天安門車両突入:強制収用に抗議か 陳情拒否される
毎日新聞 2013年11月02日 07時00分
【カシュガル(中国新疆ウイグル自治区)隅俊之】中国・北京の天安門前で起きた車両突入事件で、車両を炎上させて死亡した容疑者家族3人が、地元の新疆ウイグル自治区で土地や家屋を強制収用され、区政府に陳情したものの拒否されていたことが1日、3人を知るウイグル族住民の証言で分かった。その後3人は中央政府に直訴するため、北京に来たが、そこでも陳情は聞き入れられなかったという。絶望した3人が抗議の意思を表すため、天安門への突入を企てた可能性が出てきた。
中国当局は今回の事件について、ウイグル独立派組織「東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)」の指示があったとの見方を示し、ウイグル族による「テロ襲撃」と断定している。ただ、住民らの証言に従えば、さらにその背景には、中国各地で問題化している土地の強制収用に対する反発があるとの見方もできる。
事件を起こしたのは、同自治区カシュガル地区アクト出身の夫婦と母親。
証言したアクト住民の男性は、「3人ともアクト出身だ」と明言。一家は地元の土地を収用されたが、補償金を受け取れなかったことに憤り、9月下旬から10月初旬にかけ、ウルムチにある地元政府に陳情した。だが、申し出は受け入れられず、そのまま中央政府に事情を説明するため北京に向かった。そこで門前払いにされた後も10日間以上、北京滞在を続けていたという。
事件は先月28日正午過ぎに発生した。男性は「地元では土地収用を巡る地元政府との小競り合いが絶えない。(容疑者たちは)絶望感を募らせたのだろう」と指摘した。
中国当局の発表によると、天安門前で炎上した車両からは宗教的なスローガンが書かれた旗が見つかったとされる。ただ、ガソリンをまいて激しく燃えた車内から、文字が読み取れる状態の旗が見つかることは不自然だと指摘し、こうした発表の信ぴょう性に疑問を唱える見方もある。
死亡した家族3人が、地元政府に不満を募らせる過程で「過激」な考え方を吹き込まれた可能性を全く否定はできないが、テロ対策を統括する孟建柱・共産党中央政法委員会書記が指摘したようなETIMの指示で「組織的かつ計画的だ」という見方と、「土地収用への不満が原因」という地元住民らの証言とは大きな隔たりがある。
アクト県は自治区西部の主要都市カシュガルから南に約30キロ。県のサイトによると、人口の7割近くがウイグル族。