データを公表するのは、公平性と透明性を打ち出すため。
女子バレー選手の多くは、中学、高校、実業団と厳格な監督の下で腕を磨くため、自分の意思を形成する機会がさほど多くない。監督の指示は絶対と考える一方、感情で動きやすく、ちょっとしたことで反目してしまう。女子特有のこんな傾向を払拭するには、まず選手が自分の頭で考え、自分の意思で行動する必要があると眞鍋は考えた。
「だって、海外のバレーはすべてプロなんですよ。韓国だってそう。日本だけがノンプロ。人生や生活を賭けているプロと、企業に守られているアマチュアが試合をして、アマチュアが勝てるはずがない。でも、僕らは日本代表である以上、プロに勝たなくちゃならないんです。僕らが勝つには、日の丸の誇りや日本を背負う気概をいかに強く持っているかにかかっている。その鍵になるのは選手の主体性なんです」
眞鍋は選手と個人面談を繰り返し、どういう選手になりたいのか、あるいはどんな選手になって欲しいのか、対話を繰り返した。言葉のキャッチボールだけではない。選手の日々の練習データ、あるいは試合のスタッツを体育館に張り出して誰の目にも触れるようにし、この数値の高い順からコートに立てると宣言。チームに公平性と透明性を打ち出す。
当初選手たちは、テストの成績を公表されるようで嫌がったが、次第にこの有用性を理解するようになった。大友が言う。
「これまでは“頑張れ”とか“もう少し”と言われても、具体的にどこをどう頑張ればいいのか分からなかった。でも自分のパフォーマンスが毎日データ化されるようになって、自分の足りない部分がはっきり分かるようになったし、試合の数値を見て、あの瞬間はあんな気持ちでいたからこういう数字になったんだと、自分の心理も探れるようになった」
エースとして覚醒させるため、妹的存在の木村に求めた意識改革。
1986年8月19日、埼玉県生まれ。成徳学園高(現・下北沢成徳)2年生で全日本に初選出され、アテネ以降3大会連続で五輪に出場。ロンドン五輪後、トルコリーグ1部ワクフバンクに移籍した。185cm、65kg。
選手の中で最も大きな変貌を遂げたのが木村沙織だ。チームの妹的存在だった木村が、今やチームのエースとして成長。中国戦では大量33得点を挙げた。
眞鍋は就任してすぐ、木村にスパイカーとして一皮も二皮も剥けてもらわなければ、日本は勝てないと踏んだ。木村は技術に目を見張るものはあるものの、元来のおっとりした性格から、エースとしての自覚が乏しかった。無理もない。17歳で全日本入りした木村は、どんなに国際舞台で活躍しようが常にチームの最年少。大黒柱になる環境になかった。眞鍋はそんな木村に「お前が崩れたら、日本は負ける」といい続けた。木村は当初、眞鍋の言っている意味が理解できなかった。
「私はそれまでエースと呼ばれる先輩達の後ろでちょこまかしていればいい立場だったので、『お前がダメなら、チームは負けるんだ』と言われても、何を大げさな、と思っていました。そもそもチームスポーツって、一人の選手の出来、不出来で勝敗が左右されるとは考えていなかった。だから眞鍋さんに何を言われても、は? という感じでした」
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