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3話 改革案提出
 いよいよ議会が始まった。
 議場にはアズ国王、内務、財務、軍政相らの大臣と元老院議員。
 あとは主要都市の市長、有力貴族たちが集まっている。

 猛反対されたらどーしようと思いつつ改革案を提出した。
 怒ったアズ国王は不正を行っていた元老院議員たちを牢獄に入れようとしたが
 俺が助け舟を出して不正ではなくミスということにしてその場を収める。
 しぶしぶアズ国王は財務宰相を議員に降格した。

 悪いヤツは追い込まれると何するかわからないからね、時代劇ではだけど。
 生かさず殺さず監視を強化をするのが最善と思われる。
 本音は揉めると面倒だからなんだけど。

 結局、改革案はほぼ通った。
 反対されると思っていたのだが知恵人の信頼度マジすごい。
 さすがに貴族たちも現状のままだとまずいと感じているのだろう。
 プレッシャー半端ないっす、おなか痛いからおうち帰ってもいいですか。

 改革だが一度に全部はできないので優先順位をつけて地道にやるしかない。
 まず最初にやることは省庁の再編。
 労働教育省を新設して内務省、財務省、法務省、防衛省、労働教育省に再編。

 続いて法律の改正だ。
 労働法、教育法を新たに設ける。
 奴隷法を撤廃して亜人に人権を与える。
 税法、商法の大幅な改正。

 労働法は最低保障賃金を定める。
 強制労働の禁止。

 税法は収入に応じた税率を徴収する。
 セインガルド王国内での関税の撤廃。

 商法は、亜人にも商会への参加、商売の許可を認める。

 教育法は、14歳以下の子供に教育の権利を与える。
 働きながら学べるようにする。国営の学校を建設する。
 大学に研究室を設置し、研究費を援助する。

 財務省内に会計監査庁を新設。
 奴隷法を撤廃するに伴い奴隷は使用人にして雇用するかどうかは家主の判断に任せる。

 学校の建設と王国内の主要都市を結ぶ道路の拡張、建設はすでに始まっている。

 資金はかなり使ったが、経済成長には先行投資が必要不可欠だ。
 とはいえ借金もかなりしたので失敗は許されない。

 省庁再編と法律の大幅改正が決定した。
 王城内はいつもと違い元老院議員たちは忙しく走り回っている。
 アズ国王は自分の背丈より高い書類の山の処理に追われ奮闘している。

 ――――次に俺のやることは

 農業改革。農機具の開発。売れる特産品の開発。
 工業の技術改革。新技術の開発。
 農業、商業の活性化。起業家に資金援助、助言。
 ノースポイント共和国やアーリシア自治国への輸出を増やす。 
 武器の開発。火薬の開発。まずは原料の作成。

 などいろいろあるが、その前にまずは停滞している王都の経済の活性化だ。
 さて、……どうしたものか。
 とりあえずお家に帰ろう。

 ……ふーぅ。ため息しつつ無事ご帰還。
 我が家に帰るとほっとする。
 さすがに今日は疲れた。

 あせっても仕方ないからぼちぼちやろう。
 今の俺には体に栄養補給と心に癒しが必要だ。ついでに目の保養もね。

 さて、夕ごはんは何にしよう。
 正統派のオムライスを作ろう。
 たんぽぽオムライスも美味しいとは思うけどこれじゃない感がする。
 デミグラスソースも……うーん。俺には上品すぎる。

 ケチャップライスにいい焼き加減の玉子。
 そしてたっぷり赤いトマトケチャップ。
 これぞ王道のオムライス。
 B級感がないとオムライスじゃないと思いませんか。

 玉ねぎはシャルに切らせてみる。
 一度みじんぎりは見ているがそれだけでこなすとは
 センスがいいというか能力高い。
 亜人って性格がよくて勤勉でスキルも高い。
 プライドばかり高い貴族たちより断然使える。

「ご主人さま、涙がでるニャ」

 そう玉ねぎってそこが厄介なんだよな
 切る前に冷蔵庫で冷やすとか水を流しながら切るといいとか
 聞くんだけど……俺の経験則でいうと
 どれも効果はいまひとつなんだよね。
 結局、よく切れる包丁ですばやく切るという。
 コツではなく力技ということに落ち着く。

 泣いてるシャルを見たマリーが

「主どのが、またシャルにエッチなことをしたのでありますか?」

 マリー、君は何かとんでもない誤解をしてるぞ。
 俺はシャルに一度もエッチなことはしていない。
 そもそもエッチなことしてきたのは俺ではない。
 俺はどっちかというと被害者だ。

 ……さて、気を取り直して料理するぞ。
 玉ねぎ、続いて鶏肉をしっかり炒め、切ったピーマンとソーセージをいれる。
 ここでケチャップを投入して水分をしっかり飛ばす。
 この時点で炒めた玉ねぎの匂いとケチャップの甘酸っぱい匂いが食欲をかきたてる。

