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TPP交渉での提案決定、「関税撤廃で日本酒を世界に」は現実を知らない絵空事

エコノミックニュース 11月2日(土)19時42分配信

日本政府は、環太平洋経済連携協定(TPP)の関税交渉に関して、日本酒の輸入関税を撤廃する方針を決めた。同時に日本からの輸出に関しても参加国の関税撤廃を求めていく。日本酒もワインに並ぶくらいの世界的にポピュラーな酒にするという戦略だという。

 アルコール離れが進むなか、酒造会社にとっては海外市場開拓の援護射撃になると歓迎すると思いきや、「特にうれしくはない」(ある酒造会社の役員)。

 理由は、TPPで最大の市場となる北米での販売増が見込めないためだ。この酒造会社の役員は「米国、カナダには日本酒の流通システムが整備されていない」と語る。

 北米向けでは、すでに大手の酒造会社が輸出したり、カリフォルニア米を使って現地生産したりしている。しかし、これらはいずれもひどく薬臭い。理由は、防腐剤が大量に入っているため。防腐剤が必要なのは、輸送と小売の両方にその原因がある。

 まず、輸送。輸出の場合、船で数か月かけて運ぶ必要がある。さらに、トラックで大陸を長時間、輸送しなければならない。この間、酸化を防ぐためには防腐剤を大量に入れる必要がある。現地生産でも、長時間のトラック輸送が必要なことに変わりないので、やはり防腐剤が必要だ。

 次に小売。そもそも、日本酒は、スーパーで簡単に手に入るというものではない。宗教上や治安の問題から、リカーショップでしか日本酒は買えない。しかも、リカーショップは平日の午後6時までしか開店できない。土日や、会社帰りには買えないわけだ。そうすると、どうしても回転率が悪くなる。そこで、小売段階でも防腐剤が必要になる。

 どうしても家で飲みたい場合は、「日本料理店などで、店の売値で譲ってもらうのが一般的」(カナダに住む日本人)だという。

 このような流通システムでは、「日本で飲む日本酒のような防腐剤が入っていない酒は、売れる前に酸化してしまう」(先の酒造会社役員)。また、防腐剤入りを販売しても、「まず、日本人が飲まない。北米の人々も本物の日本酒の味を知っている人ならば、まず、飲まない」(同)。味を知らない人でも、「防腐剤がきつすぎて、なかには、体調を崩す人もいる」(同)そうだ。

 防腐剤なしの日本酒を売ろうとした場合、輸出関税が撤廃されても、「せいぜい、現地の日本人の経営するレストランや居酒屋に直接、卸すしかない」(同)のが現実。これでは、販売先の開拓に相当の労力が必要なうえ、大きな収益も望めない。

 ちなみに、ワインには、こういった問題がないそうだ。製造過程で酸化を防ぐために防腐剤を入れる必要があるため、世界中のワインは、防腐剤入りが普通で、味を比べようがないだからだ。日本酒の世界普及の道は険しい。(編集担当:柄澤邦光)

Economic News

最終更新:11月2日(土)19時42分

エコノミックニュース

 
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