東京五輪:祭典の陰、転居迫られる「霞ケ丘アパート」住人

毎日新聞 2013年11月05日 08時30分(最終更新 11月05日 10時57分)

国立競技場(上)の建て替えで立ち退きを迫られている霞ケ丘アパート(下の低層建物群)=東京都新宿区で、本社ヘリから宮本明登撮影
国立競技場(上)の建て替えで立ち退きを迫られている霞ケ丘アパート(下の低層建物群)=東京都新宿区で、本社ヘリから宮本明登撮影
霞ケ丘アパートに暮らすなじみの客とあいさつを交わす甚野公平さん(中央)と妻の保子さん(右)。マーケットの入り口に甚野さんのたばこ店がある=東京都新宿区で、竹内良和撮影
霞ケ丘アパートに暮らすなじみの客とあいさつを交わす甚野公平さん(中央)と妻の保子さん(右)。マーケットの入り口に甚野さんのたばこ店がある=東京都新宿区で、竹内良和撮影

 2020年東京五輪への期待が高まる中、東京都新宿区の都営団地「霞ケ丘アパート」に暮らす約230世帯の住民たちの思いは複雑だ。アパートは五輪のメイン会場となる国立競技場の建て替えに伴い、遅くても18年までに取り壊されるからだ。住民約370人の6割が65歳以上のお年寄りで、1964年東京五輪に続いて2度目の転居を迫られている老夫婦もいる。【竹内良和】

 霞ケ丘アパートは、戦後間もない47年ごろ整備された。板ぶき屋根のバラック建て長屋に約100世帯。柴崎俊子さん(86)は51年、結婚をきっかけに入居した。約30年前に死別した夫は当時、団地の管理人を務めていた。

 アジア初の五輪開催を控えた60年、都は「国立競技場周辺の古い町並みを一掃する」と建て替えを始め、アパートは鉄筋コンクリートの団地に生まれ変わった。5階建ての建物にエレベーターはなく、約50年がたった今は至る所にひびが入るが、柴崎さんは緑豊かな環境が気に入っている。「ここは涼しく、空気も違うね」。遊びに来た友人に言われるとうれしい。

 アパート取り壊しが表面化したのは昨夏。8月の住民説明会では反対が相次いだが、次第にあきらめムードが広がった。「抵抗しても仕方がないし……」と柴崎さん。都から渋谷、新宿区の都営住宅を中心に入居をあっせんすると言われているが、希望はまだ出していない。

 心臓にペースメーカーが入り、脚が悪くて歩くのもおっくうになった。でも顔見知りの住人は余ったおかずを届けてくれるし、病院に付き添ってもくれる。買い物の御用聞きもある。「引っ越しはつらい。一日でも長く、ここで暮らしたい」

 団地内の小さな商店街「外苑マーケット」でたばこ店を営む甚野公平さん(80)は、64年五輪の時も、住む土地を手放した。国立競技場に隣接する、今の都立明治公園がある場所だった。妻保子さん(79)は長男を背負い、長女の手を引き、数十人の近隣住民と徒歩で当時丸の内にあった都庁へ計画撤回を求める陳情に行った。

 立ち退きから2年後に霞ケ丘アパートへ移るまで、一家4人は兄の自宅の3畳間で身を寄せ合って暮らした。今度で2度目の立ち退き。五輪自体に反対ではない。でも、今ある施設をうまく活用できないものか。「五輪で泣く人がいることも考えてほしい」と唇をかむ。

最新写真特集

毎日新聞社のご案内

TAP-i

毎日スポニチTAP-i
ニュースを、さわろう。

毎日新聞Androidアプリ

毎日新聞Androidアプリ

MOTTAINAI

MOTTAINAIキャンペーン

まいまいクラブ

まいまいクラブ

毎日ウィークリー

毎日ウィークリー

Tポイントサービス

Tポイントサービス

毎日jp×Firefox

毎日jp×Firefox

毎日新聞のソーシャルアカウント

毎日新聞の
ソーシャルアカウント

毎日新聞社の本と雑誌

毎日新聞社の本と雑誌

サンデー毎日

サンデー毎日

週刊エコノミスト

週刊エコノミスト

毎日プレミアムモール(通販)

毎日プレミアムモール(通販)

毎日新聞のCM

毎日新聞のCM

環境の毎日

環境の毎日

毎日新聞を海外で読む

毎日新聞を海外で読む

日報連

日報連