日山クリニックは、神戸市の東側に位置する東灘区にある神経内科、内科、リハビリテーション科のクリニックです。認知症やパーキンソン病などの神経疾患の治療には、近隣の患者さんだけでなく、市外や県外など遠方から来院される患者さんもいる評判のクリニックです。
日山クリニック院長の日山憲一先生は、神経内科医として大学病院に勤務していたころから 25年以上、認知症の治療に携わってきました。パーキンソン病に伴うレビー小体型認知症やアルツハイマー型認知症など、さまざまな認知症患者さんの治療にあたりながら、神経内科の研究会などにも積極的に参加。認知症のタイプごとに、脳のどの部位にどんな異常タンパク質が蓄積するかなど、原因についての研究や勉強にも熱心に取り組んできたと言います。
地域に根差した医療を提供したいという思いから、生まれ育った場所にクリニックを開設して10年。現在は、神経内科と内科、リハビリテーション科を掲げています。
「来院される患者さんは高齢の方が多いですね。そのため、認知症患者さんで、糖尿病などの内科的疾患を抱えている方も多いので、そういう全身的な病気もみながら認知症の治療もしています」(日山先生)。
「大学病院に勤務していたころから物忘れなどの症状で受診される認知症の患者さんはいましたが、やはり平均寿命が延びて社会の高齢化が進んだためか、開業してから認知症の患者さんはどんどん増えている印象です」と日山先生は話します。
同クリニックには現在、1カ月に40~60人ほどの認知症患者さんが来院しています。しかし、初診時に物忘れなど認知症の中核症状を訴えてくる患者さんばかりとは限りません。幻覚や被害妄想などのBPSD(周辺症状)が気になって来院する患者さんも多く、認知症が心配で受診する患者さんのほとんどが、家族や介護者など、誰かに付き添ってもらって受診しています。
同クリニックでは初診時、まずは患者さんやご家族からじっくり話を聞くようにしています。認知症の診断には、長谷川式簡易知能評価スケールを用いた簡易検査や神経心理検査、CTなどによる画像診断なども早い段階で行います。ただし、初めて診察に訪れた患者さんには、不安な気持ちを抱いている方や、緊張している方も多く、そのような状態で受けた検査に、正確な結果が反映されないこともあるのではないかと日山先生は考えています。
「落ち込んでいたり、周囲をうっとうしいと感じていたりするときに、あれしなさい、これしなさいと指示されたら嫌だと思うのが自然ですし、点数に影響が出るかもしれません。検査ももちろん大事ですが、それ以上に患者さんやご家族の言葉に耳を傾けることを重視しています。時間をかけて、何度かに分けてお話を聞くこともあります」(日山先生)。
認知症を告知するときには、ご家族や行政支援の力を借りて、患者さんが精神的、身体的なバックアップや生活のサポートを得られるか、事前に確認してから慎重に行っていると日山先生は強調します。そのため、同クリニックでは認知症の診断には時間をかけ、初診ですぐに診断を下すことはありません。
認知症の診断を行うときには、日山先生は患者さんの嗅覚もチェックすると話します。
「認知症になると嗅覚が落ちる人も多くいます。とくに女性はわかりやすく、嗅覚が落ちることで食事の味付けが変わったり、単調になったりすることがあるので、ご家族にも話を聞くようにしていますね」(日山先生)。
他にも、パーキンソン病に伴う認知症やアルツハイマー型認知症の場合は、寝言が増えるという特徴がみられることもあり、さまざまな症状を客観的に捉えることが大切だと語ります。
さらに、老化との区別をつけることも重要なポイントだと言います。
「誰でも高齢になれば前頭葉の機能が低下して、頑固になる、融通がきかなくなるなどの様子がみられるようになります。でもそれは老化であって、認知機能の低下とは別のもの。そのように、単なる老化と認知症の区別をしっかりつけることも重要です」(日山先生)。
さまざまな検査を行った結果、認知症と診断され、症状が進みBPSDが現れても、同クリニックではなるべく向精神薬は用いず、抗認知症薬の処方を調節することで対応しています。ただし、前頭側頭型認知症(FTD)の患者さんで、暴力行為がみられる場合には精神科に紹介しています。
認知症の治療を行う上で重要なことは、できるだけ症状の進行を遅らせることですが、絵画や卓球など、患者さんがもともと趣味でしていたことや好きなことなど、何か取り組めることがあると進行抑制につながることがあると日山先生は言います。
「患者さんが取り組めることを見つけたり、薬との併用で進行を遅らせることができれば、患者さんご自身のQOL(生活の質)の向上や生きがいにもつながり、ご家族の精神的、生活的な負担もずいぶん変わると思います」(日山先生)。
最後に、認知症治療のこれからの課題について、「認知症を治すことができる薬が開発されればベストですが、すぐには難しいでしょうし、今後はますます社会の高齢化が進み、認知症の患者さんも増えるはず」と日山先生。物忘れや被害妄想、幻覚など、気になる症状がみられる場合は、ご家族だけで抱え込まず、まずは専門のクリニックを受診したり、行政に相談したりすることが大切だと言います。
日山先生も、患者さんのご家族から相談を受けたときは、患者さんの状態を把握するためにもなるべく詳しく話を聞くよう心がけていますが、「プライバシーの保護が厳重になっている昨今ですから、なかなか踏み込んで話を聞くのも難しいのが現状」とも指摘します。時間をかけてコミュニケーションを図り、信頼関係を築くことが求められていると実感しています。
今は、医学の進歩に伴い、老化防止や若返りといったアンチエイジングが実現しつつある時代。老化や認知症も「治したい」と願う風潮が高まり、再生医療への期待が高まりつつありますが、「何もかもが医療の力でどうにかできるというのは考え違いだと思うのです。やはり、自然の摂理を受け入れることも大切ではないでしょうか」と日山先生は言います。認知症という病気も、受け入れつつ、でもあきらめることはせず粘り強く向き合っていく。患者さんとご家族のために、日山先生と同クリニックの取り組みはこれからも続いていきます。
日山クリニック
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