2013 参議院選挙@石川【考えよう憲法】
金沢大の「概説」講義から 3
◆権力しばる枠組み◆
「人権という概念が成立する以前の社会がどんなものだったのか、想像してみましょう」
石川多加子准教授(48)が聞いた。
学生から答えが返ってくる。
「君主のもとに権力が集中し、身分制によって人々の内面までに及ぶ支配関係がありました」
経済的に力をつけていった人々は支配者の干渉を嫌い、権力を恣意(しい)的に乱用できなくさせようとした。それが近代社会で「憲法」が生まれた歴史的な経緯だ、と石川さんは説く。
憲法によって権力を制約し、国民の人権を保障しようという考え方は立憲主義とよばれ、近代国家の基本的なルールとされる。
「なのに、自民党の改正草案は逆に国民に義務を負わせるものに変換されています」
〜*尊重擁護義務*〜
たしかに、憲法尊重擁護義務について、現憲法は天皇や公務員にのみ求めているが、自民党の草案は国民が「尊重しなければならない」と規定している。
さらに草案には天皇に憲法擁護義務がない。「天皇が憲法を守らなくていいのなら、憲法の上に天皇があることになります。これは立憲主義に対する正面からの挑戦と言わざるをえません」
自民党が「日本国憲法改正草案」を発表したのは昨年4月。前文を含めほぼ全条文に及ぶ全面改正案だ。
一方、同じ改憲の立場のみんなの党や日本維新の会からは、全条文にわたる具体的な提案はまだ出ていない。「論憲」を主張する民主党、「加憲」を掲げる公明党も同様だ。
共産党、社民党は現憲法の維持を訴えている。
石川さんは、六法全書とともに自民党の改憲草案のコピーを準備させている。講義では、草案と現憲法を対照させながら論じる。
〜*「公」とは*〜
現憲法が13条で「公共の福祉に反しない限り」として認めているさまざまな人権は、草案では「公益及び公の秩序に反しない限り」と改められる。
「『公』というのが市民社会のことなのか、国家のことなのかがあいまいすぎる。法律の中で明確な定義が必要なのでは」
その学生の発言に、石川さんは「まさにその通りです」と深くうなずいた。
「公共の福祉とは、言い換えれば最大多数の最大幸福。しかし、公益や公の秩序というのは個人の権利の積み重ねとは違い、国家を優先させる考え方です」
「公」のあいまいさについて発言したのは、人文学類1年生の大竹一史さん(18)。毎回、最前列で熱心に聴き積極的に発言していた。
「僕は単に憲法を法典としか理解していませんでした。しかし、憲法は英語ではconstitution(構造)。文字通り国家の体制そのものであることに気づかされました」
憲法は単なる法律とは違い、権力をしばる枠組みだ。そうした近代憲法の考え方を自民党の改正草案は理解しているのだろうか。石川さんが危ぶんでいるのもその点なのだ。
(樋口大二)
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