Two persons' hope ~15年前の真実~(牙狼×仮面ライダーウィザード) (カムバック)
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時系列は牙狼が約束の地から戻って、数か月後
ウィザードはTV本編40話くらい




第1話 歯車

魔法の指輪、ウィザードリング。
今を生きる魔法使いは、その輝きを両手に宿し、絶望を希望に変える……そして俺【操馬晴人】はファントムから人間を守る、最後の希望……なんちって。

「晴人さんちょっと!」

俺を呼ぶ声がする、自己紹介はこの辺にして、ショータイムと行こうじゃないか。

「晴人さん、早く!」

「ちょっと待てって!今、トイレなんだから!」

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今日、東京都内にある骨董品店屋「面影堂」で誕生日会が行われようとしていた。

凛子ちゃんこと、【大門凛子】の21歳の誕生日なのだ。
刑事として頑張っている凛子ちゃんに喜んでもらおうと、「面影堂」に関係ある人間がお金を出し合い、特製の巨大ケーキを発注しておいたのだが……。

「ちょっ、ナニこれ!? ……瞬平、まさかサイズ発注間違えたのか?……」

俺はケーキを発注しておいてくれと頼んだ【奈良瞬平】を問い詰める。
人が良く、優しい奴なのだが、如何せん、おっちょこちょいの慌てん坊なので、疑うななら彼しかいない。

「違いますよ! これは完全にケーキ屋のミスです!」

全力で否定する瞬平を疑いの目で見ていた俺だったが、間違いであろうとなかろうと、発注して届いてしまったものはしょうがない。
今は、この馬鹿でかいサイズのケーキをどうするかを考えなければ……。

「うぇ~……どうすんのこれ?」

その大きさは著名な芸能人のウェディングケーキよりも数倍大きく、この場にいる人間だけでは食べきれない……と思う……。

「食べるしかないんじゃ……」

まぁ考えるだけ時間の無駄だったのかもしれない……瞬平の言うとおり、食べる以外に選択肢は残されていないし、他に良い案があれば、聞かせてほしいものだ。
この数メートル先の場所には凜子ちゃんや他の皆が待っている……そこに行けば後戻りはできない。

「晴人さん、思ったんですけど、なんで僕達ビビッてるんでしょう?」

「えっ?」

「だって、凜子さんだって小さいのより、大きい方が喜ぶと思うんですけど……」

その時、俺は「確かに!」と思った。
何故、気がつかなかったのか……そりゃ誰だって、できるだけ大きなケーキが出てきた方が嬉しいに決まっている。

となれば、寧ろ、躊躇う必要はないというわけだ。
俺と瞬平は出すのを躊躇していたが、ケーキが崩れないようにゆっくりと運ぶ。

『おめでとう凜子ちゃん!ハッピーバースデー!!』

俺と瞬平の声に合わせて、他の皆がクラッカーを鳴らすと凛子ちゃんは目を見開いて、驚く姿を見るに、何が起こったのか分かっていないようだ。

誕生会をやることを凛子ちゃんには内緒にしていた……凛子ちゃんには驚いてほしかったから。
サプライズは大成功かと思いきや……。

「皆、ありがとう!……でも、ケーキデカすぎない?」

誰しもが思っていたこと……「ケーキがデカすぎる」……凛子ちゃんの一言に皆シ~ンとなり、嫌な静寂が「面影堂」を包む。
そんな空気を一変させたのが、「面影堂」の店主【輪島繁】こと輪島のおっちゃんだ。

