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安倍晋三の裏マニフェストとしてのアーミテージ・レポート
先週(10/28-11/2)のマスコミ報道は、中国のウイグル人事件一色に塗り潰された。秘密庇護法と日本版NSCの問題はすっかり片隅に追いやられ、テレビのニュース番組で取り上げられる機会が全くなかった。その他には、日本シリーズでの東北イーグルスの活躍と山本太郞のハプニングが関心の中心になり、戦争法制に対する認識と懸念が国民の間に深まる一週間にはならなかった。この国に残された唯一のリベラル系の報道番組であるTBSサンデーモーニングでも、11/3の放送は毒々しい中国叩きのプロパガンダで埋め尽くされ、説明もコメントも、産経やフジやNHKと全く同じ耳に棘が刺さる反中言説で終始していた。曰く、(1)中国の一党独裁体制は行き詰まっている、(2)環境汚染と格差と暴動で内部崩壊の寸前にある、(3)国内の不満の目を逸らすために外部に敵(日本)を作っている、(4)軍備を増強して周辺諸国を挑発している。中国叩きを始めれば、関口宏の口調も大越健介や古舘伊知郎と同じで容赦がない。自分が放送しているメッセージが、国民の感情と世論にどのように反映し、それが二国間関係にどう影響を及ぼすのか、そのことが最終的に日本の平和にどういう運命をもたらすのか、関口宏に配慮があるようには見えない。憲法9条の平和主義を擁護し、その破壊に繋がる安倍晋三の軍事政策を批判しながら、結果的に、安倍晋三を正当化する言説を吐いている。


中国との緊張を高める報道をやめない。日本版NSCにせよ、秘密保護法にせよ、集団的自衛権の行使容認にせよ、それらは大きな軍事政策のパッケージを構成する部品の一つ一つである。システムのサブセットだ。そして、国会上程された(される)軍事二法案の趣旨説明では、政府は必ず「東アジアの安全保障環境の変化」を言い、「中国と北朝鮮の脅威の増大」を理由に上げる。それが戦争法制の根拠になっている。厳しい安保状況があるから、それに対応するためだと説得する。国民の世論が、恐ろしい軍事法制・監視法制の強行に反対しないのは、「中国の脅威」への防備だという安倍晋三の主張を肯定しているからだ。納得する環境を作っているのはマスコミである。マスコミが、毎日毎日、オーウェルの「1984年」に描かれる「2分間憎悪」のように、中国を敵視する報道を流し、中国の脅威を言い立て、国民を洗脳してきたから、一般の意識の中で中国は悪魔となり、破滅させるべき敵国となった。関口宏の番組は、日本では唯一のリベラル系だが、上に挙げた(1)-(4)を躊躇なく平然と言い、中国認識では安倍晋三と歩調を同じくしている。つまり、(1)-(4)は日本の常識であり、これに異を唱える者はマスコミには生息せず、ネット上にもほとんど存在しない。(1)-(4)の言説に眉を顰め、こんなプロパガンダを充満させているから日中関係が不全になるのだと呟く者は、反日の異端レッテルを貼られて袋叩きにされる。

関口宏のやっていることは、台風に備えて窓の外に木の板を打ちつけながら、隣の部屋の窓ガラスを全開しているのと同じ行為だ。何の意味もない。あれだけ強烈に反中宣伝を吹き込み、中国への反感を植えつければ、視聴者は中国を拒絶し、それなら9条の平和主義体制を変えるのもやむを得ないと思うだろう。その日本版NSCの事務局である「国家安全保障局」の組織についての情報が、10/24の読売の記事に出ていて、(1)総括、(2)同盟・友好国、(3)中国・北朝鮮、(4)中東などその他地域、(5)戦略、(6)情報、の6班で構成されるとある。各官庁から60人が出向し、自衛隊幹部が15人を占めるとある。法案が成立してないのに、早々と事務局長の人選も決まった。先週、この情報を見たとき、当然ながら気になったのは、特別に「中国・北朝鮮」班が設置されている点だった。この第3班は敵国対策班である。日本版NSC(国家安全保障会議)には軍事上の敵国が制度的に想定されている。この情報が出たとき、日本のマスコミは全く反応を示さなかった。テレビ報道では組織編成についてはニュースを流していない。そうしたら、米国のニューヨークタイムズが社説で取り上げ、「こうした動きは、安倍政権の中国への対立姿勢やタカ派外交姿勢を反映しており、これが市民の自由を傷つけ、東アジアにおいて日本政府への不信感をさらに高めることになる」と警告していた。さすがにNYTだと思うし、誰が見ても「中国・北朝鮮」班は異常だ。

