2013 参議院選挙@石川【考えよう憲法】
金沢大の「概説」講義から 1
◆求められる「熟議」◆
「憲法改正の本丸はやはり9条です。しかし、自民党は9条を変えるために今、何をしようとしているか、わかりますか?」
金沢大学学校教育学類の石川多加子准教授(48)=憲法学=がマイクを手に問いかけた。
ここは、金沢大角間キャンパスの総合教育講義棟202教室。石川さんの講義「日本国憲法概説」が行われている。
間を置かず、学生側から声があがった。「96条の改正です」
〜*96条改正案*〜
安倍晋三首相のもと、自民党は参院選の選挙公約として、憲法改正の発議要件を衆参それぞれ過半数に緩和する案を掲げる方針といわれている。
憲法改正の手続きについて定めた現行憲法96条は、衆参両院のそれぞれ3分の2以上の賛成で改憲が発議され、国民投票の過半数の賛成が必要と定められている。
自民党が昨年4月にまとめた改正草案では、両院の過半数で発議できるよう、改めている。
96条改正に賛成する人たちの中には、最終的に国民投票にかけることは変わらないから問題にはならないという意見もある。それが「国民主権」である、と。
しかし、石川さんはここで問う。「過半数というわずかな数で改正することは、本当に主権者の意思を反映することになるんですか?」
過半数が「わずかな数」とは、どういうことだろう。
3分の2の賛成を得るためには与野党を超えて一定の合意が必要だが、発議の条件が過半数なら1党だけの賛成でも可能になりそうだ。
現規定は「なるべく話し合いによって、みなが納得できる方向で合意を得るよう求めている」のに対し、改正案は「時の与党と違う考え方を切り捨てることになる」。そう指摘した。
〜*民主主義*〜
さらに、民主主義は多様な意見を認めるから、民主主義を否定する考え方が支持を集めることもありえる。
石川さんは続ける。「だから民主主義は一方では危険なんです」
諸外国の規定をみると、議会の賛成は3分の2以上を必要とするものが多い。
ドイツでは連邦議会と連邦参議院のそれぞれで3分の2の賛成が条件だ。一方で国民投票は定められていない。
これはかつて「世界一民主的」といわれたワイマール憲法のもとで、ナチスが選挙で多数を得て政権を握ったことへの反省が込められているという。
国民主権のもとでも、多数決による判断が常に「正しい」とは限らない。だから多くの国では、憲法は、たとえ国民の意思であっても簡単には修正できないよう、「しばり」がかけられている。
一般の法律よりも改正要件が厳しいのは、それだけ熟議が求められているからだ。
「まず落ち着いて議論をする。そこで自分たちの主張が正しいということを多くの人に認めてもらって、その上で初めて改正ができるはず。いきなり条件のほうをやさしくするのは、間違っていませんか?」
(樋口大二)
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石川さんの憲法の講義は、教員志望だけでなく、理科系を含むさまざまな学類に所属する学生が聴講する人気授業だ。毎週、1〜4年生約250人が教室を埋める。この講義を手がかりに、憲法とは何かを改めて考えてみたい。
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