2013年11月6日(水)

パキスタン無人機被害の実態 ~高まるアメリカへの批判~

髙尾
「今日の特集『ザ・フォーカス』は、アメリカがテロとの戦いとして、パキスタンで行っている無人機攻撃についてです。」





鎌倉
「イスラム過激派を狙って、アメリカ軍の兵士による遠隔操作で行っている、この無人機攻撃。
対象となっているのは、隣国アフガニスタンとの国境沿い、パキスタン北西部の『トライバルエリア』と呼ばれる地域です。
険しい山岳地帯で、パキスタン政府の権限が十分に及ばず、イスラム過激派が潜伏していてアメリカは攻撃を続けています。」

髙尾
「しかし、今、テロとは無関係の多くの市民が犠牲になっているとして、国民の怒りが強まっています。
パキスタン北西部で取材しました。」

米 無人機攻撃 パキスタン 被害の実態

パキスタン北西部で撮影された、アメリカの無人機の姿です。
昼夜を問わず姿を現し、突然、攻撃を行うといいます。
攻撃を受けた建物です。




激しく壊れ、がれきが散乱しています。
ミサイルの破片と見られる残骸もあります。
アメリカは、パキスタンに潜むイスラム過激派を狙って、無人機による攻撃を続けています。
無人機攻撃で、何が起きているのか。
家族が犠牲になったという男性を訪ねました。
パキスタン北西部で小学校の教師を務める、ラフィークウル・レヘマーンさんです。
去年(2012年)10月、自宅近くの畑にいた65歳の母親が突然、無人機の攻撃を受けたといいます。

ラフィークウル・レヘマーンさん
「母は子どもたちと畑に出て、野菜を収穫していました。
そのとき突然、米の無人機が攻撃してきて、母の体は吹き飛びました。」

このとき、レヘマーンさんの息子や娘もけがをしました。


息子 ズベールくん
「激痛をこらえながらなんとか、その場からはって逃げたんだ。
もう、ここにはいたくありません。」




娘 ナビーラさん
「無人機の音がすると怖くて何もできないわ。
遊びにも行けず、いつもびくびくしているの。」



レヘマーンさんは、母親がテロとの関わりを疑われる理由は、1つも思い当たらないといいます。


ラフィークウル・レヘマーンさん
「女性や子どもがテロに関わっているわけはない。
米がやっているのは冷酷な殺人行為です。
許せません。」


多くの市民が犠牲になっているのではないか。
国連は調査チームを設置して、無人機攻撃の被害実態を調査。
先月(10月)、中間報告を発表しました。
報告書によりますと、2004年以降、パキスタンで犠牲になった市民は、少なくとも400人。


戦闘員と一般市民を区別する配慮もなく、さまざまな国際法に違反している疑いがあると指摘しました。
さらに、「調査の最大の障壁は透明性の欠如だ。
安全保障を理由に統計を出さないことは正当化できない」と指摘。
アメリカに対し、情報の開示を強く求めました。


パキスタンのシャリフ首相も先月、オバマ大統領との会談で無人機攻撃をやめるよう要求。

パキスタン シャリフ首相
「対テロ作戦において協力の強化で合意したが、米による無人機攻撃の中止の必要性も強調した。」

これに対して、オバマ大統領は攻撃を続けていく姿勢を示しました。
“極秘の作戦”として、詳細が明らかにされない無人機攻撃。
パキスタン国民の怒りが高まっています。

イムダッド・ウッラーさんです。
無人機の攻撃によって、いとこが殺害されたといいます。
イムダッドさんは2年前、首都イスラマバードで開かれた無人機の抗議集会に参加していました。



集会には当時16歳だった、いとこのタリク・アジズさんもいました。
タリクさんは、パキスタン北西部に戻ったあと、乗っていた車が無人機の攻撃を受けて、命を落としました。
抗議集会から、僅か3日後のことでした。



イムダッド・ウッラーさん
「ミサイルが落ちた場所に、すぐ駆けつけたんです。
すると、タリクが車の中で燃えていました。
辛くて見ていられませんでした。」


イムダッドさんは、タリクさんの遺品を今も大切に保管しています。
なぜタリクさんが殺されなければならなかったのか、納得できないといいます。

イムダッド・ウッラーさん
「米はメディアに“テロリストを殺している”と説明しているが、何の証拠もありません。
無実の市民が無差別に殺されていることに、この地域の人たちは心底、怒っています。」

