ミーティングでは「発言しないなんて卑怯だ」とも。
眞鍋は諦めなかった。きょとんとする木村に、試合のデータやスタッツを見せ、「だから負けた」「だから勝った」とその都度説明を繰り返した。
ミーティングで発言しない木村に業を煮やし、厳しい言葉も浴びせた。
「発言しないなんて卑怯だ。全日本では先輩も後輩もない。遠慮しないで思っていることを発言しろ」
木村が苦笑いしながら言う。
「たぶん眞鍋さんは、私が眞鍋さんの言うことを理解していないと察知して、何度も声を掛けてくれた。でも、そうやって対話を繰り返していくうちに、眞鍋さんの言葉が徐々に身体に染み込んできたんです。私が崩れたら日本は負けるとまで言ってくれる眞鍋さんの期待に応えたいと思うようになり、ドーンと肝が据わりました」
エースの目覚めである。しかし、眞鍋は具体的な指示を与えず、木村に気づきを求めた。監督の意のままに動くのではなく、自分の頭で考えさせるように計らった。手のかかる作業ではあるものの、答えを与えず自分で見いだすように仕向けたのだ。眞鍋が言う。
分からない言葉を調べる行為が、自らの頭で考える癖となる。
「木村だけではなくほかの選手にもそうですが、会話しながらきょとんとした表情が見えたら、明日まで考えて来い、と一旦話を打ち切ります。そうするとね、選手は必死で考えるんですよ。分からない言葉があれば、辞書やインターネットで調べてくるし、自分とも向き合ってくる。答えなんてあってないようなもの。でもそういう行為が大事なんです。チームが勝つために自分がどうあるべきか、自らの頭で考える癖がつく」
エースに目覚めた木村の活躍もあって、'10年の世界選手権で日本は32年ぶりの銅メダルを獲得した。だが、五輪1年前のワールドグランプリ、アジア選手権で木村は人生初のスランプに陥った。相手国からサーブで徹底して狙われ、スパイクのタイミングを崩してしまったのだ。
しかし、眞鍋は一貫して木村をスタメンから外さなかった。その年の秋に行なわれるW杯、翌年のオリンピックを見据え、苦難に耐え、逆境をはね除ける精神を身につけて欲しかったからだ。木村が述懐する。
「あの時、眞鍋さんは私を良く使い続けたと思いますね。でも、あの経験があったから、五輪でも狙われたけど平然としていられた。眞鍋さんの言葉で私は変われたんです」
◇ ◇ ◇
木村を育てた指揮官は、一度は引退した大友愛の現役復帰にも尽力した。
引け目を感じていたミドルアタッカーに行なった、きめ細やかなサポートとは?
そして眞鍋は、五輪直前に骨折していた竹下佳江をコートに送りだす。
セッター出身の指揮官が、竹下と共に抱いていた語られざる思いとは――。
つづきは、雑誌「Number」818号、もしくはNumberモバイルでお読みください。
心が震える99の言葉。
~Words of Athlete 2012~ 【第31回 ナンバーMVP賞】 内村航平 「オリンピックには魔物がいた」
三浦知良 「人生は選択の連続だ」
宮間あや 「W杯で優勝した後からずっと怖かった」
イチロー 「アメリカに来て理想としていたものがここにある」」
福原愛 「思いがたくさん詰まったメダル、重く感じます」定価:550円(税込) ► 目次ページへ
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バドミントン、伊東可奈8強入り 韓国グランプリ
2013年11月8日(金)9時7分 - 共同通信
バドミントンの韓国グランプリは7日、韓国の全州で行われ、女子シングルス2回戦で伊東可奈(ルネサス)が台湾選手を下して準々決勝に進んだ。女子ダブルスでは福島由紀、広田彩花組(ルネサス)も台湾ペアを破り…記事全文
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