原発事故の情報は(特定秘密の)対象に当たらない―。
特定秘密保護法案を担当する森雅子少子化担当相の記者会見での発言だ。
分かりました。それなら安心です―。と、引き下がるわけにはいかない。なぜなら、仮に「原発事故情報」の一部が秘密に指定されたとしても、何が指定されたのか自体が秘密だからだ。いくら対象外と事前に説明されても、その通りに運用されるのか検証する方法はない。
東京電力福島第1原発事故の地元、福島県議会が先月、法案をめぐり「慎重な対応を求める」とする首相、衆参両院議長宛ての意見書を全会一致で可決した。
法案は特定秘密の範囲を、例えばテロ活動防止については「テロによる被害の発生もしくは拡大の防止のための措置」というように幅広く設定している。原発はテロの標的になり得るとされる。
だから、県議会は意見書で「原発の安全性に関わる問題や住民の安全に関する情報が『特定秘密』に指定される可能性がある」と危惧した。
根底には、原発事故の直後、国が放射性物質の拡散について十分な情報を出さなかったことへの不信感がある。緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)の試算結果が、事故の初期段階で公表されず、放射線量がより高い地域に避難して「無用の被ばく」をした住民たちもいた。
秘密法案には、その不信感を払拭(ふっしょく)するだけの仕組みがない。
原子力基本法は「公開」を原則の一つに掲げている。政府が秘密裏に核開発を進めたりすることのないようにするためだ。
政府が進めてきた原発政策は「公開」の物差しから見ると、疑問がある。例えば、内閣府の原子力委員会は10年以上、非公開会合を毎週開き、原子力政策の重要案件を実質審議していた。
秘密法は、政府の原発政策をこれまで以上に不透明にする心配が大きい。
森担当相は会見で、こうも述べている。「(原発に関する)警察の警備実施状況は特定秘密に指定され得る」
ならば、事故時の警備状況はどうなるのか。事故の情報の一部が、警備の情報と一体と見なされて秘密指定されることはないのか。それも闇の中だ。