「まぁいいじゃないか!大きい方が食べごたえあるんだし」

『だよな!』『そうそう!』など瞬平や俺が必死に盛り上げると、空気が一変し、楽しい雰囲気に戻り、一安心と言うところか……さすがはおっちゃん。

この良い流れに続けとばかりに【コヨミ】がローソクをケーキに突き刺すと、ソファーから立ち上がる。

「じゃあ、電気消してくる」

コヨミは半年前にファントムを多く産み出したサバトという儀式の生き残りで、その影響か、俺の指輪から定期的に魔力を与えなければ、生きていけない身体になってしまっている。
そして、最近は魔力が切れる時間が次第に早くなっているが、俺や皆に心配かけたくないがために、無理して、明るく振る舞っているのが逆に俺の胸を痛い程、締め付ける。
そんなコヨミを俺はどんなことをしても、助けてやりたいし、魔力を供給しなくても生きていける身体に戻してやりたいと思っている。

「じゃあ、凛子さん! ローソクの火を消しちゃってください!」

真っ暗な部屋の中に21本の炎がユラユラと浮かび上がる。

その炎は一瞬のうちに吹き消された……凛子の口から発せられる息によって。
この肺活量はさすが警察官といったところか……21本のローソクの火を全部纏めて消すって何気に凄いと思うと思うんだが。

そして、フィナーレは「面影堂」の全メンバーによるハッピーバースデーの大合唱のはずだったが、合唱は途中で中断された。
それは「面影堂」扉が開いたからだ。

「こんばんは……ってどうしたんですか!? この大きなケーキ……」

ひょこっと顔を出したのはブレザーにツインテールのお下げ髪、【稲森真由】だった。
今時の女子高生に見えるが、真由ちゃんも俺と同じ魔法使い。
この年齢でファントムに家族を亡き者にされ人生を狂わされただけでなく、姉のミサはファントムの幹部【メデューサ】として生まれ変わり、戦わなけれいけないという過酷な宿命を背負っている。
それでも、前を向いて生きている姿を見て、本当に強い子だなと感じる。

「あ…、すいません……私ったらこんな時に…あの、また明日出直しますから」

周囲を一度見渡すと、状況を悟ったのか、真由ちゃんは慌てて立ち去ろうとした。
なんて良い子なのだろう……俺は真由ちゃんを引き留める。
だって、一人でも多い方が盛り上がるし、ケーキを食べきる戦力が1人でも欲しい……なにより、真由ちゃんはもう「面影堂」の一員、俺達の仲間なんだから。

「そんなこといわずに、真由ちゃんも一緒に食べていきなよ」

「え……、でも悪いですし……」

躊躇う真由ちゃんを見かね、俺と凛子ちゃんと輪島のおっちゃんが半ば強引にソファーに座らせる。
でも、真由ちゃんの顔は笑顔……それは作り笑いなどではなく、自然な心からの笑み。
戦士にも休息は必要、今日は思いっきり燥いで、楽しむ。
そういう日が1日くらいあっても、神様は文句いわないだろう。

仕切り直しとばかりに、瞬平がケーキを六人分にする。
だが俺は気づいてしまった……一人分多い。
本来、コヨミは魔力さえ与えていれば、食事を摂らなくても平気だからである。
だから朝食、昼食、夜食は食べていないのだが……これは驚きだ。

「え? コヨミもケーキ食べるの?」

「食べちゃダメなの? そんな決まりがあるの?」

これを聞いて、俺は何も反論できなかった。
食事は摂らないけど、ケーキは食べたい……コヨミも今時の女の子ってことか。

だが、そんなやり取りの横で身の毛もよだつ儀式が行われていた。
その儀式を見た、全員の顔が青ざめていく……真由ちゃんに至っては、唖然として、食べかけていたケーキを皿の上に落として、固まっている。

古の魔法使いである【仁藤攻介】がケーキにマヨネーズを「これでもかっ!」というくらい、かけまくっていたからだ。
仁藤は極度のマヨラーでどんな料理にでもマヨネーズかける味覚音痴なのだ。
だとしても、まさかケーキにかけるとは予想外……ある意味、これはサバトよりも怖ろしい儀式かもしれない。

