和牛商法:安愚楽 近畿の出資者9人、賠償求め初の提訴へ
毎日新聞 2013年11月06日 02時30分(最終更新 11月06日 07時21分)
経営破綻した安愚楽(あぐら)牧場の和牛商法事件で、近畿の出資者9人が近く、元社長の親族や元役員の計29人とファミリー企業3社を相手取り、約1億6600万円の賠償を求める訴えを大阪地裁に起こす。破産した牧場本体や元社長は賠償の支払いが難しいことから、弁護団は親族を含めたグループ全体の責任を問うことで、最大限の被害の回復を目指す。
安愚楽牧場被害対策大阪弁護団によると、約7万3000人が出資し、約4200億円という過去最大規模の投資被害が出ているが、出資者が経営陣を民事提訴するのは初めて。
原告は700万〜2億2300万円を出資したという大阪などの男女(40〜70代)。被告は牧場本体やファミリー企業の元役員ら。経営の中枢だった牧場元社長、三ケ尻久美子被告(69)=公判中=の長男ら複数の親族を含む。ファミリー企業3社は人材派遣やグループの保険代理業を営んでいる。
弁護団によると、安愚楽牧場は約4200億円を集めながら、残った資産はその5%に過ぎず、出資者への返還はほとんど見込めない。さらに、三ケ尻元社長も破産し、賠償金を支払う能力はないとみられる。
一方で、牧場側は、出資者向けの見学会にグループ内のホテルやレストランを活用した。牧場本体とグループ会社の役員を兼務する場合も少なくなく、牧場本体からグループ内に融資した形跡もあった。
このため、安愚楽牧場の和牛商法はグループ全体で推進され、主要な役員は早い時期から和牛商法が破綻している実態を把握していたと判断したという。
弁護団は(1)牧場本体の役員(2)グループ企業に長期間在籍した役員(3)存続するファミリー企業−−を被告にし、それぞれの賠償責任を追及することにした。
安愚楽牧場の実態については、子牛の売却額が配当を出せる水準の半分程度の60万〜88万円だったなど、出資金を配当に回す自転車操業だったと指摘。うその説明で出資を勧誘する詐欺行為を続けたと訴える。
原告9人は計約4億3000万円を出資し、ほぼ全額を失った。ただ、請求額に応じて訴訟費用が膨らむことから、訴訟で請求するのは、その一部の返還にとどめる。訴訟で得た賠償金はプールして、他の被害者を含めた救済に充てる。
大阪弁護団の大槻哲也弁護士は「安愚楽牧場がグループ一体で詐欺商法を進めたことを立証し、多くの被害救済につなげたい」と話している。【内田幸一】