた。 

 こういうときに言葉はでない。
 床にクッション性の高い衝撃吸収マットを敷いていなければ死んでいた。
 缶詰がダンボールを突き破って散乱している。

 地下室でこの激しい縦揺れということは震度7以上だ。
 体はあちこち痛いが骨折はまのがれたようだ。

「……あれ、おかしい……。揺れはその一撃だけ?」

 激しい縦揺れの後にくるはずの長い横揺れがこない。
 異常を感じすぐに地下室から外へ出た。
 状況が理解できず15分ぐらい立ち尽くしていたら
 謎の集団に囲まれていた。

 衛兵のひとりに緑色の石のペンダントを渡される。
 首にかけろということみたいだ。

「こちらへどうぞ」

 おおー、日本語で聞こえる。これは翻訳機か……すげえ。
 どうやら俺は当に家ごと異世界へ転移したみたいだ。

 異世界と言い切ったのは翻訳機もだが
 なんといってもメイド服を着た耳の長いエルフと
 猫耳娘が一団の中にいたからだ。

「貴方は異世界の知恵人さまですか?」

 腰の辺りまである金色の髪に気の強そうな澄んだ青い瞳。
 すっとした目鼻立ちの美少女だ。

 歳は十代前半ぐらいか。
 白いドレスには金色の豪華な刺繍が施され
 頭にはシルバーな王冠が鈍く光っている。

「……知恵人さま?」

 それにしても美少女の両脇に立っている鎧を着た
 190センチはあろうかという屈強な護衛が長剣を手にして
 ずっと睨み続けていて怖いんですけど。

 周囲を見渡すと、同じく鎧を着て槍を持った男が合計四名
 年老いた男が一名、後ろにはメイドもいる。
 総勢十数名。さらに目の前は見慣れた田舎の風景はなく
 中世ヨーロッパ風の城だった。

 その後、石造りの城の中に案内される。
 城内って想像してよりかなり広い。
 廊下も恐ろしく長い。

 あの壁は大谷石に似ている。
 表面に無数の小さな穴が空いている。
 火山灰でできた石だ。
 この世界にも火山があるんだな。
 温泉も出るかもしれない。

 玉座 (ぎょくざ)の広間に通される。
 玉座とは国王が座る背もたれが2メートル以上ある金で
 装飾された豪華な椅子のことだ。

 玉座の広間つまりは王の部屋だ。
 石でできた柱かバカでかい。
 4、5階建てのビルぐらいの高さがある。
 いったい、どうやってここまで運んだのだろうか。

 首が痛くなるような高すぎる天井から900kgもある
 シルバーなシャンデリアが下がっている。
 あれが落ちてきたら間違いなくご臨終だ。
 くわばらくわばら。

「わらわはセインガルド王国国王アズ・コスタンティーノです」

「私は 神崎結斗(カンザキユウト)と申します。異世界の日本国から来ました」

 なんでも国王が急死したために王女が新国王となったばかりらしい。
 実際の政務を行っているのは王女の左隣の長老だろう。

 知恵人さまというのは三百年前頃に
 城の中庭に家ごと転移してきた伝説の異世界人(日本人)だった。

 三百年前といえば江戸時代の前半だ。
 ということは宝永4年(1707年)に
 東海、南海地震の連動型地震として起きた
 M8.6の「宝永地震」で転移した可能性が高い。
 日本を襲った千年震災である。

──────────歴史は繰り替えされる。

 ヴァストリア大陸東部にあるセインガルド王国。
 建国千数百年で「千年王国」とも呼ばれる。
 ヴァストリア大陸で一番歴史がある国である。
 王都はセインガルド。
 人口30万人でセインガルド王国一の大都市。

 モルタレス帝国。
 ヴァストリア大陸西部に位置する新興国。
 国土面積はセインガルド王国の二倍人口三倍の新興国で
 近年、急速に発展している。

 ノースポイント共和国。
 ヴァストリア大陸中央にある農業国。
 石炭、金、ダイヤモンドなど資源が豊富なことでも知られている。

 アーリシア自治国。
 ヴァストリア大陸南東の商業国。
 首都ウィクトーリアはカジノもあり大陸随一の欲望都市である。

「私にお願いとは何でしょうか?」

 玉座の広間の広さと豪華さに圧倒され声も震える。

「わが国は今、多くの問題を抱えており早急な改革が必要なのです」
「二代目さまにはその改革のお手伝いをお願いしたいのです。」

 華奢なアズ国王にはこの椅子は大きすぎて
 まるで子供が座ってるみたいだ。
 かわいすぎるんですけど。

 それよりちょっと待て
 いつのまにか二代目襲名しちゃってるよ。
 おいおい聞いてないよー。

「私は日本国ではごく普通の一般人でしたので過度な期待は困ります」 
「いやいや、またご謙遜を」

 今、一瞬不安な表情したアズにゃん。
 こんな若造に頼るなんてこの国大丈夫なのか…

「……とりあえず、現在のこの国の置かれる状況をお教えください」
「それは私がご説明致しましょう」

 と国王の叔父でもあるカジャール内務宰相が説明を始める。

「財政赤字で国力の低下が懸念されます。具体的には税収の減少、地方の衰退、貿易赤字などでございます」

「それともうひとつ。近年、急速に国力を上げてきたモルタレス帝国。将来的にはわが国の脅威になる可能性がございます」

「……わかりました。財政再建を柱に大胆な改革が必要ですね。しかしまだこちらへ来たばかりでこの国のことがわかりません。」

「国の収支、税の徴収の仕組み、民の暮らし、主な産業などを実際に見せていただきたいです」

「その上で具体的な改革案を考えますので、少し時間をください」

「そうですね。手配いたします」 

「はい、二代目さま。どうかよろしくお願いします。わらわどもを助けてください」

 席を立ち駆け寄ってくるあずにゃん。
 俺の両手を握り、大きな碧い瞳を潤ませながら見つめてる。
 顔、近い近い近ーい。反則だろ。甘い匂いが立ち込める。
 やばい、理性がなくなりそうだ。