「遠慮すんな晴人、ほらっ! お前もかけろ!」

仁藤は俺のケーキに無理やりマヨネーズをかけようとするが、全力でそれを拒否。
ケーキにマヨネーズなんて食えたもんじゃないし、死んでも嫌だ。

「やめろ! 俺はいいからっ!」

「ナンだよ……おいしいのに」


仁藤はその後も、ケーキにマヨネーズをかける美味しさを誰にも理解されなかったせいか若干不貞腐れて、ブツブツと愚痴を吐きながら、ケーキを頬張る。

そんな中、凛子ちゃんの顔から次第に笑顔が消えて、ため息を多くつくようになっていく。

「凛子ちゃん、どうしたの?」

「この日になると15年前のこと思い出しちゃって……」

「15年前? 何があったのか聞かせてよ。ここにいる皆は凜子ちゃんの味方なんだから」

「うん……15年前ね……」

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今から15年前の今日、その事件は起こった……。

凛子ちゃんが6歳の時、友達だった沙織ちゃんが白昼の神社でかくれんぼをしている最中、こつ然と姿を消した。
それはまさに「神隠し」。
凛子ちゃんにとって沙織ちゃんは毎日、一緒に遊ぶ仲で、凛子ちゃんにとっては本当の姉のような存在だったようだ。

最初は誘拐の線はないと思われていたのだが、凜子ちゃんは見ていたのだ……人間とは思えぬ、何とも形容しがたいおぞましい顔をした男が沙織ちゃんを連れ去った。
その発言から警察は誘拐と事故の両方で捜査を開始。
神社の裏は険しい山となっており、そこを中心に警察や町の人、総出で捜索したが見つからず、その事件は迷宮入りとなった。

今も凛子ちゃんは後悔している……あそこで自分に力があれば……怖がらずに沙織ちゃんを助けていれば……。

凛子ちゃんが刑事になったのは、警察官だった父親に憧れたのもあるが、その事件を解決することも一つの要因であった。
必ず犯人を捕まえて、沙織ちゃんを助けたい……どんなに生きてる可能性が薄くとも、凛子ちゃんは沙織ちゃんを助けるために捜査をするだろう。

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その話を俺達は、黙って聞く事しかできなかった。
凛子ちゃんの悲壮感漂う覚悟は、決意は誰にも止められないだろう。

「ごめん!……誕生日にする話じゃないよね……さっ! 皆、もっと食べよう!」


その後は、楽しく?……時間は過ぎていった。
この時間がずっと続けばいいのに……そう思ったのは俺だけではなかったはず。
明日からは、またファントムとの厳しい戦いが待ち受けているだろう。

誕生会も終わりかけたその時、面影堂のドアが開く。

「夜遅くに悪いな……予約をしていた者だが」

現れたのはモデルのようなスラッとした長身の男。
白いロングコートが印象的で端正な顔立ちをしている。

この男には隙がない……修羅場を潜り抜けている匂いがする……。

「あのぉ……申し訳ありませんが、どなた様でしょうか?」

「冴島鋼牙という者だが、御月カオルで予約をしているはずだ」

「予約を頂いた、御月様は女性の方ですが、どういったご関係でしょうか?」

「家族のようなものだ」

「そう申されましても、なにか、御月様と関係があるという証明書がないと商品をお渡しする事はできません。それに営業時間を過ぎておりましてですね……お手数ですが、出直してもらえないでしょうか……」

「分かった……明日にでもまた来る」

鋼牙と名乗る男はクルリと後ろを向くと、足取り早く、「面影堂」を後にする。
それが、魔法使いと魔戒騎士との最初の出会いだった。
鋼牙との出会いは15年前の真実とこれから起こる、戦いの歯車が廻り始めたことを意味していたのだった。

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次回予告

その出会いは偶然か、或いは必然か……。

自らを希望と名乗るその男は味方か、それとも敵か……。

次回『鋼牙』

そして今、金色の希望が解き放たれる。








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