AVが最も豊かで自由で面白かった1980年代後半、老舗AVメーカーのKUKIにはイセリンこと伊勢鱗太朗監督がいた。現在も熟女物を中心に才気あふれるトリッキーな演出で作品をモノにしている彼の原点がKUKI時代のエキセントリックな名作群にあった! 抜ける? 抜けない? ともかく、目からウロコは約束しよう!
女子大生のレイプから始まる女たち男たちの挽歌!
トリュフォーの映画『大人は判ってくれない』とはもちろん無関係です。3人の女子大生の恋とセックスを描きながら、男たちの挽歌が鳴りやまないのがイセリン・ワールド。テロップに『このビデオを読み解くキーワードは「冗談」と「アルコール」だ』と出ますが、さっぱりわかりません。これが、イセリン・ワールドなのです。当時のアイドル女優3人と伊勢組オールスターで贈る集大成をどうぞ楽しんでください。
主演のヤクザを演じるのはあの田口トモロヲです。彼の子分に扮するのはワハハ本舗の村松利史。さらにメトロファルスの伊藤与太郎(ヨタロウ)も当時の伊勢組の常連俳優でした。
女優は人気絶頂の3人。前原祐子、姫野真利亜、藤沢まりのです。仲良し女子大生の3人がそれぞれの青春を過ごしているある晩、祐子が押し入ったチンピラにレイプされます。祐子の「テメエみたいな男
ボロボロになって泣き崩れる祐子に、真利亜とまりのは「泣き寝入りはダメ。文句言いに行きましょう」とヤクザの事務所に乗り込みます。そこへ、敵対する勢力も乱入して刃傷沙汰に、というイセリン得意のぐちゃぐちゃ展開。まりのはイケメンの幹部、田口トモロヲに一目惚れしちゃいます。
それぞれの女たちの恋やセックスがここから描かれるのですが、脇を固める男優陣の男と男の対峙など、任侠映画テイストがふんだん。主題歌
イセリン・ワールドの集大成と言っていい作品です。いささかとっ散らかっているので、作品的な完成度は『危険に情事』が一番と筆者は思うのですが、今では絶対にお目にかかれないAVの名を借りたこの極上のエンターテインメントに酔われたし!
▼発売年:1980年 | ▼出演女優: | 姫野真利亜 / 沖田ゆかり / 栗原美也子 / 工藤響子 / 浅野真弓 / 平口広美 |
AV業界初の「ハメ撮り」作品!
ビデオ・ザ・ワールド誌のAVレビュー執筆陣が1988年にこれと出会い、なんと斬新な作品なのだ?! と喝采。今から25年も昔のVHS テープ時代の「事件」。それが、タイトルまでもがカッコイイ『勝手にしやがれ』です。その投げやりな言い回しが内容にピッタリだったりします。
この4月に30年の歴史に幕を下ろした「業界の権威」ことビデオ・ザ・ワールド誌(コアマガジン)の1988年度の上半期1位に選出されたのがこの作品です。イセリンがKUKIで撮ったアダルトビデオの中から主に「ハメ撮り」素材を集めたオムニバスであり、これが業界初のハメ撮
りAVと位置づけられるわけです。1985年に誕生した8ミリビデオにいち早く着目したイセリンが、伊勢組の常連男優にカメラを持たせて女優とのカラミを撮らせたのがことの始まりです。
登場するのは潮吹き女優としてブレーク中の沖田ゆかり、ロリ系の東桐子、元祖アヒル唇アイドルの東清美、KUKI専属の優等生キャラ美少女の姫野真利亜ら11名。中には雑談のみのくだりもあって、ちゃんとカラミをやっている女の子は半分強(なんといいかげんな!)。
当時「すごい」と思った理由は、
AVアイドルたちが男優とマンツーマンで、これまで見せたことのない素顔を晒し、股間を開帳、臨場感、リアリティ、ここに映っているのはカラミではなくセックスだ! といったあたりです。何よりも「ドキュメンタリー」度の高さが衝撃でした。20数年ぶりにあらためて鑑賞して、再び驚いたわけですけどね。スコスコと腰振ってフィニッシュ(射精描写)も大して撮っていない短いカラミが当時は当たり前だったのだ!! と。なんだよテキトーで投げやりでぞんざいなプレイの数々、まさに『勝手にしやがれ』じゃん~、と。
しかし、2時間物が当たり前の今のDVD時代のハメ撮りにはない、生身の男女の猥雑な空気が横溢。これをエロスと呼びたい。ここに映っているのは当時からすればカゲキでハードな濡れ場です。現在のハメ撮りが、男優と女優のお仕事セックスで、エロスの3文字ってあるの? と思っちゃうくらい新鮮な映像です。伊勢鱗太朗のポップな編集と構成だからこそ成せた「作品」です。見ていただくと、当時、僕たちが「斬新」と呼んだ理由がよくわかると思います。
AV史に残るラストショットまでド肝を抜かれたし!
