社説:新しい大学入試 高校も変わらなければ
毎日新聞 2013年11月02日 02時35分
実現すれば今の制度は大きく転換しようが、宿題は山積だ。
政府の教育再生実行会議が大学入試改革策を提言した。主眼は1点刻みの試験を排し、十分に手間をかけ、人物本位に総合的な力や才能、適性を見いだすことにある。
そのため高校在学中に受ける「基礎」レベルと、大学入試センター試験を衣替えする「発展」レベルの達成度テスト創設を提言した。
「基礎」は高校教育で習得しておくべき知識や活用力をみる。大学の推薦、AO(アドミッション・オフィス)入試などで基礎学力を確かめるのに活用できる。「発展」は、大学教育を受けるのに必要な学力をみる。結果は1点刻みではなく、一定の点数幅で分けたランク別に示す。
大学はこれで学力の水準をみるとともに、独自の選抜を行う。面接、集団討論、論文、高校の推薦書、生徒会活動やボランティア、留学、部活動など、幅広く想定される。
また提言は、2種の達成度テストがいずれも複数回受けられるよう検討を求めている。今後、中央教育審議会が仕組みを細かに論議するが、具現化は5、6年先ともいわれる。
この提言に沿うなら、高校教育も同時に変革されなければならない。従来の点数で把握したつもりだった生徒の学力を新たな視点で見直し、意欲や適性をこれまで以上に引き出すことも必要になるだろう。
実際、大学入試を真に改革すれば、高校、中学、小学校の教育にも改善効果が上がるといわれてきた。
だが課題は多い。例えば、達成度テストの複数回実施が現在の高校で可能なのか。教員の養成、研修にも新たな工夫が要る。
試験の「公平性」の問題もある。
確かに、1点差が明暗を分ける試験は真に力や才能を見いだすことにならない、という考え方は正しいだろう。だが、点という指標で落とされるなら仕方がないが、数値で見えにくいような判定では割り切れない、という受け止め方もある。
それは、試験の公平性への信頼という、根本的な条件に関わってくる。今後、新しい入試の制度設計を進めながら、なぜこの改革が必要なのか、公平性をどう担保するのかなどを丁寧に公開論議し、広く共通理解を醸成していくべきではないか。
大学入試改革はとても古くて新しい教育テーマだ。共通1次試験もセンター試験もそこから生まれ、進学率上昇や少子化など社会変化とともに新たな課題を負った。
多様な「グローバル人材」育成を掲げた今回の案は、決して“受験界の大ニュース”にとどまるものではない。行方を注目し、論じ合わなければならない。