2013年5月31日(金)

“ヘイトスピーチ” 日韓友好の街で何が・・・

阿部
「『ヘイト・スピーチ』について取り上げます。
皆さん、この言葉をご存じでしょうか。」

鈴木
「『ヘイト・スピーチ』は、特定の人種や民族に対して差別や憎しみをあおったり、おとしめたりする言動で、海外には、許されない行為だとして法律で規制している国もあります。」

阿部
「この『ヘイト・スピーチ』とされるデモが、最近になって日本で繰り返されるようになっているんです。
東京や大阪などでは毎週のように、在日韓国・朝鮮人などに対して差別的な発言を投げかけるデモが行われています。
特に激しいのが、東京の新大久保にあるコリアンタウンです。」

“ヘイトスピーチ” 東京 新大久保で何が

日本最大級のコリアンタウン、東京・新大久保。
今、ここで激しい罵声を浴びせかけるデモが毎月、行われています。

「在日朝鮮人、ぶち殺せー!」

「在日韓国人、朝鮮人のやりたい放題、誰が許すか!」

デモの主催者によると、この日の参加者はおよそ300人。
1時間以上にわたって、在日韓国・朝鮮人に対し、差別的な言動を繰り返しました。
双方の小競り合いがエスカレートして逮捕者が出る事態になりました。

韓国化粧品店の店員
「日本が好きで来てるので日本と仲良くしたいんですけど、今もう涙が出そう。」




日本人の客
「こういうことをやっていても、いがみあっても何も生まれないと思う。
見ててちょっと悲しくなる。」



デモを行っている団体の一つが開設しているホームページです。
ネットを通じて会員やデモの参加者が集まり、規模を拡大させてきました。
7年前に創設され、現在、1万3,000人を超える会員がいるとしています。
世界各地のデモを研究している高千穂大学の五野井郁夫(ごのい・いくお)さんです。
ここで行われているデモは明らかにヘイトスピーチだと指摘しています。
ネット上ではこれまでも在日韓国・朝鮮人に対する差別的な書き込みが見られました。
それが去年(2012年)、日韓関係の悪化に伴い一気に表面化したと分析しています。

高千穂大学 五野井郁夫准教授
「(ネット上に書き込まれた)“排除しろ”“国交を断絶しろ”、そういった表現が現実の空間の中にデモという形で、今回現れてしまっている。」



デモの参加者には、若い世代も目立ちます。
なぜ過激な言葉を投げかけるのか。
デモの参加者に質しました。

30代前半の女性
「好きな日本が(韓国に)おとしめられているのに、怒らない人がどこにいるんですか。」

デモを行っている団体に所属する会社員の男性です。
参加のきっかけはインターネットだったといいます。

男性会員
「インターネットの動画で(デモを)見ていたが、直接相手の懐に飛び込んでストレートに抗議する。
“日本人は怖いんだぞ”と。
それにすごく感激した。」

デモの言動は行き過ぎではないのか。
この質問に対して男性は反論しました。

男性会員
「何かあるたびに向こうの人は日本大使館に嫌がらせをしている。
あれと同じ心境で、“だったらうちらも”ということ。
韓国人街でああいうことをやることで、相手方に嫌な思いをさせる。」

男性は持論を展開する一方で、参加者の中には日頃の不満のはけ口にしている者もいると明かしました。

男性会員
「在日社会を攻撃する、韓国人に対して罵声を浴びせる。
それをやることによって、自分の不遇な人生を満たしている。」

新大久保でのデモを見続けてきた五野井さん。
ヘイトスピーチを放置していると、差別を容認する社会になってしまうと危機感を募らせています。

高千穂大学 五野井郁夫准教授
「ヘイトスピーチという、他人を傷つける表現が日常として当たり前になってしまう社会、敵意をむき出しにするような社会ができてしまう。
それは大変問題だと思っています。」

“ヘイトスピーチ” 国内外に波紋

阿部
「各地で繰り返されているヘイトスピーチとされるデモ。
今、国内外に波紋を広げています。」

この問題は、今月(5月)国会でも取り上げられました。

安倍首相
「今、一部の国、民族を排除しようという言動があるのは極めて残念。
我々自体が自分たちを辱めていることにもなる。」



海外のメディアも取り上げ始めています。
アメリカの主要紙は、デモの言動を詳細に報道。
海外からも批判の声があがるようになっています。
新大久保では、デモを止めようと署名活動も始まっています。


金展克さん
「署名活動にご協力お願いします!」

在日3世の金展克(きん・のぶかつ)さんです。
活動を始めたのは今年(2013年)3月。
署名活動には趣旨に賛同した日本人も参加しています。

金展克さん
「ひどいヘイトスピーチのデモです。
もうこんなとこでやらせたくありません。
ご協力お願いします!」

金さんは日本で生まれ、自分が在日韓国人であることをほとんど意識することはなく、暮らしてきたといいます。
しかしある日、インターネットである写真に目がとまり、衝撃を受けました。

金展克さん
「正直怖いですよね、やっぱり。
全然自分が顔も何も知らない人が“殺せ”と言っているんですよね、自分のことを。
“ほっとけない”というか、“何かしないといけない”とこれを見たときは思いました。」

これまでに集まった署名はおよそ1万人分。
金さんはさらに賛同者を募りたいと考えています。

金展克さん
「ああいうのは否定されて当然だと思う。
それがなかなか否定されず、何回も何回も続いている。
ああいうデモをすぐに止められないのは、すごく残念なことだと思います。」

阿部
「日本には、ヘイトスピーチを直接、規制する法律はありません。
一方、ヨーロッパの多くの国では法律で規制するなど厳しい姿勢でのぞんでいます。
たとえばドイツでは、人種差別的な言動は刑法で処罰されます。」


鈴木
「ヘイトスピーチへの規制はどうあるべきなのか、差別に関わる法律に詳しい専門家に話を聞きました。」

差別に関する法律に詳しい 東京造形大学 前田朗教授
「人種差別禁止法、これを作って“こういうことは違法なのだ”“やめなければいけないのだ”、そういうメッセージを社会の中で繰り返し発して、コンセンサスを作ることが重要。
民主主義や人格権を重要視するのであれば、このようなヘイトスピーチはやめさせなければならない。
これが表現の自由の本来の考え方。」

阿部
「ヘイトスピーチをめぐっては国会議員の間で新しい法律を作って禁止しようという動きも出ています。
一方で弁護士のグループからは、『新たな法律による規制は表現の自由を侵害するおそれもある』として、現行の法律の範囲内で取り締まるべきだという意見も出ていて議論が交わされています。」

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