実態を明らかにしないまま、アメリカが続ける無人機による攻撃。
家族を失った人たちの怒りは、強まるばかりです。

米 無人機攻撃 パキスタン市民の怒り

髙尾
「ここからは、現地で取材にあたったイスラマバード支局の須田記者、そして、ワシントンのほうからは、ワシントン支局の樺沢記者に聞いていこうと思います。
まず須田さん、アメリカの無人機による攻撃で多くの市民が犠牲になっているわけで、パキスタンの国民の怒りが強いことも当然だとも思うんですけれども、実際に取材されていて、どうですか?」


須田記者
「パキスタンの人たちは、多くの市民が犠牲になっているのに、アメリカが詳しい説明や謝罪を行わぬまま、攻撃を続けているということを不当だと感じています。
また、無人機は高性能のカメラを搭載していると言われているわけですが、それでも今回、取材したレヘマーンさんの母親のように、なぜ『誤爆』が疑われるような事態が起きているのか。
パキスタンの人たちが求める情報が公開されていませんので、真相も検証できません。
まさに、この点が最大の問題で、国連や人権団体は説明責任を果たそうとする姿勢を見せないアメリカを批判しています。」

無人機攻撃 米政府の主張は

鎌倉
「では、アメリカ側、ワシントンの樺沢さんに聞きます。
国際社会から強い批判があるにも関わらず、アメリカは、なぜ無人機攻撃を続けるんでしょうか?」

樺沢記者
「アメリカ政府は、テロとの戦いで無人機攻撃が成果を上げてきたと強調しています。
つい先日も『パキスタン・タリバン運動』の指導者、ハキムラ・メスード司令官を無人機で攻撃し、殺害できたことは大きな成果だとしています。
また、無人機攻撃の正当性も訴えています。
根拠としているのは、交戦法規などを定めた戦時国際法です。
2001年の同時多発テロ事件を国際テロ組織、アルカイダによる宣戦布告と捉え、テロリストとの戦争状態にあるという解釈です。
これをもとにアメリカは、パキスタンなど他国の領土内でも、作戦を遂行できると主張しています。
アメリカは、ほかにもアフガニスタンやイエメンなどで無人機攻撃を行っており、今のところ中止する気配はありません。」

パキスタン 強まる米への反発

鎌倉
「パキスタンにいる須田さん、アメリカは、あくまで無人機攻撃の正当性と成果を主張しているわけですけれども、パキスタン政府は、どのように受け止めているんでしょうか?」

須田記者
「無人機による攻撃は主権の侵害だという立場で、アメリカに対し、強く反発しています。
その反発を一段と強めることになったのが、メスード司令官の殺害です。
パキスタン政府は、今年(2013年)の政権交代以降、イスラム過激派との『対話による和平』を目指していまして、メスード司令官側とも直接協議を行う予定でした。
メスード司令官の殺害を目指してきたアメリカとは、根本的な方針の違いがあったわけです。
パキスタンでは、司令官が殺害されたことで、和平交渉は遠のいたと受け止められていまして、パキスタン政府は『無人機攻撃はテロとは無関係の市民だけでなく、和平交渉まで犠牲にした』と感じています。」

パキスタン ニサール内相
「今回の無人機攻撃は、1人の人間を殺しただけでなく、和平への動きの息の根を止めた。」



須田記者
「パキスタンではアメリカとの関係を見直し、一昨年(2011年)、アフガニスタンに駐留する国際部隊による誤爆で、パキスタンの兵士が死亡する事件が起きた時と同じように、国際部隊向けの物資の輸送を停止するなどの措置をとるべきだという議論も出始めています。
無人機の問題は、パキスタンの和平、さらには、隣国・アフガニスタンの国際部隊の作戦に影響を与えかねない問題に発展しています。」

無人機攻撃 米の今後の対応は

髙尾
「樺沢さん、対テロ作戦を進めるうえで、アメリカとしては無人機攻撃をやめるわけにもいかないわけですが、かといって、国際的な批判の高まりを無視するわけにもできない。
今後、どう対応していくんでしょうか?」

樺沢記者
「無人機攻撃に関する透明性を高めることなどを約束しています。
例えば、無人機攻撃を主導する部門を今の情報機関、CIA=中央情報局から、情報開示に多少は柔軟な軍に変えていく計画です。
しかし、この程度の約束では、アメリカへの不信感を募らせるパキスタンの信頼を得るのは容易ではありません。
アメリカ軍は、来年(2014年)末までにパキスタンの隣国・アフガニスタンでの軍事作戦を終結させ、ほとんどの部隊が撤退します。
アメリカにとって撤退後のアフガニスタンの治安を維持するためには、兵士に代わる無人攻撃機とともに隣国パキスタンの協力も欠かせません。」

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