1987年にヒットしたアメリカ映画『危険な情事』とは何の関係もない、タイトルだけをもじった作品ですが、はっきり言って本家のムービーよりも面白いです。今回は何度もこの単語を使いますが「ポップ」で「斬新」な映像作品としてのレベルは映画『危険な情事』よりも圧倒的にこちらが上なのですから。イセリンってすげえや! がAV評論家たちの合言葉だったことがよくわかる名作中の名作です!
60分作品が当たり前だったこの時代に登場した90分のドラマ物AVです。制作費を好きなだけ使えたバブル期だからこそ撮りえた名作です。英題が“ love affair danger”。クライマックスの廃工場を舞台とするガンア
売りのひとつがイセリン作品につきもののレイプシーンです。AVアイドルが凌辱されてマジでブチ切れて男優に殴りかかる一連は今見てもすさまじくリアルです。これを映像作家の演出力というやつだ、と誰もが納得させられることでしょう。
姫野真利亜と東清美の名花2輪がとにかく素晴らしいです。
女房(真利亜)がいるのに愛人(清美)と密会して、セーラー服を着せてハメ撮りに興じている男・杉山(渡剛敏)がいます。杉山の女房殺し計画に清美は協力すると約束します。真利亜が不倫しているから
“ラッキー。金なんか払うか。勝手に妻を殺してくれ”。
しかし、誘拐は嘘。真利亜と愛人の共謀、一攫千金狙いだったのです。
清美もまた若くてハンサムな恋人がいて、杉山を裏切ります。
そんなドロドロの群像劇に割って入るのが、世間を騒がせ中の連続婦女暴行魔・甘粕正彦。演じるのは伊勢組のレギュラーで漫画家の平口広美です。レイプから殺戮へ。目ン玉をくり抜いたり手首を切断したりのスプラッターな描写も圧巻です。
ブチ切れる姫野真利亜が最後、突然拳銃を手に復讐に走るアクション映画モードとなるも、まさかの第三者による返り討ちに遭います(ネタバレ避けますね)。
事件の数々を伝えるニュースキャスター役にはやはり伊勢組の常連だったあの蛭子能収です。
こんなエンタメ、見たことない! と唸ってください。
ラストシーン。コンクリの床に横たわる姫野真利亜は、モノトーンの画面に赤いハイヒールの赤色だけがくっきり。その俯瞰図は、ドラマ物AV史に残る名ショットです。
▼発売年:1980年 | ▼出演女優: | 望月あゆみ |
平和な家庭をぶち壊す猟奇変態男!
今回紹介する4本の中で最も古い作品です。イセリンAVの中でもなんじゃこりゃ?!度ナンバーワンです。カルトムービーにカテゴライズしてもいい幻の1本です。そして、当時60分作品が主流になりつつあった中、これは30分しかないのです。30分とは思えない濃度です!
アメリカの悪趣味インディーズ・ホラーみたいな、と言えばこの作品の風合いがおわかりいただけると思います。悪趣味とは、
オタクでカルトでセンスがナウい! と解釈してください。1987年にAV雑誌のレビュー仕事でこの作品がたまたま回ってきた際、見終わって、「なんじゃこりゃ?!」と、のけぞったままVHSテープを巻き戻したものです。導入部は小津安二郎映画のようなのどかな家庭の朝食風景です。お父さんが家族を捨てて出て行って以来、お母さんが長男、次男、三男、望月あゆみ扮する長女
の4人を今日まで育ててきました。母親役は元祖Dカップ巨乳女優の中村京子。伊勢組の常連バイプレーヤーです。ヒロインのあゆみちゃんは、肉厚の唇がセクシーな誰がどう見てもこの時代の人気AV女優だよなぁ、なルックスです。
息子たちは仕事に学校に出かけます。母親は「亀戸のおじさんの三回忌」に出かけます。長女は喪服を着たものの気分が悪くなって一人留守番することになります。
その頃、新聞配達をやっている三男が変質者に襲われ惨殺されます。有無を言わさず包丁でメッタ刺しにされ、興奮した男のセンズリした精液までぶっかけられます。
男はポコ
チンをしごきながら中村京子家に侵入すると、喪服のままオナニーしているあゆみを見つけてレイプします。帰宅する息子たちも男に次々に殺されます。
この猟奇変態男を演じるのは伊勢組の常連の家入淳。普段は暗黒舞踏をやっているスキンヘッドの怪優(2003年に事故死されました)です。
平和な家庭が一人のキ○ガイの乱入によって皆殺しにされる物語--と思いきや。あっと驚く展開がここから待っています。当時こんなカルトムービーなAVがあったのです。大いにのけぞってくださいませ。