海外のニューヨークタイムズの目からも、日本版NSCの「中国・北朝鮮」班には驚きなのである。中国との戦争を準備しているということであり、日本版NSCはそのための態勢整備だと、普通に考えれば誰でも受け止める。ここで、少し視点を転じて、2012年8月に出された「第3次アーミテージ・レポート」を振り返ってみよう。軍事二法が国会上程された2013年10月の今、その意味を明らかにする上でドンピシャの資料だと思われる。リチャード・アーミテージとジョセフ・ナイの共著で、原文のPDFはCSISのサイトに載っていて、詳しい邦訳はIWJから、簡単な要約は防衛省から出ている。実に面白い。これを読むと、軍事二法の由来だけでなく、安倍晋三がしゃかりきになって中東を駆け回り、原発のセールス行脚で靴を磨り減らしている事情もよく分かる。このレポートの冒頭で強調されているのが、日本は原発を続けろという指示で、日本の原発事業継続がいかに米日安全保障において重要かが、くどくどと説教されている。昨年8月と言えば、官邸前デモが盛り上がった直後だ。菅直人が脱原発で姑息に立ち回り、原発ゼロの幻想を撒いていた時期だ。アーミテージはその情勢を見ながら、きっと焦燥していたのだろう。レポートの中に、具体的な要求項目として、国家機密保全のための法律整備があり、武器輸出3原則の解禁があり、海兵隊部隊の能力を持つことがある。安倍晋三が東南アジアを回って中国包囲網外交の汗をかいた出所も見つかる。

まさに、安倍政権の行動指示書。この1年間の政策設計書に他ならない。安倍晋三は、衆院選の選挙公約ではなく、この「アーミテージ・レポート」を裏マニフェストとして政権運営し、一つ一つを履行し、政策を進行させ法制を整備してきたことが分かる。オバマに小バカにされながら、犬のようにアーミテージに忠誠を尽くして、言われたとおりの任務を励行してきた。もう一つ、日本版NSC法案を考えるときに、重要な参考情報がある。あらためて確認しておくべき事実だろう。昨年2月、政府与党だった民主党が日本版NSC創設の最終提言書を出している。100人規模の事務局を置くという内容だ。現在の法案のベースになるものだと分かる。つまり、昨年12月の選挙で政権交代がなくても、野田政権のままでも、今国会に日本版NSC法案は提出されていたことが窺われる。こんな軍事政策は2009年の選挙のときは公約されていなかったから、菅政権以降に米国の圧力で政策立案したという経緯になるのだろう。ちなみに、鳩山マニフェストにはこんなことが書いてあった。「緊密で対等な日米関係を築く」、「日米地位協定の改定を提起し、米軍再編や在日米軍基地のあり方についても見直しの方向で臨む」。「東アジア共同体の構築をめざし、アジア外交を強化する」「中国、韓国をはじめ、アジア諸国との信頼関係の構築に全力を挙げる」。中国に対する敵対政策は一切ない。麻生政権の「自由と繁栄の弧」政策、すなわちネオコン路線の「中国封じ込め」政策を覆したのが民主党の鳩山政権だった。