 ごはんをいれて塩、コショウして味を調えてケチャップライスは完成。
 玉子はチキンライスが巻けるぐらいの硬さになるまで焼く。
 トマトケチャップをかけてオムライスのできあがり。

「いただきまーす」 

 見たことのない玉子料理に興味津々のふたり。
 マリーの銀色のスプーンがオムライスへと伸びる。
 大きめのスプーンに玉子が巻かれたケチャップライスをのせると、口へ放り込んだ。
 目を閉じ、未知の美味しさを堪能してるようだ。二口、三口と続けざまに放り込む。

「……すごく美味しいであります」

 うーん、いい笑顔だ。思わずつられて俺も一口。
 口の中で混ざる香ばしさと甘さと酸味が、食欲をさらにかきたてる。
 シャルも美味しいニャー美味しいニャーといいながら夢中で食べている。

 喜んで食べてくれる人がいるのは、こんなにも幸せなことなんだ。
 こんな当たり前なことに今さらながら感心する元ぼっちであった。

 夕食の後にシャルとマリーに日本語と算数を教えている。
 マリーはひらがなはもうすべて覚え日常会話もふつうにできる。
 一方、シャルは文法とか理詰めで覚えようとするので
 感覚派のマリーよりは上達が遅い。

 「主さま、マリーが勝ったのであります」

 テストでいい点を取った人が頭を撫でられるルールを勝手に設定するマリー。

 「……はい、はい」

 マリーはおこちゃまなんだよな……撫でてもらおうと体をあずけてくる。
 ……でもたゆんたゆんの胸が当たるんですけど……
 無邪気ってのは罪でもあるんだな。

 いつもシャルが負けてとっも羨ましいらしく

「マリーばかりずるいニャア」

 急いで携帯のシャッターを切る。拗ねるシャルは貴重なんだよね。
 ま、算数になると立場が逆転するんだけどね。
 計算ドリルを前にすると、マリーはいつもう――う――と頭を抱えて唸っている。

 勉強が終わるとアニメ鑑賞タイム。
 DVDを入れる。待ちきれないのかマリーは早く早くと背中をつつく。
 シャルはまだモニターの中にちっちゃい人間が
 入っているんじゃないかと半信半疑だし………

 まあ、この世界の人には、魔法みたいなものか……
 俺にはこっちの精霊石のほうがよっぽど不思議なんだが。
 まぁ……価値観の違いってヤツだな。

 OPが流れる。これが始まったらマリーには俺の声でも聞こえない。

「マリーのアホ――」……ほらね、どんだけ集中しとんねん。
「マリー、せっかく美味しいお菓子あげようと思ってたのに――」
「あとでいただくであります」

「!! ……マリーてめえ、聞こえてんじゃねえか」

 わき腹をくすぐる。
 敏感な体がびくっ……となるが身を捩りながらも画面から視線ははずさない。
 もー……どんだけ好きやねん……
 かわいそうだから苛めるのこれくらいにしといたろ。

 ふたりが夢中なってみてるのが「例の使い魔」
 基本イチャラブ展開たまにシリアスで
 ハーレムかと思いきやヒロインひとり勝ちの萌えアニメ。

 巨乳エルフが登場したときのマリーの反応が楽しみだ。
 ファンタジーだから入り込めるのかも知れない。

 俺はひとり地下室でPCを立ち上げるとハードディスクから火薬の作り方を探した。

 ……なになに、家の床下を利用するのか。

 まず床下に穴を掘る。
 その中に稲藁とかヨモギなどを
 乾燥した草、さらには蚕のフンや、ニワトリのフンを混ぜる。

 ……もうこの時点ですでにすごく臭そうなんですけど……

 そこに小便をいれる……しかも大量にいれる……。
 で密閉し熱で発酵させる……。

 つまり尿素(CO(NH2 ) 2)が
 土壌の微生物に分解されてアンモニア(NH3)になり
 これが酸化されて一酸化窒素(NO)に
 さらに酸化が起こり過酸化窒素(NO2)になると書いてある…………

 そして五年から六年過ぎたら黒色火薬の原料になる
 硝酸カリウム(KNO3)になると……

 もうすでに想像だけで吐きそうなんだけど……なんの罰ゲームですか……
 せめて清らかな美少女の聖水なら、一部のマニアにはご褒美になるのだが……
 あいにく俺の趣味の範疇にはない。

 それにもし、もし万一アズ国王の耳にでも入ったら…………
 ……いかん、いかん。確実に俺の人生が終わる……

 後世まで語り継がれる。 

 ……ああ、火薬を発明したあの超変態の異世界人ね。
 ……なんて鼻で笑われたら、あの世でご先祖様に申し訳なさすぎるでしょ。

 ちょっと待て、そもそも、その方法じゃ大量に作るのは到底無理じゃねえか。
 これは却下。

 次、ハーバー・ボッシュ法
 硝酸アンモニウム、爆薬の原料であり肥料の原料でもある。
 空気の窒素からアンモニアを合成して、硝酸を作る。

 このほうが、大量にできるんじゃね?

