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渡辺松男句集「隕石」を読んで
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渡辺松男句集「隕石」を読んで
邑書林 2013・10・30
歌人 群馬伊勢崎 歌集7冊 迢空賞受賞者 句集は始めて
この書は誰のために書かれたか?それは下記のごとくこの書に かかれている。
人生の襖のむかうがはを問ふ ふところ手おもたきゆめは下へおつ この世へと息の白さを遺されよ
第三句目は他者へ向かっての発言ともとれるが著者自身へも向いていよう。 その日常茶飯の息遣いが以下の一句であろうか?
吐く息の白さがこのごろの誇り
さて当書を恵まれた小生は著者と流儀を異にするものであるが、僭越ながら これがあなたの俳句也と好みの俳句を名指ししてみたい。
さへづりや雲から雲の子の生まれ さへづりや色えんぴつのぜんぶある ふりむかばかげろふふりむかざればなほ うららかにみんなのものとなりたき掌 牛の尻ぶろぶろとひるがすみかな 春愁のどのようにでもとれる雲 春泥のぬるつと結婚したくなる 金剛の力士のうへをシャボン玉 やまわらふまへにけつちやくついてゐる
くちゆくちゆをしようくちゆくちゆ木の芽山
ちる花を追ふちる花もみな観たり 苜蓿に眉毛の太き獣医かな 晩春のとくに卵をもてあます
瀝(したたり)の一滴一滴に余震
網戸から網戸へぬけてゆきし地震 鉄亜鈴避暑地に行きしことあらず 白樺の素足に似てゐなくもなけれ
あッあの子が子どものわたし雨蛙 かたつむり今生分は歩きけり 蠅、そこにちょっとしたまちがひがある 蟻ぢごくほどの地獄のそこかしこ 蟻の列無限をめざさなくちゃ嘘だ 退屈は鯵のひらきとされてゆく 沢蟹の感ずる水のうへの青 かぶと虫重い倉庫のうごきをり 孑孑のおもひおもひへゆふひかげ ねっとりの国を出られぬなめくぢり
万緑や円空どこにでも彫りて おどろきのかたち、らつきよもみどりごも 萍の生まれては萍の中
葉桜と言はれなくなるころの雨 白牡丹ゆめにもおもみあるやうに
わがこごゑほどもある大蛍かな あぢさゐは雨あるところ靴のおと 子の息のほたるぶくろを置きざりに 藻の花やだれもがすこし嘘をつく
炎昼が本気で口をあけてゐる 空中に梵字の跳ねる炎暑かな 大旱神は細部に宿らざる 日ざかりにあッと人生を消さる 夕焼のこゑのあらはにときめきぬ
みんみんの啼く高さこそ欅かな 空蝉の残らずうしろ姿かな 蝉の穴ひとの気配のみな消えて
ひまはりの歯のぎつしりとまひるかな
稲妻の異を唱へあふごとくなる 霧晴れてあらはれし吾は墓石の眼 花野つていつもあなたが去つた跡
犀といふすごい秋思がやつてきた
子どもらの梨のお尻の冷えてゐる 真葛原あちこちげばらげばらかな 一ぬけて南蛮煙管の一となる
ピタゴラス教団と濃き銀河かな
零したるコーヒーの香の魂まつり 濡らしけり墓石といふ断崖を ただうすばかげろふとこゑいだしける
たぷたぷと浮かぶ西瓜と子のあたま この辺がこのまま浄土蕎麦の花 あまつぶがつゆくさとなる無人駅
墓石のなにもうつさぬ葉月かな 生ききりしだれかれのみな良夜かな 満月へ檜とびたつ力かな 台風にひとつだけある眼のブルー 秋分の日のおにぎりのひとりぶん 秋冷が汽車のかたちで運ばるる 富士山のくちびるへ雪はじめての
象の背のほこりうつすら文化の日 数珠玉や喧嘩にゆく道かへる道 熟柿いまみつともなさの域に入る
手のとどくはんゐもそぞろ寒となる ゆく秋の歯型のこらばじふぶんだ
枯野ゆく魄こそ赤い消防車 きつね火のふはつふはつとなまぐさき
湯たんぽに触れてふたことみことかな
浮寝鳥だれもがこゑをはばかりて
一生を落葉の途中にて見たり
いひしれぬ空つぽへ朴おちばかな 朴おちばさみしくなつたから重い これからは冬もみぢして待つてゐる
ふる雪の任意任意を目で追へり ふる雪のひとつへおもひさだめたる ふる雪へ祈る叶はぬゆゑ祈る 鹿の目をつむるときふる雪も消ゆ
殺し、殺し、殺し、殺して初日かな 初日受く朱肉の蓋のあけるまま
なんらかのくぢらのおならのやうな島 ためいきのひとつの魚となりて浮く さみしさのこれくらゐだと斧をみす 払暁や地球が服をぬぐところ るてんして流転してふんころがしの今
以上
2013/11/04(月)
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