先週末(11/1)、報ステにコメンテーターで出演した國分功一郎が、秘密保護法に関して重要な指摘をしていた。ネットに映像が上がっているが、米国は、シリア情勢での外交敗北で明らかになったように、すでに自国の軍隊も同盟国(英国)の軍隊も地上戦に出動させることができなくなっていて、最後の頼みの綱が日本(自衛隊)だと言うのである。空爆しますから地上軍はお願いしますと米国から言われたとき、果たして日本は断れるのかと、そう問題提起していた。きわめて本質的な問いかけであり、秘密保護法と日本版NSCの真実を衝いている。まさに米軍と一体となって戦争するための法整備であり、米国からの強い要請に応えたものなのだ。ただ、ここで肝心な問題は、その戦争はどこでどの国の軍隊と戦う戦争かということだ。残念ながら、國分功一郎はその要点を掘り下げる解説をしなかった。無論、米国の戦争なら、世界中どこでも需要と必然があるだろうし、中東かもしれないし、アフリカ大陸かもしれない。シリア、イラン、ソマリア、スーダン、どこでも可能性はある。が、アーミテージ・レポートの時点と状況が変わった対象があり、それは、極限まで緊張が激化していたイランである。外交での対話が開始され、武力ではなく話し合いで問題を解決する方向が米国とイランの間で模索され始めた。今後の展開によっては、日本がイランやホルムズ海峡に軍隊を送る可能性はなくなる。そもそも、中東やアフリカの作戦で、米軍が地上部隊を投入しないのに、自衛隊だけが地上戦に出て血を流す図などあるだろうか。

國分功一郎の問題提起は本質に迫るものだが、地球の裏側での戦争を想定したとき、米軍が空爆を担当して自衛隊だけが地上戦を担うという図は、どう考えても荒唐無稽だ。國分功一郎の想定は、論理的にはあり得るが、地球の裏側での戦闘ではまず考えにくい。しかしながら、現実に起こり得る場所がある。それは例えば、南シナ海の島嶼部だ。中国軍とフィリピン軍が岩礁の領有をめぐって一触即発となり、そこに米軍が出動し、自衛隊が島嶼への海兵隊での作戦を担う図である。米軍が後方を受け持ち、自衛隊がフィリピン軍を支援して前線を受け持つ。嘗て言われていた関係と逆の構図。自衛隊が前線、米軍が後方。中国と直接の軍事衝突を起こしたくなく、同時に南シナ海と西太平洋から中国軍を追っ払って大陸に封じ込めたい米国は、この地域で中国との軍事衝突が発生したときの最前線に日本の自衛隊を使うだろう。つまり、國分功一郎の議論に従って言えば、米軍は空爆すらしない。実戦にはタッチしない。紛争の当事者にならない。中国軍と自衛隊とを戦闘させ、後方で自衛隊を支援し、作戦全般を指揮命令し、軍事目標を達成した時点で第三者の顔をして登場する。講和を仕切り、中国と外交して政治目的を遂げる。そうした米国のアジア太平洋地域での安全保障戦略こそが、アーミテージ・レポートが想定している具体像だろう。標的は中国であり、中国を封じ込めることが狙いだ。米国が、日本に秘密保護法を制定させ、集団的自衛権行使に踏み切らせ、海兵隊部隊を特訓しているのは、日本を中国と戦争させるためだ。

日本が中国と戦争するとき、それは米中戦争の米国側の代理だが、地上軍を日本だけが受け持つという構図が成り立つ。地上軍だけでなく、海上部隊も、航空部隊も、前線で血を流して中国軍と戦うのは、すべて自衛隊(日本軍)という図式が成り立つ。


by thessalonike5 | 2013-11-05 23:30 | Trackback | Comments(2)
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Commented by 33 at 2013-11-05 19:03 x
水木しげるのマンガの中で,

『......そう野村大使が米国で活躍しとる  しかしわしは戦争だと思うな......  国民をやれのそれのとここまで引っ張っておいて〝しない〟ということはない......』

といった,水木さんのお父さんと,親戚?の方が話している件があります.
とても鋭い庶民感覚といいますか,そういった空気や,時代の先を読む洞察力みたいなものが,現代の人達には希薄なんでしょうかね.
テレビを10年以上銭湯以外で見ていない自分ですが,ネットの中では特にそういう空気が日本もかなり充満しているなぁ......
とは思います.

ま,今夜はいきつけの中華料理店で紹興酒でも飲みながら,現実の日本在住の中国人社会で,どんな影響が出ているのか情報交換をしてこようかなと.
やはりこう......ネットだけではなく,そういう空気感は肌で感じた方が良いですし,身近な外国人社会とのチャンネルは持っていた方が良いと思いますよね.
Commented at 2013-11-05 19:08 x
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