 ……えーっと、なになに……

 簡単に説明すると硝酸アンモニウム、爆薬の原料であり肥料の原料でもある。
 空気の窒素からアンモニアを合成して硝酸を作る。

 体積比で1:3の窒素と水素の混合気体を約250気圧に加圧し
 400~450℃で,酸化鉄(III)鉄(II)Fe(/3)O(/4)を主体とし
 酸化アルミニウム,酸化カリウムを添加した触媒層を通し
 生成するアンモニアを冷却または水で吸収して分離する。

 ……なるほど。さっぱりわからん。
 ちっとも簡単じゃねーよ。

 でもこの方法しかないか……まぁ、火薬の発明は優先順位としては低いからな。

 翌日、俺はセインガルド大学へ来ていた。
 正門をくぐるとまず目に付く建物の迫力にびびる。

「うわぁ……で、でかっ……」

 赤茶色のレンガの校舎の横に大聖堂のような教会が建っている。
 5階建ぐらいはありそうだ。四隅の塔はさらに高い。

 銀杏並木の中を進む。
 セインガルド王国の最高学府であり王国各地から優秀な人材が集まってくる。
 研究棟へと続く廊下には誰もおらずひっそりとしている。

 化学研究室のドアを開く。

「失礼します」

 紫色の液体が入った瓶を手にした白衣の女性が振り返る。

「アリシュクナ教授ですか?」

「……そうだが、君が二代目様か」

 20代後半ぐらいか? すっぴんだが美人系ではある……
 が、なんだろう……残念臭が半端ない……

「はい、……一応、そう呼ばれています」

「お茶でも入れたいところだがあいにくここにはない」

 無造作に縛っただけの残念ポニーテール

「お気遣いなく」

「これでよければ飲むか?」

 持っていた謎の液体を勧める。

「全力でお断りします」

 ギャグはもっと残念。

「……要は、爆薬の原料であり肥料の原料でもある硝酸アンモニウムを作れと?」

「はい、そうです」

「資料として、作成原理と作成装置の設計図があります」

「これでなんとかしろと?」

「申し訳ありませんが、私は素人なので」

 かなり無茶な話だよな、でも原理が解ればあとは試行錯誤だからな。

「最低でも5年はかかるが」

「充分です」

 丸投げですみません。

「その技術はそちらの世界の最新の技術なのか?」

「いえ……。100年くらい前の技術です」

「……ほほう。……では聞くが、そちらの世界の最新の兵器の破壊力は?」

「……王都が一瞬で壊滅するかと」

「…………想像を絶するな……」

 驚くのは無理もない。こちらの世界の武器はまだ剣や弓や投石器である。

「また、そちらの世界の話聞いてもいいか?」

「はい、また今度」

 これで経済改革に専念できる。案は一応考えてある。

 大学からの帰りメイン通りから少しはずれる人通りが少ない道を歩く。

 商店街の一軒の食堂に入る。

「おばちゃん、具沢山スープにサラダとおにぎり2個ちょうだい」

 ここはメインから少しはずれた古くからの店が並んでいる。
 この食堂にくるのはこれが2回目だ。
 米、醤油、味噌を伝えたために
 セインガルド王国の食文化は独特の進化を遂げている。

 先代様が晩年を過ごしたヤムシュタのある王国東部は米が主食だし
 西部の王都に次ぐ大都市の商都ヴァスはパンが主食だ。 

「はい、スープとサラダとおにぎり2個です」

 運んできたのは笑顔の可愛い看板娘アリシア。

「ねえ……、休日なのになんでこんなに客が少ないの?」

 じゃがいもにキャベツ、スープはチキンだし。まあポトフっぼい。

「前は多かったんだけど、年々減ってますね。物の値段も上がってるし」

 ……まあ、無理もない。税の仕組み変えてもすぐには効果ないよね。

「ねーちゃんのサービスが悪いんじゃねえの?ぐへへ……」

 テンプレの悪役キタ―――ッ!? 

 カウンターにいたおっさんがアリシアのおしりをペロッと触る。

 次の瞬間、アリシアの回し蹴りがにやけていたおっさんの顔面を確実に捉える。

 俺の目はアリシアの黒のレースのパンツを確実に捉える。

 おっさんはひきつった顔であやまりながら逃げ出すように去っていった。

「私のおしりはそんなにゃ安くないよー。出直してきなっ」

 ……見かけによらず気が強いのね……これから気をつけますっ。


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