「今日から二代目さまのお世話係りとしてメイドを二人、連れてお帰りください」

「こちらがハーフエルフのマリー = ラベリでこちらが猫族のシャルノート = ノエリです」

 はうー、おっもちかえりー。

「ご主人さま、どうかよろしくお願いいたします。」

 深々と頭を下げる巨乳でモフモフの猫耳娘と
 ウエストのくびれの眩しいハーフエルフ。
 そんなに頭を下げたら谷間が―――これ、なんてエロゲ?

 城の庭の中にある俺の家に帰ってきた。
 今の時刻は午後5時。

 確かにここは俺の家なのだが違和感が半端ない。
 窓の外にはオレンジ色の夕日に染まる巨大な西洋の城。
 リビングにいるのは銀色の髪もキュートな猫耳娘シャルと
 スタイルがモデル級なハーフエルフのマリー。

 ソーラー発電パネルは転移の衝撃に耐えたらしく無事に電気はきている。
 LEDの蛍光灯の明るさに驚いているのは好奇心旺盛なマリー。

「主さま、どうして夜なのに昼のように明るいのでありますか」

「俺のいた世界では電気というものがあって、いつでも明るくできるんだ」

「不思議なのであります」

「ご主人さま、お茶の入れ方を教えていただけますか」

 初めて見るシステムキッチンに戸惑っているシャル。

 茶碗を三つ用意してやかんの熱湯を三つの茶碗に注ぐ。
 煎茶の茶葉を急須に入れ茶碗のお湯を急須に移しかえる。
 1分待ってから味や濃さが同じになるように
 三つの茶碗に均等に廻しつぎして最後の一滴まで出しきる。

 できた煎茶をシャルとマリーの前に置く。
 自分たちのお茶だと気づくと

「ご主人さま、私どもは後でいただきます」

「それじゃ冷めちゃうでしょ」

「我が家のルールその一、お茶や食事は三人一緒にすること。……いいね」

「……わかりました。ご主人さま」

 マリーはニッコニコしながら煎茶を飲み
 シャルは申し訳なさそうにそっと口をつける。

「ご主人さま、なぜ、先に茶碗にお湯をお入れになったのですか」

 シャルは勉強熱心だよな。頭もよさそう。

「それはね、茶碗を温めるためとお湯の温度を下げて煎茶が一番おいしく飲める80℃にするためだよ」

 煎茶をゆっくり味わって飲むシャル。
 猫耳をピクピク動かしながら。

「……美味しいですニャ」

 緊張が一瞬緩み思わずネコ語が出てしまう。慌てて

「ごめんなさい……。今の間違いですニャ」

 なぜ、直らないのか理解できず、首をかしげている。

「ニャんでなのニャー?」

 焦れば焦るほどドつぼにはまる猫娘。
 お城に入るために矯正したという。
 かわいすぎる。ケモナーになってもいいよね。

「ニャオしますので怒らニャいでほしいですニャ」

 全然直ってないし、ていうかむしろ悪化してるから

「いいよ、うちではネコ語を使っていいからね」

「ご主人さま、ありがとうですニャ」

「うん、そのほうが似合ってるし」

「ご主人さま、大好きですニャ」

 といって抱きついて俺の顔に頬ずりしてくるシャル。
 萌え死ぬ俺。
 冷たい目線で睨むふくれっ面のハーフエルフのマリー

「シャルばかりかわいがる主さまは意地悪なのです」

 いやいや、おまえも相当かわいいぞ。

 マリーにはちょっと苦かったみたいだ。
 あとでホットミルクでも入れてやるか
 まったく世話の焼けるお子ちゃまだな。

 夕食のあとシャルとマリーは客室で寝かし
 俺は自分の部屋のベッドにダイビング。

 疲れすぎていた。
 体もあちこち痛い。
 もう目も開かない。
 すべての欲望が睡眠欲に完敗した夜だった。

 翌日から視察に出かける。
 大都市から農村まで三日もかけて視察した。
 会計も見たが園遊会費なる使途不明金が見つかる。

――王都セインガルド 

 ヴァストリア大陸の東部位置する人口50万人。
 セインガルド王国一の大都市である。
 セインガルド城は王都の中央にあり放射状に街が広がっている。
 王都の外側は360度高い城壁に囲まれている。

 主な産業は商業、手工業、加工業。
 歴史のある街なので昔ながらの職人も多い。
 王都を含め発展してるのは大都市のみで地方との貧富の差が大きすぎる。

 農産品を安く買い叩くので農民は非常に苦しい生活を強いられている。
 栄養状態が悪いので病にかかりやすい。
 医者に診せる金もないので平均寿命も低い。
 人口は減り続けている。

 原因は貴族を頂点にしたひどい差別制度にある。

 亜人<<農民<<<市民<<<貴族


 収賄も脱税もやり放題。
 特に亜人の扱いがひどい。
 ほとんどがタダで働かせている。
 貴族は園遊会費という名目でパーティばかり開いて贅を尽くしている。

 この国は思った以上に腐っていた。
 末期の癌に侵されている。
 大手術しない限り助からない。
 思い切った改革が必要だ。



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