東日本大震災の復興事業のための用地取得を行える人材が払底している。宮城県は全国の自治体に応援要員の任期付派遣を依頼しているが、58人の募集に対して、25日現在の応募者は約50人だという。
用地取得は、集団移転や土地区画整理事業を行ううえで、地権者から土地を買収する役割を担う。復興事業の第一歩となる仕事だ。ところが、地権者と交渉できるノウハウを持つ人材がいない。このままでは、土木建築関係の要員が揃っても何もできないことになりかねない。
話は変わるが、タイ政府が計画している大型の治水事業の受注を日本企業が断念したという。その理由は、タイ政府が用地買収までも含めて工事を発注したため。用地買収のノウハウに欠ける日本の建設会社はコストが合わないという理由で辞退したのだそうだ。代わって中国や韓国の企業が多くのプロジェクトを受注した。2011年の大洪水を教訓に実施される約9,500億円規模の大型工事に指をくわえて見ているだけというのは、実に残念な気持ちだろう。
東日本大震災の復興も、タイの大型治水事業も、用地買収の要員不足が大きな問題になっている。「そんなものは、おカネさえ積めば普通の不動産屋でもできる」と考えると大間違いだ。用地買収には、独特のノウハウが必要なのだ。しかも、それを持っている企業や組織にとっては、外部に流出するということはまずないほどの機密事項でもある。
たとえば、世間を騒がせている電力会社が持つ技術で最も貴重とされているのは、原子力関連でも、発送電分野でもない。用地買収のノウハウだ。鉄塔や電信柱を個人の敷地に建てると、電線が切れたら大事故につながる危険がある。しかし、どうしても、そこに建てなければならない場合がある。そんなとき、用地部の社員が交渉に当たる。事故が起これば命に係わることなので、おカネさえ積めば、納得してもらえるような話ではない。しかし、社員は必ず、土地の所有者を納得させるのだという。
このノウハウは、不動産関係者はもとより、多くの業界が欲しがっているが、未だに門外不出になっている。ならば、赤字続きの電力会社は、社会へのお詫びと収益確保を兼ねて、用地部の人材を積極的に外部に派遣したらよいのではないだろうか。(編集担当:柄澤邦光)