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政治
【正論】前防衛相、拓殖大学特任教授・森本敏 武器輸出三原則はこう改正せよ
わが国が昭和42年以降採用してきた武器輸出三原則は、戦後日本における平和主義の遺産である。武器を輸出しないことにより紛争を助長しないという、当初からの趣旨は適正なものだった。
≪装備、技術の輸出阻まれる≫
武器輸出に基準を設けて運用しているのは日本だけではない。世界の主要国も、それぞれ武器輸出について独自の手順や基準を持っている。ただし、他の主要国が日本と違うのは、ほぼ主要な武器輸出国でもあるという点だ。
わが国の場合は、野党の追及を受けるたびに政府答弁を繰り返すことによって、当初に採用した三原則から、武器輸出規制がより厳しい方向に転じていった。
そのうち、日本の技術革新が進んで、同盟国である米国が技術提供を要望してきたものの、米国との技術交流すらできなかった。国連平和維持活動(PKO)で派遣された自衛隊が、持参して行った装備品を、帰国時に相手国に供与することさえ可能ではなかった。武器輸出に当たるからだ。
そこで、武器輸出三原則の例外化という措置を取って、こうしたことができるようにしてきた。さらに、わが国が、9カ国で共同開発されたF35戦闘機を導入するに際して、国内企業が製造した部品やサービスについて、特に第三国移転に関して前提条件を付けながらも、例外と認める緩和措置を取ることになった。こうした緩和措置を重ねて、少なくとも米国などとライセンス国産品の共同生産や共同開発ができるようになったことは、大きな前進だった。
わが国の緩和措置を受けて、多くの国々から日本との防衛装備品の共同開発、生産・技術協力、装備品の供与や提供の話が盛んに舞い込むようになった。しかし、装備品等の海外移転に関する新たな基準に基づいて、ライセンス国産や相手国の共同開発・生産への参加はできるようになったものの、部品の第三国移転については、日本側が事前承認を求めて拒否された場合には、それができなくなるという問題は残っている。
最大の問題は、わが国の国産装備品や兵器技術の輸出が依然として阻まれていることだ。わが国からは、武器に関するサービスを他国に輸出することも、海外に軍関連の投資をすることも、軍関連の建設工事を受注することもできない。このままでは、日本の産業基盤は弱体化の一途だ。ビジネスチャンスも他国に取られ、防衛力の基盤も脆弱になっていく。
≪産業、防衛基盤の強化図れ≫
世界はいまや、主要兵器については共同開発・生産する時代に入っている。わが国としては、予算を節減するためにも技術交流を進め、共同開発・技術交流を通じて防衛力と産業基盤を強化する道を選択しなければならない。
こうした諸問題を解決するためには、武器輸出三原則を改正したうえで、「装備品等の輸出・移転の方針」という形にして、新指針を示さなければならない。
その方向はおおむね以下のようなものであるべきだろう。
まず、昭和42年に定められた三原則のうち第一の「共産圏諸国向けの場合」を破棄し、「国際的な輸出管理枠組みの中で懸念国の扱いを受けている国、または国に準ずる組織向けの場合」という表現に書き換える。二番目の「国連決議により武器等の輸出が禁止されている国向けの場合」と第三の「国際紛争の当事国またはその恐れのある国向けの場合」という原則は、現行通りに維持する。
≪政府統一基準も全文破棄≫
次に、昭和51年の三木武夫内閣の政府統一基準見解の全文を破棄し、代わりに次のような輸出管理・振興の方向を打ち出す。
一、武器、武器技術、武器製造関連設備、武器(装備品)に関連するサービス、役務、投資、建設工事などを、以下の条件をいずれも満たしている場合に限り、第三国移転の事前承認を得ることなく海外に輸出・移転できる。ただし、個々のケースについては外為法、輸出貿易管理令の規定に基づき承認を得るものとする。それらの条件とは、(1)わが国の安全保障に資する場合(2)国際の平和及び安定に資する場合(3)当該国が輸出管理について十分な制度を有している場合(4)当該国が国際的な輸出管理の枠組みに参加して、これを順守している場合-である。
二、特に、武器及び武器技術のうち、「人の殺傷の用に直接使用するもの」の中で、国産品・国産技術を海外移転する場合には、厳格な審査により承認を得る必要がある。この場合に限り、第三国移転・目的外使用の事前承認を得ることを輸出の条件とする。
三、政府としては、わが国の装備品等にかかわる国内産業を育成するとともに、わが国の安全保障の維持・確保に資するよう、防衛産業の育成、海外投資、組織統合及び研究開発事業・生産技術基盤の育成に、政府として主体性をもって積極的に取り組み、国内の装備品にかかわる研究・開発・技術革新を促進するため、官・学・財の間の協力をはじめとする総合的な施策を積極的に進める。(もりもと さとし)
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