地方いとうせいこう氏、震災テーマに小説 仙台でトークイベント2013.11.5 02:20

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いとうせいこう氏、震災テーマに小説 仙台でトークイベント

2013.11.5 02:20

 ■「死者との対話大切」

 東日本大震災後の死との向き合い方をテーマにした小説「想像ラジオ」が今夏の第149回芥川賞候補作になった、作家でタレントのいとうせいこう氏(52)が仙台市青葉区の東北学院大学(仙台市青葉区)でトークイベントを行った。震災後、語ることが難しかった「生者と死者」を取り上げたことについて「人は死者(先人)の知恵や言葉から歴史を作ってきた。やがて死者となる私たちも、想像力を駆使して、これから生まれてくる人への世界を作っていかなければならない」と語る。(大泉晋之助)

                   ◇

 刊行後、作品についての取材を一切受けていなかったいとう氏。「被災者ではない自分が震災をテーマにすることは身勝手なこと。(取材を受けて)言葉を補うと、余計なことを言ってしまうと思った」と語る。ただ、「被災者が作品を読んでいる限り、被災地には行かなければならない」とも感じてきたという。

 震災から1年余りたった昨年5月に、南三陸町を訪れたいとう氏。被災者から聞いた「杉の木の上に打ち上げられた遺体」の話から着想を得た。

 書こうとするとすぐに思いついたという作品名。震災時、被災者を勇気づけたラジオは、作品内では生者と死者とをつなぐ媒介として物語の中枢を担う。なぜラジオを取り上げたかは分からない。ただ「小説もラジオも言葉だけで伝える。想像力を要するメディア」と感じている。

 外部から震災を語ることの葛藤を、いとう氏は作品内で表現している。死者の声に耳を傾けることについて、複数の登場人物が議論を重ねるが結論は出ない。議論にはいとう氏と重なる「作家S」も参加している。

 ただ、いとう氏には確信がある。「人は死者の声(過去)と対話しながら歴史を作ってきた。死者の声を聞かない社会は後々悪い方向に行く」と言い切る。そして、「被災地はこれからも歴史が続き、震災を知らない世代が生まれる。経験していないからと、新しい世代が震災を語ることを許されないことがあってはならない」とタブーに切り込んだ。

 気鋭の作家として活躍していたいとう氏だが、今回の作品は16年ぶりの新作。「書こうと思っても一枚も書けない」スランプ状態だったが、震災という圧倒的な事象を見せつけられ「震災をテーマに今書かないのなら、今後は何も書かない」覚悟で取り組んだ。

 仙台市在住で、故郷の気仙沼市に住む父を震災で亡くしたという女性は「震災後、父と話したいと思って想像してきたが、父の声は聞こえてこない。(作品中)生者の中で死者が生き続けると感じ、羨(うらや)ましいと思った。死者と交わす『またね』という言葉が印象的だった」と伝えた。いとう氏は「死者が私たちを支え、私たちが死者を支える。心の中で死者に依存することは悪いことではないと思う」と返した。

 また、石巻市在住の女子高生が「自分たちが言えないことを代弁してくれていると思った」と発言。これにいとう氏が「(被災者にとって)触れられたくないことに触れたことは死ぬまで責任がある。そこは引き受ける」と応じると、司会者は「『書いてくれてありがとう』ということですよ」とフォロー。さらに女子高生が「そこまで責任を感じる必要はないですよ」と返し、会場は笑いに包まれた。

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