川崎重工業<7012>と三井造船<7003>の合併話は、川崎重工の突然の社長解任という劇的な事件でご破算となった。長谷川聡社長ら3人の合併推進派の役員を反対派が追い落としたのだった。
解任の舞台裏に関しては、新聞各紙がこぞって書いたため、おおよその事は分かった。売上規模で1割程度に満たない造船事業を守るために三井造船と合併するのは理屈が合わないということを“旗印”に、役員同士の権力争いが起こした“事件”だったというのが、大方の解説である。
ただ、事情通の間では、たとえ今回の合併が成功しても、両社が世界で生き残れたかは疑問とする声が少なくない。大きな理由は、合併が銀行主導だったため、ということだ。ある業界紙の記者は言う。「今回の合併は、川崎重工のメーンバンクである、みずほ銀行と三井住友銀行が仕掛けた話。その時点で、この合併は、銀行が資金回収を第一に考えたものだということが分かる」
そもそも、どんなケースでも、銀行が主導するM&Aは、貸したおカネを回収するのが目的。リストラをさせて、資金回収を行うための合併だ。証券会社主導のように、合併後の成長によって企業価値を上げ、投資資金を回収するというスキームではない。
実際、川崎重工の2013年3月期末の有利子負債は、リース債務を除いて4,838億円。フリーキャッシュフローも530億円の赤字だった。一方、営業利益は420億円。簡単にいうと、事業で儲けたおカネから借金を返すには、どんなにがんばっても10年以上かかってしまう。サラリーマンでいえば、年収の10倍の借金をしているのと同じような意味がある。
これから商売がどんどん儲かることが期待できる会社ならばいいが、斜陽の造船では、これだけの借金を返済するのは、事実上、不可能だ。実際、川崎重工は、5月下旬に今後3年間で有利子負債を2割削減し、フリーキャッシュフローも黒字化する方針を打ち出していた。
新聞各紙からは「次の合併候補はどこか」と言った記事も散見されるが、川崎重工が造船にこだわる限り、生き残る道はないだろう。(編集担当:柄澤邦光)